Act1.ハルウララ〜桜咲く〜   作:雪狐

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独り

「それじゃあ、君はここで自主練してて……えーと、名前なんだっけ?まぁ、いっか……じゃ、頑張ってね」

 

 トレーナーは投げやりに言い放った後、振り返りもせずにそのまま歩いて行った。

 

「……ハルウララだよ、トレーナーさん」

 

 ポツリと漏らしたウララの声は、もうトレーナーには届いていなかった。

 

――分かってたんだ。ウララは望まれてなかったって。

 

 下を向くと泣いちゃいそうで嫌だな……ダメダメ!! もっともっと頑張らなきゃ、頑張ればきっと私を見てくれるはず。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 トレーナーからは何にも指示がなかった、だから一生懸命に考えたけど何していいかわからないから……ずっと闇雲に走って走って、ただひたすらに走った。

 

 他の子に比べて、私は体力も技量も速さも無い。 でも、頑張る事だけはできるもん。

 頑張って頑張って、トレーナーがビックリするくらい頑張るんだ。

 

 ふと近くでトレーニングをしていたスペちゃん達が目に入った。楽しそうにみんなでトレーニングして、トレーナーさんからも褒めてもらえて……とても、羨ましいなぁ。

 心の奥がキュッって締め付けられるような感じがする。

 嫌だなぁ……嫌な気持ちがする。 私だけ、独りなのは嫌だな。

 

 寂しいなぁ……私も、みんなと一緒にトレーナーさんから指導されたいなぁ。

 

 

 次の日、思い切ってトレーナーさんにお願いしてみた。

 ウララもみんなのトレーニングに参加させて下さいって、そしたらトレーナーさん言ったよ。

 

「君さ、ついて来れないでしょ?みんなの邪魔になるからダメだよ」

 

 また、心の奥がキュッって痛んだ。私が、ワガママなのかな……みんなと一緒に練習したいって思うのは悪い事なのかな。

 

 その後も私は独りで練習を続けた。 頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って頑張るんだ。

 トレーナーさんに認めてもらえるように。

 

 

 ある日、トレーナーさんからみんなの練習に参加しなさいって言われた。とても嬉しかった。

 よぉし、張り切って練習の成果を見せるよ!!

 

「君さ……全然変わってないじゃん!!何してたの!?」

 

 練習の後、私はトレーナーさんに怒られた。 私がみんなの練習についていけなくて、途中で座り込んじゃったから。

 何にも成長してない! 何してたの!? 遊んでないで練習しなよ!! ってたくさん怒られた。

 私は……ウララは遊んでなんかなかったよ? 一生懸命、考えて頑張って練習したんだよ?

 そして、つい言ってしまった。

 

「トレーナーさんが何も教えてくれなかったから……」

 

 言葉を漏らしてから、しまったと思った。 けど、すでに遅かった。

 トレーナーさんは目を釣り上げて怒鳴り出した、自分がサボっていたのを俺のせいにするな!! お前は何様だ!? 俺が悪いのか!!

 

 ごめんなさい、ごめんなさい。

 違うの、ウララはただ……トレーナーさんに、認めて……。

 

「もう分かった!!君は好きにすればいい!!ったく、ボランティアで引き受けてやったのに!!」

 

 ま、待ってトレーナーさん。 ウララが悪かったから、お願いだよ。 トレーナーさん。

 

 ガクガクと体が震えてそのまま何も言えなかった。

 次の日から、ウララは本当に独りで練習する事になった。もうトレーナーさんは、声も掛けてくれない。まるでウララが……見えていないみたいに振る舞ってる。

 

 辛くて……辛くて。 いっその事こと、練習をやめちゃおうかなって思ったけど……気づいたら練習場に向かってた。

 ズキンズキンって胸の奥がとても痛い。 誰か、助けてよ。

 

 ウララを見て、ウララ寂しいよ。

 気づかないうちにポタポタと次から次に涙が零れ落ちる。

 もう笑えない、よ。

 

「誰か……ウララを……」 

 

 ウララを助けてよ。

 

「ハルウララ!!」

 

 不意にとても大きな声で名前を呼ばれた。 ビックリして声がした方に視線を向けると、知らない女の人が立ってた。

 鋭い目つきに、とても長い髪、ウララを見つめる薄緑色の瞳はとても力強く見えた。

 

 誰、だろう。

 

「今日からお前の新しいトレーナーになった、桜井リスティーだ!」

 

 え?新しい、トレーナーさん? あぁ、そうか……ウララ、ついにトレーナーさんに捨てられたんだ。

 自覚した瞬間、とても悲しくなってもう立ってられなくて……その場に座り込んだ。

 

「どうした!?」

 

 いきなり座り込んだウララにビックリしたのか、新しいトレーナーさんは慌てて駆け寄ってきた。

 

「大丈夫、です……あの、前のトレーナーさんは……」

 

 ウララが大丈夫だと言ったら、新しいトレーナーさんは安堵したような顔をした後に、瞳を細めて吐き捨てるように言った。

 

「あの無能者か、あいつならば私が成敗しておいたぞ。まったく、あのような無能を迎え入れるなど言語道断だ、嘆かわしい!!」

 

 新しいトレーナーさんはとても怒っているのか、とても声が怖い。

 ビクビクとしていると、新しいトレーナーさんは何かに気づいたのか、いきなりウララの事を抱き上げた。

 

「ひゃっ!?」

 

 そして抱き上げたまま歩き出した。な、なに?いきなり、どうしたんだろ……。

 ウララが困惑していると、新しいトレーナーさんは顰めっ面をしながら話し出した。

 

「まったく、傷だらけじゃないか。あの無能者は治療すらしてくれなかったのか……すぐに保健室で治療してやるからな」

 

 こんなことを言われたの初めてだった。前のトレーナーさんはウララがケガをしたのを見ても、何もしてくれなかったのに……。

 

「あ、れ……あれ?」

 

 なんでだろう、涙が止まらない。 次から次へとポロポロと涙が止まらないよ。

 

「な!?どうしたんだ!?どこか痛いのか!?ま、さか、私の運び方が悪かったか!?」

 

 急に泣き出したウララに、新しいトレーナーさんは慌てだした。違う、違うよ。ウララは嬉しいの、言葉が上手く出ないんだよ。

 

「う、ぅう……ぐすっ」

 

 結局、保健室に着くまでずっとウララは泣き止むことができなかった。たくさん泣いて、新しいトレーナーさんのお洋服も鼻水と涙でグシャグシャに汚しちゃった。

 

 いつまでも泣き止まないウララに、新しいトレーナーさんは困りながらも優しく抱きしめてくれて、頭を撫でてくれた。

 こんなに優しくされたのは初めてだったから、嬉しくて嬉しくて涙が止まんなくて、ずっと新しいトレーナーさんの胸の中で泣いちゃった。

 

 

 

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