いつもより少しだけ長くなっています。
ウララとのミーティングを終えた頃には、他のウマ娘やトレーナー達も控え室に集まりザワザワし始めていた。
「ウララ、そろそろマスクを外しておきなさい」
時計を見ると、もうすぐで入場が始める時刻だった。 そのためウララにマスクを外すように促す。
「ん……あー、あー……わぁ〜!全然痛くない」
マスクを外したウララは恐る恐るといった風に声を出し、痛みが無いことに喜んでいる。
「ほらほら、トレーナー!見て見て〜」
痛みが無いのが嬉しかったのか、ウララはリスティーに向かい大きく口を開き舌をベーっと出して見せる。
「っ!?コラ!女の子が人前で大きく口を開けるんじゃない!」
リスティーは内心、舌ペロウララ可愛いぃぃぃぃ!! っとなりながらも、何とか理性が勝り他には見えないようにしてから、ウララを叱った。
「エヘヘ、ごめんなさい」
ウララは、はにかみながら笑い返事をした後、ストレッチを始めた。
「コラ!!そのストレッチはダメだと教えただろう!!」
それを見たリスティーはすぐさまウララを叱りストレッチをやめさせる。
「あ……そっか、えっと……」
ウララはなぜ怒られたのかを思い出した後、動的ストレッチを始めた。
「そう、運動前は動的ストレッチをしなさい」
以前、ウララが運動前にストレッチをしているのを見て、リスティーはそのストレッチは間違ってると指摘していた。
リスティーは怪我の原因になりそうな癖などは徹底的に矯正させている。 その口うるささも原因で、今まで担当したウマ娘達から嫌われる事も多かった。
しかし、怪我をするリスクを少しでも減らしてあげたい一心でリスティーは口うるさく注意をしていた。
「うん!んっしょんっしょ〜」
そんな口うるさい自分にも、ウララは嫌な顔一つせずに従ってくれる。
はじめはどうしてダメなの?みんなやってるよ?っとリスティーに疑問を口にしていたが、リスティーがなぜダメなのかを伝えると、ウララはすぐに納得してくれた。
……この素直な所はウララの美点だな。
可愛いウララのストレッチを見ながら、リスティーは1人小さく微笑んでいた。
○○○○○○○○○○○○○○○○
「5Rに出走予定の皆さん、入場して下さい!!」
ついに時間がきた。 係員がゼッケン1番のウマ娘から順番に先導していく。
「うわぁ……んっ、トレーナー?」
ソワソワと忙しなく身体を揺するウララを見かねて、リスティーはウララの頭を優しく撫でてやった。
「楽しんできなさい、さぁ今日の主役はウララだよ」
そう言ってポンッと背を叩き、ウララを呼びにきた係員の元へと送り出す。
「うん!!トレーナー見ててねー!!やるぞ〜!!」
ウララはリスティーに向かいニッコリと大きく笑い、テンションが上がり過ぎたのか先導する係員を追い越して走って行った。
「あっ!?ちょっと待って待って〜」
そんなウララの後を係員は慌てて追いかけて行った。
「やれやれ、しょうがない子だな」
○○○○○○○○○○○○○○○○
ドクンドクン。 さっきから心臓の音がうるさいくらい大きい。
空は真っ青に綺麗で、太陽は眩しいくらいに輝いてる。
「ドキドキするなぁ〜」
目の前にゲートがあって、周りには一緒に走る8人のウマ娘達がいる。
身体を揺らしてる子、ストレッチをする子、目を閉じて深呼吸してる子。
各々、色んな動きをしている。 一方、ウララは楽しくて楽しくて堪らずにいた。
初めて走るレース、今朝までは緊張で身体がガチガチになっていた。 でも、リスティーに頭を撫でてもらい、背中を押してもらったら、一気に緊張よりもリスティーに走っているのを見てもらいたいの気持ちが強くなった。
「よ〜し!!頑張るぞ〜!!」
早く、早く、早く走りたい。 どんどん気分が高揚する。
先程から尻尾が忙しなく右に左にパタパタと揺れ動いている。
ウララを含むウマ娘達がソワソワしていると、ついにゲート担当の係員が声を上げた。
「皆さん、今からゲート入りを始めます。呼ばれた方からゲートにどうぞ」
ついにゲート入りが始まった。
続々と一人また一人とゲートに入っていく、特に問題なく進みすぐにウララの順番が回ってきた。
「ハルウララさん、7番にどうぞ」
係員に名前を呼ばれ、ウララは元気よくゲートの前に駆け寄っていった。
係員は頑張ってねと優しく声を掛けた後、手慣れた様子でゲートを閉めた。
「思ってたより狭いなぁ〜」
ゲート入りの練習はリスティーと何度かしたものの、やはりレース本番のゲートは上手く言えないが違って見えた。
もう後には退がれない、進めるのは前にだけである。
後はただ、誰よりも早くゴールへと駆けるのみ。
隣のゲートがガチャと閉まる、右隣の子は緊張しているのかブツブツと何やら言っている。
左隣の子は緊張は無さそうだが、小さくお腹空いたなぁーっとボヤいていた。
「ゲートイン完了!!」
最後のウマ娘がゲート入りしたのを確認した係員は、大きな声を上げゲートから離れて行った。 係員が離れたと同時にガチャンっと大きな音を立てゲートが開いた。
○○○○○○○○○○○○○○○○
結果は9位だった。 出遅れ無く完璧な好スタートから始まり、作戦通り先行する形で走り出した。
しかし、無情にもすぐに差が出てしまった。 前の方に付けて走っていくはずが、すぐに群について行く事ができなくなり最後方へと落ちた。
ウララは何とかついていこうと加速するも、差は縮む事はなく。 最後は8着のウマ娘と8馬身もの差が開いてのゴールとなった。
○○○○○○○○○○○○○○○○
「ウララはどこに行ったんだ」
レースの後、ウララは控え室に戻って来なかった。
この後にウイニングライブがあるため、衣装に着替える必要があった。
ウララはすぐに見つかった。
ウララは人気の無いトイレの個室で声を殺して泣いていた。
「ゔっ……ぅゔ……ぁ、ゔっ、どうして、こんなに……速くはしれ、ないの、かなぁ……ゔっゔぅ」
声を掛けるべきか……と、リスティーは悩んでいるうちにウララが個室から出てきてしまった。
「あ……トレーナー……」
リスティーの姿を見た瞬間、ウララはビクリと体を震わせた。
そして、泣き腫らした顔で無理に笑った。
「エ……ヘヘ、負けちゃった。あんなに指導してもらったのに……ごめんなさい」
その笑顔を見た瞬間、リスティーは言葉より早くウララを強く抱きしめた。
「謝るのは私の方だ、私の指導不足だった……すまない」
強く強く抱きしめた。
「違、うよ……違う、トレーナーァ……ぅゔ、勝ぢだがった……勝ぢだがったよぉぉ!!」
ウララは大きな声を上げて泣き出した、リスティーはそれをただ黙って受け入れるしか出来なかった。
○○○○○○○○○○○○○○○○
あの後、ウララは泣き疲れ眠ってしまったため、ウイニングライブは体調不良のためと断り、そのまま寮へと連れて帰った。
部屋に着くとキングヘイローは何も言わず、泣き疲れて眠ってしまったウララを抱きしめ、後はお任せ下さいとドアを閉めた。
リスティーは自分の部屋に帰るなり、クローゼットの扉に頭を打ちつけた。
不完全なトレーニングをさせてレースへと送り出した自分はなんて愚かなのか。
勝ちたくない子がいるものか!! いくらデビューが遅れていたといえ、もっと時間を掛けるべきだったのだ。
自分が焦り、誤った判断のせいでウララに辛い思いをさせてしまった。
何度も何度もクローゼットの扉に頭を打ちつけていると、鈍い痛みの後にツゥーと血が滴り落ちた。
ポタポタと血が滴り落ち、額がジンジンと痛む。
ウララはもっと痛かったはずだ! もう一度強くクローゼットの扉に頭を打ちつけた。
心のどこかに恐怖があった、昔のように指導をしたらウララに嫌われてしまうのではないか。
そしてその自分の甘さが、ウララを苦しめた。
「情けない情けない……指導者として、なんと情けないのか!!私は……こんなにも、無力だ」
涙の代わりにのように、また一つまた一つと血が滴り落ちた。
しばらく俯いていると、血が抜けたせいもあってか頭が冷えてくるのを感じた。
「ふぅ……よし」
数回、深呼吸をした後、洗面所へと向かった。
鏡には額から滴り落ちた血の跡のある無様な自分の顔が映っている。
「情けない奴め……」
この前、迷いは断ち切ったと思っていたのだがな、と小さく呟いた。
もう一度、深呼吸をした後に棚から鋏を取り出した。
「弱虫な私はサヨナラ、だ!!」
ジョキン!!っと鋏の断ち切る音とともにバサリとリスティーの長い髪が床に落ちた。
「原点回帰だ!馬鹿者め!」
そして鏡に映る自分を怒鳴りつた。
次回予告(仮)
レースで惨敗してしまったウララはトレーナーに合わせる顔が無いと部屋に籠る、そんなウララを優しく諭すキングヘイロー。
キングヘイローの説得もあり、前を向こうと奮起するウララだった。
次回!!
ハルウララと鬼