親方、空から女の子が!!   作:胡椒こしょこしょ

4 / 4
クトゥルフ神話回です。


邪神娘サニティダービー

夜の街。

パジャマ姿の俺を冷たい外気が吹き荒び、少し身震いする。

すると、俺を抱きかかえている腕が一層強く締められる。

 

「寒いの....?大丈夫だよ..お姉ちゃんが温めてあげるからね....君の体温とお姉ちゃんの体温が混じり合う感覚をゆっくり堪能してね.....。」

 

「言い方が気持ち悪い...ってかアンタ変温動物じゃなかったのかよ。」

 

俺の耳元でねっとりと囁くシロハから身を捩って離れようとしつつも、夜の街を最高速で駆ける。

靴も履き替えて、家の外に出て家の中に突っ込んできた奴に責任取らせようとしたものの、シロハが俺の歩行速度では追いつけないと言い出したため、このように彼女に抱きかかえられるような形になったのだ。

確かに俺の走行速度とは桁違いの速さで街を駆けている。

しかし、時折後ろから彼女が囁いたりしてくる。

つか、そもそもパジャマのままだから走る速度が速い分、冷気が身体にバンバン当たって寒いのだ。

 

寝る前は変温動物が云々言って、ベッドに入ってこようとしたのに今ではこんな様子だ。

よく口が回る奴だ。

面の皮が厚いとはこういうことなのだろうか?

 

「愛があれば,,,すぅーーー,,関係ないよ。はぁ~~~、すーーーー。」

 

「おい!止めろ!何してる!!人の頭皮を嗅ぐな!!!」

 

俺の後頭部に顔をくっつけて息を大きく吸い始める。

怖気を感じて、なんとか腕の中から逃れようとするもものすごい力で抱き締められている為にびくともしない。

嗅ぐためにほんのりと奴の身体が熱くなっている意味を知りたくない。

察しはつくが、見なかった振りした。

 

走るたびに金属がぶつかり合う甲高い音が近くなっていく。

確実に奴に近づいている。

一目見た時にはおぞましい動きをしていた何か。

だけど、彼女の楽勝という言葉を信じてここまで来ている。

もし嘘だったらマジで許さんからな....。

 

そう思っていると、シロハが大きく飛び上がる。

そして衝撃に備えるように胸に顔を埋めさせる。

柔らかいし、あったかいがこれは仮初の姿なんで気にする必要はない!

考えるな!!

身体全体で抑え込まれているのでさっき以上に身動き一つ取れない。

 

着地の衝撃と共に、彼女は胸元の俺の頭を撫でながらクスクスと笑う。

 

「胸の中だと大人しいね,,,分かってるよ。お姉ちゃんはお嫁さんだもん。君は男の子だもんね....。」

 

「いや、自由に身動き取れなくしたんだから大人しいもクソもないでしょ。」

 

そう言うと、彼女は俺をゆっくりと降ろす。

そして口を開いた。

 

「着いたよ。私たちの愛の巣をぶち抜いた不届き者の所へ。」

 

「いや、だから愛の巣じゃないって....」

 

コイツ相変わらず都合の悪い言葉は聞かねぇなぁ。

そう思いながら振り返る。

すると、そこには黒い衣を纏った短髪の女。

何故か一人で立っていた。

 

「...乱入者。」

 

こちらを感情を窺わせないような目で見ながらも微かにそう喉を震わせる。

なんだ....戦闘していたのではないのか?

金属音がしているのに....。

不思議に思っていると、ふと上から金属音が響いていることに気づく。

 

「えっ....。」

 

それは二つの影によるぶつかり合い。

一人は修道服を身に纏い、モーニングスターを器用にも振り回す少女。

そしてそれに相対しているのは黒い人型の何か。

咆哮する貌のない円錐形の頭部を持つ肉の塊で、触腕、鉤爪、手が際限なく伸縮して修道女を攻撃しようとしている。

その姿を見た瞬間、胸の中で言いようのない恐怖が無条件に沸き立つ。

まるで見てはいけない物を見ているかのような感覚。

 

「多分あれが術者なんだろうね。,,,,手っ取り早くて助かるよ...。我らに対する狼藉、貴様にとっては路傍の石を蹴る程度の認識だとしても、報いを受けてもらうぞ...。」

 

にこやかにそう呟いたと思えば、化生としての本性を露わにして殺気を出す。

すると、黒衣の女は表情を強張らせた。

そしてとある言葉を唱えた。

 

「にゃる・しゅたん... にゃる・がしゃんな....にゃる・しゅたん...にゃる....がしゃんな!」

 

その詠唱文。

それは、自分にとっても聞き覚えがあった。

それはTRPGや小説などで聞いたような記憶がある。

関連するのは....。

 

「ニャル...ラト....ホテプ....?」

 

クトゥルフ神話における外なる神。

無貌にして、数多の姿を持つ這い寄る者。

何が楽勝だ。

そんな超宇宙的存在になんか、勝てるわけ...ないじゃないか!

 

そう思った矢先に、彼女の詠唱に反応したのかニャルラトホテプは急降下して俺達とシロハの間に立つ。

うねうねと歪んでいて、しなやかに狂っている。

見える...奴の螺子暮れた深淵の如き闇。

見えない物が見えることがこれほどまでに忌々しいとは...これ以上見ていたら、気が...気がおかしく...

 

「ひっ...ひっ、ひぃ!!」

 

尻もちを突くと、無意識に頭を抱え込んでへたり込む。

目を逸らし、頭を抱える。

恐怖に対する本能的な防衛反応だった。

 

「なっ、他の人..!しまった....!!」

 

上で修道女がそう声を漏らす。

そしてその直後に、黒衣の女が言葉を続けた。

 

「そこの男は置いといて...アレは、厄介だわ。殺しなさい!!」

 

そう言った瞬間、ものすごい風圧を感じる。

きっと奴が触手を伸ばしたのだろう。

シロハは...どうなった?

まさか...死んで.....。

 

「...厄介?ハッ、戯言を抜かすな小娘。よもや力量を弁える眼すらも持ち合わせていないとはな....。」

 

シロハが鼻で笑う。

ゆっくりと顔を上げると、シロハが俺の前に立って奴が伸ばした触手を掴んでいた。

シロハはニャルラトホテプと相対しているにも関わらず、何も変わらない。

それどころか、威風堂々と奴を見て嗤っていた。

なんで.....。

 

「よっと.....、ともくん?早とちりが過ぎるよ。そういう可愛い反応してくれるのは嬉しいけど、もうちょっと落ち着かないとね。」

 

そう冗談めかして言ってくるシロハ。

コイツが平気なのはわかった。

だけどな....。

 

「落ち着けったって相手は外なる神、ニャルラトホテプだぞ!怪異であるお前はまだしも、ボクが落ち着いてられるわけ....。」

 

「神だと?笑わせないでよ。アレはそんな御大層な物じゃないよ。私の目を持っているんだから、慌てないでちゃんと見なさい。」

 

そう言うと、まるでもはや目の前に立つ外なる神など敵ではないと言わんばかりに相手に背を向けて、こちらに歩み寄ってくる。

すると、その隙を突くようにニャルラトホテプが触手を伸ばした。

 

「シロハ!!」

 

「良いから私の話を聞きなさい。」

 

そう言ってまるで蝿でも払うかのように適当に触手を払い飛ばす。

手に当たった瞬間、飛び散る触手。

 

「そんな.....。」

 

唖然とする黒衣の女。

そして、シロハは俺の前でしゃがみ込むと俺の脇の間に手を入れてそのまま持ち上げる。

なんかテレビで見た、飼育員に持ち上げられるレッサーパンダのような有様だ。

 

「ちょっ、お前...こんな時に何を....!」

 

「怖くて見れないなら、私がちゃんと付いていてあげるから.....我の霊力が見えているのだろう?なら、それと奴の、大きさと強さを目を凝らして比べてみよ。そして思い出せ、我が行った言葉を。」

 

そう言って俺を抱えると奴を見ざるを得ない姿勢に持っていく。

クソ...何考えているんだコイツ!

狂いそうになるって言ってるだろうが!!

そう思いながらも奴の中が見える。

 

黒く不定形でうねる闇。

見ていると酷く不安を煽られる。

だから....嫌だったんだ!

そう思うも、奴の言葉を思い出す。

 

「目を凝らせば...良いんだな。おかしくなっても、お前が責任取れよ!!」

 

奴は腕を締め上げて譲る気はない。

そうならばとそう吐き捨てて、目を凝らした。

相変わらず、気持ちの悪い動きの闇....と思いきやよく見れば、これ...なんかスカスカじゃないか?

それに、動きが激しいだけで、それそのものの力は強くない。

それどころか、前に見たシロハの渦。

落ち着いている時のアレにもまったく及んでいない。

 

これは....どういう....ことだ?

なんで、あんなものを見て...俺は怖がっていた?

そう思うと、シロハの言葉を何個も思い出す。

 

『見掛け倒し。』

 

『それも術式でしかない。』

 

『哀れな小間使い。』

 

そうだ、奴の力の総量を見れば、その程度の評価が相応しい。

それに、もう一度考えてみろ。

....クトゥルフ神話って比較的最近の物じゃないか?

神話と着いているが、発祥は小説であるし、紀元前から始まったギリシャ神話や日本神話などよりも断然新しい。

それに....もし、そんな御大層な物を使役できる呪文なら。

俺がTRPGや小説の知識として知っているわけがないのだ。

そう思うと、さっきまでの恐怖が嘘のように、目の前にいる不定形のうねうねが酷くちゃちくみえた。

 

「あれって.....。」

 

「...ふふ、分かった?やっぱりお姉ちゃんのフィアンセだけあるね。それならわかるであろう?偽りは指摘されればもはや存在を保つ事など叶わん。」

 

そうか。

シロハがあれは術式だと言っていた。

であれば、あれはさっきの自分の状況を思い返せばあの黒いうねうねをニャルラトホテプと認識すれば発動する術式。

であれば、アレがニャルラトホテプのような御大層な存在ではないと指摘すれば...。

存在が瓦解する。

 

「そうか....分かったぞ!お前の正体が!お前は.....」

 

再度触手をこちらに伸ばそうとして来るうねうね。

それに、対して指を突きつけた。

 

「お前は神なんかじゃない!ニャルラトホテプを知っている存在に対して恐怖を植え付ける術式を埋め込まれた使い魔....もしくはニャルラトホテプという名前を与えられただけの別の怪異だ!俺の目は、誤魔化せない!」

 

まぁ誤魔化せないとか言っておきながらシロハに言われるまで奴の詠唱を聞いて這い寄る者だと思ってしまっていた。

術中に嵌っていた。

だからこそ、あんま鬼の首を取ったかのように言うのは抵抗があるが.....こういうのは自信満々にやった方が効果的だ。

 

夜の街を響き渡る俺の声。

後ろで微笑を湛えて、俺の頭を褒めるかのように撫でるシロハ。

忌々し気に顔を歪めて舌打ちする黒衣の女。

すると、そんな俺の声に対抗するように修道女が叫んだ。

 

「えぇっ!?そんなバカな!!話が違いますぅ!!」

 

どうやら彼女は分からなかったらしい。

ていうかそもそも彼女が何者なのかも分からない。

よくよく考えれば乱入したとはいえこの状況。知らない奴ばっかだし分からないことばかりだぞ。

 

そう思っていると、黒いうねうねの身体が亀裂が入ってボロボロと崩れていく。

名は体を為す。

であればその名前が嘘で、それを誰かに指摘された場合。

在り方を保つことは出来なくなる。

それは存在が曖昧な怪異であれば致命的であろう。

 

バラバラと崩れ行き、中から多面体に絡みつく蛭のような虫が飛び出す。

どうやらアレが依り代のようだ。

それを見たシロハは、俺を解放すると跳躍。

着地するついでのように多面体ごと踏みつけた。

足を上げるとどうやら素材は木のようで、木屑と共に蛭がぺちゃんこになって道路に張り付いていた。

 

「最悪....。」

 

そう言い残すと、黒衣の女が踵を返して走り出す。

使い魔もやられて分が悪いと思ったのだろうか?

そんな彼女の背を見て、深く獰猛な笑みを浮かべるシロハ。

地面を強く踏みしめる。

しかし、その瞬間飛び込むかの如く修道女が彼女に飛び付いた。

そして瞬く間に腕を取り、地面に組み敷いた。

 

「と、とにかく逃がしません!人形遣い、確保です!!」

 

そう言うと、更に強く黒衣の女を地面に押さえつけた。

そして、首だけこちらに向けて俺たちに頭を下げた。

 

「えーと、誰だか分からないのですが...でも、協力感謝します。有難うございました。」

 

俺達に感謝を告げる修道女。

正直、状況は未だに理解できていない。

ただ、シロハが一歩踏み出す。

 

「我は貴様の事情など知らん。ただその小娘が使役していた蟲が我らの愛の巣を破壊したからこそ、その責任をそこの女に払ってもらおうと思っただけだ。...ねっ?ともくん!」

 

「だから愛の巣じゃないって....。えーと、その僕らはそこの人が使っていた神様擬きに家を壊されて....その、住居破損についての責任...もしくは報いを受けさせるためにここまで来たんです。そのっ、なので...そこの人と話をさせてもらえればうれしいのですが....」

 

一応下手に出る。

あの時、奴が戦っていたのがこの修道女ならば。

彼女も十字架に似た形の光を発していた。

ならばこそ、彼女も普通の人間とは思えない。

それに片手にモーニングスター握っている時点でおっかないし。

 

俺の言葉を聞くと、彼女は申し訳ないと言った面持ちで俺たちに対して頭を下げる。

 

「そ、そうだったんですか....すみません。その、出した損害は申告して頂ければ教会が保障致しますので....。」

 

「教会?あの....すみません、俺達いまいち貴方が何者か分からなくて....。」

 

彼女の恰好は修道女だ。

そして教会。

彼女が何者なのか気になる。

それに教会が保障してくれるというのは聞き捨てならない。

 

すると、彼女はえへへと笑いながら話を続ける。

 

「そ、そうでしたね、まだ私の事を教えていませんでした。自己紹介しても居ないような人間のことなんか信じられるはずがありません。私は.....」

 

彼女が口を開く。

そしてここに来るまでの経緯を話し始めた。

 

 

 

 

 

「ということで、私は教会に危険人物である人形遣いの目撃が日本のこの街であったと聞いて来日したんです。そして、人形遣いの特徴と一致している彼女を確保したんですが....そのっ.....」

 

彼女は胸を張りながらもそう言い切る。

彼女が話し始めて一時間。

正直、寒いしで途中もう聞くのやめようか迷ったものだった。

 

マリアと名乗る彼女。

どうやら彼女は代行者なる教会が擁する刺客の一人で、人間社会の脅威となるような人ならざる力を振るう人間を粛清するように言われていた。

ただ見た目の情報と似た格好をした彼女を人形遣いなる人間と勘違いして戦闘していたらしい。

それにしても、マリアから十字架状の光が見えていたがまさか素性もそのまんまとは...。

 

「...私は初めから人形遣いって誰って言った。」

 

不服と言った様子で黒衣の少女が言う。

すると、申し訳なさそうにマリアは頭を下げる。

 

「いやっ、その...本当にごめんなさい。そのっ....人形遣い本人がとぼけているのかと思って...それに、貴方が連れていたの使い魔を見て、人形かと思っちゃって....。」

 

どうやら彼女はニャル擬きを見て、人形の一つだと勘違いしたようだ。

だからこそ、俺が擬きの正体を告げた瞬間、話しが違うと言ったのだろう。

それを鑑みると、彼女はニャルラトホテプという存在を知らなかったのだろう。

だから呪文を聞いてもピンと来ず、そのおかげで俺のように怯えていなかったのだろう。

 

「それじゃ、その...貴方は何しに来日したんですか?その...ロザムンドさん。」

 

ロザムンド・ダーレス。

それが彼女の名前らしい。

呼び方に困っていたところ、彼女が自己申告した名前だ。

すると、彼女は俺の問いに答える。

 

「...日本では、先祖の広めた術式の神格を美少女にしていると聞いた。興味深い....。」

 

あー、なるほど。

日本ではクトゥルフ神話は美少女キャラとしてデフォルメされることが多いですね....。

なんでも、彼女はオーガスト・ダーレスの子孫であるというらしい。

クトゥルフ神話の祖であるラブクラフトと肩を並べる存在としては一応知っていたが、まさか魔術師だったとは....。

 

「....どちらにせよ、誰が我が愛の巣の補償とやらをするのか?え?小娘、貴様か?」

 

「私、そんなお金はない....。」

 

シロハの視線から逃れるように身を捩るロザムンド。

どうやら、彼女はシロハがヤバいということは察しているようだ。

まぁシロハと相対した時に、上に居たニャル擬きを呼び戻していたのもそう言う事なんだろう。

シロハ結構殺気出してたしな。

 

「え、えーと!ぜ、全体的に私の落ち度ですし、教会が支払う形には変わりはないっていうか....。」

 

「ほう...それは重畳...。...良かったね!とも君!!」

 

「お前、家のことしか考えてないんだな。」

 

まぁ彼女自身、元々家神で俺の守り神だ。

寄る辺である俺が最優先というのは在り方として当然なのかもしれない。

 

「えーと、確か住居損壊ですよね?とりあえず電話番号と住所を教えて頂ければ補償いたしますので.....」

 

「あ、はい。」

 

そう言って彼女に住所を教える。

逆にマリアさんの在籍している教会の電話番号を教えてもらった。

そして、彼女は頭を下げる。

 

「じゃあ、今日は色々と教会の報告をしなくてはいけないですし、結局人形遣いは見つかっていないので...ここで失礼します....。」

 

「あ、わかりました。...で、ロザムンドさんは?」

 

俺が聞くと、彼女は俺の問いに答えた。

 

「私は....ホテル取ってる。」

 

ホテル取ってるのか。

まぁ、そりゃそうか。

彼女は半ばここに旅行しに来てるような物だからな。

色々勘違いや不運が重なってこうなったのだから。

 

「まぁでも...お家荒らしちゃったのは私だし....帰国する前にお詫びはする。」

 

「ほう....殊勝な心掛けよな小娘。それで、貴様に何が出来る?」

 

隣でシロハがまた威圧している。

コイツ、ロザムンドさんが喋るといつも威圧してんな。

まぁ彼女が家を破壊した張本人だからだろうが。

 

「....一応、私は魔術師。だから.....多分、なんか役に立てる...と思い..ます。」

 

シロハから視線を外しながらも、彼女はそう言う。

 

「まぁ、俺としては補償はしてもらえるっぽいから別にもういいけどな。」

 

正直、家が直るならロザムンドさんから何かしてもらう必要もないと思う。

これで実家に電話しなくても済むのだから。

すると、シロハが俺の顔をじっと見ていた。

なんだ、この胸のざわつきは....。

 

「....なんだ?」

 

「いや、なぁんにもないよぉ?お家が直ればそこの女はどうでもいいもんね~。」

 

そう言って彼女はなんか引っ付いてくる。

俺がニャル擬きにやられてた時も頭撫でていたりと、どさくさに身体を触ってくる。

油断も隙もあったもんじゃない。

 

「暑苦しい、やめろ。」

 

「ん~?外出た時はパジャマだけで寒いよ~って感じだったのに、すぐに熱くなっちゃったのぉ?嘘吐くのは駄目だよ、お姉ちゃんが温めてあげるからねぇ....。」

 

そう言って彼女は俺の身体に絡みつく。

クソ、力も入っていないはずなのに振り払えない...!

流石は蛇だと言った所か....。

 

「それじゃ。」

 

彼女はシロハに絡まれている俺を見ないようにして別れを告げる。

そして歩いて行った。

彼女達が見えなくなった後、今日の出来事を鑑みる。

 

今日は色々とあったなぁ。

正直、かなり疲れたし帰って眠りたい。

そう思った瞬間、あることに気づく。

 

「...そういえば、家の中瓦礫やガラスで滅茶苦茶だったよな?」

 

これ、眠るところなくないか?

そのことに気づくと、みるみる顔が蒼くなる。

やべぇ...どうしよう。

そう思っていると、シロハが俺の顔を見て微笑む。

 

「それなら私に任せて。君のお嫁さんとして、安心して寝れる場所を知ってるよ。」

 

そう言って、彼女は手を広げる。

そして言葉を続けた。

 

「私の腕の中。寒空の下、行く場所を失った恋人はお互いの暖かさを感じながら眠りに就いて愛を深め合う....、とてもロマンチックではないか....うひ、うひひひ....」

 

どこか自分の世界に入り込んで、気持ちの悪い笑みを浮かべるシロハ。

そんな様子を冷めた目で俺は見ていた。

 

「あほくさ。野宿がしたいなら一人でやってろ。俺はネカフェかカプセルホテルでも探しに行く。」

 

そう言って歩き始めると、シロハは跳ねるかのように軽やかに俺の横に並び、口を開く。

 

「それなら、大蛇となった我の口内はどうだ。とても暖かいぞ。我の中で安息の時を過ごすと良い....。」

 

「“生”暖かいだろうな。それに丸呑みなんか危ない橋渡れるか。」

 

そう言って彼女を振り切るように歩みを進める。

だが、ある事を思い浮かべる。

ニャル擬きと相対して、恐慌状態だった。

でも、それから自分を取り戻したのは...アレがただの仮初でしかないというのを教えてくれたのはコイツなんだよなぁ。

それなら、一言お礼くらいは言うべきかな....。

 

そう思って、振り返って彼女を見つめる。

すると、俺から見つめるのが稀だからか彼女は首を傾げる。

 

「そのっ....なんだ.....。」

 

中々するりと礼の言葉が出ない。

改めて礼を言うのが照れくさいとでも言うのだろうか?

....でもまぁ、言わない言葉は伝わらない。

だから....。

 

 

「あの時、...ロザムンドさんの使い魔を見て、恐慌していた俺に、自分を取り戻させてくれたのはお前だ。だからまぁ....あのっ、ありがとう....。」

 

すると、彼女は目を丸くする。

そして丸くしたと思えば、顔を伏せて身体を振るわせ始めた。

なんだ....?

 

「ともくぅぅふぅぅぅぅんんんん!!!」

 

まるでとち狂ったかのように奇声を上げながら飛び付いてくる。

触れる身体はどこか熱っぽい。

コイツ....まさか、あの一瞬で発情して.....?!

 

「最早御しがたき暴力的可愛さ。これが今世でいうデレという物か....、悪くない。お姉ちゃん一瞬でエンジン全開だよ!!もう今日は寝かさないからねッ!!スーハ―スーハ―、フェロモン!耳の裏側からとも君のフェロモン略してともフェロを感じる.....これはもう赤ちゃん準備万端だね!子供は大名行列が作れるくらい作りたいなぁ.....っていうわけで、ラブホに行くよ?選択肢はないからね?生存戦略始まるよ?交わる準備は出来たか小僧....今こそ契りの時.....。」

 

「うがぁあぁぁ!!マジでくっつくな!!!なんでラブホなんか言葉知ってんだよ!?もう、お前は一人で野宿しろ!これは命令だ!!野宿しろ!!!俺についてくるな!!怖い!!!」

 

貞操の恐怖を感じて、藻掻いて彼女を振り払う。

そして、遂には本音を口に出してしまいながら逃げ出す。

後ろをふと見ると、彼女が逃げる俺を見て薄ら笑いを浮かべていた。

 

「蛇は肉食なんだよ?...逃げられると捕まえたくなっちゃうよ.....。」

 

蛇でその言葉は無理があるだろ。

そう思いながらも、駆けだす彼女を目にして速度を上げる。

やばい、アイツはえぇ...!

こんなことになるなら、お礼なんか言うんじゃなかった....!

とにかく、捕まるわけにはいかない!

異類婚姻だけでも厄ネタなのに、化生との交わりなんか碌なことになるとは思えない!!!

 

そうして、一人の少年は自身の貞操を守る為。

一人の化生は自身の欲する雄を勝ち取る為に。

負けられない戦いの火蓋が、突然切って落とされた。




邪神擬きを使う少女。
この小説ではクトゥルフ神話という仮想神話を知っている相手に対して効力を発揮する魔術という見方をしています。
まぁ、これはダーレスの子孫である彼女が使うからこそ、ラブクラフトの書いたクトゥルフ神話をモチーフとした術式になっているだけであって、もしラブクラフトの子孫とかが出る余地があるのなら、それこそ超宇宙的存在が出てくるかもしれませんね。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。