バトスピ☆明けの星町は大騒ぎ   作:来星馬玲

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母たちのブライダル 中編 ~月坂麗VS狩野美香~

『ゲートオープン、界放』

 

 卓を挟んで対峙する二人の声が響いた。卓の上には美香が用意したプレイマットが置かれており、バトルを始める準備は万端である。

 

(美香とバトスピ、か。随分と久しぶりね)

 

 自分が手にしている初期手札を眺めながら、麗は過去の光景を思い出していた。

 

(聡明叡智ブレイン雪。なるほどね、このデッキにはあの子が入っているから……)

 

 麗の思考は、美香の言葉で中断される。

 

「麗、先行はあなたからね」

 

「はいはい、分かっているって……こっちは久しぶりだから。ま、お手柔らかに、ね?」

 

 そう言いながらも、麗は気持ちを切り替える。やるからには用意された札を最大限に活かし、自分なりの戦い方をやってみよう。そう思い始めていた。

 

 

 

 ☆第1ターン

 

 月坂麗のターン。

 

 麗のスタートステップの宣言と共に、対戦が開始された。

 

 そして、ドローを挟み、メインステップ。

 

「私は、黄泉ノ獣ライウンコマイヌを召喚」

 

 両者のイメージするフィールド上に迸る、二つの雷光。それらは四足の獣の姿へと変じていき、二頭のコマイヌが出現する。片方が口を開いて雷鳴を響かせ、もう片方が口を閉じたまま身にまとった稲妻を周囲に放っていた。

 

「召喚時効果。デッキからカードを1枚、ドローする」

 

 麗は右手をデッキの上に添え、一番上のカードを引き、静かにその面と顔を合わせた。

 

(あなたは……)

 

 暫しの間、麗は時間が止まってしまったかのように硬直していた。その様子を察したのか、美香は微かに悪戯っぽい笑みを浮かべている。 

 

「……このターンはこれ以上のアクションは無し。ターンエンド」

 

 

【麗:手札は5枚。ライフ5、リザーブ0、トラッシュ3 黄泉ノ獣ライウンコマイヌに1コア】

 

 

 

 ☆第2ターン。

 

 狩野美香のターン。

 

「麗、早速動かせてもらうね。……私は、ネクサス、熾天使の玉座を配置」

 

 フィールドに浮かび上がるのは、赤、緑、黄、青の四つの紋章。それらを中心とし、熾天使が御するとされる空席の玉座が現出する。

 

「配置時にデッキの上から4枚をオープン……ふふ、神世界紀行 土の熾天使ラムディエル……お出かけラムが来てくれたね」

 

 美香が手札に加えたのは、ピンク色のハンマーを手にした土の熾天使、ラムディエル。

 

「熾天使を手札に加えたことにより、玉座の更なる効果が発揮される……麗のスピリット、黄泉ノ獣ライウンコマイヌをデッキの下に戻す」

 

 玉座の一つ、黄色の紋章が一際強く輝き、ラムディエルの姿が重なる。地を割く衝撃波が走り、ライウンコマイヌを襲う。衝撃波はライウンコマイヌたちの足場を崩し、発生した地割れが二体を呑み込もうとした。

 

「美香、ライウンコマイヌにはもう一つの姿があるということ……まさか、忘れてはいないよね? ……私は、ライウンコマイヌの【転醒】を発揮!」

 

 ライウンコマイヌたちが崩壊していく地面から飛び上がり、宙返りをする。すると、瞬く間に地上が再構築されていき、そそり立つ神社が姿を現した。

 

 衝撃波が尚も神社を襲ったが、ライウンコマイヌたちが神社の左右の台座に飛び乗り、自ら石化することでその場に固定され、結界を創り出す。弾かれた衝撃波が虚空へと飲み込まれていき、消え去った。

 

「勿論、その効果は熟知しているよ。私からの贈り物、とでも思って貰って結構」

 

 くすくすと微笑む美香。麗は少し気圧されてしまう。

 

「……イザナミの黄泉神殿の【転醒】時の効果により、デッキから2枚ドロー」

 

 現在の盤面を見る限り、出だしは自分の方が優勢だ。マジックとしても扱うラムディエルを加えられたのは厄介だけど、美香はコアを使い切ってしまったし、先に動けるのはこちらの方――麗は自分の手札を眺めながら、既に次の一手を固めていた。

 

「じゃ、ターンエンド。あなたの番ね、麗」

 

 

【美香:手札は5枚。ライフ5。リザーブ0。トラッシュSと4。熾天使の玉座に0コア】

 

 

 

 ☆第3ターン

 

 月坂麗のターン。

 

「勝利と奇跡の演劇者。昏き闇の底より現れろ。輝石の竜玉使いバトレイをLv3で召喚!」

 

 葉の枯れ落ちた立木。その木陰からシルクハットをかぶった一匹のリスがひょこりと顔を出す。リスは丁寧にお辞儀をして見せると、手にしていた紫色の宝玉を放り投げた。

 

 地面に落ちた宝玉から煙が噴き出す。その紫煙の中より、竜の頭部を備えた紫色の奇術師が現れた。

 

 奇術師は背後にいるリスと同じ仕草で一礼をすると、手のひらから自分が出現する時のものと酷似した紫色の宝玉を上に投げ、そのままジャグリングを始めた。手と手を行き来する宝玉は一つ、又一つと数を増やし、紫、赤、黄の三つとなった。

 

「バトレイ、か。幸先良いわね……」

 

 美香が感心したように呟いた。

 

「アタックステップ……バトレイ、行って!」

 

 バトレイのジャグリングの回転が速まる。宝玉が闇に染まり、徐々に色彩が失われていく。バトレイは瞳を妖しく光らせると、回転を継続したままフィールドを駆けた。

 

「さらにバトレイの効果により、デッキの下から1枚ドロー」

 

 麗の手札がさらに増強される。

 

「ライフで受ける」

 

 バトレイの投げている宝玉が重なり、一際強く発光するとともにバトレイの身体が明滅する。バトレイは残像を描きながら美香に接近し、竜の爪でそのライフを切り裂いた。

 

 これで美香のライフは4となる。

 

(よし……まずは一点)

 

 麗は心の中で思わずガッツポーズをしていた。ふと、麗はその意気込みを美香に見透かされている気がして小恥ずかしくなり、わざとらしく咳ばらいをした。

 

 麗がターンエンドを宣言し、次にターンに移行する。

 

 

【麗:手札は8枚。カウント1。ライフ5、リザーブ0、トラッシュ2。輝石の竜玉使いバトレイLv3(疲労状態)にSと2コア。イザナミの黄泉神殿0コア】

 

 

 

 ☆第4ターン。

 

 狩野美香のターン。

 

「果物人キウイーバードマンをLv1で召喚」

 

 緑色の星型の発光体が溢れ、その中からぽんっと現れる、キウイフルーツで出来た身体と緑の果肉が露わになった切り身状の翼を備えた小さな鳥。鳥は美香のソウルコアを取り込み、人懐っこい瞳をキラキラと輝かせた。

 

「ふーん、可愛いじゃない、美香らしい」

 

「昔、お母さんがお弁当用に切ってくれたキウイ……ただ、それだけなのに、普通のキウイよりもずっと甘くて美味しい……そんな気がしたよね」

 

 不意に語り出した美香の話。それを聞いた麗の頭の中に、自分がまだ子供だった頃、学校の昼食時に美香と互いの弁当を見せ合った光景が浮かんだ。

 

「確かに……あのキウイは甘かったな。特に運動会の時とか」 

 

 想いが通じて嬉しいのか、美香は笑みを見せた。

 

「それに、キウイはお手軽で栄養豊富、食物繊維もたっぷり。忙しい今の麗にもぴったりじゃない?」

 

「……そうねえ……」

 

 今朝の朝食……白米と作り置きの味噌汁、バナナの切り身……だったか。小夜、あれで満足できたのかな……。

 

「そして……今の私にぴったりなパートナー。さあ、お披露目の時間」

 

 美香の掲げたカードを見た麗は、思わずつぶやく。

 

「あ……さっきの」

 

「……堕ちたる翼、万物を昏き黄昏へと誘え。堕天使ミカファール」

 

 幾重にも重なっていく、紅の光輪。黒い羽根が地に落ち、その先にある光源体から銀と漆黒で彩られた翼が羽ばたいた。

 

 キウイーバードマンがあたふたと飛び上がると、堕天使は空いた地上にゆっくりと舞い降りた。銀髪をなびかせ、憂いの籠ったな視線で他者を見つめる女性。かつては大天使と謳われたミカファールの変わり果てた姿……。

 

「もう出してくるんだ、美香のとっておき」

 

 麗はその昏くも眩いミカファールの姿に、落ちてもなお失わない気品を感じていた。

 

「堕天使ミカファールの召喚時効果を発揮。手札を任意の枚数破棄し、破棄した枚数分のカードをデッキからドローする。……わたしは2枚破棄し、2枚ドロー」

 

 美香が破棄したカードは先ほど手札に加えた神世界紀行 土の熾天使ラムディエル、それに溶岩熱線というマジックカードだった。

 

「アタックステップ。さあ、麗。さっきのお返しよ! 堕天使ミカファールでアタック」

 

 翼を広げ、飛翔する黒きミカファール。その手元に白銀色の光源が蓄えられていった。

 

「そのアタック、ライフで受けるよ」

 

 堕天使ミカファールの放った銀の光弾が矢のような形状となり、麗のライフを射抜く。これで、麗の残りライフは4となった。

 

「これで、ライフは五分と五分ね」

 

 そのまま美香はターンエンドを宣言した。

 

 

【美香:手札は4枚。ライフ4、リザーブ0、トラッシュ4。堕天使ミカファールLv2(疲労)2、果物人キウイーバードマンLv1にS。熾天使の玉座Lv1に0コア】

 

 

 

 ☆第5ターン

 

 月坂麗のターン。

 

(堕天使ミカファールか……でも、防御力自体は大したことない)

 

 先に大型スピリットを出されてしまった麗であったが、落ち着いて見ればまだ余裕が感じられる。

 

(さっきトラッシュに落としたラムディエルは、ミカファールの効果で利用するため? なら、早めに対処すべき、ね)

 

 そう……着実にタスクをこなし、的確に処理していく。わたしの今の持ち札なら容易い――麗は動いた。

 

「マジック、ヴァイオレットフィールドを使用。手札の紫のスピリットカードを破棄することでデッキから3枚ドローする。私が破棄するのは……」

 

 麗は手札にある一枚のカードに手をかけた。一瞬の躊躇。

 

「魔犬ゼロ」

 

 そのカードに描かれているスピリット……それは黒いチワワ犬の如き姿であり、小夜の大好きなチワールに似ていた。

 

「やっぱり、最初のターンのドローステップでそのカードを引いていたのね」

 

 美香の言葉に、麗はドキリとする。

 

(やっぱり悟られていたか……これも腐れ縁ね。いや……)

 

 手の内が簡単にバレているようでは今後の展開に支障をきたす、か。そう思い至った麗は気を引き締めた。

 

「美香が私にこのカードを使わせたがっているのはわかっていたよ。でも、今できる最善の策で進めさせてもらう」

 

 魔犬ゼロがトラッシュに置かれ、新たに3枚のカードが麗の手札に加わった。さらに、ヴァイオレットフィールドはフィールドに留まり、効力を発揮し続ける。

 

「ネクサス、旅団の摩天楼を配置。……これでさらに手札を増やす」

 

 暗緑色の光が溢れ、髑髏を模した彫刻の彫られた建物がそびえ立つ。配置時の効果で、麗はさらにカードを1枚ドローした。

 

 そして、アタックステップを宣言する麗。

 

「輝石の竜玉使いバトレイでアタック。バトレイの効果、このスピリットを無色として扱い、コアの数が3個以下の相手のスピリットを指定してBP+5000した上でアタックできる……堕天使ミカファールを指定!」

 

 疾走するバトレイ。投げている宝玉が一点に重なり、一際強く発光して堕天使ミカファールの視界を奪うとともにバトレイの身体が消失する。

 

 その光によって堕天使ミカファールの背後に長い影が生じる。ミカファールが咄嗟に振り返るのとほぼ同時に影からバトレイが飛び出し、硬い鱗で覆われた尻尾でミカファールを打ちつけた。中空に吹き飛ばされたミカファールはやさぐれ気味な諦念の表情を浮かべたまま、黒い光の粒子となって消え去った。

 

「BP6000の堕天使ミカファールでは、BP10000になったバトレイには敵わない……」

 

「まあね。でも、ね……ミカファールの創り出した魔導の輪廻はここから始まるのよ」

 

 美香は手札から新たな導魔のカードを取り出す。

 

「実りを約束せし大いなる地母神。魔導の誓約の元に現れよ。豊穣の女王神テスモポロス!」

 

 堕天使ミカファールがフィールドを離れたことをトリガーとして、新たに召喚されるテスモポロス。ヒツジのような角を有し、緑色の嫋やかなドレスを身にまとった女神。

 

「テスモポロスの効果、このカードを1コスト支払って召喚すると同時に相手のスピリット1体をデッキの下に戻す。バトレイ、退場しなさい」

 

 テスモポロスが手にしている杖を地面に突き立てると、立ち尽くしていたバトレイの足元が音を立てて崩れ始めた。バトレイはシルクハットを手にもってお辞儀をし、その姿勢を崩すさないまま地の底へと呑まれていった。

 

「形成逆転、かな?」

 

 少し得意そうに言う美香。だが、麗はかぶりを振る。

 

「いいえ、まだまだ想定の範囲内」

 

 実際、あのタイミングで堕天使ミカファールを出してきたということは、それなりのカウンターも用意してのことだろうと、麗は感づいていた。

 

(でも、それならこっちにも打つ手はある……)

 

 麗がターンエンドを宣言し、次のターンへと移行する。

 

 

【麗:手札は11枚。カウント1。ライフ4。リザーブSと3。トラッシュ3。旅団の摩天楼0。イザナミの黄泉神殿0。ヴァイオレットフィールドが置かれている。】

 

 

 

 ☆第6ターン

 

 狩野美香のターン。

 

「引っ込み思案のドルイド僧リルラを召喚」

 

 白い衣装を身につけ、背中から葉のついた小枝を生やした内気な少女、リルラ。栗色のおかっぱ頭が梢から差し込む陽の光を受けて、キラキラと輝いた。

 

「更に、テスモポロスとキウイーバードマンをLv2に上げ……バーストセット。そして……アタックステップ。リルラでアタック」

 

 美香の宣言で、リルラがわたわたと術式を開始する。

 

「リルラのアタック時効果、自分のデッキの上から2枚破棄することで、トラッシュのコア1個をライフに置く」 

 

 リルラが祈りを捧げると、地に眠っていたコアが浮かび上がり、美香のライフに加えられた。これで、美香のライフは5に戻る。

 

「系統:起幻の効果でライフを増やしたことにより、リルラの【転醒】を発揮! 翆玉の使者と邂逅した少女は内なる魔導に目覚め、才能を開花させる」

 

 リルラの手元に、一羽の小鳥が舞い降りた。翆色の翼を羽ばたかせ、黄金色の明かりをその身に灯す。鳥と顔を合わせたリルラが自然な笑みを浮かべた。

 

 小鳥の輝きに呼応し、リルラの翼もまたその魔力を増していく。深緑の光源がリルラの全身を包み込み、光の中から新たな力を纏ったドルイド……翆鳥の魔女リルラが現れる。

 

 翠鳥の魔女リルラの【転醒】時効果も発揮し、新たなコアがリルラに追加され、そのLvは3となった。

 

「さあ、リルラのアタックは続いているよ、麗」

 

「……美香、悪いけど、そのアタックを通したりはしないよ。私はリザーブのコア4つを支払い、手札の戦鬼ムルシエラのアクセルを使用する」

 

 頭部の左右に角を備えた甲冑に身を包み、鬼の証たる一角を生やし戦鬼ムルシエラ。戦鬼の持つ透き通った藍色の刀が一閃され、美香のフィールドを斬撃による破壊の波が襲う。

 

「ムルシエラの効果はコア3個以下の相手のスピリットすべてを破壊する。美香のスピリットのコアはすべて3以下……この破壊を逃れることはできないよ」

 

 衝撃に巻き込まれたテスモポロスとリルラが黄と緑の粒子になって消えさった。

 

「なるほど、これを狙っていたのね。でも……」

 

 ムルシエラの攻撃を受けてなお、フィールドに留まっているスピリット……キウイーバードマン。キウイーバードマンは誇らしげに果肉の両翼を広げて見せ、ふんっと威張って見せる。

 

「あ……」

 

「ソウルコアが置かれているキウイーバードマンはアタックができない代わりに、相手の効果を受けない……」 

 

「あー、そうだった」

 

 キウイ強し。

 

「これで私の攻め手は封じられてしまったけどね。……これで、ターンエンドね」

 

 

【美香:手札は2枚。カウント1。ライフ5。リザーブ5、トラッシュ1。果物人キウイーバードマン にSと1。熾天使の玉座に0】

 

 

 

 ☆第7ターン

 

 月坂麗のターン。

 

 先のターンで美香のフィールドのスピリットはキウイーバードマンのみになったが、麗のフィールドもまたスピリットがいない。

 

(でも、ネクサスが二つも残っているから……これで軽減シンボルを確保すれば、十分攻めていける……) 

 

 そして、メインステップ。

 

「私は……墓所よりの使者、骸魔インプを召喚。さらに、輝石の竜玉使いバトレイ……再び召喚」

 

 現れたのは黒翼を備えた骸の悪魔と、二枚目のバトレイ。前者はLv1、後者はLv3。

 

 麗は続けてアタックステップを宣言し、再度攻勢に出る。

 

「バトレイでアタック。アタック時、デッキの下から1枚ドロー」

 

 このアタックで、先のターンでデッキの下に戻された一枚目のバトレイも手札に戻った。

 

(これでハンドアドバンテージの差は更に開いた。美香、まだまだこっちが優勢ね……)

 

「そのアタック、ライフで受けるね」

 

 ジャグリングをしていたバトレイが三つの竜玉を天高く放り投げ、飛び蹴りで美香のライフを砕く。去り際に紫、黄、赤の順に落下してきた竜玉を順番にキャッチし、麗のフィールドへと舞い戻った。

 

 毎度ことなるパフォーマンスを演じるバトレイの様子を木陰から眺めていたリスがうんうんと頷いていた。

 

「ライフ減少によりバースト発動、エジットの天使モニファーエル。ボイドからコア1個を自分のライフに置き、自身をバースト召喚」

 

 褐色の肌の天使、モニファーエル。胸元が大きく開かれた黒いドレスは艶やかな身体を引き立てている。

 

 モニファーエルの黒髪がなびき、金色の紋様を施した朱色の飾りを付けた腕が悩まし気に掲げられる。その手から浮かび上がった恵みのコアが、美香のライフに加えられた。

 

(これでまたライフが5つに……)

 

 なかなか美香のライフを減らすことができず、麗に少し焦りの色が見え始めていた。

 

 

【麗:手札は10枚。手元は戦鬼ムルシエラ。カウント1。ライフ4。リザーブS、トラッシュ3。輝石の竜玉使いバトレイ (疲労状態)3。骸魔インプ 1。旅団の摩天楼0。イザナミの黄泉神殿0。ヴァイオレットフィールドが置かれている】

 

 

 

 ☆第8ターン。

 

 狩野美香のターン。

 

「舞い降りなさい、魔石の堕天使キアーヴェル」

 

 全身が黒ずくめの堕天使の少女、キアーヴェル。黒鉄の鍵を手にした彼女はゆっくりと地上に降り立ち、不敵な笑みを浮かべた。

 

 キアーヴェルの召喚時効果で美香のデッキが上から4枚オープンされたが、それらはすべて破棄される。だが、手札が4枚以下という条件を満たしたことにより、美香は1枚のカードをドローする。

 

「麗、Lv2以上のキアーヴェルが居る限り、あなたはアルティメットの軽減シンボルを満たすことはできないから……気をつけてねぇ」

 

 それを聞いた麗は「むむー」と唸ってしまった。

 

(こっちのデッキにアルティメットがいると知っているからって……しっかり、対策もあるんだな、やっぱり)

 

 まあいい。今のところ、タスクを順調に進めているのはこちらだから――麗は相手の攻め方を伺う。

 

 美香はさらにバーストをセットし、アタックステップに入る。

 

「エジットの天使モニファーエルでアタック」

 

 俊敏な動きで身を翻す、モニファーエル。その動きは獲物を狙う鴉を思わせる。

 

「更に、フラッシュタイム!」

 

(来るか……)

 

 麗は思わず身構えた。

 

「さあ、麗。私のパートナーのもう一つの姿を見せてあげる」

 

 そう言う美香が提示したカードは、新たな天使のカード……。

 

「え……ミカファール?」

 

「……聖なる白き翼に、叡智の煌きを灯す。大煌天使ミカファールをエジットの天使モニファーエルに煌臨!」

 

 モニファーエルが空高く飛翔する。すると、その全身が天空から差し込む神々しい光に包まれていき、白き人型の輪郭と重なった。

 

 キウイバードマンが果肉の翼と共に両手で天を仰ぎ、内なるソウルコアがその身を離れ、天へと飛び上がった。ソウルコアの力を受け、輪郭が実態を持って顕現する。

 

 天使が舞い降りる。白銀の翼を左右に広げる、ミカファールの姿。

 

「これは……大天使ミカファールの生まれ変わった姿?」

 

「そうかもね。……でも、少し眩しすぎる気はするけど」

 

 悠然と構える大煌天使ミカファール。気品あふれる光沢はフィールド全体を眩い黄色で染め上げていた。

 

「そして、大煌天使ミカファールの煌臨時効果を発揮。手札及びトラッシュにあるマジックカードを好きなだけ、このスピリットの煌臨元に追加する」

 

「好きなだけだって……。マジックカードとしても扱うスピリットが含まれるから……それってかなりの数になるんじゃない」

 

 麗の心の中に、これまでの経過で美香のトラッシュに置かれたマジックカードが次々と浮かび上がる。それらが数を増して麗に重くのしかかってきた。

 

(あー……もう。また数が……)

 

「全部覚えているかしら? ……私はトラッシュに置かれているマジックカード5枚を煌臨元に加える」

 

 煌く光の翼が、一度は失われた魔力をかき集める。そのマジックとは……エンジェリックインパクト、溶岩熱線、土の熾天使ラムディエル、神世界紀行 土の熾天使ラムディエル、天使長フリューエル。

 

(5枚……思ったほどの数じゃないか)

 

 しかし、その一枚一枚がなかなか大粒であることを、麗は思い知ることになる。

 

「アタックしている大煌天使ミカファールのフラッシュ効果を発揮。このスピリットの煌臨元になっているマジックカードを破棄することで、フラッシュ効果をコストを支払わずに発揮する。破棄するのは……エンジェリックインパクト」

 

 ミカファールの両翼が真っ白い光源と化す。中空に巨大なハンマーが出現する。

 

「……これって、まさか」

 

「そう、そのまさか」

 

 ミカファールがアタックしている時のエンジェリックインパクトの効果は、相手のスピリットすべてをデッキの上に戻すことで一掃する効果。即ち。

 

「光になれぇぇぇぇ!」

 

 急な高テンションで宣言する美香。振り下ろされた槌の一撃は凄まじく、一瞬で輝石の竜玉使いバトレイと骸魔インプを光の彼方へと追放してしまった。

 

「まだまだ……ミカファールの追撃は終わらないよ。再度フラッシュ効果を発揮! 次に破棄するのは、マジック、溶岩熱線」

 

 ミカファールの両翼が燃え滾る炎へと変じる。

 

「今度は……ヘルマグマ」 

 

 放たれた灼熱のマグマ光線が麗のフィールドを焼き払い、瞬く間に旅団の摩天楼とイザナミの黄泉神殿が灰燼に帰した。

 

(私のフィールドが……ゼロになった)

 

 厳密には創界神のシンボルをゼロにするヴァイオレットフィールドは残っているが、麗には美香が創界神ネクサスを使ってくるとは思えなかった。

 

「三度、ミカファールの効果を発揮。神世界紀行 土の熾天使ラムディエルを破棄することで、その効果を発揮」

 

「こっちのフィールドは既に更地だけど……」

 

「勿論、もう一つの効果が目当て。破棄したカードがスピリットカードだった時、そのカードをコストを支払わずに召喚できる。地の底より、現れなさい、ラムディエル」

 

 ミカファールの翼から放たれた閃光が地を貫き、光の柱が噴出する。その柱が収縮していき、中から神世界紀行 土の熾天使ラムディエルが姿を現した。

 

「盤面をそろえるつもりね。……でも、これ以上、数を並べられて苦しめられるのはまっぴらごめん」

 

「え?」

 

 麗の発言の意図が呑み込めず、首をかしげる美香。

 

「相手のスピリットがバースト効果以外でコストを支払わずに召喚されたことにより……私は手札の零ノ障壁が持つ、ゼロカウンターを使用」

 

「零ノ障壁……だって? 麗、そのカードは……」

 

 美香が驚くのも無理はなかった。美香が麗に渡したデッキには入っていないカードだったから。

 

「このカードは、私がお守り代わりに持ち歩いていたカードだから。こっそり入れ替えておいたんだけど……驚いた?」

 

「……そっか、麗らしいサプライズかもね」

 

 美香は、あの麗が自分から与えられたカードだけで納得するとは思っていなかった。だから、この対戦で麗の中で燻ぶっているものをどうにかするきっかけになれば良いと思って、完成した状態のデッキを渡した。そこから、麗らしい創造力を思い出してという想いを込めて。

 

(でも、麗は、今の自分らしさを入れてきたか……この勝負、分からなくなってきた)

 

 徐々にではあるが、美香は麗のためよりも自分自身がこの対戦を楽しもうという意識が強まっていた。

 

「零ノ障壁のゼロカウンターは相手のスピリットかアルティメット1体を破壊する。この効果で、大煌天使ミカファールを破壊!」

 

 六色の輝きの渦がミカファールを捕らえる。身動きができなくなったミカファールを中心にして光が空間ごと収束していき……そこに何かがあったという痕跡すら残さずに、ゼロとなった。

 

「さらに、1コスト支払うことでこのカードを手札に戻す」

 

 零ノ障壁は、再度麗の手札に加わった。これで、美香は麗の手札にあるゼロカウンターによって行動を大きく制限される形となる。

 

「ふう、やってくれたね、麗。だけど、まだアタッカーは残っている……キアーヴェルでアタック」

 

 ミカファールを失っても一切ひるむことなく、キアーヴェルの追撃が始まる。

 

「させない。手札からブレイド・ジーを神速召喚!」

 

 剣の如き刃の角を頭部に備えた黄色い甲殻の昆虫が、颯爽と飛び出す。

 

「ブレイド・ジーでブロック」

 

 行く手を阻まれるキアーヴェル。黒き天使は透かさず鍵を振るって襲い来る刃虫を打ち払った。

 

「美香、今度はあなたがあてがってくれたこの子に活躍してもらうよ。……緑のスピリットを破壊されたことにより、手札から聡明叡智ブレイン雪をコストを支払わずに召喚」

 

 ブレイド・ジーの破壊と入れ替わりに現れるのは、緑の仮面で顔を隠した女性の姿。

 

「才あるブレインは仮面を被る。……でも、今はその叡智を垣間見せるとき。ブレイン雪の召喚時効果を発揮し、相手のデッキを上から3枚オープン」

 

 ブレイン雪が己の仮面に手をかけ、素顔をさらした。しなやかな髪の揺れる、眼鏡をかけた彼女の素顔。

 

 美香のデッキからオープンされたのは、熾天使の玉座、天使長フリューエル、堕天使ミカファール。

 

「天使長フリューエルはマジックカードとしても扱うカード。よって、オープンされたマジックカードは一枚。魔石の堕天使キアーヴェルを手札に戻す」

 

 ブレイン雪が合図を送ると、キアーヴェルの後方で天使長フリューエルの魔力が暴発した。その衝撃は振り返ったキアーヴェルを押し上げ、美香の元へと吹き飛ばす。

 

 オープンされたカードは麗の意思により、デッキの上に天使長フリューエル、熾天使の玉座、堕天使ミカファールの順番で戻された。

 

「フリューエルの能力が仇になっちゃったか。……麗、そちらが叡智で来るなら、私は勇気で立ち向かうよ。相手のスピリットの召喚時効果発揮により、バースト発動! 雄々しき羽の軌跡は勇気の証! 天空勇士フェニックジャク」

 

 黄金色の扇の如き羽を広げ、闘志の灯った眼光で相手を睨む、クジャクの出現。そのバースト効果は相手のスピリットの動きを束縛するものであり、からめとられたブレイン雪は重疲労状態となった。

 

「バースト召喚されたフェニックジャクの召喚時効果を発揮。疲労しているブレイン雪をデッキの下に戻す」

 

 新たに起こったつむじ風。動きを封じられたブレイン雪は成すすべもなく、空の彼方へと吹き飛ばされてしまった。

 

「策士策に溺れるとは、よくいったものね」

 

 麗は美香の言葉に言い返せず、少しムッとなる。

 

「続けて、フェニックジャクでアタック。アタック時、ターンに1回、フェニックジャクは回復する」

 

「く……そのアタック、ライフで受ける」

 

 麗のライフを目掛けて飛びかかるフェニックジャク。接近したところでかぎ爪を突き出し、ライフコアを粉々に砕いた。尚も衰えぬ勢いで、フェニックジャクは攻撃の姿勢を継続する。

 

 これで麗のライフは残り3。

 

「これ以上のアタックはさせない。ライフを減らされて3以下になったことにより、手札の神産ノ武神オノゴロウを1コスト支払って召喚する」

 

 ズシン、と音を立てて大地に降り立ったのは怪力自慢のオノゴロウ。筋骨隆々とした屈強な体格を勇ましい武者鎧で覆い、神産みの始まりの地とされるオノゴロ島の如き形をした巨大な棍棒をかついで登場する。

 

「オノゴロウの召喚時効果は相手のスピリット二体を重疲労させる。フェニックジャクとラムディエルを打ち払え、オノゴロウ」

 

 オノゴロウの狸のような顔がふんと鼻を鳴らし、棍棒を力任せに振り回した。荒れ狂う神風は勇士と天使の飛翔能力を奪い、全身を地に伏せさせる。

 

「これで、アタッカーがみんな疲労させられた、か。……ターンエンド」

 

 

【美香:手札は2枚。カウント1。ライフ5。リザーブ1。トラッシュSと2。天空勇士フェニックジャク(重疲労状態)4。土の熾天使ラムディエル(重疲労)1。果物人キウイーバードマン 1。熾天使の玉座 0】

 

 

 

 ☆第9ターン。

 

 月坂麗のターン。

 

 麗がドローステップにドローしたカードは、輝石の竜玉使いバトレイ。先のターンにエンジェリックインパクトによってデッキトップに戻されたカードであり、お互いに把握していた。

 

 そして、メインステップ。

 

(せっかくキアーヴェルを退けたのに、これじゃ軽減シンボルがゼロじゃない……)

 

 大煌天使ミカファールによってフィールドを一掃された影響でその後の展開に大きく支障をきたしてしまった――麗の脳裡に、「残業」の二文字が浮かび上がる。

 

(駄目だ、ここはガッといってガッとやらなきゃ)

 

「見目麗しき黒の貴公子は、藤の夜とくちづけを交わす。誓いの導きに応え、今ここに舞う。咲月帝アルティメット・ウィステリア」

 

 白き月下。人間の背丈ほどもある蝙蝠の翼を羽ばたかせ、闇夜の中から現れたのは究極の輝きを宿した吸血鬼、咲月帝アルティメット・ウィステリア。ウィステリアの傍らには、パートナーである蒼い竜の影が付き従っていた。

 

 咲月帝の召喚条件はコスト3以上の自分のスピリット1体以上であり、オノゴロウの存在でこのフィールドに顕現することができた。

 

「麗の二番目のお気に入り、ウィステリア。……あの頃を思い出すね」

 

 そう、咲月帝のカードは魔犬ゼロに次ぐ麗の愛用していたカードであり、新たな進路へ足を踏み出した時、たくさんの思い出を込めてゼロと共に美香に託したのだ。

 

(まさか、また、この子を召喚する日が来るなんて……)

 

 思えば、自分は再びあの頃の想いを手にするのを心のどこかで望んでいたのかもしれない。それを思い起こさせてくれたのは、やはり美香。

 

 改めて、ウィステリアの姿を見つめる。

 

 麗の心の拠り所にしていたウィステリアという存在は、孤高の夜の貴公子として振舞う吸血鬼であるが、唯一の真に心を許せる存在が夜の化身たる竜。竜はウィステリアが永久の誓いをたてた相手であり、竜から見ればウィステリアは最愛の花嫁であったと言えるだろう。

 

「アタックステップ……いくよ、美香。咲月帝アルティメット・ウィステリア、アタック!」

 

 咲月帝が翼を広げ、飛び立つ。その身を囲むようにして竜が共に舞い、両者が夜に包まれたフィールドを飛翔した。

 

「咲月帝アルティメット・ウィステリアのアタック時効果。アルティメットトリガー、ロックオン!」

 

 ウィステリアの真紅の瞳が強く発光する。美香のデッキの一番上のカードがオープンされ、天使長フリューエルの姿が浮かび上がる。

 

「天使長フリューエル……コストは、6」

 

「ヒット!」

 

 美香のフィールドにいるすべてのスピリットがウィステリアに魅入られ、その瞳に釘付けとなってしまった。

 

「このターンの間、相手のスピリットすべてのLvコストを+2する。更に、ヒットしたカードがスピリットカードだったことにより、クリティカルヒット。相手のネクサスのLvコストも+1」

 

 ウィステリアのパートナーである竜。その竜が持つウィステリアと酷似した真紅の瞳が妖しく輝き、フィールド上に朧げなオーラが沸き上がった。オーラが熾天使の玉座を包み込むと、玉座は夜の闇の中へと溶け込むようにして消滅した。

 

 ラムディエル、ソウルコアを失っているキウイーバードマンもまた、夜の闇に呑まれたことで実体を維持できなくなり、そのまま暗い世界の果てへと消え去った。

 

 天空勇士フェニックジャクは辛うじてフィールドに留まっていたが、輝きは弱まっている。

 

「今度は、フリューエルがスピリットカードであることが仇になっちゃったか。ブレイン雪の計略がここにきて功を奏したってわけね」

 

「……美香、あなたが予めこのコンボを考えて、デッキにブレイン雪を入れていたんだから……初めから想定済みでしょ」

 

「まあね」

 

 美香はケロッとした顔で言ってのけた。

 

 咲月帝のアタックに対して、美香はライフで受ける選択をした。咲月帝が美香に向かって一気に接近し、魔力を込めた手を振るってライフコアを両断する。

 

「……ライフ減少により、手札からバーストを発動! エジットの天使モニファーエル」

 

「手札からだって……」

 

「自分のトラッシュに黄一色のカードがあれば、モニファーエルは手札から発動することができるの。これもちょっとしたサプライズかな?」

 

 再びフィールドに現れたエジットの天使。バースト効果によりライフが追加され、美香のライフは即座に5に戻った。

 

(結局……美香のコアを増やしてしまっただけ、か)

 

 美香の手札は一枚のみだが、それは手札に戻したキアーヴェル。更に次にドローするのは熾天使の玉座であることも把握している。つまり、次のターンで美香の手札が補強されることは明白だ。

 

 麗はそのままターンを終了するしかなかった。

 

 

【麗:手札は7枚。手元は戦鬼ムルシエラ。カウント1。ライフ3。リザーブ0。トラッシュ7。咲月帝アルティメット・ウィステリア(疲労状態)1。神産ノ武神オノゴロウSと1。ヴァイオレットフィールドが置かれている】

 

 

 

 ☆第10ターン。

 

 狩野美香のターン。

 

 リフレッシュステップで天空勇士フェニックジャクは一度回復し、疲労状態となる。

 

「ネクサス、熾天使の玉座を配置」

 

 やはり……と、麗は新たに配置された二枚目の玉座を見やる。配置時効果でオープンされたカードは、堕天使ミカファール、土の熾天使ラムディエル、神世界紀行 土の熾天使ラムディエル、溶岩熱線。美香は神世界紀行 土の熾天使ラムディエルを手札に加えた。

 

「熾天使を手札に加えたことにより、神産ノ武神オノゴロウをデッキの下に戻す」

 

 ラムディエルを象徴する玉座の紋章が輝き、出現したラムディエルの幻影の放った光の衝撃波がオノゴロウを貫く。さしもの剛力もこれを防ぐには至らず、オノゴロウはデッキの下へと戻された。

 

(前のターン、オノゴロウはアタックしてもモニファーエルに破壊されていたから、ブロッカーとして残していたけど……)

 

 結局、どちらにしてもブロッカーは失われることになった。

 

「さらに、魔石の堕天使キアーヴェルをLv3で召喚。不足コストはフェニックジャクとモニファーエルから支払う」

 

 再び舞い降りるキアーヴェル。コアが無くなったフェニックジャクは、緑色の粒子となって消滅した。

 

 キアーヴェルの召喚時効果も発揮され、リーフハイドパス、引っ込み思案のドルイド僧リルラ、エジットの天使モニファーエルの3枚がオープンされて破棄され、美香はさらに1枚のカードをドローした。

 

「アタックステップ……モニファーエル、アタック」

 

「ライフで、受ける」

 

 一気に麗の元へ接近し、両腕に込めた魔力を打ち出すモニファーエル。麗のライフが砕かれ、残りのライフは2となる。

 

「キアーヴェルでアタック」

 

 鍵を携え、颯爽と飛び立つキアーヴェル。

 

「させない、ブレイド・ジーを神速召喚」

 

 麗の手札から飛来するのは、新たな刃虫。そのままキアーヴェルのアタックをブロックする。

 

 先のターンでも対峙したゴキブリ型のスピリットを前にして、露骨に嫌な顔をするキアーヴェル。鍵を思いっきり振り回し、ジーを一蹴する。

 

「緑のスピリットの破壊により、手札から、聡明叡智ブレイン雪を召喚!」

 

 眼前に現れたブレイン雪と相対するキアーヴェル。キアーヴェルには「またか……」という諦念の表情が浮かんでいた。

 

 ブレイン雪の召喚時効果でオープンされたカードは、天空の覇王ロード・ドラゴン・バゼル、ウィッチミラージュ、大煌天使ミカファール。

 

(マジックカードは無し、か……)

 

 だが、おそらく美香のデッキのキースピリットと思われる大煌天使ミカファールの存在を確認したのは大きかった。麗は上からウィッチミラージュ、天空の覇王ロード・ドラゴン・バゼル、大煌天使ミカファールの順番でデッキに戻した。

 

「ふーん、ミカファールを下にね……」

 

 にやにやと笑みを絶やさない美香。どうにも掴みどころがないな――麗は思った。

 

「それじゃ、私はこれでターンエンド」

 

 

【美香:手札は2枚。カウント1。ライフ5。リザーブ0。トラッシュ6。エジットの天使モニファーエル(疲労状態)に3。魔石の堕天使キアーヴェル(疲労状態)にSと2。熾天使の玉座0】

 

 

 

 ☆第11ターン

 

 月坂麗のターン。

 

 このターンのリフレッシュステップで咲月帝アルティメット・ウィステリアが回復する。パートナーの竜もまた活力を取り戻し、ウィステリアの周囲を優雅に舞った。

 

 そして、メインステップ。

 

「戦鬼ムルシエラ、今こそ出陣の刻! デッキの上から3枚破棄することで召喚コストを-3して召喚」

 

 手元から召喚されるのは戦鬼ムルシエラ。霊魂の宿った刀を携え、自ら前線に赴いた。

 

(破棄したカードはバトレイにシェダル……そして)

 

 麗はトラッシュに置かれた神霊王アメホシノミコトのカードを見つめた。

 

(今こそ召喚したいけど……)

 

 それには必要なコアがどうしてもかさんでしまう。手札の数では大分優勢だが、ライフの面では追い詰められつつある。麗は、猶更に慎重を期する必要性を意識していた。

 

「冥府へ差し伸べる救世の御手。聖魔神を召喚」

 

 白き半身と黒き半身が合わさった鎧の姿。聖魔の力を兼ね備えた異魔神ブレイヴが顕現する。

 

「異魔神ブレイヴ……スピリットの強化を優先してきたかな?」 

 

「聖魔神を戦鬼ムルシエラに右合体。さらに、聡明叡智ブレイン雪に左合体」

 

 黒き御手がムルシエラに力を与え、白き御手がブレイン雪に活力を与えた。

 

「アタックステップ……ムルシエラ、アタック。聖魔神の右合体時効果により、トラッシュから自分のライフ以下のコストのスピリットカードをコストを支払わずに召喚する。召喚するのは、コスト1のブレイド・ジー」

 

 黒き御手から紫色の球体が生み出され、地に放たれた。その場で形成された溢れる魔力の渦の中心よりブレイド・ジーが舞い上がり、フィールドに戻ってくる。

 

「ムルシエラは二つのシンボルを持つから、ブレイヴが加わってトリプルシンボル、ね。これを通すわけにはいかない……」

 

 そう言う美香が提示したのは、神世界紀行 土の熾天使ラムディエルのカード。

 

「モニファーエルからコストを支払うことで、お出かけラムを使用! ムルシエラのBPを-10000する……そして、BP0になった時、デッキの下に戻す」

 

 幼い少女の外見をした熾天使、ラムディエルの幻影が現れ、星型のシンボルが描かれたピンクのハンマーを取り出した。そのハンマーは実体を伴っており、ハンマーが振り下ろされたことでムルシエラの周囲の空間が砕け散り、次元の裂け目が露わになった。

 

 異次元に呑まれそうになったムルシエラは慌てて這い出そうとしたが、飛びかかったラムディエルの幻影が魔力を込めたハンマーでムルシエラの頭部をめった打ちにした。叩かれたムルシエラは☆を大量に巻き散らかしながら目を回し、次元の狭間へと追放されてしまった。

 

「さらに、ライフのコア1個をコストとして支払うことで、お出かけラムを召喚!」

 

 ラムディエルがハンマーを美香のライフに向かって放り投げた。回転しながら飛んでいったハンマーは美香のライフを砕き、その際に青いコアの輝きを吸収する。ブーメランのように戻ってきたハンマーをラムディエルが握りしめた時、実体のある彼女本来の姿となっていた。

 

「まさか自らのライフを削って召喚するとは、ね」

 

 ライフからとはいえコストを支払った召喚であるため、ゼロカウンターで妨害することはできない。

 

 これで、美香のライフは4となった。

 

「咲月帝アルティメット・ウィステリアでアタック! アルティメットトリガーロックオン!」

 

 ウィステリアの真紅の瞳の光が美香のデッキを射抜く。トラッシュに置かれたカードはコスト4のウィッチミラージュ。

 

「ヒット! スピリットのLvコストを+2!」

 

 ウィステリアの創り出した昏き夜の空間が美香のスピリットたちを覆いつくし、モニファーエル、キアーヴェル、ラムディエルを消滅させた。

 

(ライフを削ってまで召喚したラムディエルも消滅した……美香にはこうなることはわかっていたはず。となると……) 

 

「……系統導魔を持つキアーヴェルがフィールドを離れたことにより、私はこのスピリットを召喚するね」

 

 美香が取り出すのは、二枚目のテスモポロス。

 

(あ、やっぱり)

 

「魔導の誓約の名の下に、再度降臨せよ。豊穣の女王神テスモポロス」

 

 デメテールの化神、テスモポロスが再臨する。こちらも1コスト支払って召喚する効果であり、ゼロカウンターは使用できない。

 

「テスモポロスの効果により、ブレイン雪をデッキの下に戻す」

 

 身の丈ほどもある杖が地面に突き立てられた。大地が割れ、ブレイン雪が地の底へと没す。左右の合体先を失った聖魔神がその場に残された。

 

「ウィステリアのアタックは、ライフで受けるよ」

 

 ウィステリアの指先から放たれる黒き光弾。美香のライフが撃ち抜かれ、残りライフは3となる。

 

「……やっぱり、先にウィステリアでアタックするように仕向けていたのね」

 

「ま、そんなところかな?」

 

 ウィステリアが疲労していることで、麗のブロッカーはブレイド・ジーしか残っていない。

 

(まだ、手札には零ノ障壁がある……これで凌ぐしかないか)

 

 麗がターンエンドを宣言し、舞台は次のターンに移行した。

 

 

【麗:手札は5枚。カウント1。ライフ2。リザーブSと1。トラッシュ8。咲月帝アルティメット・ウィステリア(疲労状態)1。ブレイド・ジー1。聖魔神0。ヴァイオレットフィールドが置かれている】

 

 

 

 ☆第12ターン

 

 狩野美香のターン。

 

 メインステップに入ると同時に、美香はドローしたカードをそのままバーストエリアにセットした。

 

(セットしたカードは、天空の覇王ロード・ドラゴン・バゼル……ライフ減少時に発動するバースト、か)

 

 ブレイン雪の効果によって前以って相手の手の内を知っている麗。そのため、麗は常に最善の策を選ぶことが可能となっていると言えた。

 

 美香はリザーブのコアを乗せることで豊穣の女王神テスモポロスのLvを3に上げ、アタックステップを宣言する。

 

「テスモポロスでアタック。カウント1以上の時、アタック時効果を発揮」

 

 リルラの供の翆鳥が、空を横切る。進められたカウントは、テスモポロスに魔導を繋ぐ役目を果たしていた。

 

「昏き黄昏の案内人。冥府の淵より甦れ、堕天使ミカファール!」

 

 テスモポロスが杖の先端で大地を突いた。すると、左右に二つの大穴が穿たれ、二体の堕天使ミカファールが地の底から飛翔し、黄昏に染まっている空を舞った。

 

「堕天使ミカファール……! でも……」

 

 麗は零ノ障壁に手を添える。しかし、そのままぴたりと動きを止め、思案する。

 

(いや……これはゼロカウンターの存在を承知した上での展開。ここで零ノ障壁を使ったりしたら……)

 

 麗はお互いの盤面を見渡した。そして、瞬時に把握する。

 

(堕天使ミカファールには、自身のアタック時にトラッシュの黄のマジックカードを使用できる効果がある。そして、それはマジックカードとして扱うスピリットも例外ではない……)

 

 美香のトラッシュには天使長フリューエルがあったはず。その効果を使われたらウィステリアを破壊されるうえに、1枚のドローを許してしまう。次にドローされるのは……大煌天使ミカファールだ。

 

 このターン、麗の扱えるコアは4つしか残っていなかった。つまり、零ノ障壁のゼロカウンターを使用し、1コスト支払って回収すれば、その後の追撃を防ぎきれなくなる。

 

「そのアタック、ブレイド・ジーでブロック」

 

 ブレイド・ジーがブウウンと羽音を響かせながら、テスモポロスの行く手を塞いだ。

 

「そして、マジック、零ノ障壁のフラッシュ効果を使用。コストは、リザーブ、それにウィステリアとブレイド・ジーから確保。このバトルが終了したとき、アタックステップを終了する」

 

 麗が使えるすべてのコアを使い切る。コアを失ったウィステリアとブレイド・ジーが消滅していく。

 

(黒の貴公子にして、夜の花嫁……暫しの別れ)

 

 テスモポロスの杖が空を切った直後、青白い障壁が出現する。障壁はテスモポロスを押し返しながら前進し、美香のフィールドにいるスピリットたちの動きを封じ込めた。

 

「ゼロカウンターは……使わなかったね。この短時間で、大分感が戻ってきたみたいだね、麗」

 

 美香が嬉しそうに言った。

 

 

【美香:手札は無し。カウント1。ライフ3。リザーブ0。トラッシュ0。豊穣の女王神テスモポロス(疲労状態)Sと4。堕天使ミカファール、2体とも5。熾天使の玉座0】

 

 

 

 ☆第13ターン。

 

 月坂麗のターン。

 

(バトスピの感、か)

 

 言われてみれば、こうやってカードを駆使しながら対戦しているうちに、何だか昔の自分と美香に戻ったような気がしてくる。それは今まで忘れていた感覚であり、自然に活き活きとしていた自分という存在に、改めて気づかされた。

 

(小夜も……美都と対戦する時は、こんな気持ちを共有しているのかな)

 

 もしそうなら……ちょっと、美都が羨ましい。

 

「輝石の竜玉使いバトレイをLv3で召喚」

 

 ジャグリングをしながら現れるバトレイ。その背後では、あのリスが見守っていた。

 

「続けて、マジック、リターンスモークを使用。トラッシュに存在するコスト4以下のスピリットカードを、コストを支払わずに召喚する」

 

 大地より吹き出す紫煙。その中から現れる、反り返った二本の巨大な角……。

 

「創世の継承者よ。主の御魂の元、天意を示せ。神霊王アメホシノミコト!」

 

 甲殻に覆われた人のような上半身と獣の下半身を持つ、巨大な霊獣。脚部の実体は希薄であり、朧げな紫煙による輪郭で形成されており、そのまま宙へと浮かんでいった。

 

 人間型の腹部に黄土色の光の粒子が渦を巻き、勾玉が出現する。勾玉から放たれた光が左手に焦点を当てると、掌に鏡が出現し、鏡によって反射された光の先に剣が現れ、右手でその剣を握りしめた。

 

「神霊王アメホシノミコトにソウルコアを置いていることにより、その効果を発揮。コスト0、2、4、7の相手のスピリットすべてのLv維持コストを+3する」

 

 神霊王の足元から放たれた紫煙が大地を奔り、宙を舞っている二体の堕天使ミカファールの下で止まる。そこから天を貫く勢いで一気に紫煙の柱がそそり立ち、ミカファールたちを呑み込んだ。

 

「堕天使ミカファールにはそれぞれ5個のコアが置かれているから、Lvが2になるだけ、か。美香、アメホシノミコトの召喚を読んでいたのね」

 

「それでも、これで大きく動きを制限されちゃったけどね」 

 

 麗は聖魔神を神霊王に左合体し、アタックステップに突入した。

 

「アメホシノミコトでアタック。アタック時、トラッシュにある紫のカードを1枚……零ノ障壁を手札に戻す」

 

 手札に戻ってきた零ノ障壁を見て、麗はよしと意気込む。

 

「そっか、零ノ障壁は6色のマジックカードだから、アメホシノミコトで回収できるのね」

 

「そう、ゼロは万能だもの。インドの数学者、ブラーマグプタによって定義されたゼロは、人類史上稀にみる極めて偉大な発見と言えるわね」

 

「あー……また始まった、麗のゼロ談義」

 

「どんな複雑怪奇もゼロであればすべて一緒。ゼロに何かを加えることで初めて万物は存在できるけど、それを引けばゼロになり、この世のすべても元を辿れば同じ存在……ゼロなのだとも言える。何より、数字の暴力もゼロの前では無意味に……」

 

「わかったわかった……麗、合体しているアメホシノミコトには、効果がもう一つあるでしょ?」

 

「もう、これからなのに。……聖魔神の合体時効果で、アメホシノミコトのコア1個をライフに置く」

 

 聖魔神が神霊王の頭上に手をかざすと、一つのコアが浮かび上がった。コアは中空へ放り出され、麗のライフに向かって一直線に飛んでいく。

 

 新たなコアが加えられたことで、麗のライフは3となる。

 

「そのアタック、堕天使ミカファールでブロック」

 

 二体並んでいる堕天使ミカファールの片方が前に飛び出し、神霊王の進撃を食い止める。堕天使ミカファールは神霊王が振るう剣を光の障壁で防ぐが、再度剣戟を受けた障壁がひび割れた。神霊王が手にしている鏡から光弾を打ち出して障壁を撃ち抜く。堕天使ミカファールは直撃を受け、消滅した。

 

「続けて、輝石の竜玉使いバトレイでアタック。アタック時、デッキの下から1枚ドロー」

 

「それはライフで受けるよ」

 

 バトレイは空中へ飛びあがり、ムーンサルトキックで美香のライフを砕いた。

 

 美香の残りライフは、2となる。

 

「ライフ減少により、バースト発動。……天を統べる高き者。天空の覇王ロード・ドラゴン・バゼル!」

 

 Lv2でバースト召喚される天空の覇王、雄々しい巨鳥の翼を備えた龍の武者。

 

「天空の覇王の召喚時効果、【旋風】を発揮。神霊王を重疲労させる」

 

 天空の覇王が日本刀を一閃させると、空気の層を両断する斬撃が直進し、神霊王を斬りつけた。神霊王は鏡から創り出した結界でこれを弾いたが、弾かれた斬撃は神霊王の全身を包み込むつむじ風へと変じ、その動きを封じ込めた。

 

「ふう……これも想定内。天空の覇王ロード・ドラゴン・バゼルの存在は、ブレイン雪のお陰でわかっていたからね」

 

 そして、次のターンに美香がドローするカードも……。

 

 

【麗:手札は5枚。カウント1。ライフ3。リザーブ1。トラッシュ4。神霊王アメホシノミコト(重疲労)Sと3。 輝石の竜玉使いバトレイ(疲労状態)3。ヴァイオレットフィールドが置かれている】

 

 

 

 ☆第14ターン

 

 狩野美香のターン。

 

 このターンのリフレッシュステップで豊穣の女王神テスモポロスは回復する。テスモポロスが力を取り戻すと、周囲の大地も活力で満たされていった。

 

 メインステップ。

 

「やっぱり、アメホシノミコト……厄介ね」

 

 天空の覇王もまたミカファールと同様に神霊王の影響を受けており、美香は維持コストに大量のコアを要求されていた。

 

「コアを移動し、堕天使ミカファールをLv3、天空の覇王ロード・ドラゴン・バゼルをLv1にする」

 

 堕天使ミカファールのコアが合計で8個、天空の覇王ロード・ドラゴン・バゼルは4個となる。

 

「わざわざ自分のデッキが苦手とするカードをこのデッキに入れたのは、美香でしょ?」

 

「それはまあ、麗が使いそうなカードを想いながらデッキを組んだからね」

 

 麗は少し怪訝そうな表情になる。

 

「それ、どういう意味……?」

 

「ご想像にお任せ」

 

 はぐらかそうとする美香。

 

(そう、美香ってこうだったな……)

 

『麗ちゃん、これ』

 

『これ……?』

 

『ほら、わたしの筆箱。麗ちゃんと同じ黒いワンちゃんのでしょ』

 

『う、うん。偶然一緒だね』

 

『違うよー、麗ちゃん、入学したら新しい筆記用具を買ってもらうって言っていたでしょ? だからね、わたしも麗ちゃんが好きそうなのを選んだの。お揃いにしたかったからね』

 

『ええ? それなら、先に言ってくれたら、ワンちゃんだって教えてあげたのに……』

 

『いいや、そうしたら麗ちゃん、わたしの方に合わせちゃうでしょ? わたし、麗ちゃんの好きなのがいいの』

 

 麗ちゃんの好きなものだったら、聞かなくてもわかるから――過去の何気ない情景。

 

「麗……?」

 

 美香に呼びかけられ、はっとなる麗。

 

「……何でもないよ」

 

「……麗ちゃん」

 

 美香がぽつりと呟いた。思わず、ぎょっとなる麗。見ると、くすくすと笑う美香の表情が目に飛び込んで来た。

 

(か、からかわれた)

 

「さ、アタックステップね。……私は、堕天使ミカファールでアタックするよ」

 

『これで麗ちゃんのフィールドは更地だねぇ。いけ、大天使ミカファールでアタック!』

 

 一瞬、堕天使ミカファールにかつての面影が重なった。

 

「そして……もうバレバレだけど……グレても天使は天使、今こそ返り咲いてミカファール!」

 

 煌臨を発揮し、堕天使ミカファールに重なる大煌天使ミカファール。麗はその天使の過去の姿である大天使ミカファールをも垣間見た。

 

「煌臨時効果を発揮! トラッシュにあるマジックカードを集約する」

 

 煌臨元に追加されるマジックカード……それは、エンジェリックインパクト、溶岩熱線2枚、リーフハイドパス、天使長フリューエル2枚、土の熾天使ラムディエル2枚、神世界紀行 土の熾天使ラムディエル2枚。

 

「合計10枚……!」

 

 堕天使ミカファールを含めれば、11枚もの煌臨元。もし、これだけのマジックを大天使ミカファールが使用していたら――麗はそう思い、ゾッとした。

 

「フラッシュ、エンジェリックインパクトを破棄。バトレイ、それにアメホシノミコト、光になっちゃって」

 

 ミカファールがゴルフクラブを振るようにして、ハンマーを突き上げた。光の波動が空間を揺るがし、バトレイと神霊王はデッキの上に飛ばされた。

 

「美香、このターンの攻め手は潰させてもらうからね。マジック、零ノ障壁! これでどんな攻撃もゼロに帰す」

 

 天から美香のフィールドを覆う、六色の障壁。これで、バトルが終了したとき、アタックステップも終了となる。

 

「まだまだアクションは起こすよ、麗。……天使長フリューエルを破棄。聖魔神を破壊し1枚ドロー」

 

 緑の宝石をはめ込んだ光線銃を手にした天使長、フリューエル。その銃口が空間を揺蕩う聖魔神へ向けられる。直後、放たれた熱線が聖魔神を蒸発させてしまった。

 

 フリューエルがフィールドに舞い降り、悠然と構えた。

 

「まだまだ、光の援軍が舞い降りる。二体のお出かけラムを破棄し、コストを支払わずに召喚」

 

 美香のフィールドに並ぶ、六体のスピリット。ラムディエルたちに余分にコアを乗せたことで、大煌天使ミカファールのコアは1つでLv1に下がっており、これ以上効果を発揮することはできなくなっていた。

 

「これでターンエンドだよ……麗ちゃん」

 

 麗は一瞬、聞き間違いではないかと己の耳を疑った。

 

 

【美香:手札は1枚。カウント1。ライフ2。リザーブ1。トラッシュS。神世界紀行 土の熾天使ラムディエルAに4 神世界紀行 土の熾天使ラムディエルBに4。豊穣の女王神テスモポロス1。天空の覇王ロード・ドラゴン・バゼル4。天使長フリューエル1。大煌天使ミカファール1。熾天使の玉座0】

 

 

 

 ☆第15ターン

 

 月坂麗のターン。

 

 ドローステップにドローしたカードは、輝石の竜玉使いバトレイ。先のターン、エンジェリックインパクトでデッキの上に戻されたカードだった。

 

 そして、麗はメインステップに入る。

 

(それにしても……また、私のフィールドは更地かぁ……)

 

 アタックステップに効果を発揮する大煌天使ミカファールは、かつての大天使ミカファールに比べれば随分と大人しくなった……とは実感していた。それでも、やはりこの破壊力はミカファールに違いないとも思えてくる。

 

(でも、大煌天使ミカファールのコストは7……これで対処できる)

 

「手札からネクサス、旅団の摩天楼を配置」

 

 再度フィールドにそびえ立つ摩天楼。配置時の効果で麗はカードを1枚ドローする。

 

「ありゃ、せっかく戻したアメホシが手札に入っちゃったかあ」

 

 美香の喋り方が妙に子供っぽくなっていた。

 

(やっぱり、美香も見ているんだ、昔の私を)

 

 子供の頃の美香は何時だって自分の好みに寄り添っていた。麗ちゃんの好きなものが好き――そんな感じ。美香が本当に好きなものは何だろうと幾度も考えたが、問いかけても適当にはぐらかされて、結局明確な答えは出なかったような気がする。

 

(だから、かな。別々の進路に選んで距離が離れた時、相手の心が余計にわからなくなっていったのは……)

 

「7コスト支払い、手札の神霊王アメホシノミコトにソウルコアを乗せて、Lv3で召喚」

 

『麗ちゃん、大きくなったら何になりたいの?』

 

 三種の神器を携え、再臨する、神霊王。

 

『うーんと、えーと……幸せな、お嫁さん?』

 

 消滅していく、大煌天使ミカファール。

 

『そうなの? なら、わたしも誰かのお嫁さんになって……いつか、麗ちゃんの子供とわたしの子供と一緒に……』

 

「アタックステップ……神霊王アメホシノミコトでアタック!」

 

『でも……誰のお嫁さんになるの?』

 

「アタック時効果発揮! 零ノ障壁を手札に」

 

「天使長フリューエルでブロック!」

 

 突進する神霊王を迎え撃とうとするフリューエル。だが、フリューエルの放った熱線は捉えどころのない紫煙によってことごとく遮断される。フリューエルは神霊王の体当たりを受け、弾き飛ばされた。

 

「ターンエンド」

 

 麗の宣言により、戦いは次のターンに移行する。

 

 

【麗:手札は5枚。カウント1。ライフ2。リザーブ0。トラッシュ10。神霊王アメホシノミコトSと3。旅団の摩天楼0。ヴァイオレットフィールドが置かれている】

 

 

 

 ☆第16ターン

 

 狩野美香のターン。

 

 美香はメインステップに入ると、リザーブのコアを乗せることでテスモポロスと天空の覇王のLvを上げた

 

 続けて、アタックステップ。

 

「天空の覇王ロード・ドラゴン・バゼルでアタック。アタック時効果【旋風】を発揮し、神霊王アメホシノミコトを重疲労させる」

 

 再度発生した旋風により、神霊王の紫煙が吹き飛ばされる。身動きを封じられた神霊王が大地に突っ伏した。

 

「マジック、零ノ障壁。アメホシノミコトのコアをすべて使い、このバトル終了時に、アタックステップを終わらせる」 

 

 神霊王の本体が黒みがかった煙と化し、消え去った。その上を横切る、天空の覇王の雄姿。

 

「ライフで受ける」

 

 煌く剣が翻り、麗のライフを切り裂いた。これで麗のライフは残すところ1。

 

「もうちょっと楽しみたかったけど、お互い、後が無くなってきたね。ターンエンド」

 

 狩野美香のターンが終わりを告げた。

 

 

【美香:手札は2枚。カウント1。ライフ2。リザーブ0。トラッシュ0。天空の覇王ロード・ドラゴン・バゼル(疲労状態)6。神世界紀行 土の熾天使ラムディエルAに4、神世界紀行 土の熾天使ラムディエルBに4。豊穣の女王神テスモポロスにSと3。熾天使の玉座0】

 

 

 

 ☆第17ターン

 

 月坂麗のターン。

 

(もうちょっとだって……? いいや、わたしはもう十分。今こそ、ゼロに還してやる……)

 

 今という時と過去との乖離。麗にはそれがもどかしかった。

 

「メインステップ……輝石の竜玉使いバトレイをLv1で召喚」

 

 フィールドに召喚される竜玉使い。

 

「さらに、もう1体。バトレイをLv1で召喚」

 

 二体の奇術師が肩を並べ、同時に辞儀をして見せた。

 

「そして……マジック、リターンスモーク。黄泉の淵より目覚めよ、神霊王アメホシノミコト」

 

 奇術師たちは両手を広げ、新たなる出演者である神霊王の復活を祝した。

 

(これでもまだ攻め手は足りない……か)

 

 麗は手札にある一枚のカード……二枚目のリターンスモークを見つめていた。

 

『麗ちゃん』

 

 懐かしい声。はっとなった麗が顔を上げるとそこには幼い美香の顔……それは、大人になった今の美香の顔へと戻った。

 

「ゼロって、何もないことだけど……何もないからこそ、それまで培った経験と新しい想いを込めた1を加えるだけで、全く違った可能性が開けていくんだよね」

 

「え……?」

 

「麗ちゃんの受け売り」

 

 美香の言う「麗ちゃん」とは、今の麗というよりも、過去の「麗ちゃん」を指している――麗にはそう感じられた。

 

(そう、ゼロはあらゆるものの始まりの数字。そこに何か……自分だけの1を加えれば、各々の世界が続いていく)

 

「私、美都が生まれてきてくれてすっごく良かったと思っているし、今でもずっと美都に感謝しているんだ。私にとって、美都は全く新しい、最高の一ってことになるかな。……麗ちゃんにとっての小夜ちゃんも、そうだって信じている」

 

「そう……だね」

 

 あれから色々あったけど……こうして、美香と同じ時間、同じ空気を感じているのはとても貴重な体験……麗はそう思い始めていた。

 

「今の私たちと昔の私たちは違う。でも、私たちはお互い子を持つ母として、昔とは違った面でわかり合えるんじゃないかなって思うんだ」

 

 美香の言いたいことは、何となくわかる。まだ、迷いを清算してゼロにするには至らないけど……。

 

「……私も、あの頃の私たちも、今の私たちも、どっちも大切だと思うよ……美香」

 

 自然に口をついて出た言葉。

 

「麗……」

 

 そう、過去は今と違うけど、両方とも違うからこそ、それぞれに尊いものもある。

 

「マジック、リターンスモークを使用。ソウルコアをコストとして支払うことで、コスト6以下のスピリットカードの召喚を可能とする」

 

 幾重にも重なり吹き出す紫煙。その中より現れしは、

 

『零の使者にして、闇のヒーロー。さあ、お使いの時間だよ、魔犬ゼロ!』

 

 実体化する、漆黒のチワワ犬。四本の足で大地に立つ。

 

(魔犬ゼロ……私が心の拠り所にしていた最高のヒーロー)

 

 小さな体躯でありながら、底知れぬ魔力を秘めた闇のスピリット。魔犬ゼロはクゥゥンと鳴き声を上げ、三角の耳をぴょこっと立てた。

 

「戻って来てくれたね、あなたのゼロが」

 

 美香は嬉しそうに言った。

 

(そう、あなたの望み通り召喚したけど……これは、わたしの望みでもあった)

 

「アタックステップ。神霊王アメホシノミコトでアタック。アタック時、零ノ障壁を手札に戻す」

 

 神器を構え、突進する神霊王。周囲には、神力によって形成された霊的な渦が広がっていく。

 

「豊穣の女王神テスモポロスでブロック」

 

 テスモポロスが杖を振りかざし、己を取り囲みつつあった相手の神力を振り払った。正面からの衝突では歯が立たないと察した神霊王が、勾玉から放った光線を鏡を使って乱反射させ、テスモポロスをかく乱させる。

 

 一気に近づき、剣を振り上げる神霊王。だが、テスモポロスの方がうわてであった。大地より突き出す土の槍が神霊王の周囲を取り囲み、勾玉の霊力を閉じ込めた。

 

 身動きのできなくなった神霊王に対して、テスモポロスの放った緑の波動が決め手となり、実態を維持できなくなった神霊王はまとまりのない紫煙となり、消え去った。

 

「続けて、バトレイでアタック」

 

 駆けだすバトレイ。その行く手を遮る、スピリットの影。

 

「お出かけラム、ブロック」

 

 盾を構えるラムディエル。そこから放たれた光弾を受け、バトレイは吹き飛ばされてしまった。

 

「Lv1のバトレイはアタック時に無色とはならず、黄色としても扱うスピリット。よって、この破壊により、手札から聡明叡智ブレイン雪を召喚!」

 

 三度現れる、仮面の女子。召喚時効果も発揮されたが、オープンカードは天空勇士フェニックジャク、堕天使ミカファール、引っ込み思案のドルイド僧リルラであり、追加効果は発揮されなかった。

 

「もう一体のバトレイで、アタック」

 

「それも二体目のラムで、ブロック」

 

 次なるラムディエルはハンマーを振りかざし、迫り来るバトレイを宙に突き上げた。バトレイは終幕を悟り、取りこぼした竜玉に未練も残さずに、すべての観客に対する敬意を込めて深くお辞儀をしたまま消え去った。

 

「まだまだ、聡明叡智ブレイン雪でアタック!」

 

 すでに、美香のブロッカーはいない。ブレイン雪は優勢になった盤面を見渡してから頷くと、自らフィールドを飛翔し、美香のライフを目掛けて特攻した。

 

「ライフで受けるよ」

 

 ブレイン雪の平手打ちがコアを弾き飛ばした。

 

「私のライフが残り1つで……対峙しているのは、ゼロ。あの頃とおんなじ、だね」

 

「確かに似ているけど……これもまた、新しい世界の入り口。だって私たちには、まだまだゼロから始められることがたくさんあるから」

 

「うん、そうかもね」

 

 麗の指示を待っている魔犬ゼロが、麗の顔を見上げる。

 

(わかっているよ……この戦いは、一旦ゼロに帰すけど……そこから始まる、何かにきっと意義がある)

 

「魔犬ゼロ、お使いだよ。行っておいで!」

 

 ワォンと一鳴き。駆ける黒き魔犬。

 

「ゼロのアタック、最後のライフで受ける!」

 

 美香のライフに飛びかかり、激突する魔犬ゼロ。麗と美香によって創造された世界に黒い歪が広がっていき、すべてがゼロへと還っていく。

 

 だけど、このゼロは終わりではない――新たな、始まり。麗と美香は、同時にそう心に誓っていた。




★来星の呟き

今回のリプレイ(活動報告に飛びます)

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=271900&uid=341911

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=271901&uid=341911

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=271902&uid=341911

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=271903&uid=341911


土の熾天使ラムディエルの相手による消滅時に発揮する効果の処理を忘れるという失態をおかしてしまい、
神世界紀行 土の熾天使ラムディエルと入れ替えた部分があったりします。
(結果、普通のラムディエルは一度も召喚されなかった。。。

狩野美香としては、月坂麗に魔犬ゼロを召喚させることが目的でもあったので、
最終的にリターンスモークで魔犬ゼロを召喚するのが立派な選択肢と言えるような展開にも持っていかれました。
聡明叡智ブレイン雪や神産ノ武神オノゴロウはトラッシュに置かれず、デッキの下に戻されていたり。。


咲月帝アルティメット・ウィステリアに関して。
自分は男装した女性という解釈で書いております。
どちらかと言うと女性からもてる百合系だけど、パートナーの竜とは相思相愛の特別な関係……というイメージ。
要するに、吸血姫ヴァンピレスとそのお供の黒竜に関する自分の解釈と共通させちゃっています。

(なお、ヴァンピレスのお供は闇帝オプス・キュリテが変身した姿とも考え、ヴァンピレスは闇帝の花嫁……と、自作設定があります
マジックカード、サクリファイスでも、両者は特別な関係に見えてくるもので

ウィステリアの召喚口上に「麗しき」を入れたのは、勿論、使い手が麗だから。


魔犬ゼロはチワールと共通する要素を複数持った小玩スピリットでもあり、娘の小夜の魂のカードがチワールならば、母親は魔犬ゼロという関連。
何気に剣刃編の「闇のスピリット」であり、「闇のヒーロー」といった呼称はその辺とも関連。
こちらも零と麗をかけています。

魔犬ゼロは今回のフィニッシャーではあるものの、効果を使う機会が無かったので、
麗が新しく組みなおした自分のデッキを使用する際に、もっと見せ場を出したい所存。
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