呪術師という職業で世界最強!   作:リーグロード

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戦闘シーンに力を入れた結果、滅茶苦茶書き上げるのに時間がかかりました。


調伏の儀

「う……ん……、ここは……?」

 

 ぼんやりとする意識のなか、薄暗い辺りを見渡すことで意識を失う前の出来事が朧気ながらに思い出してきた。

 

 そうだ。俺は確か迷宮の奥で魔物を倒す修業をしていたはずだった。そして、あの猿型魔物の集団を相手に追い込まれてそれで……? 

 

 ダメだ。そこから先がまるで思い出せない。何かあったはずなんだ! 俺の求めていたものに手が触れた。そんな感じだったはずだというのに、一向に思い出せないことにイラつきすら覚える。

 

 そういえばあの五条は一体どこ行ったんだ? 寝覚めてから周りには俺1人しかいないようだし、魔物の姿すら見えない。

 

 体中にあった傷が1つ残らず消えていたのは不思議だが、腰にはちゃんとナイフとムチが装備されているし、眠っていたおかげで体力の方は万全だ。

 

 とりあえず、上へ目指そうと歩き出そうとすると、奥の通路から二匹の狼の魔物が姿を現す。

 

「「グルルルッ!!!」」

 

 その姿を見た瞬間、俺はその場から一瞬で飛び下がり、腰にあるナイフを取り出して構える。

 何か考えあってこの行動に移した訳じゃない。ただ本能があの魔物は危険だと察知して無意識のうちに行動に出たんだ。

 

「ちくしょう! 起きたばっかだっていうのに何だってこんな魔物に出くわすんだよ!!」

 

 自身の不幸に悪態をつきながらも、魔物への警戒は一切怠らず、この戦闘における勝利条件を冷静に頭の中で算出する。

 

(まず俺があの2匹を倒すのは無理だ。見た目は普通の狼と大差ないが、見た目とは違う不気味さ……? いや、これは生物としての格の差か? そういうのがヒシヒシと伝わってきやがる)

 

 ちっ! と舌打ちをしながらゆっくりと距離を取ろうと足を後ろに動かすが、それに合わせて狼も足を動かしてこっちに近づいてくる。

 

(クソっ! 完全に獲物として見られたか。とりあえず、一匹なら上手くやればナイフとムチでどうにか相手できたかもだろうけど、二匹同時となると片方を殺れてももう片方に殺される)

 

 こうなってしまえばこっちに勝利条件はただ1つ。あの二匹を五条がこの場に現れるまで相手をするしかない! 

 ふっざけんな!!? そもそも、なんであの人は今この場にいねぇんだ!! 

 

 あまりにも理不尽な現状の展開に、この場に何故かいない五条にキレるメグミだったが、そんな怒りによってほんの僅か程度ではあるが、メグミの警戒心の隙が出来たところを見抜いてか二匹は真っ直ぐ走り出してきた。

 

 慌てて腰を落として迎撃の姿勢に入るが、俺が予想していたよりもずっとコイツらは速かった。

 迫りくる狼の魔物からの攻撃に、なんとかギリギリの状態で受けに回ることができた。

 

 正面から口を開いて襲い掛かってきた奴にはナイフで口を切り裂いてやろうとしたが、真剣白刃取りみたく口でナイフを受け止めやがった。

 だが、幸いなことにコイツは4足歩行の生き物ゆえに、立った2足歩行状態の今じゃ充分な力を出せずにいるため、突進の勢いにさえ負けなければ押し倒されることはなかった。

 

 だが、問題はコイツじゃない。もう一匹の方だ! あいつは先に襲い掛かってきたコイツを囮にしてこっちの背後に回り込んでいやがる。

 

 真後ろだから完全に死角に入ってていつ攻撃されっか分かんねぇ! どうする? どうすればいい!? 

 

「ふぅ……」

 

 もう考えてもロクな案が出ねぇことは前々から分かっていたことだろうが、なら俺がやれんのは無鉄砲でも行動することだけだ! 

 

 最早なりふり構ってられない状況に追い込まれたメグミは、目の前にいる魔物を受け止める力をわざと緩ませ、押し倒される力を利用してその場で回転して魔物を後ろに投げ飛ばす。

 

「「ギャウン!?」」

 

 それが運のいいことにタイミング良く背後から襲い掛かろうとしてきたもう一匹の方の魔物と正面からぶつかり合いになり、互いに頭突きを喰らわす形になった。

 

 咄嗟に取った行動だったが、押し倒されるのを防ごうとして動けないのなら防がなくていいという逆転の発想がメグミの窮地を救ったのだった。

 

「よし! このまま起き上がらずに──―っは高望みし過ぎか……」

 

 大してダメージを受けた様子もなくすぐさま立ち上がった二匹を見て、さっきは使う暇もなかったムチを片手に装備して、今度こそ気を引き締めて戦いに挑む。

 

「おら! こっちはもう準備は出来てんだよ犬っころ共が、来るなら来やがれ!!!」

 

 覚悟を決めて相手を挑発するが、いくら理性的で知能が高そうな魔物といえど人の言葉なんて分かりはしないだろう。

 だからこれは相手への挑発ではなく自分を追い込むための掛け声だ。

 

 だというのに、それを知ってか知らずか目の前の二匹は「ワオーン!」と鳴いて向かって来る。

 やはり二匹の動きは速いが、2度目ともなれば多少は対応ぐらいは出来る! 

 

 先制攻撃としてムチによる乱打を仕掛けるが、音速に達するムチの攻撃を軽々と回避していく。

 少しくらいは当たると楽観視していたのだが、まさか全て避けるだなんて思わなかった!? 

 っが、もはやその程度の予想外では動じなくなったメグミは、意識を集中させてゾーンに入る。

 

 それによって二匹の動きは元のスピードよりもゆっくりに見えるが、元々のスピードがスピードなので焼け石に水のようなものに感じる。

 とはいえ、それによって辛うじて対応出来ているのは事実だ。

 

 迫りくる二匹の猛攻をナイフとムチによる牽制で凌ぎつつ、時折孤児の時に身につけた我流の体術を駆使して持ちこたえていた。

 

「「ガルルルル!!!」」

 

「クソッ! 一匹でもしんどいってのに、二匹同時で連携も取れてるとかふざけんな!」

 

 腹の底から出てくる恨み節に二匹の魔物も「クゥ~?」と何故か申し訳なさそうな声を上げる。

 そんな声を聞くと少しばかし戦意が削がれるが、流石に命のかかった戦いで手を抜く余裕はない。

 

 飛び掛かりや爪によるひっかきなど単純な攻撃しかしてこないが、その技のスピードと威力がこれまで戦ってきた他の魔物とケタが違っていた。

 もしメグミの握っているナイフが特注で作った頑丈な物ではなく、普通に売っている一般の武器であったなら、今頃は破損してジ・エンドとなっていただろう。

 

 ムチによる牽制とナイフによる防御でどうにかこうにか凌げているとはいえ、一匹は防御もう一匹は回避といった感じで対処してるが、防御を貫通する衝撃や回避しきれずに負うかすり傷に徐々に追い込まれていってる。

 

 心の中で早く来い五条と叫ぶが、そんな些末なことに意識を向けることさえ危険な程に今の状況は切迫している。

 一瞬でも他の事に気をまわせば即座に仕留められる。そういった予感? いや、実感が俺にはあった。

 

 事実、ゾーンに入って全集中の構えで対処してみせているというのに、二匹から攻撃を受けるのが精一杯で、たまに辛うじて攻撃を仕掛けるタイミングがあるとはいえ、ムチによる乱打を避ける狼の魔物を相手に掠らせるのがやっとだ。

 

 絶えず繰り出される連携攻撃に、一切ダメージが入らない状況に焦りと苛立ちが積もるが、そんなことで動きを鈍らせるほどメグミは甘い精神力の持ち主ではない。

 

 とはいえ、一向に好転しない状況と絶体絶命のピンチに挟まり続けていれば、精神的にも肉体的にも限界は近くなってくる。

 

 その証拠に一瞬とはいえ、魔物からの攻撃を受け止めた瞬間ゾーンが切れた。慌てて意識を高めてゾーンに入りなおしたが、そもそもゾーンに入ったのだって今日が初めてなのだ。

 慣れない力を持続させ続けるのは至難の業であり、こんな極限状態でなければ当の昔にゾーンは切れていただろう。

 

 もはや根性とか気合いでどうにかなるラインは過ぎている。それでも何とかなっているのは五条によるスパルタ修業と持ち前の才能(センス)によるものだろう。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……ふはは──―っ!?」

 

 ここまで追い詰められているというのに、何故か自分の口から自然と笑い零れだして驚くメグミは、思わず口に手を当ててしまいそうになったが、流石にそんな隙を作るほどマヌケではないためそんなことはしないが、動揺してしまったのは確かだ。

 

(俺は今なんで笑った? 別に笑うような場面でもなかっただろう、……なんだ何かを忘れている)

 

 霞がかった記憶に頭を抱えたくなったが、戦闘中のためにそうすることもできなかった。

 

 襲い掛かる実力が上の二匹の魔物と思い出せない記憶の板挟みにあうメグミは一心不乱にナイフとムチを振り回す。

 

 襲い来る目の前の死や思い出せない記憶の苛立ちはメグミの精神を確実に蝕んでいく。

 ナイフを握る手が痛い、ムチを振る腕が重い、起きてからずっと立ち回りで動かし続けていた足が棒のようになっている。

 

 もう何時倒れてもおかしくない状況だといのに、メグミの瞳からは生きるという意思は消えず、必ず生きて帰るという決意が胸の中で強く光っていた。

 脳裏に思い浮かぶのは孤児だった自分と同じ立場の己よりも幼い血の繋がらない兄弟たちの姿だった。

 その姿が今にも倒れそうなこの体を支えている。

 

 だが、それだけが今自分が立っていられる理由じゃないのはメグミも理解している。いくら精神が頑強で強靭だとしても物理(現実)はそれを簡単に踏みにじるという事実を。

 それなのに何故こうまで自分が動けているのか、記憶はないされど既視感はある。自分はこれと同じ状況を体験したのだと。

 

「そうだ。俺の最後の記憶は確かあの猿の魔物と戦っていた場面で終わっていた。あれから俺は……っ!」

 

 朧気な記憶がこの戦いをピースに形を取り戻していく。

 

「ああそうだ。思い出してきた……」

 

 意識を失う前にあった出来事が氷解するように思い出してくる。

 

(見習って楽しくバトルしてみな♪)

 

「ああそうだったな。我ながらひよってたぜ、何が勝利条件は五条が現れるまでだ!! バカか俺は!!!」

 

 今の俺は不甲斐ない自分に怒っているのだろうか、それとも呆れて笑っているのだろうか。

 自分のことながらに今の感情が理解出来ないでいやがる。

 

「でも、こういう時はとにかく楽しめって言うんだろ! あんたなら!!!」

 

 ここにはいないあの男の笑っている姿を想像して死にかけの自分の体に喝をいれて立ち直らせる。

 

「「グルルルッ!!」」

 

「ふぅ~、悪いがこっから先は俺の遊び相手になってもらうぞお前ら……」

 

 敵である魔物に歯を見せて笑いを浮かべ、ここからは凌ぐ戦いではなく倒す戦いに挑む。

 本来笑みとは友好的なものではなく攻撃的なものであり、獣が牙をむく行為が原点である。っと、どこの誰が口走った台詞かは知らないが、目の前の魔物たちがその言葉の意味を知れば納得して頷くレベルでメグミの今の笑顔は好戦的に映るだろう。

 

「それじゃ、いくぞ!!!」

 

「「グウォウ!!」」

 

 相手からの攻撃を待つのではなく、自分から攻めていく。格上2匹を相手に無謀で無茶な特攻だろうが、もうそれが一番の勝ち筋だと思えるほど五条に染められていた自分に驚きもするが、後ろ向きで戦おうともしていなかった少し前の自分より100万倍はマシだな、と内心で笑っている。

 

 前に! もっと前に!! そして、後ろにも目をつけろ!!! 

 

 先程とは打って変わって果敢に攻め込みながら、後ろから攻めてくるもう一匹の方にも意識を集中させてムチを振るう。

 

 確実にさっきまでよりも強くなっている。そう実感出来る程にナイフのキレは冴えわたり、ムチは最初と比べて魔物に掠らせるから当てれるまで成長した。

 

 とはいえ、幾ら成長したといえど現実はそう甘くはない。今この時点に至るまでに一体どれだけの傷を負ったのだろうか? どれほど動き回り体力を削ったのだろうか? 

 

 孤児で身寄りもない無力でちっぽけだった少し前の自分では想像だにしえない程の実力を手に入れたとはいえ、未だに自分は子供で体格が未発達なら体力だって満足いくようなものではない。

 

 ナイフを振れば体がもっていかれそうになり、ムチを振るえば手放してしまいそうになる。

 一撃を受けるよりも一撃を与える方が苦痛になるほど体力は尽き欠けており、このまま地面に倒れらたならばどれだけ楽だろうか……

 

「っ!! ちっげぇよな!! そういう時こそ笑うんだっていい加減その忘れっぽい頭に叩き込みやがれ!!!」

 

 ふらつく体で忘れっぽい自身の頭にナイフの柄を叩きつける。頭に出来た傷口から流れる血が興奮状態にあったメグミに冷静さを取り戻させる。

 

「熱くなり過ぎた……。本当に忘れっぽ過ぎる自分の脳みそに嫌気がさすぜ。心は熱く、頭は冷静に……だったか? 心はまだ勝てると信じてる。なら、後は冷静さ……勝つ道筋だけだが……」

 

「「ガルルルルッ!!」」

 

 さっきの猛攻で多少は傷をつけることが出来たとはいえ、どちらもまだまだ致命傷と呼べるようなものは無い。

 

「勝ち筋がまったく見えねえが……、上等だ! こっから見事に逆転してやるよ!!」

 

 常に前と後ろから攻めてくる連携攻撃に加えて、こちらを上回るスピードと反射神経でまともに攻撃を与える事も出来ない。

 とはいえ、勝ち目が全くないかと言われればそうではない。傷をつけることができるということは倒す手段があるということ、幸いにしてメグミにはこれまでの濃密な戦闘経験によって敵の行動の先読みが多少ながら出来るようになっている為に、ムチによる先制攻撃と追撃のナイフ攻撃で傷を与えられている。

 

 だが、所詮は傷をつけられる程度の力でしかない。このままいけばジリ貧でこっちの負けが確定してしまう。

 

「なら、ちょっと賭けにでるか」

 

 今まで先制攻撃として使用していたムチを放り捨て、ナイフを腰にある鞘に戻す。

 

 コイツらの厄介な所は常に俺を挟んだ対角線上に位置する場所に立っていることだ。

 だから、一匹を仕留めてももう一匹が背後から襲ってくるという最悪の状況だが、これを覆す方法が1つだけメグミの脳裏に浮かんでいた。

 

 その方法は最初にあの魔物と接近した際に偶然出来た投げ技による同士討ちを狙って生まれる隙をついての攻撃しかない。

 だが、相手は魔物ながらに本能だけではなく知能的な行動が出来る個体だ。もう一度同じ様な状況に持ってこれても再び通用するかどうかは分からない。

 

「それでも、やるっきゃねえ!!」

 

 腕をダラリと脱力させ、余計な力を入れずに目の前で牙を剥き出しにしながら唸っている狼の魔物に向かって突撃する。

 

「ガウワッ!!」

 

 それに対して相手の魔物も受けてたたんと真正面から飛び掛かって来た。

 

 ひとまずは狙い通りに真っ向から勝負を受けてくれた。もしこれで違う行動に出ていたならその時点で死亡は確定していただろう。

 

 次はこいつを投げ飛ばさなくてはならないが、こいつの攻撃を受け止める為のナイフは腰に仕舞い込んだ。

 今から抜いて構える時間もない。ならばどうするか? 簡単なことだ、相手を掴んでそのまま放り投げればいい。

 

 とはいえ、言葉で説明するほど簡単な事ではない。ほんの少しでも掴むタイミングが違えば真正面から敵の攻撃をモロに喰らうハメになってしまう。

 

 しかも、相手からの攻撃を待つのではなく、こちらからも向かっていっているので、そのタイミングは更にシビアになっている。

 

(だけど、こいつらの動きにももう慣れた! 後は感覚を研ぎ澄ませて集中しろ!!!)

 

 生きるか死ぬかの瀬戸際に自ら追い込み、自身の意識を極限にまで高めたメグミの変化はまず目に現れた。

 

 ゾーンに入った際と同じ相手の動きがスローになるだけではなく、周りの景色から色が抜け落ち白黒写真のように映り込み、数秒先の未来のイメージと呼べるものが知覚する事が出来た。

 

(これは?)

 

 突然の現象に驚きはしたが、このイメージが数秒後に訪れる未来だと無意識のうちに悟り行動に出る。

 

「ふっ!」

 

 メグミがイメージに呼吸を合わせて動くと、知覚したイメージ通りに首元を狙って襲い来る魔物の前足を掴むことに成功する。

 そのままの勢いで背中から地面に倒れ込み足を魔物の腹に当てて後ろに放り投げようとした。

 

 だが、このままでは失敗すると直感が囁いてくる。

 

 あの意識が極限まで高まった際に起きた変化は目だけではなく肌にも現れていた。

 あの瞬間にのみ感じられた嫌な気配、この迷宮で覚えた殺気と呼べるものが左後ろからこっちを狙っていると感じられた。

 

 だとしても、これは所詮は感覚だ。ゾーンの極地とも呼べる領域に足を踏み入れたとはいえ、付け焼き刃程度のものに命を預けられる程の信頼を置けるかといえばNOなのだが、メグミはこの感覚に何度か救われている。

 

 故に、一瞬の躊躇もなく殺気を感じた方向に魔物を放り投げた。

 

「「ギャウン!?」」

 

 その行動は見事に成功した。

 

 最初の失敗を反省した二匹は攻撃を避けられたり受け流されたりした際にお互いにぶつかり合うことの無いように、襲撃する場合は対角線上に立つのではなく、背後に立つ一匹が斜めにズレることを学習した。

 

 本来ならばそれで問題無かった筈だったが、メグミの見聞色の覇気とも呼べるほどの空間知覚能力を手に入れてしまった為に無駄になってしまったのだ。

 

「これが俺に残された千載一遇のチャンスだ!!!」

 

 さっき背後にいた魔物が真後ろではなく斜め後ろにいたのは完全に最初の失敗を学習した結果だ。

 だとしたら、この動きも次からは学習してくるに決まっている。殺るには今しかない!! 

 

 崩れた態勢から立ち上がると、腰に戻したナイフを抜き取ると同時に二匹の元まで駆け出した。

 

 恐らく二匹が立ち直るまでに俺が与えられる攻撃は一撃のみだろう。

 だからこそ、その一撃で二匹まとめて致命傷を与えなければならない。

 

 二匹ともダウンして動けない状態とはいえ、その体毛は強靭で奴らの肉体は弱い力では切り傷をつける程度にしかならないだろう。

 

 だったらどうするか? 思い出せ! これまでこの迷宮で殺してきた魔物の最後を!! 自分がどうやってそのナイフで敵を斬り殺してきたのかを!!! 

 

 今この瞬間に至るまでの全てをこのナイフによる一撃に…乗せる!!

 

「はああぁぁぁ!!!!」

 

 それはまさに必ず殺す必殺の一撃と呼ぶにふさわしいものだった。喰らえば並大抵の魔物なら切り裂く威力を持っていただろう、しかし―――

 

「はい、そこまで」

 

「えっ!?」

 

 メグミのナイフの一撃が二匹の魔物を切り裂く寸前に、いつの間にか姿を消していた五条が現れて指で摘むようにメグミのナイフを受け止めていた。

 

「いや〜、物陰からこっそりと気配を殺して見てたけど、随分と強くなったねメグミ♪」

 

「あんた……、いつから見てたんだよ」

 

にこやかなに笑いながら五条が摘まんだナイフを放すと、メグミは五条が現れたことでこれ以上の戦闘は必要ないと安心してナイフをしまい込み、その場で座り込んだ。

 

「そんじゃ、まずはその傷を回復させるとしよっか」

 

五条はメグミと倒れている二匹に手を当てると、反転術式によって一瞬で回復した。

 

「スゲェ!あんだけあった傷がもう無くなった。っていうか!?なんでその二匹も回復させてんだよ!!!」

 

「ああ、コイツらは俺が連れてきたメグミの式神候補だからね♪」

 

「はぁ!?」

 

「おっ!いい反応だね。一応言うと、さっきのは調伏の儀の簡易版みたいなもので、メグミに分かりやすく説明すると、戦いを通して魂の格を決定づけて主従関係を成立させるためのものさ」

 

「ならつまりあれか?さっきの戦いで俺がコイツらを倒すことが出来たから俺がコイツらの主人ってことになんのか」

 

「さっすがメグミ!頭の回転が早いね♪」

 

「そっか、……じゃねぇよクソ野郎!!!」

 

「グフッ!想像以上に鋭いパンチが鳩尾に……」

 

勝手に変な儀式に参加させられたという事実を理解したメグミは怒りの感情を拳に乗せて、無防備なまま突っ立ている五条の鳩尾にパンチを入れる。

 

「ゴホゴホ!まあ、俺としても正直言ってメグミが勝てるとは思ってなかったし、途中でメグミが吹っ切れる前まではその二匹の強さを見せつける程度の考えだったんだけど……」

 

ポンとメグミの頭に手を乗せて少々乱暴に撫でまわす。

 

「よくできました。メグミは充分に強くなったよ」

 

「…………///」

 

あまり褒められ慣れていないメグミは照れながらもその手を払い除けずにされるがままに受け入れる。

 

「いや~、まさか前回の迷宮での探索と合わせて3日程でここまで成長するなんて、師匠として誇らしいよ♪」

 

「……ん?3日って言ったか?2日じゃなくて?」

 

「えっ、ああそっか、メグミは寝てたしぶっ続けで戦い続けてたから時間感覚マヒしちゃってたんだね。そうだよ、今は迷宮に入ってもう1日は過ぎてるし、もうすぐで外は夜になる頃かな?」

 

「マジかよ」

 

まさか、もうそんな時間になっている事に驚くメグミに、「ワフッ」と先ほどとはまるで違う態度で二匹の魔物が接してきた。

戦っていた時のような殺気がまるでなかったから近づかれていたことに気付かなかったメグミはギョッ!としていたが、人懐っこい犬のように頭をこすりつけてきたからか、ふっと警戒心が緩んで思わずそのこすりつけてきた頭を撫でてしまう。

 

「うんうん、早速仲良くなって嬉しいよ。そんじゃ、メグミ手を出して」

 

「え?まあいいけど、変なことはするなよ」

 

「信用ないな~♪大丈夫だよ。ちょっと式神召喚用の術式を刻むだけさ」

 

メグミの出した手の甲の上に指でささっと模様を描くと、ピリッとした痛みが手の甲に走った。

 

「っつう!なんだよ今の?」

 

「ちょっと痛かっただろうけどそれがメグミと式神を繋ぐ証みたいなものさ」

 

メグミの手の甲を見れば、先程五条が指でなぞった跡が赤い模様を作り出していた。

 

「これでメグミと二匹との間に契約が交わされたから、いつでもどこでも二匹をその場に呼び寄せることができるよ」

 

「「ワンッ!」」

 

「だから変なことするなよって……、はぁ~、あんたにそんなこと言っても無駄だったな」

 

「全く心外だな~、結構便利なんだよ。それにコイツらの強さはメグミもよく分かってると思うけど?」

 

「…まあ、確かにかなり強かったな」

 

「でしょ~、あっ!でも、コイツら固有魔法使ってないから、あれで全力ってわけじゃないよ」

 

「はぁ?」

 

あれだけ苦戦したというのに、それでも全力を出されていなかったという事実に、噓だろの意味を込めた声を上げて二匹を見る。

 

「「クゥン?」」

 

メグミの視線を受けてどうしたの?といったような鳴き声を出して首をかしげる様子を見せる二匹に、あれ?俺さっきまでコイツらと殺し合いしてたよな?と頭を抱えて悪い夢でも見てたのかとため息をつく。

 

「それにしても、コイツらが俺の式神になるんなら、あんたの式神のハムスチャンと同じように名前が必要だよな?」

 

「ああそれなら心配ご無用だよ。コイツらの名前はもう決まっているから」

 

「準備が良いにも程があるな」

 

「ムッフッフ、それほどでもあるかな。まず、右のコイツが玉犬「黒」で左のコイツが玉犬「渾」って名付けたよ。分かりやすく黒には黒色のスカーフを、渾には紺色のスカーフを首に巻いておいてあげよう」

 

見た目では判別しにくい二匹を見分けやすくする為に、五条はそれぞれの名前に入っている色のスカーフを首に巻いてやると、自分たちへのプレゼントに嬉しくなった二匹が「ワンッ!」と鳴いて五条の顔を舐めまわす。

 

「アッハッハッハ、くすぐったいぞ二匹とも。そうかそうか、そのプレゼントがそんなに嬉しかったか」

 

よ~しよしと撫でまわすと二匹は気持ちよさそうに目を細めて五条の手にすり寄っていく。

 

「っにしても、玉犬とかなんか変な名前だな」

 

「ああ、異世界人ってなんか中世ヨーロッパ的な文化の人間だし、東洋の名付けには違和感があるのかな?」

 

とはいえ、違和感なんてものは慣れれば感じなくなるものだ。今は呼びにくい名前かもしれないが、いずれそんなことも無くなるだろう。

 

「そんじゃ、今回の修業はここまでにして帰ろうかメグミ♪」

 

「ようやっとか、もう1日過ぎちまってるし、2人共心配しているだろうな」

 

この修業でここに居ずともメグミを精神的に支えていた大切な弟と妹であるユウジとノバラの抱き着いてくる姿が想像出来る。

 

そうやってホッと終わりを修業の終わりを意識すると、今までメシを食べていなかったからグゥ~っと腹の虫が鳴いた。

 

「アハハ!今日はメグミは頑張ったし、美味しい物をじゃんじゃん食うとしようか」

 

こうしてメグミを背負った五条は今日も財布のヒモを緩々に緩めていくのだった。

 




置いてきた二匹は一応魔物なのでギルドに報告と従魔としての登録を済ますまでは迷宮でお留守番です。

次のIFで五条が飛び込む世界

  • ゼロの使い魔
  • 七つの大罪
  • スレイヤーズ
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  • HUNTER×HUNTER
  • 蜘蛛ですが、なにか?
  • この素晴
  • ダンまち
  • 転スラ
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