前回、中編としてありましたが今回を中編に変更しました。
「すぅーはぁーすぅーはぁー……」
朝、目が覚めてからずっとドクンドクンと体震えるくらい鼓動が高鳴っている。
初めてのレース、初めて人前で走るって思うとウララは更に緊張で鼓動が高鳴ってしまった。
「すぅーはぁーすぅーはぁー」
なんとかこのうるさい鼓動を抑えようと無意識に何度も深呼吸をするが、一向に鼓動は大人しくならない。
「ちょっと……ウララさん、あなた大丈夫なの?」
起きてからずっと同室のキングはウララを心配そうに見つめている。
「う、うん!大丈夫だよ!大丈びぃ……うっ、舌噛んじゃった」
緊張のあまり思いっきり舌を噛んでしまい口の中に嫌な鉄の味が広がる。
「ちょっ!?あー!ほら、お口をすすいできなさい!」
盛大にガリッと嫌な音とともに言葉と舌を噛んだウララにキングは居ても立っても居られなくなり、ウララの腕を掴み洗面台まで連れていった。
「う……ぺっ……あぅ」
軽く口をすすぎ、吐き出すとほのかに赤みのある水が広がった。
大事なレースの日だというのに、朝から舌を噛みこんなに血まででるなんて、ウララはドジで臆病な自分が恥ずかしく泣きたくなった。
「まったく……ほら、口を開けなさい!」
涙で瞳を潤ませているウララをよそに、キングはウララの口を無理矢理に開かせると舌をキュッと掴んだ。
「すこーし痛いけれど、我慢しなさいな」
そう言って、茶色の液をウララの下へと垂らした。 すると、ウララを今までに感じた事ない苦味に似た感触と焼けるような痛みが襲った。
「@☆○$¥*%$・*:〒*|=°¥!!!!」
痛み、苦味、そしてとんでもない臭みがウララを襲い、ウララは声にならない声を上げ転げ回った。
「よし、これですぐに治るはずよ」
キングはそんなウララを見ながら効いてる効いてるとウンウンと頷き見守っているのだった。
○○○○○○○○○○○○○○○○
「いったい何があったんだ?」
ウララを部屋まで迎えに行くと絆創膏だらけのウララが涙目が居た。
ウララはポロポロと涙を流し、何故か上手く話ができないのか先程からよく聞き取れない声を漏らしている。
「む?むぅ?」
聞き取れずリスティーが困っていると、部屋の奥からキングが出て来てことの顛末を話してくれた。
「つまりウララが盛大に舌を噛んでしまい、出血が酷かったためキングヘイローが治療をした、と言うわけだな?」
キングはポロポロと零れるウララの涙をハンカチで拭きながら、そうですわ、と答えた。
「私の家に代々伝わる秘薬ですの、すこーし苦味と痛みはありますけどレースの時刻くらいには問題無く治りますわ。ただし!3時間は絶対に話をしたり、物を食べてはダメですからね」
実は少し今日のレースについて再度、ウララと話そうと思っていたがキングからレース開始時間まで絶対に話をしたり、食事をしてはダメだと言われてしまったため断念するしかなかった。
仕方ないか……とリスティーが内心小さくため息を吐いていると、キングはウララに王と書かれたマスクを着けさせていた。
「いいウララさん?絶対にレースの開始間際まで話をしたりしたらダメよ?はい、キングが王のマスクを下賜してあげるわ!ほら今日の主役は貴方よ、楽しんできなさい!トレーナーさん、ウララさんをよろしくお願いしますわね」
そう言ってキングはウララの背中をポンっと押し送り出してくれた。
○○○○○○○○○○○○○○○○
本来、予定では軽めのミーティングをした後に軽めの朝食を予定したのだが、アクシデントのせいでミーティングも食事もできなくなったため、リスティーとウララは予定よりも早くに現地入りをする事となった。
「ウララ、少し早いが控え室行こうか」
リスティーへの返事の代わりにピョコピョコと首と耳を縦に振りウララは答える。
お喋りなウララも可愛いが、無口なウララも可愛いななどと顔色は変えずリスティーは内心では抱き締めてたいなぁと思いつつ、ちゃっかりウララが迷わないようにと手を繋ぎ控え室へと歩き出した。
控え室に着くとまだ早い時間のため誰もいなかった。そして早速リスティーはウララに着替えるように指示を出し、その間リスティーはウララの靴の蹄鉄の確認をした。
小さなハンマーを手慣れた手つきで軽くコツコツと叩き、ちゃんと固定できているか、ずれてはいないかと不備が無いかと調べてみる。
本来、蹄鉄はウマ娘本人が調整するのだが、ウララはまだ蹄鉄の調整が下手だったので代わりにリスティーが調整と整備をしているだった。
コツコツと蹄鉄を叩いていると、クイッと袖を引かれたので振り返ると、レース用の真新しい運動着に着替えたウララが立っていた。
「……もう少し待ってなさい、少し蹄鉄がズレているから調整をする」
運動着のウララもなんて可愛い……また抱きしめたい衝動に駆られたが、腹筋にギュッと力を入れ表には感情を漏らさない。本当は運動着姿を目に焼き付けたいが、自制が取れなくなりそうなのでつい素っ気なさそうにしてから蹄鉄の調整に戻る。
そんなリスティーの内心など知らずに、ウララはちょこんとリスティーのすぐ横に座り蹄鉄を叩く手をジッと見始めた。
コツコツ、コツコツ、コツコツとただ蹄鉄を叩く音だけが控え室に響く。
いつもなら、ウララから蹄鉄の調整のコツやらを聞かれるが、今日は話をできないためにお互いに無言だった。
その後、10分ほどで蹄鉄の調整を終わらせて、リスティーはウララをイスに座らせからその場に膝をつき靴を履かせた。
「履き心地はどうだ?」
ウララは軽く足を動かし履き心地を確認した後、ピョコピョコと動かし口元見えないが目元がニコニコと笑っているように見えた。
「問題ないな、さて……ウララ、私も着替えるからその間にこれを読んでおきなさい」
資料をバッグから取り出してウララへと手渡した後、リスティーは久しぶりに袖を通す自分の勝負服へと着替えを始めた。
(もう二度と着るまいと思っていたが、な……)
数年ぶりに取り出した燃えるような真っ赤なジャージ、これはリスティーにとって特別なモノであり、多くのウマ娘から嫌われた証。
「……ふぅ」
小さく息を吐いた後、袖を通す。
不思議な物で何度も着ているはずなのに毎回、このジャージを着ると気持ちが引き締まるのを感じる。
「よし……ウララ、ミーティングを始めようか」
先に資料読んでいるウララの横に腰を落とし、リスティーは今日のレースのミーティングを始めるのだった。
次回予告(仮)
ついにデビューレースを迎えたハルウララ、果たしてウララの初レースはどうなるのか?
次回、ウララとデビューレースと涙〜後編〜をよろしくお願いします。