『ゲートオープン界放!』
懐かしい、子どもの頃の記憶。
美都は小学生の時、町内会の幾つかの催しも受け持っていた環境活動のクラブに参加していた。
山の麓にある、廃品回収の施設のすぐ傍。皆が集めた空き缶を潰す機械と真夏の日差しによる熱気、流れる汗と喉の渇きの感覚が入り混じり、口内では微かな塩の味がした。
地面には砂利が敷き詰められていたが、所々から生えている野草の白や桃色の花が、記憶の中の情景に色を添えている。
「そうだね、わたしと美都が……単に同じ学校の生徒である以上の仲になったのもその頃……」
「え……」
美都の思い出していた光景を、萌架が言い当てたことで、美都は驚いた。
「でも、未来へ向けて創られていく世界は、記憶の中だけには収まりきらない……さあ、イメージしてみて」
途端に、美都の周りに広大な蒼穹の世界が広がっていった。今の美都では直接感じることのできる筈もなかった、大自然の中の花と草の匂い。美都は、圧倒的な迫力で迫って来る世界に戸惑いながらも、解放感を味わっていた。
「萌架先輩、あなたも……」
二人は同じ緑の世界の光景を見て、同じ風を感じている。それは、美都がいつも小夜と共有しているものに酷似していた。
不思議なことであったが、今まで観てきた世界も、自分と小夜だけのものではないのだろう。美都はそのことに思い至ると、萌架と同じ世界を共有できるという歓喜を覚えていた。
「さあ、始めよう、美都。わたしからいくよ」
美都は「はい」と答え、小さく頷いた。
☆第1ターン。
蒼樹萌架のターン。
各ステップを踏み、萌架は最初のメインステップに移行した。
「未来への希望が失われなければ、夢も途絶えることない。新しく生まれる世界には、これまでにはない、新たな活力が生み出されるの。……わたしは樹魔の創界石を配置」
空間に緑の粒子が集約し、碧緑のエメラルドが現出した。それと同時に、エメラルドの左右から蒼穹を割る勢いで複数の木が生え、背の高い樹木が早送りの映像のように次々とそそり立っていき、小さな林が形成された。
「創界石のカード……」
美都は、エメラルドの輝きの中に底知れぬ緑の宇宙が広がっているように感じられた。
「創界石は人の想いを集め、新たな世界創造の礎となるもの。樹魔の創界石によって生み出される緑はわたしの理想とする、星の生命が存続していく地球そのもの。……美都、あなたにも見えているのなら、あなたの望みでもあるの……かな?」
「はい……わたしが、先輩に惹かれていったのも、やっぱり、萌架先輩が緑を愛する人だったから……そう思います」
「ふふ、嬉しいよ、美都。……じゃ、わたしはこれでターンエンド。次はあなたの番ね、美都」
【萌架:ライフ5。リザーブにソウルコア。トラッシュに3コア。「樹魔の創界石」に0コア。手札4枚】
☆第2ターン。
狩野美都のターン。
「わたしはワンコマを召喚」
美都のソウルコアが飛び上がり、そのコアを中心とし、帷子を身に着けた白い狛犬の姿のスピリットが出現した。召喚されたスピリット――ワンコマは、背中に生えている小悪魔のような小さな翼をパタパタと動かしながら、蒼穹の世界に降り立つ。
「さらに……手札のバインドエッジをセット」
美都が新たに場に出したのは、ミラージュ効果を持つ緑のマジックカード、バインドエッジ。光の球体が宙に浮かび上がり、周囲の空間を捻じ曲げていく。
ワンコマは馴染みの無い世界に戸惑っている仕草をしていたが、やがて心地よい緑の匂いに魅了されたらしく、元気よく駆け回り始めた。
美都はアタックはせず、そのままターンを終了した。
【美都:ライフ5。リザーブに0コア。トラッシュに4コア。「ワンコマ」にソウルコア。ミラージュは「バインドエッジ」。手札3枚】
☆第3ターン。
蒼樹萌架のターン。
「世界創造を導く、緑の妖精。パイオニア、樹精ハッパをLv2で召喚!」
樹魔の創界石の左右に生えている樹々から緑の燐光が放たれ、萌架のソウルコアに吸収されていく。やがて、葉っぱのドレスを身に着けた少女の姿が現れた。
少女は花の付いた日よけ帽子を人形のような小さな手で整え、黄色い瞳を萌架の方へ向けると、にっこりと微笑んで見せた。
「樹精ハッパの召喚時効果、デッキの上から3枚をオープンし、起幻を持つ緑のカード1枚を手札に……さらに、Lv2で召喚されたハッパは、追加で緑の転醒カードも加える」
オープンされたカードは、命の果実‐原種‐、パイオニア 樹精ハッパ、陸帝フォン・ダシオン。2枚目の樹精ハッパと緑の転醒カードである命の果実‐原種‐が萌架の手札に加えられ、陸帝フォン・ダシオンは破棄された。
破棄されたそのカードに、美都は見覚えがあった。
(あ……先輩のフォン・ダシオン)
昔から萌架が好んで使う、萌架のデッキの象徴と呼んでも差し支えない緑のドラゴン、陸帝フォン・ダシオン。美都はフォン・ダシオンに、かつての萌架とのバトスピの対戦の記憶を想起させられた。
「コスト3以上の樹魔を持つスピリットが召喚されたことで、樹魔の創界石の【解封】を発揮。創界石に1つ目のコアを置くよ」
ハッパが人形のような小さな両手をパンパンと打ち鳴らし、その手を創界石の方へ差し伸べた。掌から表れた緑の輝きが、弧を描きながら創界石へと飛んでいく。
(樹魔の創界石は創界神と同じようにコアが置かれていき、規定数に達した時、転醒する……)
美都は創界石を使ったことはなく、創界石の使用者との対戦の経験も今までなかったが、知識としてはある程度知っていた。自分のデッキを象徴するもう一つの龍――今は封印しているが、今後使う機会があれば、必要となるかもしれなかったから。
「そして、わたしはアタックステップに入る……」
萌架がそう口にした時、美都は透かさず宣言する。
「この瞬間、セットしているバインドエッジの効果を発揮。コスト4以下の萌架先輩のスピリット……ハッパを重疲労!」
美都のフィールドにある緑光の球体からプラズマのような波動が放たれ、ハッパを襲う。ハッパがくりくりっとした瞳をパッチリと見開き、両手両足をバタつかせて抵抗したが、プラズマ状の波動がハッパの周囲に落ち、そこから伸びた蔓がハッパの全身を絡めとった。
身動きのできなくなったハッパは、むすっとした顔で美都の方を睨んだ。
「……そうくると思ったぁ」
萌架は小さくため息をつくと、傍で不貞腐れているハッパを宥めるように撫でてやり、そのままターンを終了した。
【萌架:ライフ5。リザーブに0コア。トラッシュに3コア。「パイオニア 樹精ハッパ」(重疲労状態)ソウルコアと1コア。「樹魔の創界石」に1コア。手札6枚】
☆第4ターン。
狩野美都のターン。
美都はメインステップに入るなり、バーストをセットした。緑色の球体として顕現し続けているバインドエッジの下に、裏向きのカードが追加される。
「戯狩たちの住まう空の楽園……彷徨う無重力島をLv2で配置」
草原に大きな影がかかる。上空に出現した、浮遊する無重力島がゆっくりと降下してきた。
「アタックステップ。ワンコマ、アタック!」
出番が回ってきたことでやる気を出したワンコマが、小柄な体格を目一杯大きく見せようとしながら吼え、萌架のフィールドへ向かって駆けだした。
「戯狩を持つワンコマがアタックで疲労したことにより、彷徨う無重力島の効果で1枚ドロー。さらに、無重力島のLv2の効果で、ワンコマは【聖命】の効果を得る」
無重力島にある泉から虹色の光が溢れ、ワンコマの方へ降り注いだ。活力を得たワンコマの全身が、金色に輝きだす。
「そのアタック、ライフで受ける」
突進したワンコマの頭突きが、萌架の前に出現したライフコアによる障壁を打ち砕いた。ライフコアは青色の燐光となって周囲に飛び散る。
「くぅ……」
萌架が一瞬怯んだが、すぐに態勢を立て直した。美都は微かな躊躇いを覚えたが、すぐにそれを振り払う。
「先輩のライフを減らしたことで、ワンコマに付与されている【聖命】を発揮」
ワンコマは金色のコアを口に咥え、美都のフィールドに戻ってきた。ワンコマが美都の目の前で止まると、口から離されたコアが浮き上がり、美都のライフへと加えられる。
美都はワンコマの頭を優しく撫でてやる。ワンコマは嬉しそうに、筆先のような尻尾を左右に振った。
「ふう、先制でライフ差を付けられちゃった、か」
萌架はそう言いながら、美都とワンコマの触れ合いを見つめていた。
美都はそのままターンを終了し、次のターンへと移行する。
【美都:ライフ6。リザーブに0コア。トラッシュに3コア。「ワンコマ」(疲労状態)にソウルコア。「彷徨う無重力島」に2コア。バーストあり。ミラージュは「バインドエッジ」。手札3枚】
☆第5ターン。
蒼樹萌架のターン。
このターンのリフレッシュステップで、重疲労していたハッパは回復し、自身を拘束していた蔦を振りほどいた。だが、まだ疲労状態からは脱しきれず、草の上にぺたんと座り込んだ。
そして、萌架はメインステップに入る。
「生命に活力を与える命の雫、命の果実‐原種‐を配置」
樹魔の創界石によって生み出された林の中に、一際大きな巨木がそそり立った。黄金色に紅葉する葉の合間には、無数の緑色の果実が実っている。
「さらに、バーストセット」
萌架は手札から一枚のカードを取り出すと、自分のフィールドに伏せた。
「その叡智は高貴なる者の証。魔石の貴婦人アイビィエッタ、Lv1で召喚!」
紫色の花びらを重ねて作ったドレスを身にまとう、草花の妖精を思わせる小柄な貴婦人の姿が現れる。貴婦人はハッパよりも一回り大きな日よけ帽子を、しなやかな指先でピンと上げると、不敵な笑みを浮かべた。
「アイビィエッタの召喚時効果。デッキを上から4枚オープンし、樹魔を持つスピリットか緑の創界石を手札に加える……」
オープンされたカードは、碧緑の竜使いグリューン、魔石の貴婦人アイビィエッタ、バインディングメロディ、陸帝フォン・ダシオン。
「陸帝フォン・ダシオンを手札に。さらに、起幻を持つ緑のスピリットの効果でオープンされたバインディングメロディも手札に加えるね」
萌架は2枚のカードを手札に加え、加えられなかった残り2枚はデッキの下に戻された。同時に、【解封】により樹魔の創界石にコアが追加される。
「先輩……わたしはこのタイミングでバーストを発動します」
美都がバインドエッジの傍にあるバーストカードを表にする。
「相手のスピリットの召喚時効果発揮により、天使ハマエルを発動! このターン、相手のスピリットすべてをBP-12000し、この効果でBP0になったスピリットすべてを破壊する」
バーストエリアから現れたのは、悠然と構える、眼鏡をかけた女性の姿。二枚の白翼の背後から、三対のパネル状の物体が広げられた。
その物体の表面に太陽光が集約され、凄まじい光量が放たれた。慌てて葉の盾を展開するハッパとアイビィエッタ。両者は青白い光の波にのまれた両者は耐え切れずに淡い燐光となって、緑の中に消えていった。
その後、彷徨う無重力島のコアを乗せることでバースト召喚された天使ハマエルが美都のフィールドに降り立った。
「天使……」
小さく呟いた萌架は、対峙するハマエルと視線を合わせる。ハマエルは胸元で両腕を組んだまま、屹然とした態度で萌架を睨み返した。
「ふう、一掃されちゃったね。……わたしはこれでターンエンド」
【萌架:ライフ4。リザーブにソウルコアと2コア。トラッシュに4コア。「命の果実‐原種‐」に0コア。「樹魔の創界石」に2コア。バーストあり。手札5枚】
☆第6ターン。
狩野美都のターン。
このターンのリフレッシュステップで、疲労していたワンコマが回復した。
「恒星を導く、文曲。北斗七星龍ジーク・アポロドラゴンを召喚」
青い羽毛を生やした翼を広げ、四足の馬のような姿をした黄色い龍が現れた。
「不足コストはハマエルをLv1に下げることで確保し、Lv1で召喚……そして、召喚時効果により、手札の暗黒の魔剣ダーク・ブレードを、コストを支払わずにジーク・アポロドラゴンに直接合体」
陽の光を受け、翻る刃。赤いマグマの明かりが揺らぎ、光を呑む漆黒の刀身が熱を帯びている。
その後、美都が効果でカードをドローしたのを見計らうと、萌架が待ったをかけた。
「美都、わたしもバーストを使わせてもらうよ。……相手の効果によって相手の手札が増えたことにより、バースト発動! 天を舞う雄姿は、王者の証。翼王クラウンイーグル!」
銀色の鎧を身に着けた鷲が巨大な両翼を羽ばたかせ、空へ舞い上がった。
「効果により、ジーク・アポロドラゴンとハマエルを重疲労!」
鷲は魔力のこめた翼で大旋風を引き起こし、美都のフィールドにいる北斗七星龍と天使ハマエルをなぎ倒した。
地に伏す、二体のスピリット。
「……これだと、ブレイヴも同時に重疲労してしまう……」
「攻め手は封じさせてもらったよ、美都」
バースト召喚されたクラウンイーグルを前にして、美都はターンエンドを宣言するしかなかった。
【美都:ライフ6。リザーブ0コア。トラッシュ4コア。「ワンコマ」にソウルコア。「暗黒の魔剣ダーク・ブレード」と合体した「北斗七星龍ジーク・アポロドラゴン」(黄/重疲労状態)に1コア。「天使ハマエル」(重疲労状態)に1コア。「彷徨う無重力島」に0コア。ミラージュは「バインドエッジ」。手札は3枚】
☆第7ターン。
蒼樹萌架のターン。
「殻人を束ねる戦神の記憶。アレス・パストをLv1で召喚!」
萌架のすぐ傍で一陣の疾風が起こり、緑の鎧と兜で武装した少年の姿が現れた。小柄な体格であったが、引き締まった身体は日頃から欠かさずに鍛錬を続けてきた少年の日常を物語っている。その左手には、赤い刃を備えた双槍が携えてあり、これから実戦に赴く時であるかのような決意が、見る者に伝わってくる。
「クラウンイーグルのLvを下げ、コアを2個置くね。……さらに、手札の風王銃ベヒーエグゾーストをアレス・パストに直接合体!」
アレス・パストの傍に疾走する獣の姿が出現し、それは一瞬で大口径の銃へと変じた。先端の獣の牙を備えた風王銃はアレス・パストの右腕に装着される。
萌架はアタックステップへと移行し、攻めに転じる。
「アレス・パストでアタック! アタック時、ワンコマを重疲労させることで、ボイドからコア1個をこのスピリットに置く」
アレス・パストが手にした双槍を大車輪の如く回転させると、身構えるワンコマを旋風が直撃し、打ち倒した。
「これで、アレス・パストはLv2。さらに、疲労状態の相手のスピリット2体につき、ベヒーエグゾーストの効果でシンボルを追加する。美都、あなたのフィールドには重疲労している3体のスピリットがいる。よって、アレス・パストにシンボルを一つ追加」
銃口が美都へと向けられる。美都は思わず冷や汗をかいていた。
(これで、アレス・パストのシンボルは3つ……まだ、わたしのライフは6つあるから、耐えられない攻撃じゃない)
「美都、まだあるよ。ワンコマの疲労に呼応し、命の果実‐原種‐を命の果実の精ドライアッドへと転醒させる!」
黄金色の葉を展開している大樹から、一つの果実が零れ落ちた。地面がもこもこと盛り上がり、大樹の根が果実を包み込む。
やがて、幾重にも合わさった根に呑まれた果実が内部で緑色の光を放つと、根の集合体は人のような形へと変形していき、狼か狐を思わせる頭部を備えた樹木の精の姿になった。
新たな転醒スピリットの出現を前にして、美都は緊張する。
「命の果実の精ドライアッドの効果により、わたしの緑のスピリットがアタックしている間、美都、あなたのスピリット及び創界神ネクサスのソウルコア以外のコアは取り除けない」
神すらも絡めとるドライアッドの根が、美都のフィールドに張り巡らされていく。これにより、美都は防御用マジックなどの使用も大きく制限される形となった。
「アレス・パストのアタックは、ライフで受ける」
風王銃が緑色の弾丸を撃ち放った。中空を切る、3つの弾。それらは続けざまに美都のライフを打ち砕き、あっという間に美都の残りライフは3にまで減らされた。
「……美都、あなたのライフを減らしたことで、アレス・パストをアレス・フューチャーに転醒! 時は流れ、小さな英雄は荒ぶる戦の神へと成長を遂げる!」
アレス・パストの全身が緑光に包まれ、刹那の変わり身で戦神へと転身した。幼き時は遠い過去のものとなり、屈強な身体つきの威厳溢れる姿は別人のようでもあったが、闘志を漲らせた瞳には、内に決意を秘めていたあの少年の面影があった。
スピリットから創界神へと転醒したことで、合体していた風王銃はスピリット状態となり、疲労状態のままフィールドに残された。
そして、アレス・フューチャーの転醒によって、萌架のデッキの上から3枚がトラッシュに置かれる。置かれたカードは、バインディングメロディ、陸帝竜騎ベスピニアー、風王銃ベヒーエグゾースト。神託条件を満たすベスピニアーに呼応して、アレス・フューチャーに一つのコアが置かれた。
「転醒時、ボイドからコア2個をこのネクサスに置く」
戦神アレスが、手にした槍を天に向かってかざすと、二つのコアの輝きが円を描きながら舞い降り、アレスの傍に置かれた。
(これでアレスのコアは3つ……アタックステップ中のフラッシュタイミングで神技の使用が可能になった)
「続けて、翼王クラウンイーグルでアタック!」
飛翔する翼王の姿。
「まさか、萌架先輩はこのターンで攻めきるつもり……」
「美都……察しがいいね」
萌架が手札から一枚のカードを取り出し、宣言する。
「新緑の大地を統べし、大地の龍帝。天地の和合により、顕現せよ! 翼王クラウンイーグルに煌陸帝フォン・ダシオンを煌臨!」
翼王の鳴き声が天地に響き渡る。大地が激しく振動し、その熱量は天空をも呑み込む勢いで空間を満たしていった。
地の底から急速にせりあがってきた緑色の樹木が翼王の全身を包み込み、尚も伸びる巨木は天と地を繋げた。
その中央部分で暗緑色の渦が現出し、巨木全体が一旦形を失い、渦に呑まれていく。そして、新たに形成されていく、巨大な龍の姿。
美都はその姿に見覚えがあった。
「フォン・ダシオン……」
確かに、外見は陸帝フォン・ダシオンに酷似していたが、硬い龍の皮膚を更に覆う頑強な鎧は、陸の支配者としての威厳を高めていた。
龍帝の証ともいえる四つの翼を広げたまま、豪快な地響きと共に大地に着地する、煌陸帝フォン・ダシオン。緑のスピリットの煌臨により、ターンに一回のアレス・フューチャーの神託も発揮され、そのコアは4個となった。
煌陸帝は大きく咆哮すると、美都に向かって疾走を開始した。
シンボルが増えたことで、このまま連続でアタックをされたら美都のライフは尽きる。美都は手札のカードで防衛を試みる。
「フラッシュ、オラクルIII オーバーエンプレスを使用! コストはリザーブから支払い、命の果実の精ドライアッドの動きを封じる……」
「それはさせない。わたしは風王銃ベヒーエグゾーストに置かれている3つのコア全てをコストとして支払い、手札のリーフジャマーを破棄することで、マジックの使用を無効にする」
美都の元から放たれた金色の波動が、緑のオーラによって抑え込まれ、消え去った。コアを失った風王銃もまた、跡形もなく消滅した。
「まだ! フラッシュ、オラクルIII オーバーエンプレスを使用! リザーブだけで賄えないコストは、ワンコマのソウルコアから確保!」
再度放たれる波動。それは命の果実の精ドライアッドに向かって直進し、全身を包み込むことで、その動きを封じ込めた。
コアを失ったワンコマはうなだれると、金色の粒子となって消えていった。
「まさか、2枚目! ……ドライアッドでは縛ることのできない、ソウルコアを使ってきたのね。……これは防げない、か」
「煌陸帝フォン・ダシオンのアタックは……ライフで、受ける!」
美都の眼前で聳える煌陸帝。今朝の夢にも酷似した光景。今まさに一閃されようとする剛腕に、美都はあの時の恐怖の感情を呼び起こされていた。
(フォン・ダシオン! ……加減しなさい)
萌架の意志が龍の脳裏に響く。龍は了承の意を行動で以て示す。
振るわれた剛腕は、美都の眼前に出現したライフコアの障壁を打ち払った。砕けたコアの残滓が空中に散っていく。
「う……」
この一撃で、美都の残りライフは1つとなった。
萌架はやれやれといった様子で両手を広げて見せた。
「攻め手を挫かれちゃったか。……ターンエンドね」
【萌架:ライフ4。カウント2。リザーブに0コア。トラッシュに7コアとソウルコア。「命の果実の精ドライアッド」に1コア。「煌陸帝フォン・ダシオン」(疲労状態)に1コア。「樹魔の創界石」に2コア。「アレス・フューチャー」に4コア。手札は3枚】
☆第8ターン。
狩野美都のターン。
リフレッシュステップに入ると、北斗七星龍とハマエルが回復したが、未だ、疲労状態からは脱しきれない。
メインステップ。美都はこのターンにドローしたカードを見つめていた。
(あなたが来てくれた……でも、あなたの舞台は整っていないの……ごめんね)
緑の世界に揺蕩う、金色の風。豊穣の匂いを敏感に感じ取った萌架が、美都の方に暖かなまなざしを送った。
(あの人も見ている……憧れの先輩と一緒の世界、あなたも力を貸して)
迷いを振り払った美都は、そのカードの召喚を宣言する。
「この世界に、新たな恵みと繁栄を! オラクル二十一柱 III ジ・エンプレスを召喚!」
草原をかき分けるようにして、豊かな黄金の実りが立ち並び、豊穣の至る所から、眩い光が中空へと浮かび上がっていく。
その黄金の忠臣に、先端に惑星のような球体をつけた錫杖を手にしている、高貴な印象を人へ与える地母神の姿があった。
地母神が錫杖で大地を軽くつくと、地面の中から淡い光の雫が沸き上がった。
「オラクル二十一柱の一柱。……この世界では、初めてお目にかかる、ね」
緑を愛する萌架は、正位置においては豊穣の化身であるジ・エンプレスに向かって、恭しく頭を垂れて見せた。
「ジ・エンプレスの召喚時効果を発揮。自分のデッキの上から3枚を破棄し、その後、トラッシュにあるミラージュ効果を持つマジック、または占征を持つ、緑一色及び黄一色のカードを、合計2枚手札に加える」
破棄されたカードはREVIVALと刻印されたマジカルドロー、天使レミリエル、麒麟星獣リーン。
その後、美都はトラッシュにあるオラクルIIIオーバーエンプレスとマジカルドローを手札に加えた。
「続けて、マジック、マジカルドローを使用。デッキから1枚ドロー。さらに、デッキを上から4枚オープンし、その中のミラージュ効果を持つカード1枚を手札に加える」
美都はカードをドローしたあと、デッキのカードをオープンする。オープンされたのは、北斗七星龍ジーク・アポロドラゴン、天使ハマエル、ワンコマ、オラクルIIIオーバーエンプレス。美都はオラクルIIIオーバーエンプレスを手札に加え、残りのカードはデッキの下に戻した。
(続けて引いたのは、このカード)
美都は、マジカルドローで手札に加えたスピリットを見つめながら、今朝の夢の情景を思い返していた。やがて、小さく頷くと、そのスピリットを召喚する。
「お願い、わたしのソウルコアを使って、わたしを護って。星馬コルットをLv1で召喚! 不足コストは天使ハマエルから確保」
コアを失い消滅するハマエル。ハマエルは諦念の表情でため息をつき、消えていった。
代わりに現れたのは子馬の姿をした星馬コルット。コルットは美都の前に立ち、萌架のフィールドを見据えながら嘶きをあげた。小さな翼と、ふわふわとしたたてがみが風に震える。
「回復状態のコルットは相手の効果を受けない……わたしはこのままターンを終了」
【美都:ライフ1。リザーブに3コア。トラッシュに6コア。「星馬コルット」(リバイバル)にソウルコア。「暗黒の魔剣ダーク・ブレード」と合体した「北斗七星龍ジーク・アポロドラゴン」(黄/疲労状態)に1コア。「オラクル二十一柱 III ジ・エンプレス」に1コア。「彷徨う無重力島」に0コア。ミラージュは「バインドエッジ」。手札は3枚】
☆第9ターン。
蒼樹萌架のターン。
このターンのリフレッシュステップで煌陸帝フォン・ダシオンは回復し、龍の眼に闘志の色を宿した。
「世界を創造する礎となれ、2枚目の樹魔の創界石を配置!」
既に配置されている創界石の横に、同じ形状の創界石が出現した。創造される樹々はその数を増し、大きな森が生み出されていく勢いであった。
「緑の導き手よ、もう一度。パイオニア、樹精ハッパをLv2で召喚」
再度召喚された、ハッパ。両足を前に出して元気よく飛び出し、地面の上に着地する。再びフィールドに舞い戻ってきたハッパは、得意げに、その場でくるりと一回転して見せた。
「ハッパの緑は、二つの創界石とアレスに新緑の力を与える……」
2つの【解封】と1つの【神託】が同時に発揮され、石とアレスに深い緑の輝きが宿った。
「そして、ハッパの召喚時効果も発揮!」
両手をパンパンと打ち鳴らし、天を仰ぐハッパ。萌架がデッキからオープンしたカードは、煌陸帝フォン・ダシオン、パイオニア 樹精ハッパ、バインディングメロディ。
萌架は3枚目のハッパと、緑の起幻に呼応したバインディングメロディを手札に加え、煌陸帝フォン・ダシオンを破棄した。
「三度、ハッパを召喚! 不足コストは召喚されているハッパから確保!」
場に出ているハッパがコアを失い、消滅する。ハッパは消えながら、さよならの手を振り続けた。
入れ替わりに新しいハッパが召喚され、踊りながらフィールドに戻って来る。消滅と誕生のイリュージョンに、美都も目を奪われていた。
ハッパの効果が発揮され、オープンされたのは碧力の竜使いグリューン、碧力の竜使いグリューン、樹魔の創界石。
「あら、グリューン……あなた、みんな落ちちゃったの」
萌架は少し残念そうに呟き、樹魔の創界石を手札に加えて、2枚のグリューンを破棄した。
「そして、この時の【解封】により、今、一つの創生の化身が顕現する。コアが4つとなった樹魔の創界石を転醒!」
創界石の中心を担うエメラルドが膨張していく。それは緑色の巨人へと変形し、それまで創界石によって生み出されていた樹々が、巨人の全身を補強するようにして取り込まれていった。
「樹木の巨神……」
それが、美都の率直な印象であった。
現れたのは、緑の異魔神ブレイヴ、樹魔神。異魔神特有の後光の如き形状の物体は、さながら大樹で作ったリースといった様相を呈していた。
「樹魔神の転醒時効果。ボイドからコア2個を樹魔を持つスピリットに置く。……命の果実の精ドライアッドにコアを追加」
樹魔神の両手がかっと開かれた。左右の掌からそれぞれコアが生み出され、樹魔神と同様に内部に緑の輝きを秘めた樹木の精であるドライアッドへと送られる。
これにより、ドライアッドのLvは2となる。
「そして……樹魔神の左右に、それぞれ煌陸帝フォン・ダシオン、ハッパを合体!」
樹魔神の両腕がメキメキと音を立てながら伸びていき、煌陸帝とハッパの背後に回され、両者へ起幻の力を与える。
「そっか、先輩はバインドエッジの効果を回避するために、片方のハッパを消滅させた……」
「そうだよ、美都。さらに、煌陸帝フォン・ダシオンにコアを1つ追加し……アタックステップ。ハッパでアタック!」
ハッパが「はいっ!」と掛け声を上げると、緑の絨毯のような原っぱを駆けだした。
「樹魔を持つハッパのアタック時、樹魔の創界石の効果でボイドからコア1個を自分のスピリットに置く。煌陸帝フォン・ダシオンのコアを増やし、Lvを2に!」
樹魔神の後方にある樹魔の創界石から活力を送られ、煌陸帝がその力を増す。
「ドライアッドの効果により、わたしのスピリットがBPを比べてあなたのスピリットを破壊した時、あなたのライフに貫通ダメージを与える。……さあ、美都、どうくる……?」
「……そのアタックは、星馬コルットでブロック。コルット、お願い!」
コルットが頭部を突き出し、ハッパの突進を受け止める。ハッパはむっとした顔になり、残像を描くほどの速さで拳を打ち出した。
「マジック、アルテミックシールドを使用! コストはリザーブと、コルットのソウルコアで確保……このバトルが終了した時、アタックステップを終了する!」
ドライアッドの影響を受けないソウルコア。それによって維持されていたコルットは消滅し、戦っていたハッパの小さな拳が空を切った。
白色の障壁が辺り一面を覆いつくし、萌架のスピリットの進軍を抑え込む。攻めることのできなくなった萌架はふうっと息をついた。
「よく防いだね、美都。……わたしはターンエンド」
ターン終了の宣言と共に、障壁が取り払われ、蒼穹と豊穣の世界が蘇っていく。美都のライフは1つのまま。戦いは終局へ近づいていた。
【萌架:ライフ4。カウント3。リザーブにソウルコア。トラッシュに5コア。「樹魔神」と左合体している「煌陸帝フォン・ダシオン」に3コア、「樹魔神」と右合体している「パイオニア 樹精ハッパ」に2コア。「命の果実の精ドライアッド」に3コア。「樹魔の創界石」に2コア。「アレス・フューチャー」に5コア。手札は5枚】
☆第10ターン。
狩野美都のターン。
(わたしの手札2枚の内容は萌架先輩に知られている……そして、頼みのコルットは居なくなってしまった。このドロー次第で、わたしの負けが確定するかも……)
美都の今の手札は2枚のオラクルIIIオーバーエンプレス。片方はジ・エンプレスの効果、もう片方はマジカルドローの効果で手札に加えたカードであり、それらが美都の防御の要であることは萌架に筒抜けであった。
ドローステップ。意を決し、明暗を分けるカードをドローする美都。美都はドローしたそのカードの表面を見て、思わず息をのんだ。
(ヴィーナ・フェーザー……)
美都の心の拠り所とも言える、金星神龍ヴィーナ・フェーザー。無限の生命力を司る存在であるからこそ、病弱な美都はその龍に惹かれていったのかもしれない。
美都はメインステップを宣言する。先のリフレッシュステップで合体している北斗七星龍ジーク・アポロドラゴンは既に回復し、臨戦態勢に入っていた。
「命煌く金色の翼。生命の輝きをその身に受け、羽ばたけ! 金星神龍ヴィーナ・フェーザー!」
天に煌く星々。それらが一点に集約され、六枚の翼を備えた金色の龍へと姿を変える。
「ヴィーナ・フェーザーの効果。トラッシュのシンボルで軽減シンボルすべてを満たし、Lv3で召喚」
舞い降りた金星神龍の輝きに勇気づけられた美都は、自然と元気を取り戻しつつあった。その様子を眺める萌架が優しく微笑んだ。
「遂に現れたね、あなたのドラゴンが」
「はい、萌架先輩。わたしにとって、ヴィーナ・フェーザーは最も信頼するスピリット……このターン、攻めに行きます!」
美都は北斗七星龍の手にしている暗黒の魔剣ダーク・ブレードを見やる。北斗七星龍の回復により、その剣も回復状態に戻っていた。
「ジーク・アポロドラゴンに合体しているダーク・ブレードを分離し、ヴィーナ・フェーザーに合体!」
北斗七星龍は魔剣を手放し、美都の望みと共に金星神龍へと託す。魔剣を受け取った金星神龍は咆哮し、手にした魔剣に己の魔力を送り込んだ。
「アタックステップ。暗黒の魔剣ダーク・ブレードの効果を使い、合体している金星神龍ヴィーナ・フェーザーで命の果実の精ドライアッドを指定してアタック!」
六枚の翼を羽ばたかせ、天を駆ける金星神龍。攻め込まれたドライアッドは両手から黄緑色の障壁を作り出し、これを迎撃しようと試みる。
「ヴィーナ・フェーザーがブロックされた時、ヴィーナ・フェーザーのシンボル1つにつき、わたしのライフを回復。ヴィーナ・フェーザーのシンボルは2つ……よって、ボイドからコア2個をわたしのライフに」
振り上げられた金星神龍の左腕から二つのコアの輝きが浮かび上がり、それは美都のライフへと運ばれていった。
「さらに、戯狩を持つヴィーナ・フェーザーが疲労したことにより、彷徨う無重力島の効果で1枚ドロー」
新たなカードが美都の手札に加えられる。
金星神龍とドライアッドが衝突し、両者の戦闘が開始される。合体している金星神龍に対し、ドライアッドの方が不利と思われたが……。
「美都、登場してすぐに悪いけど、ドライアッドは破壊させない。アレス・フューチャーの神技を発揮! この創界神ネクサスのコア2個をボイドに置き、疲労状態になっている金星神龍ヴィーナ・フェーザーを手札に戻す!」
「あ……アレス」
アレスが手にした双槍を、金星神龍に向かって投げつけた。間一髪のところでかわした金星神龍であったが、地面に突き刺さった双槍から凄まじい緑色の雷撃が放たれ、これに撃たれた金星神龍の全身が星の粒子となって分解され、美都の手札へと戻っていった。
美都は暗黒の魔剣ダーク・ブレードをフィールドに残さない選択をしたため、魔剣もまた、金星神龍と共に手札へ戻される。
「これ以上は攻められない……ターンを終了します」
美都は脱力感を覚えていた。
【美都:ライフ3。リザーブに9コア。トラッシュに2コア。「北斗七星龍ジーク・アポロドラゴン」(黄)にソウルコア。「オラクル二十一柱 III ジ・エンプレス」に1コア。「彷徨う無重力島」に0コア。ミラージュは「バインドエッジ」。手札は5枚】
☆第11ターン。
萌架のターン。
このターンのリフレッシュステップで、ハッパとドライアッドが回復。両者は再び、緑から得られる活力に満ち始めていた。
「メインステップ……わたしは、樹魔神と合体している2体のスピリットを分離させる」
樹魔神が手を引っ込める。異魔神からの力の供給を絶たれたハッパと煌陸帝フォン・ダシオンが一瞬、勢いを落とした。
「え……ど、どうして」
美都は萌架の行動に困惑していた。この状況で分離する意味があるとすれば、一体何が――。
「美都、これは布石。あなたにとっての最高のドラゴンを見せて貰ったのだから、わたしもそれに応えないと、ね。……私はリザーブのコアを1つ、樹魔神に置く」
「維持コストが0の異魔神ブレイヴにコアを……あ、まさか」
美都はようやく、萌架の行動の意味を悟った。
「その瞳は万物を見通す緑眼。虚空の使者にして大樹の化身、陸帝フォン・ダシオンを【転召】!」
樹魔神の足元から新たな植物の芽が生えだし、それは瞬く間に樹魔神に勝るとも劣らない巨木へと変じた。その巨木には葉こそないが、全体が深緑の色彩を備えており、途方もない生命力を秘めていた。
樹魔神が両手で一つのコアを差し出すと、それを吸収した巨木が姿を変え、一体の巨大な龍となる。
「陸帝フォン・ダシオン。萌架先輩のドラゴン……」
「ふふ。もう煌陸帝フォン・ダシオンが場に出ているけどね。わたしとしては、ようやく旧知のパートナーを召喚できたってところかな」
陸帝フォン・ダシオンの召喚はフィールドに更なる影響を及ぼし、樹魔の創界石とアレス・フューチャーにコアが追加された。
「さあ、ここから攻めさせてもらうよ、美都。再度、樹魔神の左右に煌陸帝フォン・ダシオンとハッパを合体!」
再び樹魔神から送られてきた活力で奮い立つ煌陸帝と、はしゃぎ出すハッパ。
「アタックステップ。ハッパでアタック。アタック時、樹魔の創界石の効果でハッパにコアを追加!」
勢いを増す、緑のパイオニア。美都は透かさず、手札のマジックカードを使用する。
「オラクルIII オーバーエンプレス! このターン、煌陸帝フォン・ダシオンのアタックを封じる」
連なる黄金の波動に絡めとられ、動きを封じられる煌陸帝。
「ジ・エンプレス、お願い!」
ハッパに前に立ちはだかる、豊穣の化身。錫杖を振るい、攻めるハッパを打ち払おうとしたが、樹魔神から力を与えられているハッパの方が戦闘力においては勝っていた。
ハッパの残像連続チョップで錫杖を弾き飛ばされ、なすすべのなくなったジ・エンプレスは、ハッパの渾身の体当たりをその身に受け、宙を舞いながら消えていった。
ジ・エンプレスが破壊されたことでドライアッドの効果が発揮される。ドライアッドがハッパに向かって両手をかざすと、蒼穹の世界の中に、更に濃い緑のレールが引かれる。その上をハッパの分身が駆けだし、美都のライフコアに衝突。相殺した。
これで、美都の残りライフは2となる。
「陸帝フォン・ダシオン、アタック! 樹魔の創界石の効果で煌陸帝フォン・ダシオンにコアを追加。これで、煌陸帝のLvも3となる」
猛る緑の龍帝。高質化した四枚の翼を使って風を切り、猪突猛進の勢いで大地を疾走した。陸の王者として蹂躙する龍帝は、陸に吹く風をも支配する。
「ジーク・アポロドラゴン、わたしを護って!」
美都のソウルコアを宿した北斗七星龍が、陸帝の侵攻を食い止める。三日月のように反り返った鋼の角で以て陸帝を抑え込もうとしたが、相手の剛力は凄まじく、北斗七星龍の方が押されていた。
「マジック、オラクルIIIオーバーエンプレス! コストはリザーブとジーク・アポロドラゴンのソウルコアを使用。命の果実の精ドライアッドのアタックを封じる」
陸帝の角が空を切る。コアを失い、北斗七星龍が消滅していった。そこから溢れ出た燐光がオーバーエンプレスの輝きと合わさり、陸帝の後方にいるドライアッドの全身にとりつき、動きを封じ込めた。
「これでアタッカーは無し、か。ターン終了ね」
【萌架:ライフ4。リザーブに0コア。トラッシュに3コア。「陸帝フォン・ダシオン」(疲労状態)にソウルコアと3コア。「樹魔神」と左合体している「煌陸帝フォン・ダシオン」に5コア、「樹魔神」と右合体している「パイオニア 樹精ハッパ」に2コア。「命の果実の精ドライアッド」(疲労状態)に3コア。「樹魔の創界石」に3コア。「アレス・フューチャー」に4コア。手札は5枚】
☆第12ターン。
狩野美都のターン。
「親愛なる月の友、わたしの星に力を! 創界神ネクサス、月光のバローネを配置」
角の装飾を身に着けた、金髪の青年の姿が現れる。その人物が手を掲げると、上空に暗闇が広がり、その中で光を反射する白い満月が浮かび上がった。
月光のバローネの配置時に美都のデッキからトラッシュに置かれたカードは、暗黒の魔剣ダーク・ブレード、REVIVALの星馬コルット、麒麟星獣リーン。神託条件を満たすカードは2枚のため、ボイドからコア2個が月光のバローネに置かれた。
「今一度……輝き、羽ばたけ、命の担い手。金星神龍ヴィーナ・フェーザーをLv3で召喚!」
星の煌きが空間に満ちていき、金星神龍が顕現する。金星神龍が両手を掲げると、蓄えられた魔力が放たれ、月光のバローネへと送り届けられた。
「さらに、暗黒の魔剣ダーク・ブレードをヴィーナ・フェーザーに直接合体!」
赤き炎の塊が飛来し、金星神龍がそれを受け止める。炎は魔剣へと変じ、そのまま金星神龍の手に握られた。
魔剣から別れ出た火炎が月光のバローネの真上で渦を巻き、新たなコアとなる。これで、月光のバローネのコアは4つ。
そして、美都はアタックステップを宣言した。剣を構え、攻め込む態勢に入る金星神龍。
「ヴィーナ・フェーザーで命の果実の精ドライアッドを指定してアタック!」
六枚の翼を広げ、突進する金星神龍。ドライアッドは地面から無数の根を突き出し、金星神龍の進撃を食い止めようとしたが、魔力を込めた魔剣が振るわれ、それらは容易く薙ぎ払われた。
再び激突する金星神龍とドライアッド。
金星神龍から溢れ出す生命の息吹は美都のライフを増やし、それに呼応するかのように輝きだす彷徨う無重力島の効果により、美都はデッキからカードをドローした。
「この瞬間、月光のバローネの効果により、ヴィーナ・フェーザーを回復!」
天に浮かぶ満月から白色の閃光が落ち、月光のバローネがそれを受け取る。その手元に集まった光体が、さらに金星神龍へと送られ、金星神龍の全身が更なる活力で満たされていった。
「これは……わたしがフラッシュを宣言する前に回復することでアレス・フューチャーの神技をかわし、連続アタックでライフを一気に増やす……それがあなたの狙いね」
「はい、先輩。……今のわたしに出来る本気です」
萌架は自分が従えるドライアッドと鍔迫り合いを繰り広げる金星神龍を見つめる。
「美しい龍。流石は愛と美の女神の名を冠する金星の化身ね。……でも」
萌架は美都へと視線を移した。一瞬、美都は背筋を冷たいものが奔るような感覚に襲われた。まるで心の底までを見透かされているような……。
「美都。あなたの心には陰りが見える……星の体現者たる金星神龍は純粋な存在。故に、あなたの心の光と闇が直に反映される……」
「…………」
萌架の真意が判らず、戸惑う美都。
「……美都、わたしはこのカードを使わせてもらうよ」
萌架が掲げるのは、緑のスピリットカード。そこに描かれているのは、武者の鎧を身にまとい、左手に大剣を握る甲殻の武士。
「百のつわものを束ね、万物を風化へ導く者。闇輝石六将、百刀武神ゴクマザンを陸帝フォン・ダシオンに煌臨!」
陸帝が全身を震わせながら、凄まじい咆哮を轟かせた。天地が鳴動し、陸帝の頭上の空間に亀裂が奔る。その亀裂の向こう側の次元から、銀の一閃が煌き、一気に次元が切り裂かれた。
陸帝が碧緑の粒子となって宙を舞い、渦を巻きながら、次元の穴へと飲み込まれていった。そして、渦の中央で真紅の眼光が揺らめく。陸帝の力を吸収して実体化した、闇輝石六将の一角。
百刀武神ゴクマザンはフィールドに降り立つと、手にした大剣を振り上げた。それと同時に金星神龍に向かって荒れ狂う暴風が吹き荒れ、それは美都のフィールド全体を覆いつくした。
「わたしのフィールドとトラッシュには5枚以上のカードが存在し、それらはすべて緑のカード。よって、ゴクマザンの【闇奥義・地獄】を発揮。美都、あなたのターン、あなたのスピリットすべては回復できず、コアを0個にすることはできない」
ゴクマザンの闇の力は月光のバローネと共に現れた満月をも黒く染めあげ、金星神龍の星の輝きも急速に薄れていった。
その闇を振り払う勢いで、金星神龍は魔剣を振るい、ドライアッドを切り裂いた。ドライアッドは緑の燐光となって消えていったが、金星神龍の全身を侵食する闇を押しとどめることは敵わなかった。
その状況を前にして、美都は焦った。
(既に回復している金星神龍はもう一度アタックしてライフも増やせる……けど、そうしたらアレス・フューチャーが……)
ゴクマザンの煌臨によって神託を発揮したアレス・フューチャー。そのコアの数は5つ。つまり、合計二回まで、疲労状態のスピリットを手札に戻す効果が使えるということ。
美都は改めて金星神龍を見た。
「闇が……」
闇に浸食されていく金星神龍。虚ろな視線。美都の脳裏に、闇に落ちた、堕天神龍の姿がよぎった。
「……わたしは、これで……ターンエンドです」
美都は力なく肩を落とした。
【美都:ライフ4。リザーブに2コア。トラッシュに8コア。「暗黒の魔剣ダーク・ブレード」と合体した「金星神龍ヴィーナ・フェーザー」に3コアとソウルコア。「彷徨う無重力島」に0コア。「月光のバローネ」に4コア。ミラージュは「バインドエッジ」。手札は2枚】
☆第13ターン。
蒼樹萌架のターン。
リフレッシュステップに入ると、疲労していたハッパとゴクマザンが回復状態となった。ハッパは「ふんふん」と言いながら小さく踏ん張って見せ、ゴクマザンは黙したまま静かに剣を構えた。
そして、メインステップ。
盤面上では美都の方が圧倒的に不利と見えたが、美都はまだ、この勝負を諦めてはいなかった。月光のバローネにはコアが4つ置かれ、回復状態のヴィーナ・フェーザーがブロッカーとして残っている。そして、美都のターンの終了と共にゴクマザンの闇の力は遠のいていた。
「ゴクマザンの【闇奥義・地獄】は相手のターンにのみ発揮される。美都、あなたはそのことをわかっていて、月光のバローネの神技とヴィーナ・フェーザーの破壊耐性でしのぎ切るつもり、ね」
「…………」
美都は押し黙っていた。当然、萌架もこちらの状況を熟知しているのだ。
「……わたしはマジック、グラウンドハウリングを使用!」
煌陸帝フォン・ダシオンに緑の力が集約される。美都は、煌陸帝に、ゴクマザンの煌臨元となっている陸帝フォン・ダシオンの姿を垣間見た。
(シンボル2つ以上を持つスピリットの存在を使用条件とする、龍帝のマジック……)
「陸帝の咆哮は、より力ある者すらも凌駕する。BP4000以上の相手のスピリット……ヴィーナ・フェーザーを疲労させる!」
煌陸帝フォン・ダシオンの咢から、けたたましい不協和音が響いた。美都と萌架、両者の間に広がる世界全体が震え出し、碧緑のオーラが空間に浸透していく。
それまで漲っていた力が急速に失われていき、脱力した金星神龍が膝をついた。手にした魔剣で己を支えるのが精いっぱいという有様であった。
「さらに、マジック、バインディングメロディを使用!」
(あのマジックは、アイビィエッタとハッパの効果を発揮した際、手札に加えられたカード……確か、まだ2枚あったはず)
「バインディングメロディの効果で、疲労状態のヴィーナ・フェーザーをデッキの下に戻す!」
マジックカードによって生成された音の波動をハッパが受け持つ。ハッパは得意げに歌唱し、この小さな歌姫の声が合わさった音波が、金星神龍の全身を絡めとった。
美都は何時の間にか、安らぎに似た感覚を覚えていた。やがて、それは金星神龍と自分の五感が共有されることによって感じられているのだと思い至る。
音に呑まれ、星の粒子となって消えていく、金星神龍。後には、使い手を失った魔剣のみが取り残された。
勝敗が決定的となった瞬間であったが、美都は何故か清々しい気持ちになっていた。
「美都……ここから攻めさせてもらうよ」
「……はい、萌架先輩」
萌架がアタックステップの開始を宣言する。
「煌陸帝フォン・ダシオンでアタック! 樹魔の創界石の効果により、ボイドからコア1個をゴクマザンに置く」
樹魔神からの支援を受け、突進する煌陸帝。美都のフィールドには疲労状態のダーク・ブレードとネクサスしか存在せず、遮るものは何もない。
「ライフで、受ける」
煌陸帝が美都の眼前で静止する。美都はドキリとしたが、煌陸帝の瞳に宿る輝きに敬愛する先輩の面影を見出し、小さく安堵していた。
美都の前に出現するライフコアの障壁。煌陸帝は咆哮を轟かせ、ライフコアを粉々に分解させてしまった。
煌陸帝は踵を返すと、萌架の元へと駆け戻っていった。これで美都の残りライフは1つ。
「ハッパでアタック!」
ハッパもまた、合体している樹魔神の力で己の能力を高めていた。ちょこまかと左右を往復しながらフィールドを駆けるハッ。その残像が、無数に拡散していく。
「ライフで……受ける」
草を集めて作った靴を履いた足を振り上げるハッパ。そのまま勢いに乗って、美都のライフコアに向かって飛び蹴りをした。
砕け散った最後のコアが中空へと霧散していく。
「コアが……すべて、砕けて……」
それまで世界の一部を構成していた満月や星々の煌きが急速に遠のいていくのと同時に、上空では暗い雨雲が広がっていった。
美都は、草原の上に、仰向けになって倒れ込んだ。水っぽい草の匂いが鼻孔を刺激する。
「……この草の匂い。懐かしい、な」
以前にこうして自然と触れ合ったのが、今となっては遠い過去のように感じられる。
「あ、雨」
美都の頬に、ぽつぽつと水滴が当たっていた。決して不快なものではなかったが、水が入ることを避けるため、思わず目を細めてしまう。
そんな美都を、小さな影が覆う。美都が目を開けてみると、まだその場に残っていた樹精ハッパが、サトイモのものらしき葉っぱを美都の顔の上にかざしていた。
「ありがとう……」
美都から礼を言われると、ハッパは黄色い瞳を輝かせ、にっこりと笑顔を見せてくれた。
先ほどまでは戦っていたスピリットたち。しかし、競い合いが終われば、互いを支え合いながら、皆が平穏に過ごしているのだろうか。
こうして優しくしてくれるハッパや、遠くから自分を見つめている萌架や陸帝フォン・ダシオンたちの温和な様子を感じ取りながら、美都はぼんやりとそんなことを考えていた。
★来星の呟き
今回のリプレイ (活動報告へ飛びます)
リプレイ1
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=262568&uid=341911
リプレイ2
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=262569&uid=341911
リプレイ3
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=262570&uid=341911
ちょっと慣れない内容に挑戦しようと試みた結果、今回も書くのに手こずりました。。。
龍帝の使い手も一人一人しっかりキャラづけしようとしておりますが、
今回のバトルは美都との口調の使い分けの時点で苦戦してしまいましたの……。
少し言及されている堕天神龍ですが、美都は、金星神龍とは別のデッキで使用します。
実は、龍帝編的な今のシナリオが一区切りついた後は、
八星龍を主役にして見ようかなと思っておりますが、その辺はまだまだ構想不足。
(最近、水星神龍メルクリウス・サーペント&時空乱龍パラドラクスのコンビでデッキを組もうかなと模索中です……自分のネクサスを処理できる組……水星神龍は青限定だけど