親方、空から女の子が!!   作:胡椒こしょこしょ

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身体が女の子なら女の子で良いんじゃないですか?


女が出るか蛇が出るか

「契約を果たす刻が来た....、分かるかな?君のお嫁さんだよ?」

 

白い髪を長く下ろした神秘的な雰囲気を纏う女性がベッドの上で座り込んで毛布を被っていた俺にそう言ってくる。

部屋は天井が倒壊したことで立ち込めていた埃が雨に濡れて収まっている。

僕は声を絞り出す。

 

「....あの、天井。どうすんだ。」

 

「?」

 

首を傾げる女性。

そんなそいつに対して、俺は天井に空いた穴をゆっくりと指差した。

そして言葉を続ける。

 

「これ、絶対賠償だろ。どうしてくれるんだ?あ?俺は悪くない、被害者だ。お前が払ってくれよ、なぁ!?払えるもんなら払ってくれよ!」

 

俺はそいつに対して半ば半ギレで詰め寄る。

ベッドの上で立ち上がり、そいつに対して言葉を吐きかける。

それもそのはず、ここは賃貸だ。

いくらボロアパートとはいえこんな天井ぶち抜かれたら大家に大目玉喰らうに決まっている。

自分が悪くないということを証明できないと確実に弁償させられる。

 

ウン十万くらいはかかるんじゃないか?

そんな金など一介の学生に用意できるはずもなかった。

しかし、払えと言ってはいるが僕自身コイツにそんな金を正規の手段で用意できるはずもないと確信している。

初対面だし、意味の分からないことを言っていることは分かる。

でも、俺には....俺には分かる、見ればわかるのだ。

 

俺の言葉を聞いて、そいつは憐れむかのような視線を向ける。

 

「怯えているの?...安心して、ボクが君を守るよ。なんていったってボクは君のお嫁さ.....。」

 

「じゃあ目の前の不審者に弁償だけさせて、即刻消えてもらってもいいか?」

 

そう言うと、そいつは口を開く。

 

「消えろなんて酷い....、ボクは君のお家で既に決められていた許嫁なんだよ?君のお家に君が居なくて凄く心配したんだよ?まさか契約を破ろうとしているんじゃないかって....本当に心がぐちゃぐちゃになって.....。」

 

ボソボソと何かを言っているが、ある一つのワードが頭に引っかかる。

それは君のお家という単語だ。

ここは俺の家だ。

でも、奴はここに今来たと考えるのが普通だ。

であれば、考えられるのはどこか。

それは自分の実家。

そして実家と聞けば、俺にとっては厄ネタでしかない。

目の前に広がる光景を合わせて見ても、それは確実だった。

 

「ボクは君を守る、そしてその代わりに君はボクに全てを委ねる。既に決まったことなんだよ?さぁ、こんな犬小屋から逃げて一緒に駆け出そう。ねっ?」

 

考えていると、彼女の言葉が自分の琴線に触れた。

犬小屋....?

コイツ、俺の家の事を犬小屋呼ばわりしたのか?

確かに上等な家とは言えない。

でも、それをコイツに言われるのだけは御免だった。

俺は彼女を睨みつける。

 

「お前こそ酷い言いざまじゃないか、人間でもない畜生の癖に。騙せているとでも思ったのか?俺には分かる。お前は.....。」

 

口に出す前に、それにしっかりと目を向ける。

今まで見て見ぬふりしてきた物。

しかし、向こう側から接触を取りに来たのであれば、向き合わなければなるまい。

降りかかる火の粉は払わねばならぬのだから。

彼女を中心に立ち込める青い光。

それは水を連想するような色をしていて、常に流動して渦を巻いていた。

濃密な霊力。

そうだコイツは....。

 

「____人間じゃねぇだろ。」

 

そう言うと、彼女はにっこりと笑みを深めた。

 

「そっか、その目しっかりと馴染んでいるんだね。安心した。」

 

そう言うと、一歩此方に歩み寄る。

俺は反対に後ずさった。

 

俺の家はなにやら変な家だ。

7歳になるまでは魔除けとか言って女装させて生活させるし、袴を着た人が良く来ていた。

変な抜け殻のような物が祀られていたりと今考えれば気持ち悪いと思う体験もしたことがある。

 

そして生まれつき、俺は変な物が見えた。

普通の人にはないモヤモヤしたと光。

その色や出方は十人十色。

しかし、共通して言えることが一つ。

普通の人間にはそんなものが見えないということ。

触れてはいけない領域。

俺は常に深淵を覗き込まされていた。

深淵を覗き込む時、深淵もまたこちらを覗き込んでいる。

いつしか俺は見なかった振りをしていた。

 

だから....奴の言葉がこれまた引っ掛かったのだ。

 

「....俺の目を知っているのか?」

 

そう言うと、彼女は頷く。

 

「うん、その目はボクの目でもあるからね。君の家はお金持ちでしょう?それはボクが君の家に恩恵を与えていたから。そして君の曽祖父との契約を果たしに来たのさ。」

 

...どうやらやっぱり俺の実家絡みだったようだ。

なんか変な祭壇みたいなのあるとおもったらそんなことやってたのか。

僕の実家は大きな地主だ。

つまりはそこまで成り上がる為にそういうスピリチュアルな手段を使ってきたのだろう。

そして奴の言葉が本当なら、その契約を交わしたひいおじいちゃんは既に死んでる。

そのツケを子孫である俺が払わねばならないということだ。

クソかな?

こんなの連帯保証人と変わらないやんけ。

天井ぶち破られるだけでもかなり絶望的な状況なのに、人間ではないであろう存在に何を要求されるか分からない状況。

今までそこそこ真面目に生きてきたのに、神様はなんでこんな仕打ちをするのか。

 

「そうかよ、でも契約を交わしたのは俺のひいお爺ちゃんで俺は知らない。それを吹っ掛けるなんて少しアンフェアじゃないか?」

 

「あんふぇ....?難しい言葉を使って煙に巻こうとしても無駄だ、人の子よ。我は貴様の家に尽くしてきた。等価交換の法則に従い、その契約を果たす義務が貴様ら血族にはある。それを放棄するのであれば、どうなるのか分からぬわけでもあるまい。」

 

コイツ外国語わからないんじゃね?と思った矢先これだ。

さっきまでのフレンドリーな態度とは正反対の尊大な態度に剣呑な空気。

思わず背筋が縮こまる。

あちら側、しかも長い事生きている存在にありがちな態度。

すぐけおってくるやん.....勘弁してよぉ.....。

 

これは....覚悟を決めるしかない。

こういう時にどのように行動すべきかは皮肉なことに両親たちから学んでいた。

まずはその支払う物について定める

なくなっても惜しくない物を先にやると提示するのだ。

 

「そんなつもりはない。大方、元々お前の目だったものを返してもらいに来たんだろう?それならやるよこんなもの。変な物や見たくない物ばかり見えて、生まれてこの方こんなものがあっても役立ったことはないんだ。もし目が見えなくなるとしても後悔はしないね。もってけ。」

 

少なくとも断るのは望ましくない。

祟られる可能性がある。

それなら元々の持ち物を返すということで、なんとか納得してもらえませんかね....。

 

しかし、俺の望みは無常にも撃ち破られる。

 

「そんな物いらぬ。...寧ろ君に持ってて欲しいなって。婚約指輪?なるものの代わりでしかないからねぇ。」

 

尊大な態度からフレンドリーな態度に戻す。

しかし、彼女の主張は変わらない。

ていうかコイツ気持ち悪いな。

見た目じゃ誤魔化せないねっとりさだよ。

 

「じゃあもうお前、なんの為にここに来たんだよ。」

 

俺が投げやりに問うと、奴は俺の目を真っ直ぐに見て答えた。

 

「分からないの?男が生まれた場合、その男を我の物として差し出すという契約だよ。」

 

確か父さんとお爺ちゃんは入り婿だったか。

....あれ、俺やん。

まごうことなく俺のことじゃん。

 

「へぇっ、じゃあ俺は食われるのか?」

 

嫌だなぁ....死にたくねぇなぁ。

考えろ考えろ。

なんとか俺も無事で実家も無事な選択肢はないか?

なんなら横紙破りした後に暴力に打って出るか?

しかし長い間家を守ってきた怪異に殴り合いで勝てるわけない。

てか俺の曽祖父は存外屑なのかもしれない。

まさか子孫にこんな置き土産を残すだなんて。

もしくは男の子供が生まれないジンクスでもあったのか?

 

そう言うと、彼女は俺の肩を掴む。

 

「まぁある意味、喰われるんじゃないかな?でも死にはしないよ。多分....。」

 

.....釈然としない言い方である。

なんか嫌な予感してきた。

 

「....まさか、お前。さっきまで言っていた言葉って本気なのか.....?」

 

そう言うと彼女の目が据わった。

 

「異類婚姻は家神の永遠の夢だよ。これでボクも行き遅れじゃなくなるんだね....。」

 

コイツ....本気だ。

目が、獲物を狙う目をしている。

確かに見た目は見目麗しい女性だ。

でも、その中身は違う、偽物だ。

中身が女であるかも分からない。

家神と言っていたからそこまで酷くはないと思うが少なくとも人間ではないのだ。

何の為に今まで見て見ぬふりして生きてきたと思っている!?

変な事には巻き込まれたくない、ましてや人外の嫁なんかごめんだ!

大体、その異類婚姻物だって出会ってからのプロセスがあるだろ!?

こんな押しかけられても意味分からんわ!

それに天井ぶち抜いてくれたしな!!?

...そもそも家神にも行き遅れってあるんだ。

 

「悪いが、俺は人外の嫁はいらん!」

 

そう言って扉に向かって駆け出そうとする。

その瞬間、視界の隅で彼女の目の瞳孔が開いた。

すると、身体がまるで梁でも通したかのように動かない。

金縛り....?

 

「私の使う簡易的な呪いの一つでね。ふふっ、君は獲物なんだよ?だったら蛇に睨まれたら動けなくなるに決まってるよね?.....まさか、逃げられるとでも?」

 

目と目が逢う。

口元は笑っているが、目の中には光がない。

文字通り深淵を見ているようだ。

立ち上がったまま身動きの取れない俺の身体を弄りながらも耳元に口を寄せる。

 

「意固地にならないで....人外の嫁でも良いじゃん。この姿が気に喰わないなら、好きなように変えられるよ?君はロリコンかな?....それとも熟女好き?」

 

「な...んで、アンフェ...ア知らなくて、んなこと知って....んだ。」

 

下世話な部分で俗に染まりすぎでしょ。

家神とは思えんな。

雨に濡れて冷え切った身体。

それに彼女の身体が絡み始める。

しかし、その身体は冷たく熱を更に奪われる感覚だ。

 

やっぱコイツ人間じゃねぇ。

 

どんどんとその手は服の中にまで入ってくる。

助けて....助けてクレメンス.....。

 

「ん?」

 

そう思っていると、彼女が何かを踏む。

首を傾げる様を見て、俺は彼女の足元を見る。

そこには家を出る前に貰っていたお守り。

どうやらさっきの天井崩れからのどったんばったん大騒ぎで瓦礫に紛れていたのだろう。

すると、彼女が息を飲む。

 

「ね、ねぇ....これってまさか....君の家の....」

 

「あ....あぁっ、俺の家の家内あん...」

 

「待って!な、なんでもない!なんでもないからっ!見ればお守りって分かるから!ほらっ、私の目を見て....見てよ、見なさい!見ろ!!」

 

何故かさっきまでとは違って慌てた様子を見せる彼女。

....まさか、コイツ.....。

俺は、一筋の光を見出しながらも言葉を続けた。

 

「俺の家の....」

 

「やめてっ!」

 

慌てた様子で口を塞ごうとする彼女。

でも、もう遅い。

 

「“家内安全”のお守りだ....。」

 

「ッ!!!???」

 

そう口にした瞬間、目の前の女性が霧に包まれてそこには白蛇が居た。

腕に巻き付いている。

身体は動く。

こちらの顔色を覗き込むように俺の顔を見つめる白蛇。

....殺すか痛めつけるか?

いや、でもこれは実家の家神らしいし、下手なことしてしっぺ返しが家族に行くのは怖い。

悩みぬいた上、俺は......。

 

「____ッ!!」

 

「二度と来るなよ。」

 

そう言って窓の外から放り捨てた。

まさかこんなものが弱点足り得るなんて。

まぁたとえ来たとしてもこれを身に付けておけば大丈夫という事が分かったので、対処は簡単だろう。

 

それにしても蛇だったのか。

蛇と言えば水と関わりが深いらしいな。

まぁ、前にオカ研の活動として博之に付き合って遊びに行った神社で聞いた話だが。

取り敢えず今すべきことは....。

 

周りを見回すと大惨事だ。

そりゃ天井抜けて雨曝しなんだから当然なんだが。

....こりゃ実家には極力関わりたくないとか言えないな。

それに、さっき蛇を撃退出来たのもお守りの効力というよりは彼女の家神としてひいおじいちゃんと結んでいた契約が関係あるんじゃないだろうか?

その他もろもろ報告して質問するためにも連絡を入れないとな。

そう思うと、携帯を耳に宛がうのだった。

 

 

 

 

 

 

あの後、弁償などは全て家が受け持ってくれて、俺は別の小さなマンションに宛がわれた。

弁償もして尚且つこんな部屋まで用意出来るなんて自分の実家の力はとんでもないものだと再確認させられた。

まぁ、その分電話した際に面倒なひと悶着があったのだが。

 

今回のマンションは購入。

どうやら今回のような出来事が起きても面倒臭くないようにしたのだろう。

ボロアパートから普通のマンションの一室にランクアップしたのだ。

白い蛇は幸運のシンボルと呼ばれているのもあながち間違いではないと思った。

まぁあんな身の危険を味わった以上は二度と会いたくないが。

 

白い蛇で思い出したが、あの時に彼女を撃退出来たのはやはり彼女の結んだ契約が関わっているらしい。

古い蔵をひっくり返すように探した結果、見つかったらしい。

どうやらアイツが男の子供を要求した際に付け加えで、もし家神がその直系の血族に呪術を使った場合、血族が家内安全と告げた場合には即座に無力化されると言った箇所が書き加えられた痕跡があるらしい。

どうやら俺のひいおじいちゃんは抜け目のない人であったようだ。

よくよく考えてみれば、家を守り、奉仕する為の家神が家の血族に害を為すことは契約を破らない限りない。

そして家内安全ということでその役割を強制させるような意味合いがあるのだろうと思われる。

今じゃ、あのお守りは手放せない。

 

「せっかく綺麗になった台所だ。使わないと損だよな。」

 

今日は博之の誘いを断ってスーパーに寄り、食材を買い出しする。

料理はあんまりしないが、殊今の台所であれば話が別だ。

今日は肉野菜炒めでも作りますかね。

そう思って家の鍵穴に鍵を突っ込んで中に入る。

その先には.....。

 

「ふん~♪ふふふ~ん♪」

 

鼻歌を歌いながら料理をしている女性。

一度見たことがある姿。

そう俺がここに引っ越した原因。

あの蛇が何故か俺の家で料理をしているのだ。

唖然として手から袋を落として仕舞う。

 

「お、おい.....。」

 

声を喉から振り絞って口に出す。

すると彼女は俺を見て、満面の笑みを浮かべて言葉を口にする。

 

「あっ、とも君おかえり~。」

 

彼女は俺の下の名前を慣れ慣れしく呼びながらも料理を続けている。

...え?なんで?

なんでなんでなんで!?

鍵を渡しているわけもないし、戸締りもちゃんとしていたはずだ。

なんで俺の家に居るんだ...!

 

「おかえりじゃねぇよ。」

 

「今日は早いんだねぇ。」

 

「今日は!?今日はって言ったか今!?お前...いつからこの部屋に居るんだ!!?」

 

毎日ちゃんと襖の中まで隅々見回りしていたはずだ。

コイツが居られるところなんかなかったはず.....。

戸惑う俺を他所に奴は溜息を吐く。

 

「もう、うるさいなぁ...。何か今日は嫌なことでもあった!?いいよ、おいで。話聞いてあげるから私の腕の中でいっぱいいっぱいたのしも....?うひっ...ひひ....。」

 

やれやれと言った様子で手を広げる。

そして俺の目を見ると、どんなことを考えたのか知らないがうへへと気持ち悪い笑みを漏らしてしまっていた。

嫌な事は目の前で起きているんだよなぁ....。

 

「どう入ってきたお前、まさかまた呪術とか使ったのか?家内安全家内安全家内安全!!!!」

 

まるで口裂け女のポマードのノリで家内安全と連呼する。

しかしそんな俺を見て、微笑まし気に笑う。

 

「ふふっ、必死に連呼してる。無駄なのに....。今回は呪術じゃなくて、ちゃんと合鍵作ってきたよ。ほらっ、人間らしいでしょ?」

 

そう言って履いているジーンズのポケットから鍵を取り出して笑う。

怖っ....イカれてるよ。

どうやって作ったんだ?

いや、それ以上に....俺に対して呪術を使っていない以上は追い出す術がない。

 

そしてそんな俺の様子を見ながら、彼女は俺の方へ身体を向けて口を開く。

 

「とも君、今日からボクは...ここに住もうと思う!」

 

「いやいやいや住むじゃねぇよ。帰れよ。」

 

そう言うと彼女は首を傾げる。

 

「帰れ?....帰れって言ってもここがボクの家だって!帰る家はここなんだよ?君はおかしなことを言うね?ふふっ....。」

 

そう言って口元に手を当ててクスクスと笑う。

ダメだ苛立ちよりも恐れが増すなんてことがあるんだな。

コイツの頭の中ではもうここは自分の家らしい。

随分と都合のいい頭をしていらっしゃるようだ、俺の実家の家神様は。

 

「てかそれなんだよ。オイ....何人の家の台所で勝手に飯作ってるんだ!?あぁん?」

 

蛇に碌な物なんか作れないだろ。

そう思って鍋の中を見る。

ぐつぐつと噴いている鍋。

鶏肉や豆腐が躍っており、傍には皿に野菜が綺麗に洗われて置いてある。

....悔しいけどうまそう。

 

「君の為に作ったんだよ?...一緒に食べようね?これでいつまでも一緒だよ。こうやって一緒にこれから思い出を作っていくんだよ?分かるよねぇ??」

 

そう言いながら腕を掴み、距離を縮めんとする蛇。

握る手の力はその細腕からは考えられない程強い。

....でも、旨そうだな。

いや、中に何が入ってるか分からない.....。

でも作るの面倒臭い。

 

「...じゃあ百歩譲ってそれは一緒に喰う。でも食ったら出て行って。」

 

ここで飯作ってくれたから居ても良いよというのは流石に無防備が過ぎる。

人外の嫁はいらん!帰ってくれ!!

アンタがいくら人っぽく振る舞っても俺には青い渦が見えているんだ!

 

「....出てかないよ。何言ってんだ。」

 

すると彼女の目が据わる。

剣呑な雰囲気。

彼女は俺に絡みつくように背中に腕を回す。

ヤバいな....ちょっと刺激しすぎたか?

案の定、彼女の周りの渦は不安定にブレ始めている。

さながら勢いを増す、渦潮のように。

 

....しょうがない、妥協するか。

俺はゆっくりと彼女の身体を押しのける。

そして、口を開いた。

 

「....出てく出て行かないはもうこの際後でもいいや......その鍋リビング運べ。契約は忘れていないな。俺は知ってるんだぞ。お前は俺の同意がなければ俺をなんかアッチの方向で食うことは出来ないはずだ。」

 

そう言うと、彼女はにっこりと笑顔を見せる。

 

「最初からそう言えば良いんだよ?じゃ、鞄とか置いて来てね。....それに、無理やりじゃなくても、いずれ君から私を求めるさ。」

 

今までとは毛色の違う、捕食者特有の蠱惑的な笑み。

そう言って鍋を素手で持ってリビングに運び込んだ。

どうして....こうなった。

俺は....。

 

「普通に生きたいのに....こんな面倒なことは見て見ぬふりしてきたのに....。」

 

肩を竦めてそう吐き捨てる。

そしてリビングに入ると、勉強机の横に鞄を置くとテーブルの前に座り込む。

向かいには奴がジッと俺を観察するように見つめていた。

それはさながら獲物を前にした蛇のよう。

 

 

雌雄も分からぬ人外と暮らすことになった。

しかしこれはまだ序章でしかない。

この日から、俺は今まで目を逸らしてきた領域と向き合わなければいけなくなったのだ。

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