「それじゃあ、君はここで自主練してて……えーと、名前なんだっけ?まぁ、いっか……じゃ、頑張ってね」
トレーナーは投げやりに言い放った後、振り返りもせずにそのまま歩いて行った。
「……ハルウララだよ、トレーナーさん」
ポツリと漏らしたウララの声は、もうトレーナーには届いていなかった。
――分かってたんだ。ウララは望まれてなかったって。
下を向くと泣いちゃいそうで嫌だな……ダメダメ!! もっともっと頑張らなきゃ、頑張ればきっと私を見てくれるはず。
「ハァ……ハァ……」
トレーナーからは何にも指示がなかった、だから一生懸命に考えたけど何していいかわからないから……ずっと闇雲に走って走って、ただひたすらに走った。
他の子に比べて、私は体力も技量も速さも無い。 でも、頑張る事だけはできるもん。
頑張って頑張って、トレーナーがビックリするくらい頑張るんだ。
ふと近くでトレーニングをしていたスペちゃん達が目に入った。楽しそうにみんなでトレーニングして、トレーナーさんからも褒めてもらえて……とても、羨ましいなぁ。
心の奥がキュッって締め付けられるような感じがする。
嫌だなぁ……嫌な気持ちがする。 私だけ、独りなのは嫌だな。
寂しいなぁ……私も、みんなと一緒にトレーナーさんから指導されたいなぁ。
次の日、思い切ってトレーナーさんにお願いしてみた。
ウララもみんなのトレーニングに参加させて下さいって、そしたらトレーナーさん言ったよ。
「君さ、ついて来れないでしょ?みんなの邪魔になるからダメだよ」
また、心の奥がキュッって痛んだ。私が、ワガママなのかな……みんなと一緒に練習したいって思うのは悪い事なのかな。
その後も私は独りで練習を続けた。 頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って頑張るんだ。
トレーナーさんに認めてもらえるように。
ある日、トレーナーさんからみんなの練習に参加しなさいって言われた。とても嬉しかった。
よぉし、張り切って練習の成果を見せるよ!!
「君さ……全然変わってないじゃん!!何してたの!?」
練習の後、私はトレーナーさんに怒られた。 私がみんなの練習についていけなくて、途中で座り込んじゃったから。
何にも成長してない! 何してたの!? 遊んでないで練習しなよ!! ってたくさん怒られた。
私は……ウララは遊んでなんかなかったよ? 一生懸命、考えて頑張って練習したんだよ?
そして、つい言ってしまった。
「トレーナーさんが何も教えてくれなかったから……」
言葉を漏らしてから、しまったと思った。 けど、すでに遅かった。
トレーナーさんは目を釣り上げて怒鳴り出した、自分がサボっていたのを俺のせいにするな!! お前は何様だ!? 俺が悪いのか!!
ごめんなさい、ごめんなさい。
違うの、ウララはただ……トレーナーさんに、認めて……。
「もう分かった!!君は好きにすればいい!!ったく、ボランティアで引き受けてやったのに!!」
ま、待ってトレーナーさん。 ウララが悪かったから、お願いだよ。 トレーナーさん。
ガクガクと体が震えてそのまま何も言えなかった。
次の日から、ウララは本当に独りで練習する事になった。もうトレーナーさんは、声も掛けてくれない。まるでウララが……見えていないみたいに振る舞ってる。
辛くて……辛くて。 いっその事こと、練習をやめちゃおうかなって思ったけど……気づいたら練習場に向かってた。
ズキンズキンって胸の奥がとても痛い。 誰か、助けてよ。
ウララを見て、ウララ寂しいよ。
気づかないうちにポタポタと次から次に涙が零れ落ちる。
もう笑えない、よ。
「誰か……ウララを……」
ウララを助けてよ。
「ハルウララ!!」
不意にとても大きな声で名前を呼ばれた。 ビックリして声がした方に視線を向けると、知らない女の人が立ってた。
鋭い目つきに、とても長い髪、ウララを見つめる薄緑色の瞳はとても力強く見えた。
誰、だろう。
「今日からお前の新しいトレーナーになった、桜井リスティーだ!」
え?新しい、トレーナーさん? あぁ、そうか……ウララ、ついにトレーナーさんに捨てられたんだ。
自覚した瞬間、とても悲しくなってもう立ってられなくて……その場に座り込んだ。
「どうした!?」
いきなり座り込んだウララにビックリしたのか、新しいトレーナーさんは慌てて駆け寄ってきた。
「大丈夫、です……あの、前のトレーナーさんは……」
ウララが大丈夫だと言ったら、新しいトレーナーさんは安堵したような顔をした後に、瞳を細めて吐き捨てるように言った。
「あの無能者か、あいつならば私が成敗しておいたぞ。まったく、あのような無能を迎え入れるなど言語道断だ、嘆かわしい!!」
新しいトレーナーさんはとても怒っているのか、とても声が怖い。
ビクビクとしていると、新しいトレーナーさんは何かに気づいたのか、いきなりウララの事を抱き上げた。
「ひゃっ!?」
そして抱き上げたまま歩き出した。な、なに?いきなり、どうしたんだろ……。
ウララが困惑していると、新しいトレーナーさんは顰めっ面をしながら話し出した。
「まったく、傷だらけじゃないか。あの無能者は治療すらしてくれなかったのか……すぐに保健室で治療してやるからな」
こんなことを言われたの初めてだった。前のトレーナーさんはウララがケガをしたのを見ても、何もしてくれなかったのに……。
「あ、れ……あれ?」
なんでだろう、涙が止まらない。 次から次へとポロポロと涙が止まらないよ。
「な!?どうしたんだ!?どこか痛いのか!?ま、さか、私の運び方が悪かったか!?」
急に泣き出したウララに、新しいトレーナーさんは慌てだした。違う、違うよ。ウララは嬉しいの、言葉が上手く出ないんだよ。
「う、ぅう……ぐすっ」
結局、保健室に着くまでずっとウララは泣き止むことができなかった。たくさん泣いて、新しいトレーナーさんのお洋服も鼻水と涙でグシャグシャに汚しちゃった。
いつまでも泣き止まないウララに、新しいトレーナーさんは困りながらも優しく抱きしめてくれて、頭を撫でてくれた。
こんなに優しくされたのは初めてだったから、嬉しくて嬉しくて涙が止まんなくて、ずっと新しいトレーナーさんの胸の中で泣いちゃった。