バトスピ☆明けの星町は大騒ぎ   作:来星馬玲

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動き出した時冠 後編

 白で統一された一室に、夕日が差し込んだ。窓から覗ける桜の木は満開で、薄暮に染められた桃色の花が、風に揺れながら煌いていた。

 

「桜、綺麗だね」

 

 病院のベッドの上で上体を起こしている、美都が呟いた。

 

 美都のいる病室のベッドの上の白いシーツには、先ほどまで二人で遊んでいたバトルスピリッツのカードが散らばっていた。

 

 最後までフィールドに残っていた金星神龍ヴィーナ・フェーザーのカードに、窓から差し込んだ陽ざしが当たり、真っ白に輝いた。

 

「うん。学校の桜もみんな咲いていて、この前、辺羅ちゃんと一緒にいっぱい見て周ったんだ」

 

「そっか。辺羅ちゃんももう中学生になるんだよね」

 

 美都は懐かしむように窓の外の風景を眺めた。近くの桜、遠くの山の緑。草木が萌える、春の香りがこちらまで漂ってくるかのようであった。

 

「辺羅ちゃん、すごく寂しがっちゃって。桜を見て回った時もなかなか返してもらえなかったの」

 

「うーん、辺羅ちゃんも小夜ちゃんのこと大好きだからね。会える機会が減ったら仕方ないよ」

 

 小学三年生の小夜と、今年中学一年生になる辺羅。二人が同じ学校に通う機会はおそらくもうないのだ。辺羅の心境を思うと、美都も何だか寂しい気持ちになってしまう。

 

 こうして妹の小夜と一緒にいられる時間があとどれだけあるのだろう――度々美都が考えてしまうことであった。

 

 いつも元気いっぱいで、笑顔を絶やさない小夜。美都にとってはこの世で最も掛け替えのない天使のような存在。一方で、小夜のいない時間の辛さも引き立つことになってしまっているのであるが。

 

 暗い面持ちが小夜に伝わってしまったのだろう。小夜が心配そうに美都の顔をのぞき込んでいた。

 

「……お姉ちゃん?」

 

 小夜が姉を繋ぎとめようとしているかのように、囁きかけた。

 

「何でもないよ、小夜ちゃん」

 

 そういう美都であったが、小夜は寂しさに染まっている姉の目を見逃さなかった。

 

 

 

 時刻は午後六時を過ぎていた。

 

 小夜はもっと姉と一緒に居たかったし、美都も同じ気持であったが、時間の流れがそれを許さなかった。

 

 病室をあとにして、廊下を歩いている小夜の前に、一人の看護師が通りかかった。看護師は小夜に声をかけ、彼女をよく見知っている小夜も元気よく受け答えた。

 

「小夜ちゃん、いつもありがとうね。小夜ちゃんがいてくれるから、美都もわたしもとっても助かっているのよ」 

 

 にこにこと小夜に微笑みかける看護師は、美都の実の母親であった。名前は狩野美香。小夜にとっても、良き理解者として、打ち解けている人物である。

 

「……小夜ちゃんがうちの子だったら、美都も寂しくないのに……」

 

 ついぼやいてしまった美香は慌てて口を抑えた。

 

「わたしが離れたら、お母さんだって、きっと寂しいよ……」

 

 小夜の言葉を聞いた美香は申し訳ないといった様子で謝った。

 

「ごめんね、小夜ちゃん。こんなこと言っちゃって。……でも、小夜ちゃんが娘でいてくれて、麗も幸せ者だな」

 

 その後、美香は別れの挨拶を小夜とかわし、廊下を通り過ぎていった。

 

 

 

 夕日は沈みかかり、夕闇が迫って来ていた。すっかり帰りが遅くなってしまった小夜は足早に明けの星病院をあとにする。

 

 小夜の家は病院からそう遠くは無い。ただ、美都と美香が母娘二人で暮らす家は少し離れたところにあり、小学生の小夜にとって、気軽に毎日向かうことは出来なかった。

 

 それ故、美都がリハビリを兼ねて病院に入院している期間が、最も二人が一緒に居られる時であった。

 

 小夜は病院を離れ、交差点に差し掛かった。ここを曲がれば、もう家まではすぐである。

 

(あ……あの人)

 

 小夜の目に留まったのは、横断歩道の前で立ち尽くしている様子の人物。黒い兎を模したと思しきパーカーを羽織っており、両手には抱えきるのも大変と見受けられる大量の荷物が支えられていた。

 

(あんなにたくさん……大丈夫かなぁ?)

 

 信号が変わり、その人物が意を決して歩き出そうとした時、支えを失った荷物が歩道に勢いよく散らばった。

 

「あ、大変!」

 

 小夜は迷わず駆けだした。慌てて崩れ落ちた荷物をかき集める黒兎のパーカーを着た人物。小夜はその傍に駆け寄り、拾い集める作業を手伝ってやった。

 

 突然の小夜の登場に驚いた人物。小夜と顔を合わせる。

 

(綺麗……外人さんだぁ)

 

 白い肌にやや金に近い栗色の髪の毛。青みがかった澄んだ瞳。小夜にとっては幾分大人びて見えたが、まだ少女と呼んでも差し支えない年齢の女性とも思われる。

 

 黒兎のパーカーを羽織った外国人女性は、小夜に対して戸惑った様子であった。小夜は構わずに、彼女の荷物を綺麗にまとめていく。特に、道路に転がりだしてしまった物は優先して真っ先に回収してあげた。

 

 荷物は日用品などの雑貨が主で、近所の店で買ってきた物らしかった。

 

「あ、カードだ」

 

 小夜は少し離れたところまで転がっていた布で作られた携帯用のカードケースに気がついた。カードケースは開いてしまっており、中から紫色のカードが散らばり出してしまっている。

 

 小夜が散らばったカードを拾い始めると、黒兎の少女は何事かを言い、小夜の手からカードの束を取り上げた。

 

 それでも、たまたま小夜の手には一枚のカードが残っていた。

 

「闇帝オプス・キュリテ……紫の龍帝」

 

「返して!」

 

 少女が叫び、ひったくるようにして小夜の持っていたカードを取った。

 

(日本語、喋れるんだ……)

 

 女性はぶつぶつと文句を言っている風であり、荷物を拾ってくれた小夜に対して怒っている様子に見受けられた。

 

「あの……こんなにたくさん、大変ですよね。手伝ってあげますよ」

 

 小夜は少女の態度に戸惑いながらも、できるだけ丁寧に、なだめるように言った。 

 

「いらない……もう、あっち行って」

 

 少女はぶっきらぼうに言う。

 

「でも……ほら、紐、伸び切っちゃているし、こんなに一人じゃ持ちきれないよ」

 

 小夜はよれよれになった買い物袋を整え、両腕で抱え上げた。大の大人であっても決して軽い量ではなく、まして小学生の小夜にとっては大きな荷物であった。

 

「いい……のに」

 

 少女は半ば諦念した様子でうなだれると、自分の分の荷物だけを抱え、小夜と共に、また信号が青色に変わるのを待った。

 

 

 

 

 少女の住居は小夜の家からそれほど遠くはないところにあった。そこは古いアパートで、少女の部屋は階段を一つ上がった二回の奥にあった。

 

 少女は抱え上げてきた荷物を部屋のドアの前に並べていき、小夜もそれに倣った。

 

「もう……いいよ。帰って」

 

 冷たく言い放つ少女に、小夜は困惑しながらも、(ちゃんと役に立てたかな?)と思いながら、一礼をするとその場を立ち去ろうとした。

 

 不意に、小夜は背中から呼び止められた。不思議に思って振り返った小夜に対して、少女は何かを言いたそうにしている風であった。

 

 なかなか相手が切り出してこないので、小夜は仕方なく、助け舟を出してやることにした。

 

「わたしの家、すぐ近くにあるの。ご近所さんだから、困ったことがあったら何でも言ってくださいね。力になるから」

 

 少女ははっとなって小夜の瞳をまじまじと見つめる。暫しの間黙っていたが、やがて小声で言った。

 

「その……ありがとう」

 

「はい。どういたしまして」

 

 はつらつとした小夜の顔を見て、少女も自然と笑みをこぼしていた。

 

「あなた、お名前、なんていうのかな……?」

 

「わたし? わたし、小夜。月坂小夜」

 

「さよ……」

 

 少女は何かに気づいた様子であったが、小夜にはよくわからなかった。

 

「わたしは、エドワキア。エドワキア・リローヴイ。……変な、名前、かな?」

 

「ううん、とっても素敵だと思うよ。エドワキアさん……可愛い」

 

「可愛い……?」

 

 小夜は、もしかしたら失礼なこと言ってしまったのかと思った。

 

 慌てて何か言い換えようとしている小夜を制するようにして、エドワキアが手を差し出した。

 

「えと、その……嬉しい」

 

 二人はそのまま手を握り合い、握手をかわした。エドワキアもすっかり小夜に打ち解けてきた様子であり、自分の簡単な身の上まで、語ってくれた。

 

 話によると、エドワキアは先日ロシアの故郷からこの町に引っ越してきたばかりで、今日は日用品の買い出しに出向いていたらしい。何度も往復するのは面倒だからと必要以上に買いこんでしまった結果、あの交差点で動けなくなってしまったのだとか。

 

「わたし、なるべく外には出ていたくないから。……いつも籠っていたいから、まとめて買っておこうと思って」

 

 エドワキアの言葉に、小夜は笑って答える。

 

「今は春の風景を楽しむのにもってこいだよ。桜だって綺麗だし、水仙とかタンポポとか、色んなお花も咲いているから」

 

「花……花は、わたしも好き。小夜と一緒なら見に行っても良い、かも」

 

「本当? じゃあ、今度一緒に見て回ろうね。ついでに、町のことも案内してあげたいな」

 

「うん。小夜と一緒なら、いい、かも」

 

 ちょっととっつきにくいかな、と当初小夜は思ったものであったが、いざ打ち解けてみると優しくて、内面も綺麗な人なんだな――小夜はそう思った。

 

 もっとエドワキアと話していたかったが、既に日が落ちてしまっており、急いで帰らないといけなかった小夜は別れの言葉を伝えた。エドワキアも名残惜しそうではあったが、小夜に迷惑をかけまいと、見送った。

 

「その……また、会おうね」

 

「うん、またね」

 

 二人が最後にかわした会話はそんな内容であった。別れ際、無表情だったエドワキアは自然と笑顔になっており、彼女の笑顔を見ることができて、小夜はとても嬉しかった。

 

 

 

「ただいまー。……お母さん、いない、か」

 

 帰宅した小夜。母の姿はなかったが、いつものことであるので小夜は別段気にはしなかった。

 

 冷蔵庫にはお馴染みの張り紙があった。

 

『きょうもおそくなるから、おべんとうを電子レンジで、あたためてたべてください 母より』

 

「うん、ありがとう、お母さん」

 

 小夜は一人ぼっちの夕食をとった。

 

 その晩、小夜が就寝する時刻になるまで、母が帰ってくることは無かった。

 

 

 

 自室に閉じこもって、一人で物品の整理をしていたエドワキアは、ふと、卓の上に置かれた紫のカードに目を留めた。すっと手を伸ばし、そのカードを拾い上げる。

 

 手にしたのは一枚のバトルスピリッツのカード。紫の龍帝、闇帝オプス・キュリテであった。

 

「ん……そっか、小夜……あの子が」

 

 エドワキアはあの純真な女の子のことを思い出し、微かに笑みを浮かべていた。

 

「これもあなたのお導き、かな。……この町に来てよかった、な」

 

 エドワキアはそう呟いた。




★来星の呟き

ここで、ようやく一区切り。
基本的に、3本で一話分という構成にするつもりです。

季節感を出していきたいので、4月中に第三話までは進めたいと思っております。


背景世界の異界見聞録を題材にした小説も、
各色6つ、ロロが主人公の最終章、フライドチキンの殿堂に迷い込んだロロとトリックスターの大冒険
……という、八作品を手掛けたいと思っておりますが、未だ白の世界すら完結していない有様で……先行きは不安。構想はあるけども。


予め書いておきますと、
エドワキアはロンバルディアが集めた七人の龍帝の探究者の一人ですが、
特に出番は多くなると思います。

これはもう作者の好みで、闇帝が龍帝の中で一番好きだから……。
(米田仁士氏が描く闇帝オプス・キュリテ&紫煙の竜使いヴァイオレット、
 末弥純氏が描く闇帝竜騎サブナ・ルーク、そして蛇凰神バァラルがタッグを組めるとか、ファンにとっては感涙ものよよ。。。)

あと、煌闇帝は煌臨軸か死竜軸でないと活躍が難しいので、
闇帝デッキと煌闇帝デッキを、それぞれ別に使用する予定でもあります。
 


一応、次回予告。
第二話では、小説家でシェンウーモン使いの三十路男と、
魔海獣ダガーラ使いの女子中学生が対決します。
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