『ゲートオープン、界放!』
月坂小夜と蒼樹時菜が開始の台詞を宣言する。
「それじゃあ、小夜ちゃん、先攻後攻はコインで決めようね。表が出たら好きな方を選んでいいよ。コイントスは、なっちゃんにお願いしようかな」
時菜が店内に備え付けられている専用のコインを手に取ると、向かって左側にいる那柘に渡した。
「わ、わたし。……うう、ドキドキする」
那柘は自分の掌の上にある黄色いコインを見つめた。コインの表には、黄色の遊精スピリットのフロッガーが釣りをしている様子が描かれている。
那柘がコインを小さく放り上げた。コインは弧を描き、テーブルに落ちる。カツンと音を立てたコインは「BS」という文字の掘られた裏面であった。
「あ……裏かぁ」
小夜が呟く。
「じゃ、先生が先行を貰うね。いくね、小夜ちゃん」
♪第1ターン。
蒼樹時菜のターン。
時菜は各ステップを踏み、メインステップに入る。
「……神を失い、あるいは神から見放された、六つの世界があった。それらは蠢く六つの虚空に呑まれ、やがては隣り合う別の世界にも滅びの魔手を伸ばすに至る……」
語りだす、時菜。小夜は時菜の意図が呑み込めず、傍らの那柘もきょろきょろと時菜と小夜を交互に視ており、落ち着きのない様子であった。
「そして、その世界を巡った、一人の少女がいたの。その名は、リリ」
時菜が手札から、一枚のカードを取り出した。
「創界神ネクサス、プロデューサーリリを配置」
テーブルに置かれたのは、プロデューサーリリのカード。眼鏡をかけた少女、リリの姿が描かれており、薄紫色の髪が風に吹かれている。
「さあ、小夜ちゃん、なっちゃん。……イメージしなさい」
時菜が妙に改まった口調で言う。那柘は戸惑い、小夜も思わず緊張していた。
「わたしたちはね、今、スピリット世界の住民たちと同じ風を、同じ匂いを感じているの。見なさい、もうここは現世の喫茶店とは違う、風が囁く草原の真ん中……」
小夜と那柘は、周囲に広大な草原の風景が広がって見えた。
(え……わたしもお姉ちゃんや辺羅ちゃんとバトスピをする時は、いつも自分と相手の世界を思い描きながらバトルするけど……。でも、これは何か、違う。広大な世界に引き込まれてしまったような)
小夜は周囲の草原の香り、風圧などが奇妙なリアリティを伴って自分を包み込んでくるのを感じた。
それでも、イメージを中断するとふいに現実の喫茶店の中へ戻されてしまう。現実感を伴っていながらにして、とても、曖昧な世界。
小夜以上に驚いているのは那柘であった。那柘は未だカードバトラー同士のイメージする世界に触れたことが無かったので、唐突な世界の変化についていけず、自分が広大な草の海に飲み込まれそうになっていくのに、恐怖に似た感情を覚えていた。
ふいに、那柘の視界が現実の喫茶店に戻された。見ると、那柘の右腕を優しく掴む時菜の手が……。
「なっちゃん、自分を見失わないで。……今は怖いかもしれないけど、スピリットたちの暮らす世界はとっても素敵な綺麗なところだってこと、なっちゃんにも知って欲しいの」
「は……はい、時菜先生」
「手、離すね」
時菜は慎重に、ゆっくりと那柘から手を離した。
徐々にではあるが、那柘の脳裏に、また広大な草原のヴィジョンが浮かび上がり、それが鮮明になった途端、瞬時に世界が開けた。
まだ戸惑いはあったが、那柘はその世界の風と香りを感じ、音に耳を澄ませた。今もなお聞こえてくるマイサンシャインの歌が遠くから、微かに響いてきている気がする。
「ここは、人の創造力によって生み出されたイマジネーションワールド。スピリットたちは、人の想いによって創られていくの」
時菜はそう言いながら、プロデューサーリリの効果により、デッキの上から3枚をめくった。
「リリの配置時にトラッシュに置かれるカードは、2枚のピックシュートGtと麒麟星獣リーン。残念、神託条件は満たせないから、コアも置かれない」
小夜がちらりとトラッシュに送られたカードを見やる。麒麟星獣リーンにはREVIVALの文字が刻まれており、小夜の姉の狩野美都が使用する麒麟星獣リーンとは異なるらしい。
「先生はこれでターンエンド。さ、次は小夜ちゃんの番」
♪第2ターン。
月坂小夜のターン。
「ヒナリア・ダーケンドちゃんを配置するよ」
小夜がバトルフィールドに置いたのはコードマンの一人、ヒナリア・ダーケンド。黒猫を模したパーカーとふちの黒いゴーグルを身に着けた、銀髪の少女。
ヒナリアの配置時に小夜のデッキからトラッシュに3枚の置かれたカードは、白羊樹神セフィロ・アリエスX、絶対音獣ヌビアラ・ヴァティス、風蟲円舞。神託条件を満たすコスト3以上のスピリットカードは2枚のため、ヒナリアには2個のコアが置かれた。
「んー。ヒナリアちゃんには、この草原は眩しすぎるかも、ね」
時菜が品定めをするようにヒナリア・ダーケンドを見つめる。
「たしかに……」
小夜が想像すると、実際に草原の中に引っ張り出されたヒナリアの全身が浮かび上がった。ヒナリアは日の光の下に出されたことでぶつぶつと不平不満を呟いており、機嫌が悪そうである。
ヒナリアは自室に閉じこもり、オンラインゲームばかりをやっている少女。一方で天才的なハッカーという一面もあるが、どちらにしても、明らかに日陰者である。
(そういえば……ヒナリアちゃんってエドワキアさんに似ているかも。あ、別にエドワキアさんがそんな引き籠ってばかりいる人ってわけじゃなくて……)
小夜はそこまで考えたところで、にこにこ笑顔で自分を見つめる時菜と目が合い、慌てて思考を中断した。何やら、見透かされているようなくすぐったい感触がした。
「えっと……ティン・ソルジャーちゃんをLv1で召喚!」
軍服に身を包んだ玩具の兵隊がフィールドに飛び出した。その兵隊、ティン・ソルジャーは小夜の方へ振り向き、ピシッと敬礼をして見せる。
(人形が好きな小夜ちゃんらしいカードだなぁ……)
那柘が物珍しそうにティン・ソルジャーを見つめていた。
「マジック、イエローフィールドを使うね」
小夜が続けて使用したのはイエローフィールドのカード。その効果によりオープンされたカードは、白羊樹神セフィロ・アリエスXと2枚目のイエローフィールド。小夜はセフィロ・アリエスXを手札に加え、イエローフィールドを破棄した。
さらに、最初に使用したイエローフィールドはフィールドに置かれ、効果が適用される。
「あら、これでお互いの創界神ネクサスのシンボルはすべて0……。小夜ちゃんのヒナリアは元からシンボルが無いけど、先生のプロデューサーリリのシンボルは消えちゃったね」
草原を舞う、金色の蝶。その下には黄色い花々が咲き乱れ、まるで丸めたカーペットを敷くように花が広がっていく。
花に囲まれたリリが少し困ったような表情になって、周囲を見渡す。ヒナリアの周辺にも黄色い花が咲き誇ったが、ヒナリアは小さくため息をついただけであった。
「そして、バーストをセット。これでターンを終了するね」
♪第3ターン。
蒼樹時菜のターン。
「……それじゃあ、先生の魂のカードを見せちゃおうかな」
そう言う時菜が提示するのは一枚の黄のスピリットカード。そのカードに描かれている女性の姿を見て、小夜と那柘があっと言った。
「さぁ、みんな、かわいい声を聴かせてあげて。……どうぶつ達の詩姫ワルツをLv2で召喚」
草原の中に現れたのは、木製の古びた椅子に腰を掛けた長身の女性の姿。女性はライブ用のストレート型スタンドマイクを手にしており、コホンと軽く咳払いをした。
「時菜先生にそっくりな綺麗な人だね……」
那柘が呟き、小夜も頷く。どうぶつ達の詩姫ワルツに描かれている女性は、時菜と瓜二つというほどではないが、風に揺れる長い髪や優し気なまなざしから溢れる雰囲気はとてもよく似ている。小夜と那柘には、時菜とどうぶつ達の詩姫ワルツが重なって見えた。
「どうぶつ達の詩姫ワルツの効果により、先生の系統詩姫、遊精、剣獣を持つスピリットはBP+1000されるよ」
「あ……どうぶつさんたちが」
那柘の目には、詩姫の周囲に集まる動物たちの姿が映っていた。それは小夜とて同様であり、時菜とよく似た雰囲気の女性の周りには、穏やかな顔のトラ、ウサギ、リスといった動物たちが草原の優しい風を受けて、毛をなびかせている姿が見える。
「……さらに、詩姫が召喚されたことでプロデューサーリリの神託を発揮」
召喚された詩姫の澄んだ歌声が響いた。続けて、集まった動物たちの可愛い鳴き声が唱和する。それらに呼応するリリの手元には、薄く青みがかった白い魔法陣が浮かび上がった。
「先生もバーストをセット。アタックはしないで、ターン終了」
♪第4ターン。
月坂小夜のターン。
メインステップに入ると、小夜はこのターンに手札に加わった3枚目のイエローフィールドを使用した。オープンされたカードはダークイニシエーションとリバイバル版のポッポール。小夜はポッポールを手札に加える。
金色の蝶がもう一匹出現し、草原を走る更なる花園が、既に出現している花園と交差した。二匹の蝶が優雅に飛び回り、その情景を二人のカードバトラーと共有している那柘は、蝶の姿に目を奪われていた。
(あと一匹の蝶々はトラッシュというところに、落ちちゃったんだよね……ちょっと寂しいな)
那柘はぼんやりとそんなことを考えていた。
「おいで、ポッポールちゃん。ティン・ソルジャーちゃんを助けてあげて」
小夜は異魔神ブレイヴのポッポールを召喚し、ティン・ソルジャーに直接合体した。ふわりと舞い降りた白色の無機質な鳩が、玩具の兵隊の両肩にその足を乗せる。
「時菜先生、そろそろ攻めるよ。……アタックステップ、ティン・ソルジャーちゃんでアタック!」
ポッポールの助力を得て勢いを増したティン・ソルジャーが走り出す。
「そのアタック、どうぶつ達の詩姫ワルツでブロック!」
ティン・ソルジャーの突撃に対して、どうぶつ達の詩姫ワルツが身構える。合体したティン・ソルジャーのBPは5000。それに対してどうぶつ達の詩姫ワルツはBP4000。
ティン・ソルジャーの飛び蹴りがどうぶつ達の詩姫ワルツに命中し、飛ばされた彼女は草原の中へと消えていった。
集まっていた動物たちは詩姫が消えたことで右往左往してしまう。
「ああ……時菜先生のスピリットが消えちゃった……」
那柘が消え入りそうな声で呟いた。
「ふふっ、大丈夫よ、なっちゃん。先生は何度でも戻ってくるから……」
時菜はそう言うと、手札からマジックカードを取り出す。
「系統詩姫を持つわたしのスピリットがフィールドを離れたことにより、手札のピックシュートGtをコストを支払わずに使用」
小夜はそのマジックカードに見覚えがあった。
(あ、リリを配置した時に2枚もトラッシュに置かれたカードだ……ということは、これで3枚目)
「この効果で小夜ちゃんのティン・ソルジャーをBP-10000し、BP0になったとき、破壊する」
エレキギターを手にしたツインテールの女子学生がさっそうと現れ、軽快な音楽を奏でる。それを受けたティン・ソルジャーはクルクルと回りながら踊りだし、やがて力尽きたようにその場に倒れ込んでしまった。
「でも……ポッポールちゃんの合体時効果で、破壊されたティン・ソルジャーちゃんは手札に戻る」
ポッポールが玩具のようなかぎ爪でティン・ソルジャーを掴むと、クルリと宙返りをし、それと同時にティン・ソルジャーを小夜の方へと放り上げた。カードに戻ったティン・ソルジャーはそのまま小夜の手札に加えられる。
「効果発揮後、ピックシュートはフィールドに置かれる……そして、【歌】を持つマジックカードが置かれたことにより、手札から学園制服ディアナ・フルールをコストを支払わずに召喚!」
長い黒髪をなびかせて、黒い制服を着た詩姫、ディアナ・フルールが舞い降りた。
「ディアナ・フルールの召喚時に相手の合体しているブレイヴを破壊するけど、もう分離しちゃっているね。……でも、加えてBP7000以下の相手スピリットかアルティメットを破壊する効果もあるの。……ポッポールを破壊するよ」
ディアナ・フルールが歌唱する。それは草原を横切る可視化された星をまとった音波となり、ポッポールを直撃した。ポッポールはたまらずに、両翼をバタバタと震わせたまま、星の粒子となって消えた。
[学園制服]ディアナ・フルールの召喚と同時にプロデューサーリリの神託も発揮され、リリのコアは2個となった。
「あう、ポッポールちゃんが。……でも、召喚時効果が発揮されたことで、わたしはバーストを発動! 出ておいて、センティコアちゃん」
二本の長い角を振り上げ、猪の牙を持つ山羊のような姿をした幻獣、センティコア。自在に向きを変える両方の角がディアナ・フルールに向けられた。ディアナ・フルールが驚き慌てる。
「ディアナ・フルールちゃんはデッキの下に戻っちゃって」
二つの黄色い渦上の波動が瞬時に空間を伝わり、ディアナ・フルールを吹き飛ばす。飛ばされたディアナ・フルール黄色の燐光となって時菜のデッキの下に戻された。
「あらら。結局、先生のフィールド、がら空きになっちゃった」
残念そうでいて、それでも落ち着き払っている時菜。それとは対照的に、草原の中に取り残されたリリは落胆した様子であった。
そんなリリを慰めようとしているかのように、動物たちが彼女の周りに集まり、大きなトラは喉をごろごろと鳴らす。傍らに置かれたピックシュート「Gt」からも微かな音色が聞こえてきた。
「続けて、センティコアちゃんをバースト召喚! ヒナリアちゃんの神託も発揮されるよ」
日の光から目を背けているヒナリアのゴーグルが煌いた。ヒナリアは片手で日光を遮りながら、センティコアの方を見やる。神託により、ヒナリアのコアは3個となった。
小夜は追撃せず、そのままターンを終了した。
♪第5ターン。
蒼樹時菜のターン。
順当にステップを踏み、メインステップに入る時菜。
「いよいよ、今回のスペシャルゲストをお呼びしちゃおうかな」
悪戯っぽく笑う時菜が、新たな創界神ネクサスを配置する。そのカードを見て、小夜と那柘が口をそろえてある名前を言った。
「マイサンシャイン!」
時菜が場に出したのは、創界神マイサンシャインのカード。ピンクの髪を大きなリボンで結わえ、白と桃色のコスチュームの胸元には、マイサンシャインのトレードマークのハート模様がくっきりと浮かび上がっていた。
「そう、みんなの憧れのアーティスト、マイサンシャイン。彼女の歌声は新しい世界を創り出し、スピリットたちにも夢と希望を与えてくれる……」
広がる草原がマイサンシャインの舞台となる。肩を並べるリリもマイサンシャインの登場を心から祝福し、彼女を応援する。
そして、マイサンシャインの口が歌声を紡ぎ出し、備えられたヘッドセットマイクがこの世界へ響かせる――。
生まれてゆく新しい世界で
ずっとずっと 描いてく冒険記録
I hope for the best
何もかもつまらない時
涙流れ続ける時は
ときめきも楽しい事も
逃げて行っちゃうよ 変わらなきゃ
マイサンシャインの代表曲の一つ、冒険記録。喫茶店『ポニサス』の内部で流れている歌と、小夜と時菜のバトルフィールドに召喚されたマイサンシャインの歌声がリンクする。
(もしかして、時菜先生の伝えたいことって……)
小夜は右隣にいる那柘の方を見やる。那柘はマイサンシャインの歌声に聞きほれており、瞳を輝かせていた。
マイサンシャインの歌声に導かれて、動物たちが彼女の元へ集まってきた。皆、各々の鳴き声で応え、心の拠り所となるアイドルを応援する。
「それからね、マイサンシャインはどうぶつたちにも大人気なの。うふっ」
マイサンシャインが配置されたことで、時菜のデッキの上から3枚のカードがトラッシュに置かれた。置かれたカードはサイクルパワー、REVIVALの文字が刻印された大甲帝デスタウロス、龍面鬼ビランバ。
系統呪鬼を持つスピリットカードが置かれたことによって、マイサンシャインに2個のコアが追加される。
(え……ちょっと、怖いカードが)
那柘が目を丸くする。
「先生はこれでターンエンド。さ、小夜ちゃん。あなたの世界ももっと見せてね」
笑みを絶やさない時菜。それ以上のアクションは起こさずに、ターンを終了した。
♪第6ターン。
月坂小夜のターン。
マイサンシャインが現れて嬉しいのは小夜も那柘と同じであったが、そのマイサンシャインが対戦相手として、自分と対峙しているのだと思うと、緊張してしまった。
小夜は自分の思い描くバトスピで、時菜先生やマイサンシャインの前でも恥じないバトルをしようと心の中で自分に言い聞かせた。
「もう一度、ティン・ソルジャーちゃんを召喚!」
さっそうと現れたのは玩具の兵隊、ティン・ソルジャー。再び草原の世界に戻ってこれたことで、無表情なティン・ソルジャーも少し嬉しそうにしていると小夜は感じた。
「豊穣の輝き、生命の運び手。あの人の歌声に、応えて見せて! 白羊樹神セフィロ・アリエスXをLv1で召喚!」
豊かな獣毛を蓄えた牡牛、光導十二宮の一柱のX異種、白羊樹神セフィロ・アリエスX。その巨躯が草原の上に立ち上がった。
「セフィロ・アリエスXの輝きは、ヒナリアちゃんにも力を与える。神託発揮!」
嘶く牡牛から放たれた星の輝きを受け止め、ヒナリアの手元に生命の力が蓄えられる。これで、ヒナリアのコアは4個。
「アタックステップ……セフィロ・アリエスXで、アタック!」
大草原を駆ける、勇猛な牡牛。マイサンシャインとリリが控えている時菜のフィールドへ突進していった。
「そのアタック、ライフで受けるね」
セフィロ・アリエスXが時菜のライフコアを角で打ち砕いた。これで、時菜のライフは残り4個となる。
セフィロ・アリエスXは小夜のフィールドに引き返す際、傍らの二人の創界神たちを一瞥すると、咆哮を上げた。そのまま、一気に駆け戻っていく。
「ふふ、セフィロ・アリエスの可愛い声も聴かせて貰っちゃった」
ライフを削られた時菜であるが、とても嬉しそうであった。
小夜はターンを終了し、舞台は次の局面へと移行する。
♪第7ターン。
蒼樹時菜のターン。
「六色の輝きを持つ孤高のランナー、偽りの神皇ミケガミを召喚!」
宝石を散りばめた金色の豪華な装飾をまとった、大柄な猫の出現。蓄えられた仙人の髭を連想させる獣毛が、草原の風を受け、揺れていた。
「ミケガミは系統想獣を持つ。マイサンシャインの神託を発揮」
六つの宝石の輝きがライトアップの如く交差し、マイサンシャインを照らした。
風のにおいも虫の会話も
ポケットに詰め込んで
立ち止まるにはまだ早すぎる
進む時間も追い越せ!
マイサンシャインの歌声と共に、ミケガミが地上を駆ける。風も音もあっという間に追い越す神皇の疾走は、それこそ時間の流れさえも追い越す勢いと、那柘には思えた。
「ミケガミの召喚時、デッキから1枚ドロー。さらに、ミケガミの【封印】を発揮!」
時菜のリザーブに置かれていたソウルコアがすうっと浮かび上がり、一瞬でミケガミの額から生えている青白い角に吸い寄せられた。ソウルコアは一際強く光ったのち、時菜のライフへと吸い込まれていった。
「【封印】……! ソウルコアが時菜先生のライフに!」
「そう、これで先生のライフは5個に戻ったよ」
「で、でも、ミケガミもセフィロ・アリエスXの輝きからは逃れられない……!」
小夜の言う通りであった。駆けるミケガミの足元から緑色の光が溢れ出し、逃れようとするミケガミの全身を絡めとっていく。ミケガミは唐突な疲労感に襲われ、地に伏してしまった。
「ふう、孤高のランナーも、光導の光の速度は振り切れない、か。……じゃ、先生はバーストを破棄して、新たに手札からバーストセット」
時菜が破棄したバーストカードは、[スクールバンド]モモ・ギュウモンジェ「Gt」であった。小夜の召喚時効果へのカウンターを狙ってセットしていたものである。
「あれ、せっかくのカードを破棄しちゃうの?」
那柘が不思議そうな顔をする。
「こういうこともあるの、なっちゃん。舞台を整えるためには必要なことだから、ね」
時菜はそう那柘に教えると、そのままターンを終了した。
♪第8ターン。
月坂小夜のターン。
リフレッシュステップに入ると、先のターンに疲労していた白羊樹神セフィロ・アリエスXが回復し、巨体が起き上がった。
小夜はそのままメインステップへ移行する。
「ポッポールちゃん、また、ティン・ソルジャーちゃんを助けてあげて」
小夜は2枚目のポッポールを召喚し、ティン・ソルジャーに直接合体した。さらに、リザーブのコアを移動し、セフィロ・アリエスXをLv2にする。
「ヒナリアちゃん、協力して。セフィロ・アリエスX、【星界放】を発揮! 次のわたしのスタートステップまで、スピリット、アルティメット、ネクサスのコア全ては取り除けないよ」
ヒナリアは気乗りしない様子であったが、仕方が無いといった風に片手をあげ、そこから舞い上がった二つのコアが白羊樹神の輝きによって導かれ、センティコアに吸収された。
「コア縛り、か。でも、小夜ちゃんの目的は次ターンに使用可能なコアを増やすことの方かな」
時菜が盤面を見渡しながら、呟いた。
「アタックステップ……センティコアちゃんでアタック! アタック時効果で、ミケガミをBP-5000!」
自由に向きを変えることが可能なセンティコアの角。それが、今度はミケガミに照準を定め、渦上の閃光を放った。Lv1でBP4000だったミケガミはこれを受けてBP0となり、そのまま破壊され、六色の粒子となって草原の中へ消えていった。
「センティコアのアタック、ライフで受ける」
時菜の眼前に駆けてきたセンティコアの両方の角が合わさり、ドリルのような形状となってライフコアを貫いた。これで、時菜のライフは4。
「先生も反撃するよ。ライフ減少により、バースト発動! 大甲帝デスタウロス!」
緑色の甲羅で覆われた巨大な虫の姿。節足が妖しく蠢き、背中には血のような赤黒い光沢を伴った紫色の羽が生えていた。
「デスタウロス……! でっかい……!」
「デスタウロスのバースト効果により、セフィロ・アリエスXを疲労。さらに、疲労状態の小夜ちゃんのスピリットをすべて破壊し、破壊した数だけボイドからコアを増やす」
大甲帝の節足の先端部分と一体化している大剣が一閃される。それは緑と紫の入り混じったつむじ風となり、白羊樹神をなぎ倒した。
風は尚も収まらず、横にいるセンティコアを巻き込み、疲労している2体のスピリットを飲み込んだまま地面の中へと吸収されるようにして消えていった。風が収まった時、白羊樹神とセンティコアの姿は跡形もなく消え去っていた。
「デスタウロスって……やっぱり、怖いよ……」
那柘は半分泣きそうな面持ちとなってしまっていた。
「なっちゃん、デスタウロスのお話を聴かせてあげるね」
「え?」
そして、優しく語り出す時菜。
「あるところにね、とっても乱暴な王さまと、人を困らせたり苦しめたりするのが大好きな悪い将軍がいたの。二人は出会うなり、相手を見下した。二人とも、自分が一番だと思っていたから、そのまま争い始めた……」
時菜が一呼吸つく。
「でもね、二人は同じ緑を、動物たちを、自然を大切にしたいっていう優しい心も持っていたの。ある時、その自然を壊す怖い怖い神さまが現れた。神さまは、みんなが喧嘩してばかりいる世界なんか消えちゃえって思っていたみたい。王さまと将軍はこの神さまと戦ったけど、二人がどんなに頑張っても、相手は神さまなものだから、まるで勝負にならない」
那柘だけでなく、小夜もまた時菜の語りに聴き入っていた。スピリットたちの世界の話をもっと聴きたい、そう小夜は思った。
「戦いの中で、二人は気づいたの。自分も相手も、同じ優しさを持っているって。同じものを護ろうとしているって。初めて、二人はお互いを認め合った。相手の気持ちを知った。二人は神さまと戦うために、一つになって、神さまに立ち向かっていったの。……その姿が、大甲帝デスタウロス」
「デスタウロスにそんな話があったんだ……」
小夜は驚きながら、眼前の大甲帝デスタウロスを見上げた。禍々しい輝きを放っている大甲帝であったが、瞳には強い意志の力が宿っている。
「デスタウロスがすごく頑張ったから、神さまともきっとわかり合えたよね?」
那柘が尋ねると、時菜は両手を翻し、首をかしげて見せた。
「んーん。どうだろうねぇ……。神さまって、なっちゃんが思っている以上にとっても頑固だから。でも、神さまにデスタウロスの気持ちは届いたみたい。それが、結果として、世界が壊れないで済んだことに繋がっていくわけだけど……」
「でも、デスタウロスってすごくカッコいい」
瞳をキラキラさせる那柘。那柘自身、先ほどまでデスタウロスのことを怖がっていた自分が嘘のようであった。
「ふふ、そうなっちゃんが言ってあげると、デスタウロスも嬉しいかもね。……さ、バトルに戻るよ。残りライフが3以下だったら、このままデスタウロスを召喚できたけど、わたしのライフは4。デスタウロスはトラッシュに置くね」
「バイバイ、デスタウロス!」
消えていくデスタウロスに手を振る那柘。デスタウロスは那柘を横目で見ていた。那柘には、デスタウロスが微かにほほ笑んでいたように感じられた。
「わたしも、先生からデスタウロスの話を聴かせてもらえて嬉しかったな……。先生、わたしはこのままターンを終了するね」
♪第9ターン。
蒼樹時菜のターン。
「じゃあ、もう一度。先生の魂のカードを召喚!」
メインステップに入ると、時菜は2枚目のどうぶつ達の詩姫ワルツをLv2で召喚した。
帰って来た詩姫に、感激した動物たちが集まる。さらに、マイサンシャインとプロデューサーリリの神託が同時に発揮され、時菜のフィールドが途端ににぎわった。
「どうぶつと詩姫と、マイサンシャインの共演だぁ……」
那柘は感嘆の声をあげた。
「さらに……小夜ちゃんのフィールドにブレイヴが存在することでこのスピリットカードをコスト4として扱う……」
時菜が掴み上げたカードから禍々しい波動が放たれる。これを前にして、小夜は思わず身震いをしてしまった。
「黒き超神星、滅びが新たな創造を生む。おいで、滅神星龍ダークヴルム・ノヴァ!」
空間がひび割れる。突如、次元を突き破り、漆黒のドラゴンが飛び出した。ドラゴンは高く飛翔し、日の光を遮る。日光に照らされていた草原が、闇に覆われていった。
「ダークヴルム・ノヴァ……」
身震いする那柘。だが、不思議と恐怖は感じなかった。
「ふふふ、怖くないの? なっちゃん」
「う、うん。ちょっとおっかないけど……」
一方で、小夜の方は滅神星龍の登場に動揺し、臆してしまった。滅神星龍の全身から放たれる暗黒のオーラはあらゆるものを分解し、滅ぼす力。それが小夜の内から恐怖心を煽っている。
ふと、小夜は自分のフィールドにいるヒナリアを見やった。ヒナリアは草原が闇に包まれたことで、かえってご機嫌といった様子である。
(なっちゃんも真っ直ぐに見つめているんだよね。……わたしもよく見なきゃ)
召喚されたのはREVIVALの文字が刻印された滅神星龍ダークヴルム・ノヴァ。その影響力は凄まじく、小夜のフィールド全体に及んでいる。
「ダークヴルム・ノヴァの効果。このスピリットと相手のスピリットすべては合体できず、相手はブレイヴをスピリット状態で残せない」
「あ、ポッポールちゃんが」
闇の波動を受けたポッポールが黒ずみ、ぼろぼろと分解されてしまった。
「いくよ、小夜ちゃん。アタックステップ、どうぶつ達の詩姫ワルツでアタック!」
時菜と似た面影を持つ女性が椅子から立ち上がり、さっと草原を滑るように移動した。
「リリの神技を発揮! コア2個をボイドに置くことで、デッキから1枚ドローし、どうぶつ達の詩姫ワルツを回復させる」
プロデューサーリリの手元の魔法陣が明滅し、キラキラと光の粒子が舞い上がった。それはどうぶつ達の詩姫ワルツへと運ばれ、光を受け取った女性は歌唱で以て応える。
「ライフで受ける!」
女性の歌声が小夜の元へと届き、ライフコアを分解してしまった。これにより、小夜の残りライフは4。
「時菜先生、わたしも反撃するよ。……ライフを減らされたことで、手札のギフト・オブ・ザ・ナイルの【覇導】を使用!」
滅神星龍によって闇に覆われていたフィールドに、眩しい太陽の光が降り注いだ。自然と小夜の表情も明るくなるが、ヒナリアは少し不満そうである。
「ナイルからの贈り物。わたしのライフを回復!」
【覇導】により、ボイドからコア1個が小夜のライフに置かれ、小夜のライフは5に戻る。
「さらに、ギフト・オブ・ザ・ナイルを【転醒】! ナイルの恵み、太陽に愛されし女王。クレオパトラス・オリジン!」
降り注ぐ太陽の光が一点に集まり、金色の天使を思わせる両翼を備えた、女王の姿が現出する。
「クレオパトラス・オリジンか……。先生でも見とれちゃいそうね」
「クレオパトラス・オリジンの【転醒】時、トラッシュにある転醒マジックカード、風蟲円舞を手札へ戻すよ」
最初にヒナリアを配置した時にトラッシュに落ちていた風蟲円舞が、小夜の手札に加わった。
「せっかく削ったライフを回復されたうえに、手札まで増やされちゃったね……先生はこれでターンエンド」
♪第10ターン。
月坂小夜のターン。
メインステップに入ると、小夜はティン・ソルジャーをLv2に上げた。
「ちっくたっく、時間を刻むよ、ウォッチーノちゃん!」
新たに召喚された、ウォッチーノ。大きな金色の懐中時計から手足と顔を生やした外見の小玩スピリットである。金の小枝を集めて編んだような帽子がキラキラと光っている。
「アタックステップ、クレオパトラス・オリジンでアタック! アタック時効果により、クレオパトラス・オリジンはブロックされない」
魔力をまとった、クレオパトラス・オリジンが飛翔する。女王が持つ、先端にエジプシャンクロスを付けた杖が光を放ち、滅神星龍の暗黒を押し返していく。
「ライフで受けるよ!」
クレオパトラス・オリジンが振り上げた杖が時菜のライフを砕く。これにより、時菜の残りライフは3となる。
「続けて、ウォッチーノちゃんでアタック!」
ウォッチーノは時計の蓋をぱたんと閉じ、小走りに草原を駆けだした。
小さなウォッチーノがそびえる滅神星龍のいるフィールドへ突撃していく様子を、那柘は心配そうに見守っていたが、時菜は納得した様子であった。
「なるほどね、ウォッチーノは破壊されるとBP5000以下の相手スピリットを疲労させることで、フィールドに残るから……」
時菜のフィールドにいるどうぶつ達の詩姫ワルツと滅神星龍ダークヴルム・ノヴァは、何れもBP5000以下であった。
「そのアタック、ライフのソウルコアで受けるよ」
ウォッチーノの突き出した小さな拳によって砕けたライフのソウルコアが再び収束し、時菜のリザーブに戻った。時菜のライフは、残り2。
小夜はティン・ソルジャーではアタックせず、ターンを終了した。
♪第11ターン。
蒼樹時菜のターン。
「もう一度、あなたの走りを見せてね。偽りの神皇ミケガミをLv1で召喚」
召喚されたのは2枚目の偽りの神皇ミケガミ。今度も召喚時効果を発揮し、時菜は1枚ドローし、続けて【封印】が発揮され、ソウルコアが再度ライフに置かれた。時菜のライフコアが、3個にもどる。
さらに、マイサンシャインの神託も発揮され、ミケガミの鳴き声とマイサンシャインの歌声が唱和する。
「いつもあなたの傍にお供します、猫の手も借りたい剣を偽りの神皇ミケガミに直接合体!」
くるくると宙返りをする、本来刃のあるべきところから長い胴体の猫を生やした剣。
「コストの確保時、どうぶつ達の詩姫ワルツのコアをすべて使用」
どうぶつ達の詩姫ワルツの女性が「あらあら」と言っている風な表情となり、小さく手を振りながら消えていった。
翻った猫の手も借りたい剣を、ミケガミが口でキャッチする。ミケガミは剣を咥えた状態のまま、臨戦態勢に入った。
「ええぇ! 魂のカードを消滅させちゃうの?」
那柘は困惑し、思わず大きな声を張り上げてしまった。
「大丈夫、見ていてね」
時菜は滅神星龍ダークヴルム・ノヴァにコアを追加してLv2に上げると、アタックステップを宣言した。
「ステップ開始時、ミケガミと合体している猫の手も借りたい剣の合体時効果を発揮。自分の手札またはトラッシュにあるコスト4以下のスピリットカード1枚を、猫耳ちゃんにすることで、コストを支払わずに召喚!」
「ええー……猫耳ちゃんって」
今度は小夜が混乱してしまった。
『おともしますニャー』
トラッシュから召喚されたのは、どうぶつ達の詩姫ワルツ。その茶色い髪の合間から猫の耳を生やしている。プロデューサーリリの神託も同時に発揮され、コアは2個となった。
すると、どこから取り出したのか、時菜も自分の頭に猫耳バンドをさっと身に着けた。
「うふ。まずは、形から入ってみました」
ウィンクして見せる、時菜。先生の茶目っ気に、小夜は戸惑いながらもつられて笑ってしまった。
「あはっ、先生も可愛くなっちゃったね」
那柘も思わず吹き出してしまう。
「ん。先生は元から可愛いもん」
わざとらしい、すねた態度を取って見せる時菜。
「さ、行くよ。滅神星龍ダークヴルム・ノヴァでアタック!」
強大な闇の力の権化たるドラゴンが羽ばたいたことで、途端に小夜は身構えた。眼前の脅威と対峙する。
「ダークヴルム・ノヴァのアタック時効果、疲労状態のクレオパトラス・オリジンを破壊!」
放たれた漆黒の弾丸がクレオパトラス・オリジンを直撃し、クレオパトラス・オリジンは黄金色の粒子となって飛散した。
「ああ、クレオパトラスが……」
呟く那柘。
だが、小夜はひるまずに手札からカードを1枚取り出す。
「わたしは、風蟲円舞の【覇導】を使用! どうぶつ達の詩姫ワルツと偽りの神皇ミケガミを重疲労させる!」
風の皇子の力による竜巻が、どうぶつ達の詩姫ワルツとミケガミを呑み込む。両者は草に覆われた大地に倒れてしまった。
「そして、コストを支払うことで、ドルクス・ウシワカ・オリジンに【転醒】」
風のエネルギーは一か所に集まり、緑色の外殻に覆われた人型の殻虫、ドルクス・ウシワカ・オリジンへと姿を変える。
「ドルクス・ウシワカ・オリジンが【転醒】した時、相手の創界神ネクサスが一つだけになるように破壊……」
小夜は時菜のフィールドの創界神ネクサスを見つめる。そこにあるのは、コアが2個置かれたプロデューサーリリと、5個も置かれたマイサンシャイン……。
「破壊するのは……えっと……」
小夜は逡巡してしまった。マイサンシャインは既に、重い条件の神域を発揮可能な段階に入っている。しかし、この局面の小夜にとって、マイサンシャインは眩しすぎたのだ。
「プロデューサーリリを破壊!」
ドルクス・ウシワカ・オリジンの巻き起こした烈風がリリを襲う。たまらず吹き飛ばされてしまったリリは草原の彼方へと消えてしまった。
「小夜ちゃん……」
小夜の心境を読み取った時菜は若干思案するような顔になった。那柘は少し緊迫した雰囲気に圧されながらも、両者を交互に見つめていた。
破壊されたリリのカードはドルクス・ウシワカ・オリジンの効果により、そのままゲームから除外された。
「ダークヴルム・ノヴァのアタックは、ドルクス・ウシワカ・オリジンでブロック!」
迫り来る漆黒のドラゴンを、風の皇子が迎え撃つ。爪を一閃させ、滅びの波動を放つ滅神星龍の攻撃を掻い潜りながら、ドルクス・ウシワカ・オリジンが滅神星龍に接近し、クワガタムシのようなハサミ状の角で滅神星龍を締め上げた。
たまらずに飛び立とうとする滅神星龍であったが、風の皇子の魔力の籠った風圧が全方位から迫り、これを受けた滅神星龍は紫色の粒子となって飛び散った。
「ダークヴルム・ノヴァが倒されちゃったね。……先生はこれで、ターンエンド」
♪第12ターン。
月坂小夜のターン。
リフレッシュステップに入ると、先ほど滅神星龍をブロックしたドルクス・ウシワカ・オリジンが回復し、臨戦態勢に戻った。
そして、メインステップ。
「風よりも早い、音となって! 音速のヒーロー! 絶対音獣ヌビアラ・ヴァティスをLv2で召喚!」
勇ましい反り返った角を有する、山羊の登場。山羊の周囲には独特なメロディが風と一緒になって渦巻き、草原の上を踊った。
不足コストの確保により、ウォッチーノのLvが1に下げられた。
「ヒナリアちゃんも応えてあげてね」
絶対音獣の召喚に呼応し、神託を発揮するヒナリア。ただ、彼女が好む闇が完全に晴れてしまったことで、若干不機嫌な様子ではあったが。
「アタックステップ。おねがい、ヌビアラ・ヴァティス!」
全身を音速の化身に変え、疾走する絶対音獣。
「それは通さないよ、小夜ちゃん。マジック、アメジストスター!」
絶対音獣の前方の中空に出現した、アメジストの輝き。そこから一筋の光が小夜のフィールドに向かって放たれる。
「アメジストスターの効果。ウォッチーノのコアを1つ、リザーブに置き、消滅させる」
光線がウォッチーノの時計に突き刺さった。これを受けたウォッチーノはなすすべもなく、黄色い粒子となって消えてしまった。
「あ、ウォッチーノちゃん!」
「……さらに、マイサンシャインの神域を発揮! マジックを使用したことにより、絶対音獣ヌビアラ・ヴァティスを手札に戻す」
アメジストからもう一つの光が放たれ、マイサンシャインの元へ届いた。光はマイサンシャインの頭上で止まり、零れ落ちる雫なって落ちる。それをマイサンシャインは両手で掬い上げ、天高く振りまいた。
時菜の間近にまで迫っていた絶対音獣であるが、マイサンシャインによって撒かれた紫色の雫を浴びて、全身が音と光へと分解されていき、小夜の手札へと戻っていった。
「小夜ちゃん。これがマイサンシャインの力だよ」
「むむむう……」
複雑な心境の小夜はついつい口をとがらせてしまう。
「……続けて、ドルクス・ウシワカ・オリジンでアタック! アタック時効果を発揮……ドルクス・ウシワカ・オリジンを手札に戻す!」
アタックを宣言されたドルクス・ウシワカ・オリジンであったが、相手のフィールドに攻め込むことはせず、天高く飛翔すると、上空で緑色の粒子へと変貌し、小夜の手札に吸い込まれていった。
「なるほど、ドルクス・ウシワカ・オリジンを風蟲円舞に戻して、再使用を狙うのね」
小夜は追撃はせず、そのままターンを終了した。
♪第13ターン。
蒼樹時菜のターン。
リフレッシュステップに入ると、重疲労していたどうぶつ達の詩姫ワルツとミケガミがそれぞれ回復したが、まだ疲労状態からは脱しきれない。
メインステップに入ると、時菜はコアを追加することで、どうぶつ達の詩姫ワルツをLv3に、ミケガミをLv2に上げた。
そして、アタックステップに移行する。
「ステップ開始時、ミケガミと合体している猫の手も借りたい剣の効果。このブレイヴが存在していることでコスト4となっている滅神星龍ダークヴルム・ノヴァを猫耳ちゃんにイメチェンして召喚!」
『おともしますニャー』
復活する滅神星龍。強面の外見にはそぐわないと思われる猫耳を生やし、「ニャォォォン」と咆哮を上げた。
「ええ……ダークヴルム・ノヴァまで猫ちゃんになっちゃったぁ」
那柘が素っ頓狂な声を上げた。小夜も、これは流石に情けないのでは……と思ってしまう。
時菜が手を差し出すと、滅神星龍は爪と爪の先端を合わせ、まるでお手をするように時菜の掌の上にかざした。すると、その爪の合間から、一つの紫色の雫が零れ落ちた。
「系統呪鬼を持つスピリットが召喚されたことで、トラッシュに置かれていたアメジストスターを手札に戻すね」
「あ……そっか、これも狙いなんだ」
先ほど使用されたアメジストスターが時菜の手札に戻ってしまった。ということは、再度マイサンシャインの神域で小夜のスピリットを手札に戻す態勢が整ってしまったということ。
それだけではない、呪鬼が召喚されたことでマイサンシャインの神託も発揮され、コアは6個に増えてしまった。
「……このアメジストスターにはね。ある女の子の想いが込められているの」
「え……」
小夜は時菜の意図を図り切れず、小さく声をもらす。
「女の子にはとても大切な想い人がいた。でも、女の子とその大切な人はそれぞれの意志で、別の道を歩んでいたの。……そして、女の子は知ってしまった。あの人がこのまま道を進めば、不幸な未来が待ち受けている、と」
「そして、どうなったの……?」
那柘が心配しながら聴いた。
「その大切な人は、そのことを知っても、自分の選んだ道を迷わず進む決心を固めたの。どうしても、譲れないものがあったから。……でもね、二人はわかり合えた。お互いにとって相手が世界で一番かけがえのない人だって知ることができたから」
「…………」
那柘はそう簡単には納得できなかった。
もし、小夜が凄く不幸な目に合うと自分が知っていたら――そう、那柘は考えていた。小夜がどんなことを言っても、小夜を止めないといけない気がしたのだ。
小夜とて、同じ心境であった。自分は那柘を護り、助けたい。もし不幸な未来があると知っていたら、止めなければいけないと思ったのだ。
「ま、二人の気持ちもわかるけどね……」
小夜と那柘は二人そろって目を丸くしてしまった。時菜は一体、どこまで自分たちの心を見透かしているのだろうかと、疑問がつのる。
「さてと、先生のアタックステップ中だね。滅神星龍ダークヴルム・ノヴァでアタック!」
「ふにゃおおおおん」という変な咆哮を聞き、小夜はバトルに引き戻された。豹変した滅神星龍と対峙すると、流石に気が抜けてしまう。
猫耳ちゃんと化した滅神星龍が翼を広げ、真っ直ぐに小夜の方へ迫って来る。小夜はすかさず、一枚のマジックカードの使用を宣言した。
「真空爪破斬を使用! 疲労状態の相手のスピリットを2体……滅神星龍ダークヴルム・ノヴァと偽りの神皇ミケガミをデッキの下に戻しちゃうよ」
二つの旋風が猫耳ちゃんの滅神星龍とミケガミを襲う。二体の「にゃおぉぉぉぉ」という鳴き声が尾を引き、そのまま二体は吹き飛ばされて、時菜のデッキの下に戻った。
「あらら。デッキの下に戻ったらもう猫耳ちゃんにはなれないね、残念」
時菜は疲労状態の猫の手も借りたい剣にコアを置き、スピリット状態でフィールドに残した。
「はい、先生はこれでターンエンド。小夜ちゃん、かかってきなさい」
♪第14ターン。
月坂小夜のターン。
小夜はドローステップでドローしたカードを見て、勇気づけられた。
(チワールちゃん……来てくれたね)
そして、メインステップ。
「おもちゃをまもるみんなのヒーロー! チワールちゃん、出ておいて!」
さっそうと現れる、小夜にとっての一番のヒーロー。黄の遊精、チワール。ふさふさとした耳が草原の風を受けて揺れていた。
「出た! 小夜ちゃんのチワールちゃん!」
那柘も声を上げ、小夜のデッキを象徴する可愛いヒーローの登場に感嘆する。
「アタックステップ!」
コアをふんだんにのせ、Lv3で召喚されたチワール。その小さな体で攻め入る構えをとった。
「チワールちゃん、いっちゃって!」
さっと駆けだす、チワール。草原の上を走る犬は、一匹の獣となる。
「チワールちゃんのアタック、受けるよ!」
チワールのすべすべした毛の生えた丸い頭が、時菜のライフコアと衝突する。パリンとライフが砕け、時菜の残りライフは2となる。
背を向けて小夜のフィールドの方へと戻っていくチワールであったが、途中、疲労しているどうぶつ達の詩姫ワルツの女性と目が合い、ちょこんと可愛く一礼をした。女性も笑みを返し、手を振る。
(チワールちゃんも仲間に入りたそう……)
小夜としても、マイサンシャインと動物たちの集まっている時菜のフィールドは見ていて眩しく、少し羨ましいものがあった。
ちら、と小夜が自分のフィールドを見ると、そこにいたヒナリアと目が合う。小夜が向こうのマイサンシャインにばかり気を取られているせいか、ヒナリアはむすっとした顔つきで、少し拗ねてしまっているらしい。
「小夜ちゃん、ライフを削られたことで、先生はこのスピリットカードを召喚するよ」
時菜はそう言うと、リザーブのコア2個をコストとして支払い、緑のスピリットを召喚する。
「おいで、霊樹の守り神ブランボアー!」
REVIVALと刻印された霊樹の守り神ブランボアーのカード。獣毛の合間から木の枝を生やし、鎧を身に着けた猪といった容姿のブランボアーが飛び出し、どうぶつ達の詩姫ワルツの真横に着地した。
(ブランボアー! BP勝負で勝つと回復するスピリット……)
追撃を封じられた小夜は、ターンを終了した。
♪第15ターン。
蒼樹時菜のターン。
このターンのリフレッシュステップで、どうぶつ達の詩姫ワルツと猫の手も借りたい剣が回復する。
「新たな伝説をこの場に築いて! 古の神皇鯨のエルダレイオを召喚!」
黒い翼を生やした鯨が現れた。その巨躯は空中を優雅に舞い、鯨の額から上半身が生えている呪鬼の眼光が、太陽の光を受けて鋭く光った。
「でっかーい!」
巨大な鯨のスピリットが空を飛ぶのは壮観であり、那柘も感嘆の声を上げた。
「エルダレイオの召喚時効果でティン・ソルジャーのコアをリザーブへ!」
紫色の稲妻が迸り、ティン・ソルジャーを打ち払う。コアを吹き飛ばされ、ティン・ソルジャーは消滅してしまった。
「ティン・ソルジャーちゃん……!」
「エルダレイオの効果でスピリットを消滅させたことにより、デッキから3枚ドロー! さらに、マイサンシャインの神託も発揮!」
2枚だった時菜の手札が一気に補充され5枚となり、マイサンシャインのコアも7個に増えた。
アドバンテージに差を付けられた小夜であったが、すかさず反撃に出た。
「……でも! ティン・ソルジャーちゃんを消滅させられたことで、風蟲円舞の【覇導】を使用! エルダレイオとブランボアーを重疲労させるよ!」
再び巻き起こる、風の皇子の力。竜巻を全身に受け、エルダレイオとブランボアーの巨体が、地上に向かってどうと倒れ伏す。
「続けて、ドルクス・ウシワカ・オリジンに【転醒】」
集約された竜巻は、ドルクス・ウシワカ・オリジンへと変貌し、風の皇子は再びフィールドに舞い戻ってきた。
「やってくれたね、小夜ちゃん。でも、先生のメインステップはまだ終わっていない……麒麟星獣リーンをLv2で召喚!」
生まれ変わった幻獣王、麒麟座の獣、リーン。星の光をまとった角を生やし、馬のような四つの足で、天空を駆け下りてきた。
「不足コストはエルダレイオから確保し、Lv2で召喚!」
「あ……エルダレイオが」
小夜の見つめる中、コアを失ったエルダレイオの全身が掠れていき、やがてフィールドから消え去った。
「エルダレイオ、もういなくなっちゃった……」
那柘が寂しそうに言う。
「でもね、小夜ちゃん、なっちゃん。エルダレイオの築いてくれた舞台は、リーンとマイサンシャインに受け継がれたの。……さらに、猫の手も借りたい剣をリーンに合体し、Lv3!」
猫の手も借りたい剣を口に咥え、リーンが中空を駆ける。
「アタックステップ……ステップ開始時、トラッシュに眠るもう一体のリーンを猫耳ちゃんにすることで、コストを支払わずに召喚。不足コストはブランボアーから確保して、Lv2」
『おともしますニャー』
コアを失ったブランボアーが脱力すると、そのまま緑色の粒子となって草原の中へ溶け込んでいった。
「今度はブランボアーもいなくなっちゃった……」
呟く、那柘。
入れ替わりに草原を駆けてくるのは、猫の耳を生やした麒麟星獣リーン。二体のリーンが並び、宙を舞った。
様変わりしてしまったが、小夜はそのリーンに見覚えがあった。
(一番最初にリリを配置した時に落ちていたリーン……)
「猫の手を借りたリーンで、アタック!」
猫を生やした剣を咥えたリーンが空中を疾走し、小夜のフィールドへと突っ込んできた。対峙するチワールが身構える。
「リーンの合体時のアタック効果発揮! チワールのBPを-7000し、BP0になった時、破壊する!」
「あ……」
狩野美都の使うリーンとは異なる能力。それを初めて使われた。
リーンが剣を一閃させると、無数の流星群が出現し、チワールへ向かって降り注いだ。流星に当たるたびに力を奪われていくチワール。何発目かの星が直撃し、チワールの全身が星の粒子となって消えてしまった。
「チワールちゃん……」
チワールがあっけなく破壊されてしまい、小夜は落ち込んでしまう。見守る那柘もまた、小夜の心中を思い、暗い面持ちとなる。
「小夜ちゃん! 自分を見失わないで。まだ先生とのバトルは続いているよ!」
時菜の声に、はっとなる小夜。そうだ、今は自分にできることをしないと。
「リーンのアタックは、ドルクス・ウシワカ・オリジンでブロック!」
小夜の想いに応え、風の皇子がリーンを迎え撃つ。リーンが次々と流星を放ってきたが、ドルクス・ウシワカ・オリジンはこれをかわしながら、リーンへ疾風の刃を撃ち込む。
リーンもドルクス・ウシワカ・オリジンの攻撃をかわしていたが、そのうちの一発がリーンの足に命中した。ドルクス・ウシワカ・オリジンはリーンに生じた一瞬の隙を見逃さず、一気に距離を詰めると硬い角でリーンの全身を打ち払った。
「麒麟星獣リーンの効果を発揮! 封印している時、リーンが相手によって破壊されたら、相手のスピリットかアルティメットを手札に戻すことで、疲労状態でフィールドに残る」
ドルクス・ウシワカ・オリジンに返り討ちにされたかに見えたリーンであったが、リーンの全身が黄金の光の塊となり、そのまま身を翻すと、ドルクス・ウシワカ・オリジンに向かって体当たりをした。
これを受けたドルクス・ウシワカ・オリジンは吹き飛ばされ、全身が緑色の粒子となって分断されてしまい、そのまま風蟲円舞のカードとなり、小夜の手札に戻された。
「これが時菜先生の使うリーンの力……」
前のターンに発揮されていたミケガミの【封印】と連携することで、星々の力を自在に操るリーン。
「続けて、どうぶつ達の詩姫ワルツでアタック」
周囲のどうぶつたちからの声援を受け、さっそうと駆けだす詩姫。
「先生のアタック、ライフで受ける!」
詩姫はスタンドマイクを振りながら歌唱し、歌が小夜のライフコアをとろけさせ、分解した。小夜のライフは4となる。
「さらにもう一体の麒麟星獣リーンでアタック」
猫の耳を生やしたリーンが「にゃぉぉぉ」と雄たけびを上げ突進する。
「マイサンシャイン、リーンにあなたの輝きをわけてあげて! 【神技】発揮!」
マイサンシャインが両手を広げ、具現化されたたくさんの夢と想いがハートとなり、中空へ放たれた。猫の耳を生やしたリーンがマイサンシャインから贈られてきた輝きを受け取り、回復する。
ついついマイサンシャインに見とれていた小夜は、目前に迫ってきたリーンに対して、慌てて身構えた。
「リーンのアタック、ライフで受ける!」
全身を流れ星の弾丸に変え、リーンが小夜のライフコアを貫いた。これで、小夜の残りライフは3。
「先生はこれで、ターンエンド」
ターン終了を宣言する時菜。小夜は、「にゃにゃん」と得意げに去ってリーンの向かう先、マイサンシャインのいる舞台を眺めていた。
♪第16ターン。
月坂小夜のターン。
「ヒナリアちゃん。お友だちだよ! アイリエッタ・ラッシュちゃんを配置」
小夜は新たなコードマン、白衣を身に着けた看護師のアイリエッタを場に出した。配置時にトラッシュに置かれた3枚のカードは、五線獣アルパスコア、センティコア、ノノイン・ニルオン。
神託条件を満たすコスト3以上のスピリットカードは2枚のため、ボイドからコア2個がアイリエッタに置かれる。
「音速のヒーロー、またまた登場! 絶対音獣ヌビアラ・ヴァティス!」
再召喚された、ヌビアラ・ヴァティス。また大草原へ戻ってこれたことを喜んでいるのか、元気のよい嘶きを響かせた。
ヌビアラ・ヴァティスが召喚されたことで、ヒナリアとアイリエッタの神託が同時に発揮され、コアはヒナリアが5、アイリエッタが3となる。
「アタックステップ……ヌビアラ・ヴァティスでアタック! アタック時効果でリーンを両方とも重疲労させる!」
音によって生み出された二つの衝撃波が二体のリーンを襲う。星の障壁を創り出し、リーンはこの衝撃に耐えて見せたが、それでも力を出し尽くしたのか、草原の上へうつ伏せになって倒れてしまった。
「ヒナリアちゃんの【神域】発揮! どうぶつ達の詩姫ワルツのコア1個をリザーブに置き、消滅させる」
コアが貯まったことで、どこからか取り出したノートパソコンを弄っていたヒナリア。ヒナリアの視線が相手のフィールドにいる詩姫の方へ向けられると、ゴーグルが妖しく光った。途端に、草原の中を黒い閃光が走り、詩姫のコアを下から掬い上げるようにさらって行く。
コアを失ったどうぶつ達の詩姫ワルツは消滅し、周辺にいた動物たちは慌てて右往左往してしまう。
「あらあら、またやられちゃった」
然も困ったという様子の時菜。だが、すぐに気を取り直して、手札から紫のマジックカードを取り出す。
「でもね、小夜ちゃん。先生の手札にはこのカードがあるって、忘れてはいないよね? マジック、アメジストスター!」
アメジストの光がヌビアラ・ヴァティスを撃ち、コアを一つ飛ばした。それでもヌビアラ・ヴァティスの侵攻を止めることは敵わなかったが、即座にマイサンシャインの【神域】が発揮され、ヌビアラ・ヴァティスは音の粒子となって、手札に戻されてしまう。
「むむ、忘れてなんかいないもん。……わたしは、アイリエッタちゃんのコア3個をボイドに置いて、【神技】を発揮!」
アイリエッタが注射器をかざすと、小夜のトラッシュにあったコアが一つ、吸い寄せられていった。アイリエッタはすぐ傍まできたコアは拾い上げると、小夜の方へと手放す。宙を浮いたコアは小夜のライフに加えられ、ライフの数は4となる。
「……これで、ターンエンド」
なかなか攻め込めずにいる小夜。小夜は、マイサンシャインの影響力の大きさを改めて思い知っていた。
♪第17ターン。
蒼樹時菜のターン。
このターンのリフレッシュステップで2体のリーンは一度回復したが、未だ疲労状態からは脱しきれない。
「歌は世界を創り、世界を護る。プロデューサーリリを配置!」
時菜が場に出したのは、ドルクス・ウシワカ・オリジンに破壊されたリリに代わる、2枚目のプロデューサーリリ。
配置時にトラッシュに置かれたカードは[スクールバンド]モモ・ギュウモンジェ「Gt」、マイサンシャイン、偽りの神皇ミケガミ。リリにはコアが1つ置かれた。
「あ……リリもマイサンシャインも2枚目があったんだね」
那柘がトラッシュに置かれたマイサンシャインを見ながら言う。
那柘のカードの動きに対する理解が進んでおり、時菜は那柘の呑み込みの速さに感心したように頷いた。
「さらに、先生はこのブレイヴカード、ラブリーウォーターガンを召喚」
カシャンと小さな音を立てて草原に落ちる水鉄砲。ハートを模した貯水タンクの中には水が満タンに入っている。
「あ……水鉄砲」
ラブリーウォーターガンを見つめる那柘は、少し、悲し気な声をもらした。
「……なっちゃん、水鉄砲には嫌な思い出があるのかな?」
時菜が那柘に優しく尋ねる。ただ、時菜が聞く前から那柘の心境を把握していることを、小夜は察していた。
「う、うん。だって、保育園の頃、みんなして水鉄砲で水をかけてきたから……」
保育園には子供用の水鉄砲が常備してあった。本来は、子ども同士で楽しく遊べるようにという、保育士たちの計らいであったのだが。
「なっちゃん、思い出したくなかったのね」
「当たり前だよ……。わたし、嫌だって言ったのに、みんな、やめないんだもん」
「でも、先生はね、なっちゃんにそのことをちゃんと思い出して欲しいな」
「え。ど、どうして……?」
おどおどといった様子で聞き返す那柘。時菜は、目の前の幼い女の子を優しく諭すように教える。
「だってね。ほら、よーく思い出してごらん。なっちゃんがどんな嫌な目にあっても、なっちゃんを庇って、護ってくれる大事なお友だちがいたでしょ」
「あ……」
那柘は思い出した。水鉄砲に追われる那柘を庇い、助けてくれた小夜のことを。
その後、人に言う勇気すらも出せないでいる那柘の代わりに、小夜が先生たちに話して聞かせたことで、那柘が園内で嫌がらせを受けることもなくなったのだ。
「そう。嫌な思い出もあれば、それと隣り合う素敵な思い出もあるの。だからね、忘れないでいて欲しいな」
「う、うん。……小夜ちゃん、あの時は……ううん、いつも、今でも、わたしのことを護ってくれて、本当にありがとう」
「なっちゃん……」
改めて面と向かってお礼を言われると、小夜は何だかくすぐったい気持ちになってしまった。でも、那柘のこの嬉しそうな顔を見ると、自分のしたことがとっても良いことだと実感することができ、小夜としても嬉しかった。
「なっちゃんこそ、いつもわたしのことを支えてくれていたよね。わたし、なっちゃんと今でも一緒に居られて幸せなんだよ。なっちゃん、ありがとう」
「……小夜ちゃん」
仲睦まじい二人を見ている時菜も、この可愛い教え子たちを誇らしく思っているという風に、自然と微笑んでいた。
「さ、まだバトルは続いているよ。……アタックステップ、トラッシュからどうぶつ達の詩姫ワルツを猫耳ちゃんにして召喚だにゃん」
『おともしますニャー』
帰ってきた、時菜の分身ともいえる詩姫。マイサンシャインとプロデューサーリリの神託が同時に発揮され、舞台はいよいよクライマックスに突入する勢い。
「どうぶつ達の詩姫ワルツでアタック!」
猫の耳が風を切り、茶色い髪をなびかせ、時菜と面影を同じくする女性のが草原を舞い、小夜のフィールドへと飛び立つ。
「フラッシュ! わたしは手札の絶対音獣ヌビアラ・ヴァティスが持つ【絶対音速】を発揮!」
ソウルコアの力を使うことにより、音の集合体となったヌビアラ・ヴァティスが高速でフィールドに滑空する。草原全体に荘厳な野生のリズムと優雅な音の流れが入り混じり、空間が振動する。
「わたしもフラッシュ! リリの【神技】でどうぶつ達の詩姫ワルツを回復させ、1枚ドロー!」
リリの手元から放たれた白い光が詩姫の歌唱力を増幅させる。
「さらに、マジック、ブルトサリフを使用! 系統剣獣を持つどうぶつ達の詩姫ワルツをBP+5000する!」
REVIVALの刻印がなされたブルトサリフのカード。詩姫の真横に、お供の虎が駆けてくると、両者が青白い光に包まれた。まさに、詩姫と虎が一心同体となり、草原を駆けている。
「マイサンシャインの【神域】で絶対音獣ヌビアラ・ヴァティスを手札に戻す!」
マイサンシャインの歌声が響き渡り、詩姫と共に走る虎が咆哮した。音は衝撃波となり、絶対音獣の音と激しくぶつかり合う。やがて、押し戻された絶対音獣の輪郭が崩れ、小夜の手札へと戻された。
「わたしも、ヒナリアちゃんの【神技】を発揮! コア4個をボイドに置き、ブレイヴのコストを無視して、コスト6以下のスピリットのアタックではわたしのライフは減らない!」
ヒナリアが手にしていたノートパソコンを弄ると、草原を電光が迸った。電光は詩姫と虎の進撃を妨害し、両者は草の上へ投げ出されてしまう。
「ふう、よく防いだね、小夜ちゃん。……先生はこれで、ターンエンド。エンドステップ時、ブルトサリフは手札に戻る」
先ほど使用したブルトサリフが時菜の手札に加えられる。小夜としては、どうしても打開しなければならない布陣と言えた。
♪第18ターン。
月坂小夜のターン。
小夜はこのターンにドローしたマジックカードを見つめる。
(これで対抗できる手段を引けないと……もうあとがないかもしれない……)
小夜は、そのマジックカードを使用する。
「マジック、妖雷スパーク! デッキからカードを1枚ドロー」
フィールドに熱量が放たれたが、小夜のフィールドには強化対象が不在のため、それは草原を伝わり、時菜のフィールドにいる猫の耳を生やした麒麟星獣リーンに力を与えてしまった。
小夜はデッキからカードをドローし、そのカードを見るなり息をのんだ。
(これなら……)
改めて時菜のフィールドを見渡す小夜。動物たちに囲まれた、時菜を思わせる猫耳の詩姫。疲労している二体のリーン。スピリット状態で浮遊しているラブリーウォーターガン。
それらの背後に、リリと、あのマイサンシャインがいた。マイサンシャインと目が合った時、ドローしたカードを掴んでいる小夜の手が震え出した。
小夜は恐れていた。この世界が終わることを。舞台の終幕を。
「……小夜ちゃん」
時菜が改まった口調で言った。
「あのね、小夜ちゃん。アイドルはわたしたちに夢を与えてくれる。希望を与えてくれる。だから、マイサンシャインは皆から愛されている。……でもね、その夢が枷となり重荷になってしまうことは、マイサンシャインも望んではいない。与えられた夢はしがらみになってはいけないの。小夜ちゃん、あなた自身の、新しい世界をそこから創っていかないと、ね」
「時菜先生……」
「あなたも……それから、なっちゃんも。これからの未来、二人して助けあい、互いを護って生きていくのも大切なこと。でも、相手の重荷になるようなことは、できたら避けたいよね」
小夜と那柘は顔を見合わせた。時菜の言っていることが、二人には何となくであるが、理解できた。自分たちはこれからも助け合って生きていきたい。でも、相手に依存し、相手の進むべき道を閉ざすようなことは望んでいない。
小夜は決心した。そのために、このカードを使わなければならない。
「マジック、ゴッドブレイクを使用! ……マイサンシャインを破壊!」
「え……小夜ちゃん!」
小夜の宣言を聞いた那柘が叫んだ。小夜と対峙する時菜は、黙って頷いていた。
天を割り、巨大な青色の拳が出現した。拳は大地を突き破り、草原の世界が音を立てて崩れていく。崩壊の中、巨大な地割れが広がり、マイサンシャインの舞台を粉砕した。
舞台を破壊されたマイサンシャインであるが、両手を天へとかざし、応援してくれたすべてのファンへの感謝を、笑顔で伝えながら、黄色と紫の混ざった粒子となって消えていった。
「そんな……マイサンシャインが」
那柘は嘆いていたが、小夜の選択を責めたりはしなかった。那柘もわかっていたから。あのままマイサンシャインを相手に逡巡して前に進めないでいる小夜の姿は、マイサンシャインも望んでいないということは。
「さらにゴッドブレイクの効果で1枚ドロー。……そして、ゴッドブレイクはフィールドに置かれ、効果を発揮し続ける」
フィールドに置かれたゴッドブレイク。左右にはイエローフィールドにより出現した金色の蝶が舞っており、それらと同じ効果に加え、系統起幻を持たない効果によるデッキ破壊を封じる効果が適用される。
(ゴッドブレイクのカード。これはお姉ちゃんがわたしに譲ってくれたんだ……)
ゴッドブレイクは狩野美都が小夜に渡した、贈り物でもあった。自分が使う月光のバローネへの打開策となるカードを、小夜が前へ進む助けになるようにと譲った。
「そして……今一度、戻ってきて! 絶対音獣ヌビアラ・ヴァティスをLv2で召喚!」
音の波動が集結し、ヌビアラ・ヴァティスが実体化する。
「続けて、ウォッチーノちゃんをLv1で召喚!」
ヌビアラ・ヴァティスの横にさっそうと現れる時計の姿をした小玩スピリット、ウォッチーノ。
「ふふ、小夜ちゃん。攻めてくるのね」
「時菜先生、いくよ。アタックステップ、絶対音獣ヌビアラ・ヴァティスでアタック!」
目覚ましい瞬発力を発揮し、ヌビアラ・ヴァティスが駆ける。
「アタック時効果で、どうぶつ達の詩姫ワルツとラブリーウォーターガンを重疲労させる」
放たれた二つの超音波が詩姫と水鉄砲の動きを封じ、そのまま地に伏せさせた。絶対音獣の行く手を阻むものは誰もいない。
「小夜ちゃん、先生も持てる力を出し切るよ! マジック、跪いて エブリワン!」
足の辺りまで長いピンクの髪を伸ばした女性の姿が顕現した。彼女は先端に青い宝玉をはめた杖を手にしており、まるでエアロビスタイルのような服装で、露わになっているへそが色っぽい。その女性は小夜の方を向くと、にこっと笑顔でウィンクして見せる。
「え……あの人は」
「彼女は異世界の魔女にして……母なる光主……」
ピンクの髪の女性はその場で振り付けをとり、手にしていた杖を振り下ろした。対面したヌビアラ・ヴァティスが急停止し、彼女には逆らえないといった様子で、跪いてしまった。
「跪いて エブリワンの効果により、このターン、コスト4以上のスピリットのアタックでは、わたしのライフは減らない!」
「……でも、ヌビアラ・ヴァティスはバトル終了時、効果によって相手のライフを1つ削る!」
全身は完全に相手に服従していると見えたヌビアラ・ヴァティスであったが、音によって構成された分身が絶対音獣の身体から飛び出し、時菜の方へと飛び立った。母なる光主は黙したまま、傍らを通り過ぎていった絶対音速の化身を見送った。
凄まじい音の衝撃波が時菜のライフに衝突し、コアを打ち砕いた。これで、時菜のライフは残り1つ。
「……小夜ちゃんの音、先生の心にもしっかりと届いたよ」
時菜が満足げに呟いた。
小夜は傍にいるウォッチーノを見やった。
(コスト1のウォッチーノちゃんは、跪いてエブリワンの影響を受けない。このままアタックが通れば、時菜先生に勝てる。……でも、そうなったらこの世界は)
ゴッドブレイクによってひび割れた草原の世界であったが、まだ辛うじてその形を保っていた。しかし、時菜のライフコアが尽きた時、おそらく今いるこの世界は消えてしまう。
「小夜ちゃん、今を終わらせるのをためらうことはないよ。世界はね、これから新しく創られていくのだから……」
「……はい、時菜先生」
小夜は最後のアタックを宣言する。
「ウォッチーノちゃんでアタック!」
懐中時計の針が激しく回転し、ウォッチーノはふたを開けたまま突進した。
「素敵な時間をありがとう、小夜……」
時計とコアが衝突し、それと共に時の歯車が狂いだし、時菜の想いによって形作られた草原の世界が崩れていった。
粉々になっていく世界の残滓が、歌声となってその場に居合わせた者の脳裏に響く。
小夜と那柘にははっきりと聴こえていた。マイサンシャインの歌声が。
(My dear dream!)
絶対先に未来があるはずなんだ
新しい空 見えてくるから(Let's try and try!)
成層圏で生まれた夢の架け橋
どこまでものびて行け
★来星の呟き
楽曲コードの検索機能がオンラインメンテナンスで使用不可能であったため、更新遅れました。
今回は『冒険記録』からの引用もあります。
今回のリプレイ 一万字を越えてしまったので、3つに分けてあります
(活動報告に飛びます)
一
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=259912&uid=341911
二
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=259913&uid=341911
三
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=259914&uid=341911
今作、背景世界とは特に関係ないと以前書いておりましたが、あながちそうとも言えなくなってしまいました……。
(具体的には、どこか並行世界のおはなしって形)
プロデューサーリリや大甲帝デスタウロスの辺りの話は、自分が今後も書いていくであろう、背景世界を題材とした小説を意識した内容だったりします。
(構想は既にある程度まとまっているので……あとはどう小説という形にしていけるか)
虚無の軍勢とエジットの関連性について、自分は幾つかのひねりを加えており、ちょっとしたどんでん返しも用意していたりします。
取り合えず、虚神について考察する際、忘れがちだけどとても重要な存在として、マッハジーと天帝ホウオウガが融合した、神帝マッハホウオウガがいるんですよねぇ。
おそらく、暗緑の国の守護者的存在ではないかと思っております。
(もし、神凰兵フェニックス・ゴレムとなる虚神が機動要塞キャッスル・ゴレムに憑依したままなら、機動大帝アレク・キャッスルの存在も……)
で、守護者としての虚神となると、逆転大陸のアルティメットの新生・虚神と似た役割になるのが興味深いところ。。
それから、作者は[敏腕マネージャー]リリ及びプロデューサーリリの背景世界で果たす役割も、実はとても重要なのでは、と思っております。
まあ、単にロロのアニマ(男性の無意識人格における、女性的な側面)がスピリットとして実体化した存在、という線も十分に考えられますけども。。
背景世界では歌の力はとてつもなく大きなものでして、アルティメットバトルでは詩姫たちの活躍もありましたね。
そして、初期の白の世界は、同時期の世界の中で唯一虚無の軍勢に勝利していますが(赤の世界は勝利と呼ぶには厳しい。。。、ジーク・クリムゾンは煌臨編以降の六色ジークフリードの先駆けと思いますが)、
そこでも歌姫、妖機妃ソールの存在があったからこそ。
戦いを目の当たりにしてきたロロが、その過程で歌の重要性をより深く知っていったことは想像に難くなく、後の世の詩姫の登場も、無関係とは思えないのです。
で、ロロとよく似た女性、リリが登場しているわけで……。
本章で、 跪いて エブリワン を使用する際、某女神(魔女)の幻影が登場しますが、
自分が どうぶつ達の詩姫ワルツ のデッキに投入している 跪いて エブリワン がプレミアムヒロインズBOX版だから……だったりします。
要するにご登場願いたかったわけで。