黄金龍の伝説 前編
スダ・ドアカワールド。そこは人間族とMS族が共存する世界。
かつて、この世界を司る十二神の一柱の黄金神スペリオルドラゴンと、ジオン族による支配体制を目論んだ闇の皇帝ジークジオンとの壮絶な戦いが繰り広げられた。
戦いはアルガス騎士団と呼ばれる四人のガンダム族の騎士の魂と一体化したスペリオルドラゴンの勝利によって一度は幕を閉じ、役目を終えたスペリオルドラゴンは神々の暮らす天へと昇っていった。
……これは、そのスペリオルドラゴンから零れ落ちた、小さき命の紡ぎ出す物語。
おれは雷帝エール・クレルの適合者、名前はイー・ロン。漢字で書くと翼龍。
あまりにも安直な名前かもしれないが、実際に生まれた時からそんな名前で育ってきたのだから、仕方がない。だが、おれは自分の名前を結構気に入っている。何事もわかりやすいのは良いことだ。おれは曲がったことが嫌いである。
おれも今では龍帝の探究者たちのまとめ役と目されているらしい。実に誇らしいことだ。おれにとって頼もしいパートナーであると同時に、敬愛する帝でもあるエール・クレルの威光を世に知らしめる良い機会だからな。
そして、遂に現状の上司であるロンバルディアから直々に今回の仕事を依頼された。この一大事に置いて、真っ先におれを頼りにしている、証明だな。
おれは喜び勇んで、早速、仲間たちに招集をかけた。だが……。
「集まったのはこれだけかよ……」
龍の第一声がそれであった。
ここは喫茶店『ポニサス』。カードバトラーが屯するこの場を待ち合わせ場所に選んだのは、龍と連絡を取り合っていた尾空白矢の判断であった。
以前、月坂小夜と蒼樹時菜がここでバトルスピリッツの対戦を行った際はオープンな状態で観客たちに見守られる形であったが、少人数で静かにバトスピを楽しみたい人向けの小スペースも用意されており、集まった龍帝の探究者たちはそこを利用していた。
そして、その集まった探究者というのが、尾空白矢とエドワキア・リローヴイ。龍を含めて、たったの三人だけであった。
「結局連絡の取れなかった、光帝リュミエールと魔龍帝ジークフリードの適合者がいないのは、まあ仕方がないにしても、他の二人はどうしたんだ?」
三人が椅子に腰を下ろした後、龍の疑問に、以前、蒼樹時菜と面会をしていた青年――尾空白矢が答える。
「萌架さんは教育実習が始まったばかりで来れないらしい。それから廿郎さんは盆栽の愛好家の集いがあって、どうしても外せないとか」
「おいおい、一大事だって言うのに、どいつもこいつも悠長な……」
「仕方ないよ、萌架さんは今は自分の進路のことが大切だからね。廿郎さんはまあ……ぼくとしても、あまり強く言えないなぁ」
白矢が廿郎の人柄を思い出し、困ったような表情になる。
「おれだって、仕事で忙しいところを無理してキャンセルしてここにいるんだぜ。全く、皆、自覚が足りないんだよ」
「仕事を休んできたのはぼくも同じさ……まあ、各々、自分の生活があるからね。今は、集まった人数だけで、できるだけのことをしよう」
未だ納得しきれていない様子の龍であったが、不満を言っても仕方がなかったので、諦めて本題に移ることにした。
「実はだな、おそらく聖龍帝の大創界石の影響と思われるが……この前、白矢が中立者から受け取った情報にもあった霊穴の一つで、膨大な熱量が観測されたと、たった今、ロンバルディアから連絡があった」
「それは……穏やかじゃないな」
途端に、白矢が真剣な面持ちとなる。龍が招集をかけた時はまだそこまでの情報はなかった。それを、ロンバルディアが急いで知らせてきたとなると、事態は予想以上に急を要するのかもしれない。
「ああ。何でもロンバルディアの予想では、聖龍帝の力に感化された異世界の龍帝が、現実世界において実体化する兆しの可能性があるらしい」
「龍帝がこの世界に……」
身震いを禁じ得ない白矢。こうして平穏に生活を送っていられる世界が、実はとても不安定で、いつ滅びてもおかしくない状態にあるのではないかと思うと、気が気でなかった。
ふと、白矢は横の席で本を読んでいるエドワキアの方を見やった。本には茶色いブックカバーがかぶせてあり、内容は判別できない。
「ちょっと、ちょっと。エドワキアさん、話を聞いている? こんな時に読書なんかしている場合じゃないって」
「白矢、五月蠅い。……今、日本語の勉強中」
エドワキアの返答に白矢は呆れてしまう。
「べ、勉強中って……。一体、何の本を読んでいるんだい?」
「国枝四郎の『神州纐纈城』」
国枝四郎とは、主に伝奇小説の書き手として大正時代などに活躍した小説家である。『神州纐纈城』は大衆文芸雑誌『苦楽』にて連載されていた。未完ではあるが、日本の伝奇小説を代表する名著と言えよう。
(いちいち、チョイスが謎なんだよなぁ……)
白矢は熱心に本を読んでいるエドワキアを見ながら、そんなことを考えていた。
「まあ、エドワキアは普段引き籠ってるのに、来てくれただけでもマシだがな」
そう言う龍の方を一瞬睨んだエドワキアであったが、すぐに目線を開かれた本のページに戻すと、黙読を再開した。
「しかし、いよいよ本物の龍帝を拝めるのかと思うと、おれ、わくわくしてくるぞ」
純粋に嬉しそうにしている龍。白矢は驚き、異質なものを見る目で龍を直視した。
「いやいやいや。龍帝の実体化ってそんな話じゃないってば。まずいよ、これは」
「そうか? 皆が夢にまで見たスピリットの実物を間近で見られるかもしれないんだぜ」
「あのねえ……」
白矢は大きくため息をつくと、子どものように瞳を輝かせている龍と、相変わらず本に集中している様子のエドワキアを交互に視やってから、話を続けた。
「人類の社会は、まだ異世界を受け入れることのできる段階には入っていない。もし、このまま本物の龍帝が現れたりしたら、とんでもない大惨事になりかねないよ。だから、その龍帝が世に出ることは可能な限り、阻止しないと」
「……なるほど、そうかもしれないな。や、白矢、切れ者のお前がいてくれて助かるぜ」
「いや、普通気づくでしょ……」
「そうと決まれば、今すぐにでも、霊穴の調査に向かわないとな。行くぞ、白矢、エドワキア」
こうなれば、現状で最もスピリット世界に近しい者たちがこの危機を乗り越えるための打開策を講じなければならない。共通の決意を胸に秘めた龍と白矢が同時に席から立ち上がる。
どこ吹く風という様子で黙読しているエドワキア。白矢が窘めるような口調で声をかける。
「ほら、エドワキアさんも早く立って」
「…………わかった」
エドワキアは不満そうに呟くと、本に紫色の藤の花が描かれた栞を挟み、バッグにしまい込むと、ゆっくりと立ち上がった。
若いウェーターが、立ち去ろうとしている三人を呼び止めた。
「あれえ、お客さん、ご注文は無しですか……」
「すみません。急ぎの用事ができてしまって。又、次の機会にお願いします」
白矢はそう言って謝り、店の外に向かう龍とエドワキアのあとを追って、足早に店を出た。
山林では草木が生い茂り、広葉樹の芽吹きが、初夏を感じさせるには十分なものであった。
「最悪……喫茶店で話すだけだからって聞いていたのに、山登りをやらされるなんて」
ぶんぶんと音を立てて顔に寄って来る羽虫を片手で払いのけながら、エドワキアが言った。
「なんだ、エドワキア。登山は嫌いか、だらしないな。人は山を登るために生まれ、山を登るために生きるのだと、先人も言っているだろ」
「聞いたこと、ない」
「登山はなあ、素晴らしいぞ。こうして自分の足でより高みを目指す……。それに、もうじき夏だ。季節の緑も景色も絶景揃いだぞ」
「景色……」
それまで顔にたかって来る虫から背ける為に下を向いていたエドワキアは、ふと右側の森林へ向かって顔を上げた。
今三人が歩いている山道の左右には背の高い雑多な樹木が生い茂っており、その中でエドワキアは、腐葉土に覆われた地面から幹を伸ばしている、背の低い山吹の群生を見つめた。
山吹の黄色い花は、さながら緑の宇宙に散らばる星の明かりといった印象があり、エドワキアは一瞬、見とれてしまった。
(小夜と一緒に、観たかったな……)
ぼんやりとそんなことを考えてしまう。
「おい、エドワキア。何立ち止まってんだ、置いてくぞぉ」
龍の声で思考を中断され、エドワキアは小さく舌打ちをすると、前を歩いている龍と白矢を足早に追いかけた。
一行が山道を進んでいくと、一気に視界がひらけた。道中では遮られていた日光が降り注ぎ、緑の皿をひっくり返したような地形が広がっている。一帯は背の低い草に覆われているが、少し右にそれると、岩肌の露出した急な斜面が続いており、その先には明けの星町の建物がミニチュアのように小さく映っていた。
「近場にこんな見晴らしの良い場所があるなんてな。こいつは、来てみて良かったぜ」
龍が明けの星町を見渡しながら、感嘆の声をもらした。
陽ざしが少し強かったが、周囲には幾分かの冷気を含んだ空気が流れており、これまでにかいた汗が冷やされることで軽い寒気を感じたエドワキアが小さく身震いをした。
「……疲れた」
着々と霊穴の探索を始める二人の傍で、エドワキアは楕円形の石の上に座り込み、ため息をついた。
「どうやら、霊穴から沸き起こる霊気によって、この地形が形作られているのかもしれないな」
白矢が、高木の生えていない原っぱのような周囲を見渡しながら言った。
「しっかし、聖龍帝の大創界石が出現したのはつい最近なんだろ?」
龍の問いに、白矢が答える。
「そうだけど、霊穴自体は前々からあったらしい。要するに、向こう側の世界との接点がここにあったから、常にその影響を受け続けてきたのだと思う。もっとも、聖龍帝の出現で一気に流れ込んでくる霊気は強まっているみたいだけど……」
白矢はリュックサックからカードホルダーを引っ張り出すと、その中から一枚のカードを引き抜いた。それは白の龍帝、空帝ル・シエルのカードであった。
「やはりね。龍帝がここの霊力に強い反応を示している」
龍もまた、自分の龍帝、雷帝エール・クレルのカードを取り出し、まるで眼前の風景の写真を撮るかのようにかざしてみた。
「お……これは凄い。まるで今にも龍帝が飛び出してきそうな勢いだ」
二人のやりとりを端で見ていたエドワキアもまた、自分の手にした闇帝オプス・キュリテのカードを眺めていた。異界の霊力にさらされたことで、カードそのものが霊気を帯びている――そう感じられた。
やがて、龍帝の適合者である三人の周囲を満たしている空気が異様な気配を放ち、三人は空間全体が身体に重くのしかかってくるような錯覚にとらわれた。
「……どうやら、聖龍帝もこちら側の霊力を察知したらしい」
霊力による圧力がひしめき合ったが、足元の草花は何事もないかのように風に揺られている。しかし、植物に宿っている個々の霊気そのものは環境の変化を敏感に感じ取っているらしく、本来は物質と綺麗に重なっている霊体がずれて、振動しているようであった。
三人がそういった変化を捉えることができるのも、龍帝の適合者故である。
「あるいはこれは、龍帝同士の会話のようなものかもしれないな」
「おいおい。このままだと龍帝の実体化も止められないんじゃないか?」
「……多分、ぼくたちにそれを止めることはできないと思う」
白矢の言葉に、龍は若干あきれ顔になる。だが、心の内では、相変わらず、異なる世界が繋がることへの感動があり、それならばどっしりと構えてやろうと龍は開き直った。
「なら、直談判しかないな。なに、おれたちは龍帝とは硬い絆で結ばれているんだ。そのおれたちから頼めば、相手も下手なことはしないだろう」
「だといいんだけどね。これから現れる龍帝が何者なのか、さっぱり見当もつかないのが問題だからなぁ……」
青い空に、突如雷鳴が轟いた。ぎょっとなる白矢と龍。それまで闇帝オプス・キュリテのカードを眺めていたエドワキアが、怪訝そうな表情で天を仰いだ。
天空より、一筋の赤と青の入り混じった、螺旋をへし曲げたような閃光が迸り、近くの地面に落ちた。その場に生えていた草が電光を浴びて白く光ったが、直後には何事もなかったかのように直立しており、雷が霊的なものであることを物語っていた。
晴れ渡った空にはそぐわない雷鳴はなおも続き、その場に居合わせた龍帝の適合者たちは、段々と大きな力が近づいてくるのを、ひしひしと感じとっていた。
「いざ、直面してみると、流石に恐ろしいな」
龍は畏怖の念を抱きながら、眼前の脅威を見守る。
「だね……」
白矢もまた、霊穴の影響で顕現した異世界の力を前にして、圧倒されていた。
「……なにか、近づいてくる」
エドワキアがぼそりと呟いた。
直後、雷が一際強く鳴り響き、空間全体が白熱しているかのように雷光が伝わった。
雷の光は中空の一点に渦を巻くように集約されていき、そこには空間を食い尽くすかのような紅蓮の如き虚空が現出していた。電光が弧を描き、燃え上がる炎が虚空から噴き出す。霊的な熱が吐き出され、瞬間的に周辺に広まっていった。
炎と雷が輪を創る虚空の穴から、黄金色の粒子が迸った。それは三人の目の前で、小さなつむじ風のように宙を舞い、徐々に地上へと下ってきた。
黄金の粒子が草で覆われた地面に集まっていくにつれ、上空の雷鳴は急速に鳴りを潜めていき、空間を満たしている強烈な霊気も遠のいていった。
やがて、粒子は何かの輪郭を形成し、まだ周囲に残っていた霊力もその存在の実体化のために吸われているかのように収束する。
集合した黄金の粒子が光を失うにつれ、翼を生やした青色の人影のようなものが形作られ始めた。
「いよいよお出ましか」
龍はそう言いながらも、眼前の予想以上に小さい存在を訝しんでいた。
(おれたちの知っている龍帝にしては随分と小さいなあ……)
だが、対峙する霊力は紛れもないドラゴンのもの。龍帝の適合者である三人にとっては最も身近な異世界の存在であったため、そのことが直に感じられた。
そして、天地鳴動が収まった時、それは完全に実体化した。
頭部の左右に黄色い角を生やした小さな青い人影。蹲った姿勢のまま、背中の赤色の羽がはたはたと動いている。その存在には、龍帝というよりも、小悪魔のような印象があった。
その者はそれまで気を失っていたのか、瞳を閉じたままゆっくりと上体を起こす。青色のローブを羽織っており、その小さな体を支える露わになった白い腕は、何とももか弱い印象を見る者に与えた。
閉じられていた目がパチクリと音を立てているかのような勢いで開かれた。大きな黄色い目に黒い瞳が浮かんでいる。それから、その存在は落ち着かない様子できょろきょろと辺りを見回す。
「ここは、どこ? 父上は? ナイトガンダムは? ……お前ら、誰だビー」
奇妙なことに、異界の存在の話している内容が、その場に居合わせた者の脳裏にすらすらと入り込んでくる。それまで茫然となって異世界から迷い込んだ者を眺めていた白矢と龍は、途端に我に返る。
同じ龍帝の霊力を備えた者同士で交渉を試みなければならない――白矢はそう考え、相手に話しかけてみる。
「あなたが異世界から迷い込んだという、龍帝ですね。ぼくは尾空白矢、こっちはイー・ロン。それからあちらにいるのはエドワキア……皆、龍帝の絆で結ばれた者たちです」
「りゅーてー? 何の話だか、わけわからんビー……」
そう言いながら、異界から迷い込んだ小さなドラゴンは翼をパタパタと動かしながら宙に浮き、周囲を眺め回した。
「あ、あのー。ちょっと待ってください。このままあなたにどこかへ行かれると、色々と困ったことになりまして」
異界の者は中空から白矢を見下ろし、怪訝そうな表情を浮かべた。
「んー。おまえ、おいらに指図するつもりビー」
ひゅんと音を立てて舞い降り、異界の者は胸を張って見せる。首から下げられた星型の手裏剣を重ねたような形状のペンダントに付けられた赤い宝玉が煌いた。
「おいらは誇り高きドラゴン一族の王の中の王、ブラックドラゴンの一人息子。ドラゴンベビーだビー。おまえら頭が高い、ひかえろビー!」
偉そうに豪語するドラゴンベビーと名乗る者に気圧された様子の白矢であったが、下手に刺激したら危険かもしれなかったので、慌ててその場に跪いた。
「待て待て。よくわからない初対面の相手に、いきなり、したてに出ることはないぞ」
落ち着きを取り戻した龍は、あくまでどっしりと構えようという姿勢で臨む。
「おれたちはこの世界に住む龍帝の適合者だ。あなたがどこの世界から迷い込んだのかはわからないが、頭を下げるいわれはない」
「むう……」
ドラゴンベビーが少し凄んで見せる。一触即発の雰囲気にあたふたと両者を交互に見つめる白矢。龍は弱みを見せたら負けだと思い、胸を張る。
ふと、ドラゴンベビーの視線が龍の背後に立っているエドワキアへと向けられた。両手を自分の頬の辺りで握りしめて、瞳をうるうると輝かせている、エドワキア。
「か、可愛い……!」
エドワキアが龍を押しのけ、ずいずいとドラゴンベビーの方へと迫る。龍は危うく転びそうになり、ドラゴンベビーは一瞬ぎょっとなって後じさりをした。
「抱っこしていい? いいよね、いいと言って」
「いや、流石にそれは駄目だろ……」
龍があきれ顔でエドワキアを諫める。エドワキアはきっとなって龍を睨み、「あんたには聞いてない」とだけ言った。
「こいつら、なんなんだビー……」
戸惑うドラゴンベビーの返事も待たずに、エドワキアがドラゴンベビーを両手で抱きしめ、そのまま持ち上げてしまった。短い脚をバタバタと動かす、ドラゴンベビー。
「な、こら、離せビー!」
「エドワキアさん、見た目は可愛くても、異界のドラゴンだ。危険だってば……」
白矢が止めようとしても、エドワキアは相手にせず、ドラゴンベビーの頭を優しくさすりながら、「ベビー、よしよし」と宥める口調で言う。
最初は抵抗していたドラゴンベビーであったが、エドワキアに優しくされると、途端に暴れるのを止めてしまった。ドラゴンベビーは小さな体の割には大きな瞳でエドワキアの顔を覗き込む。
「おまえ……馴れ馴れしいけど、良いやつかもしれないビー」
ドラゴンベビーがぽつりと呟いた。
「わたし、闇帝とも深い絆で結ばれている、から。ベビーとも仲良くなれる……」
エドワキアの懐にある闇帝オプス・キュリテのカードが微かな霊気を放った。それを持ち上げ、ドラゴンベビーに見せるエドワキア。
「うーん? その、ただの札がおまえの仲間かビー?」
エドワキアとドラゴンベビーのやり取りを固唾をのんで見守っていた白矢が思い立ち、自分も空帝ル・シエルのカードを取り出して、ドラゴンベビーの方へ表面を向けた。
「ドラゴンベビー、あなたの言う通り、これ自体はただのありふれたカードに過ぎません。でも、この世界と隣り合うスピリット世界では、カードに描かれている龍帝たちは実在し、カードは両方の世界を結びつける触媒としての役割を担っているのです」
空帝ル・シエルのカードもまた、闇帝と同様に霊気を強めていた。
「おれたちの創造力によって、そのスピリット世界は形作られていく。だから、カードも新たな世界を創造する鍵になっているんだ」
雷帝エール・クレルのカードを手にした龍が言った。
「創造力が世界を……本当かどうかは疑わしいけど、興味深い話だビー」
ドラゴンベビーがするりとエドワキアの両腕から抜け出し、飛び上がった。エドワキアが少し残念そうな声を出す。
「なんなら、見せてあげましょうか。……世界創造の一端を」
白矢の言葉に、龍が反応して「お」と声をもらす。
「おいらもいきなり引っ張り出されて、この世界のこともチンプンカンプンだったところ。おまえたちの戯れに付き合うだけの時間なら、待ってやっても良いビー」
ドラゴンベビーは地面に降り立つと、その場にあった、先ほどまでエドワキアの座っていた石の上に座った。
「元々、霊穴から聖龍帝を解封するエネルギーを送るために、ここで龍帝を使用したバトルをする必要があったからね。……さて、誰と誰でやるかな?」
「白矢と龍でやって。わたし、ベビーと遊んでいるから」
エドワキアはそう言うやいなや、ドラゴンベビーを軽々と持ち上げ、石の上に座ると、抱えたドラゴンベビーを自分の膝の上に置いた。ドラゴンベビーは少し慌てたが、すぐに大人しく従った。
「おう、異論はないぜ。実はな、早くやりたくてうずうずしていたところだったんだ」
龍は己のデッキを手に取り、白矢と少し離れ、向かい合う位置に立った。
「ぼくらも霊穴で行うバトルがどういったものか、全容を把握しているわけじゃないから……。まあ、まずは試験的な意味も含めて、異界の者にも、ぼくらのバトルを、見せておかないと」
「甘いぜ、白矢。やるからには勝つ気で全力を出さないとな」
「無論、ぼくだって負けるつもりはないさ」
龍と白矢、両者の間で緊迫した空気がぶつかり合う。龍帝の適合者であると同時に、二人はカードバトラー。二人の勝負師としての側面が空間に色濃く反映され、これから始まるバトルを待望していた霊穴全体が、高鳴っているようであった。
★来星の呟き
唐突なドラゴンベビーですが、構想当初は、初期のブラックドラゴンとよく似た設定の「邪神龍ドゥーム・ドラゴン」を使用するチョイ役として登場させる予定でした。
だったのですが、系統:ジオンが正式に実装されたこともあり、準レギュラーとして活躍させようと思い立ったのであります。
それに、プレミアムバンダイの商品で、リアル頭身版の騎士ガンダムやブラックドラゴンが立体化したというのもありますね。。
現状のジオンは実質「ロニ・ガーベイ」の為の系統ですので、必然的に「シャンブロ」がキースピリットになりますが。
でも、赤のドラゴン要素も入るので、MS・MAデッキとは限りません。
とりま、自分は、バトスピとSDガンダムの公式コラボや、SDバトスピの復権を強く渇望しておりまする。
たかの あつのり氏の『カラフルファンタジア SDバトスピ放浪伝 1』の巻末で、騎士ガンダムのカードダスのパロディ風のロロなどが描かれていて、嬉しかったもので。
「カラフルファンタジア・ロロ」もカード化しているので、そのうちに、作中で登場させたい次第。
因みに、今作のドラゴンベビーの設定は、ほしの竜一氏がコミックボンボン誌上で連載していた漫画版をベースにしております。
それ故、ネオブラックドラゴン登場後も分離したドラゴンベビーが同時に存在できる等、ブラックドラゴンとの父子の関係が重視されている形。
そうなると、例えば魔道士ララァは騎士シャアに想いを寄せているなんて描写は特になく、ジオンによるラクロア征服の暁には魔法国家の盟主になる野望を持っていたり。
(カードダスなどの設定では、のちに軍師クワトロの守護霊になっていたりするので、原作の設定に近くなっております。横井孝二氏が連載していた、コミックボンボンの『元祖!SDガンダム』でもララァは味方サイドになりますね)
OVA版の魔道士ララァも、サタンガンダムの忠実な側近という感じでした。
……自分は、その悪女風な敵幹部としてのララァが好きだったりします。。
ドラゴンベビーの一人称ですが、漫画版では当初「ぽく」でしたが、途中から「おいら」に統一されているので、後者を使用。
語尾は、主に「ビー」ですが、ネオブラックドラゴンが登場した後は「ピー」になっておりました。
こちらは「ビー」の方を採用。多分、「ビー」が一般的。
登場人物の名前に関して、ちょっと解説。
●翼龍 (イー・ロン)
「雷帝エール・クレル」の系統が、龍帝・翼竜だから。
●尾空白矢 (びくう はくや)
尾は「空帝ル・シエル」、空は「空帝竜騎プラチナム」、白は「白亜の竜使いアルブス」、矢は「天弓の勇者ウル」をイメージ。
拙作、『消えゆく白の群像』にはハクとクウという名の双子の姉弟が登場しますが、それも併せて意識しております。
●エドワキア・リローヴイ
エドワキアって名前、門田泰明氏の特命武装検事・黒木豹介シリーズの一つに登場する、ソ連の女スパイが同じ名前だったりします。
ほぼほぼお色気要素の為だけに登場し、作中で酷い扱いを受けた挙句、新装版では出番を数ページ分カットされるという憂き目にあった可哀そうな人。
しかし、作中の本人の台詞と、珍しく黒豹に堕とされなかったことから察するに、固い信念を持った芯の強い女性であることも窺え、とても印象に残っております。
(黒木豹介とある程度関わった女性は大抵、黒木豹介に惚れます)
黒豹シリーズで好きな登場人物を一人選べと言われたら、自分はエドワキア・ペトロフを選びますね。。
リローヴイはロシア語で、藤色の意。
紫のイメージですね。