親方、空から女の子が!!   作:胡椒こしょこしょ

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ああ!窓に!窓に!....窓がぁ!!!

生活圏に侵入されている。

その感覚はなんとも言い難いものだ。

家に帰れば一人だったのが、そこにもう一人居るのだ。

それも、相手は自分をアッチの方向で狙っている人外。

控え目に言って地獄である。

そしてこの地獄には終わりがない。

 

「お風呂が沸けたみたい!それじゃ一緒に入ろうか!お嫁さんといっしょ!」

 

「入るわけないだろ、一人で入ってろよ。」

 

窓の外から名前も知らぬ虫の音色が聞こえる夜。

ソイツは給湯器の音声を聞くと、こちらに笑顔で話しを切り出す。

逆に聞きたいが一緒に入ると思う?

怪異と裸の付き合いだなんて怖くて出来るわけないだろいい加減にしろっ!

 

すると彼女は急に頬を染めてモジモジとし始める。

 

「わ、私が先に入るの?....そ、その恥ずかしいから...私が入った後の残り湯、飲まないでね....?」

 

「飲まねぇよ!お前俺の事なんだと思ってんだ!!!」

 

恥ずかしがるポイントが予想の斜め上を行っていた。

そんなこと考え付きもせんわ!

キモスギでしょ。

そんなことした時点でそいつはもう人間の心を失っていると俺は思うね!

 

「え?好きな人の入ったお湯って飲むでしょ?」

 

「あのなぁ....飲むわけないし、なにより俺はお前のことは好きじゃない!」

 

怪異だし、なんか怖いしそもそも住居破壊したしな!

そんな奴の事好きになるわけないだろ!

常識的に考えて。

 

そう言って指を突きつける。

目を丸くする奴。

そして奴はふにゃっとした笑みを浮かべる。

 

「またまたぁ~、そんなことよりそろそろお前じゃなくて名前で呼んで欲しいなっーて。」

 

フワッと流されて別の話題へと移ってしまう。

流石は水に関係のある蛇。

自分に都合の悪い言葉は全て受け流してスルー出来てしまう程のスルースキルを持っているらしい。

 

「そんなこと言われても、俺はお前の名前を知らないんだよ。だからこれからもお前のことはお前と呼ぶことにするよ。」

 

ここで名前を呼んでしまえば、距離感が縮まったと奴は言い張りそうだ。

それは不快なので、そこは譲歩する気はない。

すると彼女はこちらに笑みを向ける。

 

「ふふん!君はこの家の主、つまりはボクの主ってことになるんだよ!というわけで君がボクの名前を決めて欲しいなって!」

 

そう言ってほらほら早く早く~と奴は俺を急かす。

正直、お前は俺の実家の家神で、ここの家神じゃないでしょ。

そう考えると、お前の主は俺じゃない。

勝手に僕になるのやめてもらっていいすか?

それに名前を決めるなんて面倒くさいこと態々なんでしなくちゃいけないんだよ....。

 

そう思っていると、ふと思いつく。

日頃の鬱憤の当てつけをしてやるチャンスだ。

ちょうど奴のとある言葉が脳裏に浮かんでいたので、そこを引き出して揶揄ってやろう。

日頃苦渋を飲んでいるから、このくらい許されるだろう。

 

「じゃあ決めてやるよ。お前は今日から行き遅れ.....。」

 

「フフッ、ムキになってるの?可愛いね、でも名前としては不適かな?だってこれから行き遅れじゃなくなるんだから....。」

 

『これでボクも行き遅れじゃなくなるんだね....』という彼女の言葉。

そこから名前を取った瞬間、彼女はにっこりと笑顔を浮かべながらにじり寄ってくる。

俺の目に映る彼女の青い渦、それはグルグルと今までに見たことがない程に荒れ狂っている。

もうね、目に見えてキレているのが透けて見えるんだよね。

まさか行き遅れと言っただけでここまでキレるだなんて,,,,これが奴の地雷だったのか。

 

「わ、悪かったって、ちょっとふざけすぎた...だからじりじりとにじり寄って来るの止めろ!笑顔を作っていても、俺にはお前が怒っていることは分かるんだぞ!!」

 

恐怖から俺は悲痛な声を発する。

それを聞いて、彼女も口を開いた。

 

「ん~?別に怒ってないよ?ただ唐突の子供の顔が見たくなったというか....よもやこの我を行き遅れ呼ばわりするような生意気なオスガキを分からせようかと思うてな....。」

 

「おい、素が出てるぞ。長く生きたんだったらそのくらい流せる寛容さを持ってほしいな。あと人の事メスガキみたいに言うの止めろ。」

 

わからせおじさんに詰め寄られているメスガキってこんな気持ちなのかな。

なら俺はロリコンの敵にならなくてはいけないらしい。

長く生きているんだから取るに足らぬガキの言う事と流してくれればいいのに、その余裕すらもないとは....。

さっきまで俺の言葉の都合の悪い所をスルーしていた奴とは思えないムキになりようだった。

 

「え?なんで?ボクからしてみれば君は遥かに年下。幼子みたいな物だよ。凄く可愛いね....、お姉さんが男にしてあげるから、目を....閉じて?」

 

「おい、よせやめろ!変な雰囲気出して近づいてくるな!悪かった!俺が悪かったよ!!ちゃんとお前の名前考えるから!!だから勘弁してくれぇ!!!」

 

モジモジと身じろぎを取ったかと思えば、腕を広げて妙な空気を漂わせながら奴はこちらに歩み寄ってくる。

彼女は俺の同意がなければ、俺に対してアッチの意味でも襲うことは出来ない。

だが、へばりつくことは出来る。

常に奴の気配を一番近く感じろと言うのだ。

これが人間の女の子であれば、据え膳のような状態だが相手は怪異なのだ。

曲がりなりにも怪異に憑かれるようにへばりつかれるなんて恐ろしい以上のなにものでもない。

もしかして何か体調に影響するかもしれない。

 

それ以上に、俺の事を幼子と呼称してはいるが、つまりはお前はその幼子に迫っていることだからな?

これ性別逆にしてみれば事案だぞ...っていうか逆にしなくても事案だわ。

怖いよ....ゴリゴリのショタコンじゃん......。

まさか男子高校生にもなってショタにカテゴライズされるなんて....。

奇妙なこともあったものである。

 

俺が必死に拒むも、彼女は遂に俺の目の前まで来る。

このままではヤバい!

なんとか意識を逸らさないと!

考えろ考えろ....このままでは食われはしないけど引っ憑かれる!

必死に考えると、ふとあることが思い浮かぶ。

 

「そう言えば、逆に契約を結んだりしたことがあるのなら、お前には前の名前があったんじゃないか?それ、教えてくれよ。前の名前を聞かないとどういう傾向で名付けて良いか分からないだろ?」

 

俺がそう言うと、彼女は動きを止めて笑顔を見せてくる。

 

「え~、ボクは君の付けた名前なら何でも嬉しいのに~、でもそうだなぁ...君が言うならちょっと思い出してみるね?」

 

ダウト。

嘘を吐くな嘘を。

さっきまで俺が付けた行き遅れって呼称にキレ散らかしてただろ。

流石蛇だけあって、嘘つきだ。

本気で受け取るべきではなにのかもしれない。

 

「えっと....君の曽祖父と契約を結んだ家神としての名前は瑞樹。家神になる前の期間では口縄様とか水統乱とか戒殺と呼ばれたこともあったっけ。そうそう、我が尖っていた頃は湖悪羅刹とか姦尼蛇痴みたいな名前もあったものか....。」

 

続々と語られる名前。

その後半を聞いて、なんとなくだが推察する。

コイツ....もしかして家神になる前は結構ヤバい奴だったのでは?

なんだろう、最後らへんとか漢字的にもやばそうだし。

 

てかそれなら昔の名前で呼んだ方が楽で良いだろ。

そう思うと、おもむろに口を開いた。

 

「それなら俺も瑞樹?っていうのが良いと思うぞ。」

 

「今面倒臭いからそれで済まそうって思ったよね?お姉ちゃんの目は誤魔化せないよ。お姉ちゃんプロだからね。」

 

「なんのプロだよ.....。」

 

奴の発言に呆れながらも、溜息を吐く。

どうやらバレてしまっているらしい。

もうこれなら下手に抵抗せずに名前を付けてしまった方が良い気がする。

パパっとそれらしい名前を付けてそれで終わりで良いんだよ上等だろ。

 

しかしいざ付けようとなると途端に思い浮かばなくなる。

どうする...全然思いつかないぞ。

...もう適当に蛇の時の体の色で良いだろ。

 

「じゃあ白で良いよ。白で。」

 

そう言うと、彼女は一瞬面喰らった後に赤面してモジモジとし始める。

なんだ....この振る舞いは。

そしてこの漠然とした嫌な予感は....。

 

「へ、蛇の怪異に白という名前を付けるなんて....。」

 

「おい、なんだよその態度。なんだ!?不安になるだろうが!!」

 

そう言うと彼女は身体を抱きながら口を開く。

 

「では『白蛇伝』と調べてみなさい。多分ボクの認識が間違っていなければ分かるだろうから。」

 

そう言われて調べてみる。

はえ~、中国古代の民間伝説の一つか。

一人の男と白蛇の逸話か....ん?これ、後期に行くにつれて段々民間説話から異類婚姻譚に変わってるんだけど。

白蛇の名前は白娘子....。

コイツの言わんとしている事を察した、察してしまった。

 

「おい、これって....。」

 

「まさかその物語と同じ名前を付けるなんて....、名は体を為す。つまりはこんな感じの関係になりたいってことかぁ....フフッ、俺の嫁宣言なんて恥ずかしい......」

 

「違うから!そんなつもりないから!お前が蛇の時の体色が白だったからで.....」

 

「はいはい、照れなくても良いってボクは分かってるから....君のお嫁さんだもんね!」

 

悲痛に叫び、弁解しようとする俺

しかし奴ははいはいとしたり顔で取り合わず、もはやその気になっている。

まずい、このままだとそういうことって勘違いされたまま、このウザイ感じが常日頃来るようになるんだぞ。

考えろ、考えろ。

別の名前に変えるんだ!

慌てて辺りを見回すが、思いつかない。

いや、待てクールになれ。

蛇といえば思い浮かぶ漢字。

巴。

うん、これにしよう!

これならどうやっても婚姻方向に繋げられないはずだ!

 

「今のは間違い!間違いだ!やっぱりお前の名前は巴!巴だ!!」

 

たしか巴の成り立ちは身を丸めている蛇だったはず。

単純にお前蛇だ!って意味合いの名前にしか取られないはずだ!

そう言うと、彼女はまるで意を決したような顔をする。

な、なんだ....今度はなんだ!?

 

「フフッ、巴蛇って知ってるかな?...君はボクを薬とするんだね....いいよ、飲んで......。口移ししてあげる.....。」

 

「わぁぁあぁああ!!!やめろやめろ!!!目を瞑ってまたにじり寄るな!!!」

 

どうやら俺が知らないだけで巴蛇という物があるようだ。

なんにせよこのままじゃさっきの二の舞だ。

それにそもそも薬を口移しとかお前やっぱりおかしいよ....。

 

これでもダメ....コイツ無敵か?

蛇の逸話の範囲が広すぎる。

これではどうしたら良いか....。

 

...いや、待てよ。

二つの逸話が今出た。

ではその二つの名前をキメラしたら何の意味も逸話もない名前になるのではないか?

そうだ、それが良い。

流石に三度目の正直になるはずだ!

 

「いや、これでもないな。よしっ、今度こそ....お前の名前は白巴でシロハだ!はっはーん、どうだ?何か逸話でも出してみろよ。えぇ?出したらまた名前を変えるだけだけどなぁ!!!」

 

すると彼女はあからさまに詰まらそうな顔をする。

 

「,,,別にそんな物ないけど。」

 

勝ったな....。

奴の顔を見て、そう確信する。

畜生が....人間を無礼るなよっ!!

 

すると不意に彼女が声を発する。

 

「それじゃあ私の名前はシロハってことで良いんですね?本当に?」

 

「?ああっ。今更どう言おうが無駄だ。お前はシロハ。こじつけが出来なくて悔しいでしょうねぇ!」

 

勝ち誇ってそう言う。

すると、その瞬間。

目の前の彼女から見える青い渦。

それが一瞬ぼんやりと光を増して、俺の周りを包み込んだ。

そしてすぐに彼女の元に収束する。

咄嗟に逃れようとするも、執拗にすさまじい速さで俺に迫る。

そして避けることが出来なかった。

な、なんだ....。

何をされた.....?

 

突然出来事に驚いていると、彼女は俺の目を見て蠱惑的に笑う。

 

「ううん、ボクは全然悔しくないよぉ?なんたって君に名前を付けてもらったからねぇ。」

 

「お前、何を...呪術か!?家内安全!家内安全!!」

 

前のこともあって、そう断じると家内安全と唱える。

...が、何も変わらない。

ただ俺のその様子を見て、微笑を湛えている。

 

「君は本当に可愛いなぁ.....、まさか簡単に口車に乗ってくれるなんて....。」

 

「お前....笑ってないで何をしたかって言ってんだ!なんで家内安全が効かないんだよ!!」

 

慌てふためいて彼女に詰め寄る。

すると彼女は口を開く。

 

「私の在り方が変わったんだよ。」

 

「あり方だぁ?」

 

そう聞き返すと彼女は頷く。

そして言葉を続けた。

 

「君は知らなかったみたいだけど、名前のない怪異に改めて名前を付ける。それは自身の配下にする時にするんだよ、名は体を為すから。」

 

名は体を為す。

それはさっきも聞いた言葉だ。

 

「君が言い切った名前をボクが受け入れる。そうすることで私の中で君は寄る辺となるんだ。これは呪術でもなければ君に害のある契約でもない。だから家内安全の契約が弾く範囲から漏れてるんだよ。そもそも君の曽祖父は後継者となる男が生まれた場合は今までのように契約させるつもりだったみたいだからね。」

 

「...それで、どうなるんだ。」

 

俺が聞くと彼女は微笑みながら答えた。

 

「ただの家神でしかなかったボクは君の守り神としての役割も得た。つまりは君の隣にはボクが居るってこと。これでいつまでも一緒だね。本当、君が言い切ってくれて良かったよ。...分かるかな?君がどんな名前を付けようと、名前を付けてくれるのなら、ボクはなんだって良かったんだよ。」

 

「嘘....だろ....。」

 

まさか執拗に名前の所で色んな出典を出していたのは、俺がコイツの望む名前を付けさせないようにしようと思わせて、名前を付けること自体を拒否することを頭から抜けさせる為....?

嵌められたのか...?

俺は最初から掌で踊らされていたというのか!?

 

「さっきのつまらなそうにしていた顔は...全て嘘だったのか!」

 

「うん、勝ち誇っていた君の顔は本当に可愛いかったよ。....覚えておくのだな人の子よ。南蛮の方では蛇は言葉巧みに人の始祖を墜としてみせた。言ったろう?我はプロであると....。」

 

コイツ、ペテンのプロだったのかよ....!

こんなの知らない!俺はそのつもりはなかった!

 

「インチキ!インチキだ!!こんなヤバいのがずっと近くに居るとか無理!無理ィ!!クーリングオフ!クーリングオフだ!こんな守護神要らねぇよ!!」

 

「だぁめ、もう離れられないよ。それにどこに突き返すつもりなのかなぁ?結局突き返しても君の実家に戻るだけだし、ボクもここに戻って来るよ?...どうやったって君はボクと一緒に居るしかないんだよ。じゃっ、一緒にお風呂入ろうねぇ~....?」

 

「ひっ!近づくなッ!!ッ誰かぁ!!誰か助けてェ!!助けてェ!!!」

 

身の危険を感じて叫ぶ俺。

確かに彼女は契約で俺には手を出すことが出来ない。

でもそれはそれとして怖いのだ。

コイツは、人を騙して自分の望むように事が運ぶよう画策するのに長けている。

それに気づくと、途端に怖さが増したのだ。

 

助けを呼ぶも、当然応じてくれる人は居らず、ただただシロハが笑みを浮かべているだけだった。

 

 

 

 

 

 

結局扉の前でなんとか妥協させて、夕食を食べ終わる。

時刻は既に23時。

夜遅く、もはや寝る時間だ。

 

「あとは寝るだけかぁ....。初めて褥を共にすると思うと、ボク少し興奮しちゃうなぁ....。」

 

「おい、何勝手にベッドの中に入ろうとしてんだ。シングルだしダメに決まってるだろ!」

 

シングルだからと理由付けしてベッドの中に入り込もうとする彼女を牽制する。

しかし、彼女はふにゃりとした笑みを浮かべたまま言葉を続ける。

 

「え~、でも私変温動物なんだよぉ?人肌の傍じゃないと寒くて死んじゃうよ....あぁっ、寒いよぉ...誰か...誰か一緒に寝てくれたらなぁ....恩返しに肉布団になるのになぁ....」

 

「そのまま凍え死んじまえ。」

 

ベッドの傍に腰を下ろして身体を抱き、チラチラとこちらを見てくるシロハにそう吐き捨てる。

散々俺を騙しておいて、今更優しくしてもらえると思うなよ。

俺の中でのお前への好感度は会った時から右肩下がりに降下していっていることを努々忘れるな!

 

「入れてくれるの?なんて優しい人.....これはもう結婚しかないね.....」

 

「やめろ!布団の端を引っ張るな!俺は何も言っていない!!」

 

病的な目でベッドの毛布を捲ろうとするシロハ。

その毛布を必死で抑える。

なんて力だ、このままじゃ.....

そう思っていると、不意に彼女が動きを止める。

 

「な、なんだよ....急に落ち着くな....」

 

俺が戸惑っていると、彼女は口を開く。

 

「前から思っていたけど、この遠くから響いてくる金属音って....」

 

「....あぁ。まぁそういうことなんだろうな。」

 

俺は彼女の言葉の意を察して同意する。

窓の向こう。

音の聞こえる方向を見る。

すると遠巻きだからか小さくではあるが、二つの光のような物が近づいたり離れたりしながらもぶつかり合っている。

目の前のヤバい蛇女から見える青い渦、それと同じだ。

別に珍しい事じゃない。

こういうのは街を歩いていても、よく見る。

大方、人ならざる領域に程度の差はあれど足を突っ込んだことがある人間なのだろう。

もしくは怪異が人混みに紛れ混んでいるのか。

別に関わるのも面倒だし、見えていると分かるとこれまた面倒な事になるので見なかったことにしてきていた。

だから夜中にそんな光が見えてもなんら驚きはしない。

 

光の片方は見ているだけで不安を煽られるような、常に形を変えて形容しがたい黒い澱のような物。

そしてもう片方は陽光のような柔らかい光が十字架のようになったもの。

何かと何かが戦っているのだろうか?

それならそれで勝手にしろという話だが、正直高頻度でこの音を夜中に聞かされる方の気持ちにもなって欲しいものである。

普通に騒音被害だし、視界の隅で小さな光がウロチョロ蠢ているのが見えるのだ。

気が散る。

 

するとシロハは口を開く。

 

「ぶつかり合いなんて元気が良いなぁ....。よしっ!ボク達も負けていられない!朝まで身体をぶつけあって....。」

 

「だからやめろって言っただろ!!!」

また毛布の引っ張り合いが再開した。

正直力は向こうの方が強い。

しかも多分これでも奴はまだ本気を出していないのだと見受けられる。

一方、俺は息が切れ気味。

無茶苦茶だ....俺で遊んでるつもりなのか....?

 

そう思った矢先、不意にシロハが目を見開く。

瞳孔が開き、その様はまるで夜行性の肉食動物。

そして、急に俺目掛けてダイブしてくる。

 

「ちょっおまっ!なんのつもりだ!遂に本性を現し...ふがっ!!」

 

声を上げようとする俺の頭を胸に抱きすくめる。

顔全体に感じる柔らかい感触と良い匂い...って、違う!

コイツは怪異だ。

これも全ては紛い物。

魔性としての側面に過ぎないのだ。

 

まさかコイツ、俺を襲うつもりか?

いやでも、契約でそう言う行為は出来ないはず.....。

そう考えこんだ直後、まるでそこだけ紛争地になったかのような轟音とガラスなどが割れる甲高い音。

彼女は俺の頭を抱きすくめたまま毛布を被っていた。

毛布にボフボフと何かが落ちる音。

彼女はその間、まったく身じろぎが取れない程に抱き締めている。

 

でも、確かに感じられた。

彼女の身体の感触や匂い以外にも部屋中に広がった淀んだ空気。

それを確かに肌で感じることが出来る。

その感覚はそう....外でドンパチやっていた奴らの中でも黒い方。

そいつの黒い靄のような物を見てた時の気分を数倍酷くしたような物。

 

「....もう、大丈夫。」

 

彼女は腕の力を弱める。

俺は彼女の胸元から顔を抜け出すと、奴に対して不満げに言葉を吐こうとする。

 

「お前、いきなりこんなこ....はっ?」

 

しかし、その言葉は途中で詰まってしまう

それもそのはず、さっきまでキレイに掃除されて整えられていた住居。

その壁にキレイな風穴が空いており、嵐の後のように部屋は荒れ果てていたのだから。

外を見ると、みるみる黒い靄が小さくなっていく。

遠ざかっているのだろう。

 

つまりは....これは.....。

 

「戦いの余波でこちらまで飛ばされたのかな?....良い度胸だよね。ボク達の愛の巣をこんなことにするなんて.....。」

 

「いや、愛の巣じゃないけど....えっ、これマジで言ってる?」

 

住んでいたアパートがこの蛇のせいで損壊して移り住んだこの家。

それが埃に塗れて家具は薙ぎ倒されて、地面に木屑やガラス片が散らばっている。

当然、窓も跡形もない。

そりゃ壁がないんだから当然だ。

えっ、これマジ.....?

こんなすぐに家って駄目になるもの?

これは流石に実家に連絡入れずらいぞ。

短いスパンで壊れすぎでしょ.....。

 

「まぁ、俺を守ってくれてありがと.....だけど、悪いけど一つだけ言わせてもらうぞ?お前ら怪異ってもしかしてみんな口裏合わせて俺の家破壊しに来てない?大丈夫?集団ストーカー?家に外気吹き込む感覚を二度も味わうとは思わなかったわ!!」

 

俺がそう言うと、彼女は俺の背中撫でてくる。。

 

「あぁ~よしよし、ボクは君の守り神なんだからそんなことしないよぉ?それに...もし我と汝の愛の巣を破壊しようなどと目論む不埒者が居るのであれば、我は末代まで呪い殺してやろうぞ。安心せよ、人の子よ。」

 

「いや、愛の巣じゃないし...物騒で微塵も安心できないんだけど.....。あと、お前も落ち着け。」

 

俺の背中を撫でながら、けおる彼女を諫める。

彼女は家神。

そしてなにより勝手に守護神になった奴だ。

このように俺に危害が加えられれば許せるものではないだろう。

...奴の個人的な感情は抜きにしてもだ。

すると不意に彼女が口を開いた。

 

「それで、どうするの?」

 

「えっ、何が?」

 

急に聞かれたので、俺は戸惑いながらも聞き返す。

すると、彼女はおかしそうに笑う。

 

「フフッ、決まってるじゃん。ボクは君の守り神なんだよ?君が命じればここに突っ込んだ奴を後悔させに行く。...でも、君がこれ以上、関わりたくないならボクはそれに従おう。どうするの?」

 

そう尋ねてくるシロハ。

その目は真っ直ぐに俺の目を真摯に見つめていた。

あの時に感じた不快感。

それを思い起こすと、俺は彼女に尋ねていた。

 

「後悔させに行くったって....あの不快感は間違いなく、ただの怪異じゃ.....」

 

「いや、ただの怪異だよ。それも術式でしかない。使役された取るに足らない哀れな小間使いだ。一噛みで死ぬようなね。」

 

怪異じゃなくて、神霊。

もしくは穢れの一種。

そう言おうとした俺の言葉を彼女は遮る。

 

小間使い....あれが?

それにその口振り。

 

「お前....勝てるのか?」

 

「うん、楽勝。そもそも君が感じたのだって、あれはただのこけおどし。」

 

なんということもなくそう断言する彼女。

そう....なのか?

あの時、俺はシロハに守られていたので目で見ることが出来なかった。

...でも、彼女は見ていたのかもしれない。

だが....自分から厄介ごとに首を突っ込むか?

人ならざる領域。

それは踏み込めば踏み込むほどに抜け出せず、どんどんとそちらに引っ張られていく。

鬼と遊べば鬼になる。

そうなれば、普通の人としての人生を送るのは叶わなくなる。

一度逸脱した人間にはまともな生活を送る選択肢を取ることが難しくなる。

そんなことは分かっている。

 

躊躇っていると、不意に彼女が耳元で囁く。

 

「家を壊されて、このままで良いの?報いを受けさせられるのに....君はそのまま狸寝入りしてしまうのかい?それは君の心に、後味の悪い物を残してしまうような気がするなぁボクは。」

 

蠱惑的な声。

それは誘うように俺に問いかける。

....確かに、コイツの言葉が正しいなら勝てるのだ。

それに一度だけ、一度だけだ。

相手は身内ですらないよく分からない何か。

そんな奴に家の壁をぶち抜かれて、親にまた頼み込まなければいけないのにその破壊した張本人はなんの報いもないのか?

それは正しくない。

そんなのはおかしい。

 

「....良いぜ。分かった。シロハ.....俺の家を壊したこと、後悔させてやれ!!」

 

俺が言うと、彼女はにっこりと笑みを浮かべる。

 

「分かった。君が言うのなら....ボクは神であっても殺してあげる。.....ここは足場が悪いからね。ほら。」

 

そう言って、彼女は俺をお姫様抱っこする。

彼女も素足で瓦礫やガラスを踏んでるのに、血が出る気配もない。

さすがは怪異と言った所か。

でも.....。

 

「なんかこの体勢ちょっと恥ずかしいんだけど!」

 

「結婚式の時は君がボクにしてね?...そんな顔しなくても安心して?体重はちり紙のごとく軽くしとくから。」

 

「いや、そういう話じゃなくてだな.....。」

 

さっきまでのシロハとの会話、そして目の前の家の損壊で、彼女の言葉に突っ込めない程疲労している。

でもこれからもっと疲れることを態々しに行くのだ。

気を強く持たないと。

 

 

こうして、少年は傍らに化生を従えて暗闇へと足を踏み入れた。

今まで目を逸らしてきた暗闇へ。




蛇から見た主人公「えぇ~名前決めろぉ?めんど~い❤めんどくさいけど、やさしいからきめてあげるね?お姉さんの名前今日から行き遅れぇ~❤ぷふふwその歳で行き遅れとかマジありえな~いwキモスギィ❤」

うわぁぁ...こんなオスガキ相手したらムラムラバキバキになってわからせ守護霊になってもしょうがないですねたまげたなぁ。
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