バトスピ☆明けの星町は大騒ぎ   作:来星馬玲

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母たちのブライダル 後編

「これは……ファビュラスな事件が起きそうなよ・か・ん」

 

 幼さと妖艶さを兼ね備えた少女の声。

 

 そこは、黄昏の下に広がる赤と青の混ざった紫色の花園。夜の近づいている空には、欠けた月が薄っすらと白く光っていた。

 

 先ほどの声の主である桃色の髪の少女が透き通った紫色の翼を広げ、宙を舞う。

 

「大変、たいへーん!」

 

 少女は打って変わった慌てふためいている様子で騒ぎながら、花園が続いている坂を上った先の、丘の上の古城を目指して、一直線に飛んでいった。

 

 少女の接近に驚き、古城のベランダ付近の屋根で屯していたアメジストの頭部を持つ魔界の鳩たちが一斉に飛び去った。

 

「ああ、ごめんね、ピジョンヘディレスたち。あとで真っ黒豆おごってあげるからねー」

 

 お詫びの言葉も早々に切り上げ、ベランダに降り立つ。

 

「ウィステリアさまぁ」

 

 少女は開け放してある掃き出し窓から、中に飛び込んだ。

 

「騒々しいね……どうしたんだい、リリナ」

 

 窓辺に置かれている鉢に植えられた小さな藤の木の剪定を行っている、蝙蝠のような翼を備えた人物――ウィステリアが言った。

 

「急にお邪魔してごめんなさい。でもでも、大変、たいへん、エマージェンシーなんですよ!」

 

「まあまあ、まずは落ち着いて。はい、深呼吸」

 

 すーはーと深呼吸を繰り返すリリナ。

 

「落ち着いたかい?」

 

 やんわりと尋ねるウィステリア。

 

「はい、落ち着きました!」

 

 ビシっと敬礼をしながら応えるリリナ。

 

「宜しい」

 

 そう言いながらリリナに背を向け、鉢植えの手入れに戻るウィステリア。リリナは慌てて「いやいやいや」と言ってウィステリアを呼び止める。

 

「だから一大事なんですってば。大創界石が消えてしまったんですよ。跡形もなく」

 

「ふーん。それは、一大事だね」

 

 ウィステリアは、まだ花芽のついていない藤の樹形を剪定ハサミで整えながら答えた。

 

「て……ウィステリアさま、随分と落ち着いていらっしゃいますね」

 

「キミの方こそ、大変だって言っている割には、随分と楽しそうだけど?」

 

「あ、バレてます? えっへへ……だってこんなの、そう滅多にある話じゃないですからね……だから」

 

「とってもファビュラスな予感だね」

 

「……もう、先に言わないでくださいよー」

 

 頬をぷーっと膨らませて抗議するリリナ。ウィステリアはクスっと微笑むと、彼女の方へ向き直った。 

 

「僕の方でも、それらしい気配は察していたからね。一帯に流れている魔力の流れが大きく変わり……何か、ぽっかりと、穴が開いてしまったから」

 

 妙に落ち着いているウィステリアを歯がゆく思い、リリナが言う。

 

「魔術皇の力が宿っている大創界石ですよ? それがどこかに持ち去られたとしたら、只事では済まされません」

 

「一応、僕の方でもある程度の目星はつけてあるよ。おそらくだけど……先日、創手から通達の合った聖龍帝の件が、関わっていると思う」

 

「時の監視者たちが権利を争っているというアレですか。まったく、はた迷惑な話ですよねー」 

 

 ウィステリアはそっと目を閉じる。そして、この世で最も近しい者に対して語り掛けた。

 

(きみなら、知っているのだろう)

 

(…………)

 

(おや、だんまりかい? ぼくに対して、隠し事は無しにして欲しいね)

 

(……ワタシもはっきりと感知したわけではない。ただ……人間と龍帝が関与している、というおおかたの検討はついているがね)

 

(れいの七龍帝の適合者たちかな?)

 

(そうであろう。……何れにしても、我々の世界の秩序を脅かしかねない者どもだ)

 

(でも、時代は移り変わっていくもの。もう、これまでの常識が通用しなくなっているのかもしれないよ)

 

(ワタシとしては、姫君には下手に触れて欲しくはないのだがね。……まあ、止め立てはせぬが)

 

「ウィステリアさまぁ。聞いているんですかー?」

 

 リリナが少しムッとした表情でウィステリアの顔を覗き込んでいた。

 

「ああ、聞いているよ。……魔術皇の大創界石か。確かに、今の人間たちが扱うにしては、ちょっと大物過ぎる気がしないでもない」

 

 微かにふふっと笑うウィステリア。リリナはきょとんとした顔で、首を傾げていた。

 

 

 

 夜のコンビニの自動ドアが開かれ、片手にトートバッグをぶら下げている麗が外に出てきた。

 

 トートバッグの中に入っているのは、乾電池やティッシュなどの日用品……それに、パック詰めのキウイ。

 

(遅くなったことで美香は謝っていたけど……どの道、帰る頃には小夜も寝ているから……ね)

 

 小夜、今日も一人で……既に、零時は過ぎているけど……お留守番してくれていたんだよね。

 

 自分はあの優しい小夜に相応しい母親だろうか……なんて、幾度も考えていたけど、小夜はわたしの所に生まれてきてくれて、今でもいつも「ありがとう」って言ってくれる。なら、自分ももっと胸を張って母親としての自信を持たないといけない――麗はそう思った。

 

 トートバッグとは別の、革製の鞄の中身のことを思い出す。この中には、美香から譲ってもらった、今日の対戦で使用したデッキが入っている。

 

(美香はずっと、貰ったカードをわたしに返したかった……そう、言っていたな。昔のわたしは……もう直接使う機会もないだろうから、彼女に譲ったのだけど)

 

 長い長いお使いに出かけていたゼロたちが戻ってきたことで、自分は純粋に嬉しいと思えるようになっている。

 

(お帰り、ゼロ。……それに、ウィステリア)

 

 麗は一瞬、微かな犬の鳴き声がどこかで聞こえたような気がした。

 

 会社の社員用の駐車場へ向かう途中、美香と再会した場所でもある、あの衣装屋が目に入った。そこの外付けのショーケースには、ウエディングドレスが変わることなく展示されている。

 

 立ち止まり、じっとそれに見入る麗。

 

 かつて、麗も美香も花嫁だった。その延長線上で、小夜……それに、美都が生まれ、今の生活がある。

 

(だったらさ……誇りを持たなきゃ、だよね。お母さんたちは立派な花嫁だったんだって)

 

 暫しの間、ショーケースを眺めていた麗。

 

 やがて、麗はその場を立ち去る。小夜のいる家へ早く帰ろう――麗は、明日の朝、小夜と顔を合わせられる機会を考えていた。

 

 

 

 麗と一定の距離を保ちながら、彼女を尾行していた人物の影。その者は、麗が衣装屋の前を離れたところで追跡を止め、表通りにひょっこりと顔を出した。

 

「……うん、後悔はしていない」

 

 ぽつりと呟いた人物――エドワキア・リローヴイ。彼女の周囲には、黒く霊的なオーラが漂っていた。

 

 エドワキアは麗の去っていった方角を見やり、ふうと息を吐いた。夜の空気は若干冷たく、僅かな白い息が空気中を漂う。

 

「やはり、ここにいましたか……エドワキアさん」

 

 背後から響く、透き通った女性のものらしき声。エドワキアは一瞬ドキリとしたが、すぐに落ち着きを取り戻して、そちらに振り返る。

 

「何か用? 創手さん」

 

 ぶっきらぼうに言うエドワキア。

 

「いえ、別に用というほどではありませんけどね。たまたま帰りに見かけたので、お声かけしただけですよ」

 

「ふーん、じゃあ、もうさよならだね」

 

 手を振り、相手に背を向けるエドワキア。

 

「……魔術皇ア=ズーラ、その力は聖龍帝に勝るとも劣らない。それを直接現世に解き放ったりしたら、ただではすまされませんよ」

 

 やっぱり、言いたいことがあるんじゃないか――エドワキアはため息をつく。

 

「心配しなくても、そんなことをするつもりはない。私もオプス・キュリテも……今の生活を破壊したくはないから」

 

 エドワキアはそう言うと、相手に振り返ることもなく、足早に立ち去っていく。

 

「……ええ、この身体の持ち主も、双方の世界の安寧を望んでいる」

 

 それは、エドワキアに向けられた言葉ではなかった。ふと、女性が他方へ振り向くと、二人の人影が近づいてくるのが目に入った。

 

「あれは……」

 

 女性は相手の姿を見定めると、黙って姿を消した。相手の方では女性の姿を視認していたらしいが、特に気に留める様子もなかった。

 

 まだ三十路くらいの年齢と見受けられる男と、このような深夜に起きているのは不釣り合いな十歳くらいの少女。男は黒いスーツを着こなし、少女は白いワンピースを身につけていた。

 

「パパ、本当にいいの? だいじな会合だって言ってなかったっけ」

 

 少女が傍らの父親らしき男に話しかけた。

 

「構いやしないさ。どうせ、大した用事じゃなかったみたいだからね」

 

「ふーん」

 

 少女は不思議そうな顔をしながらも、それ以上問うこともなく、前方の建物に備え付けられているショーケースを見やった。

 

「あ、スウェーデングドレスだぁ」

 

 少女ははしゃぎながら、ショーケースに走り寄る。

 

「これはウエディングドレスだよ」

 

 後ろからゆっくりと追いついてきた父親が、やんわりと教える。

 

「うん。知ってる。お嫁さんが着るドレスでしょ」

 

 少女のソプラノが夜の街に響く。父親は少女を優しくたしなめ、その大きな声を抑えさせた。

 

「お母さんもこれを着ていたんだよね」

 

 声を抑えても、少女のはきはきとした調子は変わらない。瞳を輝かせ、ドレスに見入っている。

 

「ああ、そうだよ」

 

「とってもきれいだったでしょ?」

 

「ああ、綺麗だったよ」

 

「フーミィもいつか着てみたいなぁ」

 

「きっと着れるさ。フーミィみたいな可愛い子だったら、みんな羨ましがるよ」

 

「わあ、パパ嬉しい」

 

 父親の娘を見る眼は、深い慈愛で満ちていた。

 

「早くママに会いたいなぁ。今でも綺麗なんだろうなぁ」

 

「そうだね。必ず、ママに会わせてやるからね」

 

 父親もやがて、ウエディングドレスをじいっと見つめる。

 

「そのために、この街に娘を連れて来たんだから……」

 

 男の眼が段々と憂いの色に染まっていく。フーミィと呼ばれた少女は、心配そうに父親の顔を見上げる。

 

(ああ……会わせてやるとも……私が、人でいられるうちに……)

 

「パパ、何かいった?」

 

「いいや、何も」

 

 しばらくの間、二人はウエディングドレスを見ていた。やがて、両者は手をつなぎ、夜の歩道を歩いていった。

 

「コードマン・ルビー……ですね。やはり……」

 

 姿を消していた女性がショーケースの前に立ち、二人が去っていった方向を見ていた。

 

「私としては、まだ異なる世界が交わるには早すぎると思いますが。……いえ」

 

 女性は思わず言葉を切る。

 

「いけませんね。クロロクロロに聞かれたら、笑われますか」

 

 女性は再度、その姿を消した。

 

 誰もいなくなった深夜の歩道。そこには、多くの者たちの夢と憧れの的となるウエディングドレスが変わらずに鎮座していた。それは、明日もそのまた明日も変わることなく、人々にとっての一つの心の拠り所として、あり続けるのかもしれない。




★来星の呟き

夜月の歌姫リリナが登場していますが、
今回の話で麗が使用したデッキ、現実でも改造してミストミラージュやリリナが入っていたりするので、次に麗が使用する時は大分様変わりしそうです。
麗が自分なりに組みなおしたって設定にはなりますけども。。
(麗が今度対戦する時までに、出来れば、キャバルリースラッシュ×3は揃えたい……


次回予告。

次回の舞台は、明けの星小学校。
風良那柘 が再登場し、ガーネット・ルーティのデッキを使用。
ステゴレムサウルスを中心とした造兵&地竜デッキの使い手の少年と対戦します。

また、小夜と同じクラブに属する子供たち、、
ボーン・ベア&重剣聖ムーンベアの使い手であるクマさん推しの少女や、
カンネイド・エースを愛用し、大牙帝ビャクガロード・ソンケン等の華兵スピリットも使用する、三国志の呉が大好きな少年も登場します。
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