バトスピ☆明けの星町は大騒ぎ   作:来星馬玲

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魚と亀の攻防 後編

「く、く、くやしいい!」

 

 対戦が終わるなり、辺羅が頭を抱えて叫んだ。

 

(辺羅ちゃんがこんなに悔しがる姿、初めて見た……)

 

 小夜は辺羅に難と声をかけて良いものかと、逡巡していた。

 

 無理もない、辺羅にとって最高の相棒と呼べる魔海獣ダガーラが何度も召喚されながらも、毎度疲労させられ続けた結果、遂に一回もアタックできずに負けてしまったのだ。

 

「ふふん、ぼくのこの最後の手札がよっぽど気にかかっていたようだね」

 

 そう言いながら、重武は最後に残った自分の手札を、己を団扇で仰ぐようにして揺らした。

 

「ぐ……」

 

 言葉に詰まる辺羅。

 

「おや、図星だったみたいだね。それじゃあ、お見せしようか」

 

 重武がくるりと辺羅に向かってカードの表を見せる。それは、鋼葉の樹林のカード。要するに、ブラフであったのだ。

 

「そ、それを手にしたままおっさんはあんなあからさまに……ぐ、き、きたないぞ……ちくしょ」

 

「お嬢ちゃんはあれだけ手札に差をつけていたことで慢心していたのさ。だから、攻めるべきところで、攻め手を緩めてしまった……」

 

 辺羅は重武に向かって怒鳴り散らすところであったが、隣の小夜の心配そうな面持ちに目が行った。

 

(あ……こんなところ、見られたら、小夜ちゃんに嫌われる……)

 

 押し黙り、俯く辺羅。やがて、自分を落ち着かせた辺羅は重武に向かって言う。

 

「……確かに、おっさんの言う通りかもしれない。完敗だよ、あたしの」

 

 落ち込んだ様子でありながら、辺羅から素直にそう言われ、今度は重武の方が戸惑った。

 

「え、あ、まあ。追い詰められていたのはぼくの方だし……良い勝負だったよ、うん」

 

 さりげなく、手を差し出す重武。素性の知れない、自分の一回り以上は年上の男の手を見てぎょっとなる辺羅。しかし、二人を見守る小夜の目の前で、それを拒否することはできなかった。

 

 辺羅も手を出し、二人は握手をする。小夜の顔がぱあっと明るくなる。

 

「やった! 二人とも仲直りできたね。これで二人も友だちだよ」

 

「二人……も、友だち、はあ……」

 

 落胆した様子でため息をつく重武。何が原因で重武が気を落としているのかわからない小夜。一方で重武の考えていることがよくわかる辺羅は、内心ほっとしていた。

 

 

 

 公園の隅の生垣から、小夜たち三人様子を覗いている二人の人物の姿。

 

 一人は黒い髪を肩まで伸ばした若い女性。もう一人は重武を占ったあの老婆であった。

 

「もう、お祖母ちゃんったら。また人様に変なこと吹き込んだりして……」

 

 若い女性の方があきれた様子で言った。

 

「ふぉっふぉ。わしは悩める若人の肩を、そっと押してやっただけさ」

 

「あの人、すっかり信じ込んじゃったよ。これから一体何をしでかすのか、不安になるよ……」

 

「なあに、あの二人にとっても悪いことになりはしないよ。萌架、あんたにとっても」

 

「正直、ああいう男の人とは一切関わり合いたくないんだけど……はぁぁ……」

 

 すっかり脱力した様子の、萌架と呼ばれた女性。

 

「萌架、あんたのお仲間もあの小夜という女の子に惹かれているようだの。時の監視者どもの都合は知らぬが、これも向こう側の住民のお導きかねぇ」

 

「エドワキアさんのことなら、わたしもよく知らないもの。会ったのが昨日の今日だし……」

 

「何れにしても、そろそろ連中も動き出す頃合いかのう。ま、わしも応援しとるから、せいぜい頑張んな」

 

「そんな、他人事みたいに言わないでよ、お祖母ちゃん」

 

 萌架は改めて小夜、辺羅、重武の三人を見つめた。こうして見ると、何とも不釣り合いな三人であったが、今は談笑しているその様子は、まるで昔からの知り合いであったかのように見えてくる。

 

「小夜ちゃん、か。本当に、色んな人が惹かれていく……不思議な子」

 

 萌架が小さく呟いた。

 

 

 

 すっかり打ち解けた三人は、それからもバトスピの話をしたり、公園の緑を楽しんだりしていた。やがて日没が近づき、夕日によって赤く彩られた街並みと街路樹が、今日という一日の終わりを告げようとしていた。

 

「おっさん、今度は負けないからな」

 

「今度……ね。ああ、でも、お手柔らかに頼むよ」

 

 それから重武は小夜の方へと向き直った。

 

「で、どうだい、ぼくのこと、惚れなおした? ぼくとしてはいつでもオーのケーだからさ、改めてぼくとお付き合いしてみるとか……」

 

 重武の言うことが呑み込めず、きょとんとする小夜。むっとした辺羅が素早く足を出すと、重武の左足を思いっきり踏みつけた。

 

「いでぇ!」

 

 オーバーなリアクションで足を抑えてぴょんぴょんと跳ねる重武。慌てて辺羅を宥めようとする小夜。だが、辺羅は重武の様子が可笑しくなって、自然と笑みをこぼしていた。

 

 

 

 公園で二人と別れた亀井重武。小夜のハートを射止められなかったのは心残りであったが、少なくとも、今日二人の女の子と素敵な出会いができたのは事実であったと、満面の笑みを浮かべていた。

 

「さあて、創作意欲が湧いてきたぞぉ。こりゃ、おちおちしていられない。急いで帰って書き始めなきゃあ」

 

 ここ数日、作家としてスランプに陥っていた重武であったが、今日の出会いが自分に与えてくれたものが新しい創作のヒントになってくれた――重武はそう確信していた。

 

 人影の少ない街道の中、重武は思わず、駆けだしていた。こうして駆けていく道の先、あの夕日が沈んだ後に日が昇る明日。そこには新しい、希望と魅力にあふれる何かが満ちている。重武は、そんな気がしていた。




★来星の呟き

自分は実際にデッキを回しながら、バトル中のストーリーを思い描くという創作手段を取り入れております。

やっていることはソリティアですが、テストプレイが最早趣味の一環みたいになっているわけですね。。
そこに使用者の人格も付け加えると、ロールプレイと化す感じ。

次回予告。

次回はバトスピ界一のアイドルカード(と言って良いと思う)を使用する、
月坂小夜にとっての保育園時代の先生が登場。
ぼちぼち、物語も進展する予定であります。

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