あれから2週間が経った。皆は訓練に汗をかくなか、五条だけは室内で書物を読みふけていた。
「ふむふむ、魔法やモンスターが存在するおかげで地球とは歴史も技術の発展の方向やスピードもだいぶ違っているな。けれど、だからこそ面白い。やっぱり未知ってのは最高の娯楽だな」
子供が漫画を読んで大笑いするように、五条は足をばたつかせて興奮する。
いくら五条が最強であろうとも、退屈な世界には耐えられない。
俺は原作の五条のように、呪術の世界をリセットするみたいな変革を望んではいない。
退屈な世界の壊し方ってのは意外と難しい。
例えば、五条クラスの強さの呪術師が街中で一発術式をぶっ放せば退屈な日常は壊れるだろう。
だが、それは呪術師ではない一般人の日常のみだ、呪術を知る者たちにとっては面倒な日々に成り代わるだけだ。
例え五条がそれをやらかしたとしても、上層部は何もできない。いや、厳密には何らかの形で手を出してくるだろうが、五条にとってはハエや蚊がまとわりつく程度の嫌がらせだ。
とはいえ、目障りであることには違いない。
だからこそ、五条はあの世界で積極的に動こうとはしなかった。
だがここは異世界だ。しかも、魔法も呪術をぶち当てても問題無いモンスターも存在している。
この国の騎士の実力からしてモンスターの実力もたかが知れている。だから、知的好奇心に加え名誉欲も満足させることができる。
ここに来たときは散々エヒトのことを駄神だとコケにしたが、異世界に招待してくれことについては五条は素直に感謝している。
今までの退屈な世界だったものに、見えないが確実にヒビが入った。そう確信できたからこそ、この世界を遊びつくす準備を整えている。
五条は本当なら2週間もこんな城で大人しく読書に読みふけるキャラではない。
本来ならばこのクラスの中で一番ガキっぽいのが五条だ。
それがなぜ京楽さんムーブかまして戦争反対やら、え、俺なんかやらかしました? みたいなチート転生者プレイをしたのか。
ぶっちゃけ言うなら、それが気持ち良かったからです。
無知なガキを正論でぶん殴るのが気持ち良かった。衆人観衆の前で騎士がこれまで積み上げたものをぶち壊すのが面白かった。ただそれだけのありふれた醜い理由だ。
まるで幼子のような行動。悪意のない無知故の行動ではなく、それがどういった結果に至るか知った上での自己満足による行動はまさしく悪といえよう。
けれども、五条は気にしない。正義に憧れた幼少期は過ぎ去り、恋に理想を持った思春期も置き去りにして、人の悪意と
この世に本当の神がいるのならばこの男はあのまま死なせておくべきだった。生きる道を与えるのはまだいい。どうせ何もできずに凡人として歳を重ねて死んでいくのみだったのだから。
だが、強さを……才能を与えたのは間違いだった。
この男は『人類は醜い! そうだ、いっその事滅ぼしてしまえ……』なんてことは言わない。『フハハハハハ! そうだ貴様ら下等な生き物は俺様に支配されるべきなのだ……』当然そんなテンプレートな悪の総帥みたいな台詞を間違っても口にはしないだろう。
だが、『へぇ~、お前強いんだ。え、俺に手を出すとこの世界がどうなるか分かってるのかだって? なら、どうなるか確認してみよっか♪』と平気で地雷を踏みに行く。しかも、
子供ならば
けれども、
決して人類悪には堕ちはしないが、人類の胃痛の原因に確実に至る。それが五条という男だ。
これの厄介なとこは、人外な被害を出して倒しても世界は救われず、倒さずに放置しても無視できない
実際に、元の世界ではその胃痛に悩まされた者達が、五条を表の世界に追いやった。
だが、追いやったと評したが、実際には社会勉強を休暇と言い換えて学校に通わせだだけである。
このことは五条も理解しているが、サボっても口うるさい同級生と小っちゃい先生にガミガミ言われる程度でやりたい事を好きなだけ出来る学生生活が気に入ってるため、素直に学校へ通っている。
「そして、それが五条悟の日常を一変させる事になろうとは、この時はまだ誰も知るよしが無かったのであった……」
チャンチャン♪ っと紙芝居風に締めても反応してくれる者が誰もいないのはちょっと寂しいと感じてしまう。
なので……
「調べ物も終わったし、訓練中の連中を冷やかしに厨房のシェフにアイスクリームでも作ってもらってからかいに行こうかな」
やはりこの男は極悪ではないが、性悪である。
そのまま厨房へ足を運び、自分の持つ元の世界の料理のレシピや調理器具の製造やらの知識を無償で提供したため、料理長とは普通に良好な関係を築けている。
この男、自身に利のある者には敵対ではなく賄賂による握手を行うのだ。
う~ん、まさに外道である。
右手にバニラアイスを持ち、左手にイチゴアイスを持って訓練しているであろう中庭へと赴いた。
ふっふっふ、汗水流しながら訓練している者を眺めながら食べるアイスは絶品なのだよ。
「ふんふんふ〜ん♪」
「ちょ、マジ弱すぎ。南雲さぁ~、マジやる気あんの?」
おや、向こうの人目につかなさそうな辺りからなんだかチンピラの声が聞こえてくるぞ。
さあ、どうする自称正義の味方の偽善者五条君!? 世界のイジメを救えるのは君しかいないぞ!
正義の心(野次馬根性)に突き動かされて、五条は声の聞こえる方に全力の隠遁と忍び足で近づいていく。
そこには蹲るハジメに対して、檜山、中野、斎藤、近藤の四人が集団でリンチしている場面であった。
「おいおい、やりすぎじゃないか? バレたらシャレになんねぇぜ」
「大丈夫だって、こいつはビビりだからチクったりなんかしねぇよ」
「本当にホント?」
「しつこいな……ん?」
「ハロ~♪」
「うわぁ! ご、五条だ?!」
ヘラヘラと首を傾げるその男に、その場にいる5人は驚きをあらわにする。
いや~、やっぱこのくらいリアクションをとってくれる奴の方が驚かせがいがあるな。
うんうんと頷いて満足そうな顔で檜山たちに近づく。
「そんで、こんな人の近づかない場所で男5人揃って何やってたのかな? ……まさか!?」
五条はささぁっと後ろに下がって両手で胸を隠す。それを見て五条が何を考えたのか理解した全員が「違うわバカ!!!」と大声で否定する。
それが災いしたのか、突然、怒りに満ちた女の子の声が響いた。
「何やってるの!?」
その声に「やべっ」という顔をする檜山達。それはそうだろう。その女の子は檜山達が惚れている香織だったのだから。香織だけでなく雫や光輝、龍太郎もいる。
「い、いや、これはその……」
「南雲君!」
自分が大声を出したことが原因で現れてしまった為に、頭の中がパニックになり、なんとか言い訳をしようと口を動かそうとしたが、それを無視して香織は倒れて咳き込むハジメに駆け寄っていった。
「それで、これは一体どういう状況なの?」
ギロリ! と鋭い目線を檜山達に向ける。仮にも親友が好意を持っている相手に集団でイジメていたのだ。雫の
でも、檜山達が南雲をイジメていたのは状況を見ても理解できる。日頃から南雲に対していい感情を持っていないのは知っていた。
だが、ここに五条がいるのは理解できない。こいつが……言い方は悪いがクソ野郎だというのは知っていたが、イジメを行う最低野郎とは思っていない。
そんな雫の考えを読み取ったのか、五条は雫が質問する前に答える。
「ああ、勘違いしないで欲しいんだけど、俺はただ訓練に勤しむ皆を見学しながらアイスを食べようと思って中庭に来たら、怪しい声が聞こえてきたから見に来ただけだよ♪」
(∀`*ゞ)テヘッと手に持った少し溶けかかったアイスを見せてくる五条にイラッ! とくるが、ここに五条がいる訳が分かった。
それじゃ、残る問題は……
ビクッ! と五条から視線を戻された檜山達は誤魔化し笑いをしながら頭をかく。まさしく典型的な三下のチンピラといった風貌だ。
「あんたたちが何をどうこうしようが興味ないけど、やっていいことと悪いことの区別くらいいい加減つけなさい」
「そうだ。いくら南雲が戦闘に向かないからって、同じクラスの仲間だ。二度とこういうことはするべきじゃない」
「くっだらねぇことする暇があるなら、自分を鍛えろっての」
三者三様に言い募られ、檜山達は苦笑いでその場をそそくさと立ち去った。香織の治癒魔法によりハジメが徐々に癒されていく。
「あ、ありがとう。白崎さん。助かったよ」
苦笑いするハジメに香織は泣きそうな顔でブンブンと首を振る。
「いつもあんなことされてたの? それなら、私が……」
何やら怒りの形相で檜山達が去った方を睨む香織を、ハジメは慌てて止める。
「いや、そんないつもってわけじゃないから! 大丈夫だから、ホント気にしないで!」
「でも……」
それでも納得できなそうな香織に再度「大丈夫」と笑顔を見せるハジメ。渋々ながら、ようやく香織も引き下がる。
「南雲君、何かあれば遠慮なく言ってちょうだい。香織もその方が納得するわ」
渋い表情をしている香織を横目に、苦笑いしながら雫が言う。それにも礼を言うハジメ。しかし、そこで水を差すのが勇者クオリティー。
「だが、南雲自身ももっと努力すべきだ。弱さを言い訳にしていては強くなれないだろう? 聞けば、訓練のないときは図書館で読書に耽っているそうじゃないか。俺なら少しでも強くなるために空いている時間も鍛錬にあてるよ。南雲も、もう少し真面目になった方がいい。檜山達も、南雲の不真面目さをどうにかしようとしたのかもしれないだろ?」
何をどう解釈すればそうなるのか。ハジメは半ば呆然としながら、ああ確かに天之河は基本的に性善説で人の行動を解釈する奴だったと苦笑いする。
天之河の思考パターンは、基本的に人間はそう悪いことはしない。そう見える何かをしたのなら相応の理由があるはず。もしかしたら相手の方に原因があるのかもしれない! という過程を経るのである。
それを聞いてハジメは既に誤解を解く気力が萎ている。それを察して雫も溜息を吐きながら手で顔を覆って、ハジメに謝罪をする。
「ごめんなさいね? 光輝も悪気があるわけじゃないのよ」
「アハハ、うん、分かってるから大丈夫」
笑顔で大丈夫と言って立ち上がるハジメに、横から五条は光輝の言い分を正しいと肯定する。
「けど、本当に南雲自身も努力をするべきだと俺も思うよ」
「えっ?」
突然の意見に、それも恐らく光輝を嫌っていると思っていた五条から肯定の声を出され、ハジメは驚きの声を出して五条を見つめる。
「確かにハジメは弱い。言い換えれば才能というものがまるでない。だからこそ、檜山達にサンドバックにされる。けどさ、才能がないのが努力をしない理由にはならない。漫画の主人公でも落ちこぼれは存在するし、現実の世界で才能マンを努力した者が打ち勝ったなんて話しはザラに存在する」
普通に正論ではある。だが、現実と漫画は全然違うだろと内心ムッ! としたハジメが五条を睨む。
それを理解しているのか、五条はさらに話を続ける。
「けれど、光輝。ハジメは一応努力はしてるんだよ。確かに俺たちは戦争に参加するためにここに呼ばれたわけだけど、生産職であるハジメが戦闘で活躍する意味はまるでない。ぶっちゃけ、そこらの騎士とかに任せたほうがよっぽど手柄を挙げてくれるだろう。けど、生産職にしかできないことがある。それは裏方仕事なんかの後方支援だ。さっき光輝も言ったように、ハジメは訓練のないときは図書館で読書に耽っている。つまりは、後方支援に必要な知識を蓄えているってことだろう? まさか、この世界に漫画が置いてあるわけもあるまいし、決してサボってだらけていたわけじゃない」
五条の説明を聞いて少し怒った表情をした香織が質問してくる。
「それならどうして南雲君にもっと努力した方がいいなんて言ったの?」
「ああ、簡単なことさ。俺は別に強くなる努力をしろって言った訳じゃない。抵抗する努力をしろって言ったのさ」
「抵抗……」
「そうだよハジメ。君のさっきまでの行為は、元の世界では優しいと評されるだろう。暴力に対して同じ暴力を振るわない。まさしく、聖人君子の行いだ! けど、この戦争真っ只中の世界じゃ、君の行為はただのヘタレと評される。当然だ、殺らなければ殺られる世界で、何もせず蹲る行為に何の価値がある?」
「それは……」
何も言い返せないハジメに五条は指をさして大声で演説を始める。
「そう、結論は無価値。鼻水をかんだテッシュ程度の価値しかない。だが、かと言って檜山達に反撃するくらいの意思をみせろだなんて俺は言わない。それはむしろ着火剤に火をつけるような行為だ。今さっき君がするべき行動は声を挙げることだ。実際に、さっき俺に対して檜山達が声を出して怒って怒鳴り声を出したから、それを聞いてこいつらが駆けつけてきただろ。それだって立派な抵抗さ……」
ぐうの音も出ない程の正論に自分のさっき五条を睨みつけた行動が恥ずかしくなる。天之河はそんなに深く合理的に考えて言った訳じゃない。だからそこまで深く刺さらない。
けれど、五条の言っていることは正解で合理的だ。だからこそ、自分の未熟さを分からせられる。
悔しくて手を強く握りしめるハジメに五条はさらに追い打ちをかける。
「ああっ! おっとっと、そうだ大事な事を忘れていたよ。ハジメも男の子だってことを……。そうだよね、ハジメにだってプライドはある。立派な日本男児なんだ、己の惨めさを他人に晒すぐらいなら死を選ぶっていう覚悟を持ち合わせていたのかもしれない。ごめんよ~そんなハジメのプライドを踏みにじってしまって」
なんだこの男は、本当にさっきまで喋っていた人物と同一人物なのかと疑うほどの株価転落っぷりである。
そう、例えるならば生徒に尊敬されるような先生が放課後ゲーセンで子供相手にマウントとって倒した後にスクワットして挑発する現場を見てしまったといったところだ。
なんともいえない顔になったハジメに香織は優しく汚れた服をはたいてこの場から連れ去るように手を引いて歩きだす。
「ほら、もう訓練が始まるよ。行こう?」
「うん……」
この場に五条だけ残して訓練に戻っていく。当然、五条もついていこうとしたが、雫の鬼のような威嚇に、流石にやり過ぎたかと反省してその場から動かずに、完全に溶けたアイスを舐めて佇んだ。
※
それから普段通りに訓練を終えて夕食までの自由時間を過ごそうとしたが、なにやらメルド団長から話があると呼び止められる。
「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では、解散!」
パンパンと手を叩いて解散を施す。それにつられてその場に残った者たちも、各々の時間を過ごすため消えていった。
そんな中、人目につかない所で聞き耳を立てている者が1人……
「へぇ~、オルクス大迷宮か……。一応知識では知ってるけど、聞くのと観るのとではまるで違う。いい機会だ。世界を巡る前の出発点としては丁度いい」
ふんふ~ん♪ と鼻歌を歌いながら明日に備えて旅立ちの準備を進めておく。
※
五条はその日のうちにオルクス大迷宮へ挑戦する冒険者達のための宿場町ホルアドに足を運んでいた。
どうせ、この遠征には自分は参加できない。というよりも、メルド団長辺りが参加させないと言った方が正しいだろう。
国を……人類を背負うであろう勇者を育成させるために、多少のリスクに目を瞑って迷宮で実戦訓練を行うのだ。そこに、ブラックボックスである五条を連れていけば、何が起こるか全く分からないからな。
俺なら絶対に知らせないように注意喚起をメイドなんかに命じるし、なんなら部屋に閉じこもらせるように何らかの策を講じるだろう。
だから先回りして驚かせようという算段だ。
「とりあえず、折角街におりたんだ。やるべきことをやっておかないとね……」
目指すはこの街で一等大きな建物だ。よくラノベでも異世界に召喚された者が行くべき場所がこの街には存在している。
「そう! あの異世界名物冒険者ギルドが!!!」
わが生涯に一片の悔いなしと言わんばかりのポーズを堂々と街中で披露する五条に、周りの人間は『酔っ払いか?』といった視線を向けてくる。
だが、そんなの気にはならない。何故なら、俺の目の前にはあるのだよ! 男の子の憧れとも聖地ともいえる冒険者ギルドが!
「いや~、精神年齢でいえば完全に大人なんだけど、やっぱり、いくつになってもこういうのは興奮するよね。男の子だから!」
我が心のままにギルドの扉を開けて中に入っていく。
「ああぁ!」
「おい小僧! ここがどこか分かってんのか?」
「ここはガキの遊び場なんかじゃないんだぞ!」
はい。早速お決まりのガラ悪い先輩冒険者に絡まれた。
いや~、うんうん。これぞ異世界のテンプレってやつだね。
一人勝手に納得して頷いていると、バカにされたかと思ったのか、一番最初に威嚇してきた1人が五条に脅し目的で五条の胸倉に手を伸ばした瞬間、
「おわぁ?!」
いきなり男の視界の天地がひっくり返った。そう理解した次の瞬間に、背中に強い衝撃と痛みが走った。
周りにいた仲間たちも一体何が起こったのか理解できずにフリーズしている。
先程まで騒がしかったギルド内部も、この一連の出来事に全員がポカーンと眺めているだけだった。
「あ~、いきなり触ってこようとしたからつい……、でも、俺って男にベタベタ触られる特殊な趣味とか持ち合わせてないから勘弁な」
すまんっと片手でごめんねのポーズをする五条を見て、ようやくフリーズから戻ってきたチンピラ冒険者たち。
「はっ! テメェいきなりなにしやがる!」
「俺たちの仲間をこんな目にあわせてタダで済むと思ってんのか?」
「え? 当然思ってるけど?」
何を当たり前のことを言わんばかりに言う五条。
「「このっ!!! ──―っ!!?」」
ついに血管がブチ切れた残り2人は腰にぶら下げた獲物を抜こうと手をかけた瞬間に動きが止まった。
その原因であろう五条は、目の前の2人に対して少しだけサングラスをズラして忠告する。
「あまり調子に乗るなよ。それは脅しの道具じゃない。それを抜いた時はどうなるか……もう理解できてるよな……」
静かに、されど強烈な死を感じさせる殺気が2人を襲う。まるで背骨に直接氷柱を突っ込まれたかのような悪寒が走り、全身から冷たい汗が滝のように滴る。
そのまま、動くことができない2人を置いて、五条はカウンターの受付嬢に声を掛ける。
「こんにちは♪ 早速だけど冒険者になりに来たんだけど、なんか書くもんあるなら書くし、登録料とかもいくらか城から持ってきたし、さっさとしてくんない?」
にこやかに笑う五条に一瞬頬を赤くしてときめく受付嬢だったが、先程の出来事を思い出して、すぐさま真剣な表情に戻って仕事をこなす。
「え、えと、登録には千ルタかかりますがよろしいでしょうか」
「オッケー、はい千ルタちょうど」
「はい。あ、あとステータスプレートの提示もお願いできますか?」
「あ?冒険者になるにはステータスプレートの提示が必要なわけ」
「ぴえ!?は、はい!」
いきなり雰囲気が変わった五条に、なにかマズいことを言ってしまったのかと怯えた受付嬢は、少し涙目になりながら周りに助けを求めるような視線を向けるが、五条が危険人物だと先程の一連のやり取りで理解した冒険者たちは酒を飲むかクエストを探すフリなどして厄介事に関わらない構えを見せる。
これには受付嬢も心の中で「そんな~(涙)」と悲鳴を上げる。
だが、捨てる神あれば拾う神あり。偶々、用事で街に出かけようとしていたギルド支部長がやってきた。
「ん?なにかあったのか」
「し、支部長…」
まさに天の助けと言わんばかりにウルウルと目を潤ませ、手を組んで祈るかのような受付嬢に、本当に何があったんだと頭に?を浮かべるが、受付嬢の目の前に立つ男を視界に入れた瞬間理解した。
(ああ、コイツが原因か…)
別に外見が特段変わっているわけではない。むしろ、顔以外は一般人と大差ない体型だ。他の者が見れば冒険者というよりも依頼人と考えるだろう。
だが、仮にもギルド支部長を任されている身。人を見る目はあると自負している。
だからこそ、この男の歪さに面を喰らう。
見た目はただの優男にしか見えないが、その中身は迷宮の奥底に潜む化け物だと説明されても納得できてしまうほどの恐ろしさを感じる。
「支部長ってことは、君がここの責任者の人?」
「ああそうだ。一応聞いておこう。ここに何の用だ…」
「何の用って、ただ冒険者になりに来ただけなんだよ。けどさ、そこの受付嬢ちゃんがステータスプレートの開示が必要だって言うじゃん。俺ってとある事情でステータスプレートは他の人には見せられないんだよね」
「そうか、それは分かったがすまない。冒険者登録はステータスプレートに色を刻むのが一般的で、ステータスプレートを渡してもらわなければできないんだ。それと、できればいいんだが君がステータスプレートを提示出来ない理由を聞いてもいいかな?」
ギルド支部長は五条に恐る恐る聞いてみる。気分はまさに肉食獣の目の前に置かれた宝物を素手で掴み取る盗人のようだ。
もしここで目の前に立つ男が癇癪を起こして暴れ回ればこの建物はもちろん、最悪この街が滅びる。
普段であればそんな酔っ払いが吐いたような馬鹿げた話は信じないが、一度でもこの男を目にしてしまった以上、それは空想でも妄言でもないと断言できる。
「それはあれだよ。俺は人類の
その発言に、ギルド内の全員が驚いて五条を見ている。その言葉が噓かどうかは分からないが、少なくともこの男が噓と瞬時に反論できないほどの実力者だというのは間違いない。
「信じられんな。ああ…、いや、君の言葉が信じられないという意味ではなく、確かその召喚された勇者様方は王城で只今保護されていると聞いたのでな」
「まあそうだね。俺以外の奴らは全員が王城にいるよ。でも、明日訓練でここのオルクス大迷宮に潜るって聞いたから先回りして一足先に着いたって訳よ」
恐らくだが噓は言っていないと思われる。確かに、この国の騎士団からつい先日ここの迷宮で勇者たちを育てるために連れてくるという連絡が自分の元に届いたからだ。
この情報はまだ自分か国の上の連中しか知らない筈だ。
なら、ここはひとまずこの目の前の男の要求を素直に受けておこう。
「分かった。とりあえず、特例として君はステータスプレートの提示はしなくて結構だ。冒険者の証の方もこちらで何とかしておこう」
「お、マジで!それは助かった。こっちも手続きやらなんやらのメンドクサイ作業は遠慮したいからね♪」
さっきまで少し不機嫌そうだった雰囲気が消え、今はにこやかに笑っている。
そのことに受付嬢を始めとした全員が心の中でホッと息を吐いた。
「とりあえず、君の登録はこっちでやっておこう。冒険者の証の方も明日には用意しておくから、今日のところは帰ってもらえないだろうか?」
「仕方ないな。まあ、別に今すぐ冒険者になりたい理由も無いし、今日のところはちょっと迷惑かけた詫びとして大人しく帰るとするよ」
「ああ…、そうしてくれると助かる。あっ、そうだ。帰る前に一つ聞いてもいいか?」
「ん、なにを?今なら大抵の質問には答えてあげるよ」
「いや、そんな大したものではない。ただ君の名前を聞いていなかった。差し支えなければ教えてもらってもいいかな?」
本当に大したことではなかった。ちょっと心の中でつまんない質問だなと落胆する五条は、どうせなら盛り上がるような演出をしようと、入り口の扉に背を向けて、まるで今からマジックを披露するマジシャンのように大袈裟な動きで自己紹介を始める。
「俺の名は五条悟!あらゆる世界で最強の称号を手にする者!以後お見知りおき…」
五条が一礼すると、次の瞬間には五条は煙のように音もなく消え去っていた。
「え?消えた!」
「マジで勇者なのか?!」
「こ、怖かった…」
周りの連中は五条が消えた途端に口々に騒ぎ始める。それぞれが自分の思ったことを口にして、今誰が喋っているのか分からない程に、ギルド内は騒がしく五月蠅い。
この火がついて止まらない騒ぎをどうしようかと受付嬢が支部長に声を掛けようとすると、それよりも早く支部長はパァン!と手を叩いてこの場の空気を支配する。
「お前らいったん落ち着け。ひとまずここであったことは口外しないで貰いたい。勇者一行がこのオルクス大迷宮に来ることは本来ならば機密事項だ。それを聞いてしまった以上、君たちも関係者だ。もし不用意に口外しようものならば、こちらもなんらかのペナルティを下さなければならない。そのことを理解してもらおうか…」
ギロリ!とその場の全員を睨みつける支部長に、全員が首を縦に振って了承の意を示す。
「それと君も、さっきのあの男、五条悟の冒険者登録をしていてくれ。私は今から鍛冶屋に行ってくる。留守は任せたぞ!」
「は、はい!」
受付嬢は急いで五条の冒険者登録を始める。
そして、支部長は五条専用の冒険者の証の為にプレートの作成を依頼しに鍛冶屋へ向かう。
「はぁ…、一応勇者たちは冒険者ギルドに立ち寄らずに、そのままオルクス大迷宮に直行させると聞いたが…」
もし明日、あの五条のような者が複数人でギルドに押しかけてきたら…
「うぐっ!緊張で腹が痛くなってきた。…鍛冶屋へ行った後は念のため道具屋で胃薬でも買っていくとするか」
この先、毎夜の楽しみの酒の隣に胃薬を常備するハメになるとはこの時の彼はまだ知らない。
時間はないが、寝る暇はある。
う~ん、ジレンマですはぁ(*´Д`)
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