呪術師という職業で世界最強!   作:リーグロード

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思ったよりも長くなってしまった。1話の平均文字数がまた多くなってしまったよ。


ラブコメ主人公が死なないとでも思ったか?

 オルクス大迷宮では数多くの挑戦者が挑むが、それに比例して死亡する者も数多い。

 いくらベテランの冒険者でも、ほんの少しのアクシデントで死に陥ることはよくあることだ。

 それは、世界を救う勇者であっても例外ではない。

 

「──まさか……ベヒモス……なのか……」

 

 数分前の出来事だが、天之河が暴走してダンジョン破壊、トラップ付きの鉱石が飛び出て檜山が罠にかかり全員が別階層に飛ばされる。

 それが今の現在の状状だ。皆がパニックに陥り、目の前には今の自分達では到底敵いそうにない化け物が存在していた。

 それだけでも最悪だというのに、周囲には無数の骸骨兵〝トラウムソルジャー〟が湧いて出てきた。

 どうしたらいいのか、ハジメもパニックになっているとベヒモスが行動を起こす。

 

「グルァァァァァアアアアア!!」

 

「ッ!?」

 

 その咆哮で正気に戻ったのか、メルド団長が矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

 くっ……、まさか本当に恐れていた事態になるとは。多少の危険は覚悟していたが、ここまでの危機は予想外だ! 

 こんな時に五条がいれば、……いや、逆に考えるんだ。今は全滅の可能性すらあるピンチだ。

 もし本当に全滅した場合、勇者に匹敵──あるいは凌駕する力を持つ五条が巻き込まれなくて良かったと捉えるべきかもしれん。

 

 なんだかんだで、あいつならきっとやってくれるかもしれない。勝手な思い込みだが、俺はあいつが人類の存続を賭けて戦ってくれると信じている。

 

 だが、そうだとしても俺は命を()してでも守り抜かねばなるまい。

 そんなメルドの覚悟も知らずに、勇者である天之河が退かずに踏みとどまる。

 

「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も……」

 

「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 俺はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

 

 そう言っても天之河は退く様子は見せず、余計に踏みとどまろうとしている。

 

 どうにか撤退させようと、再度メルドが光輝に話そうとした瞬間、ベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた。

 

 

 

 一方その頃、五条はというと────

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「はい、ほい、ひょい!」

 

 道行く魔物を発見し次第、次々と始末されていく光景に啞然とするマルク。

 一応、自分に与えられた役割である魔石の回収を済ませていく。

 

「それにしても、本当に見事だね」

 

「ん、そうかい?」

 

「そうだよ! ボクもそれなりに冒険者の活躍とか目にしたことあるけど、五条みたいに一撃でこんな綺麗に倒してる冒険者はいないよ!」

 

 ……それに何より。

 

「今ここがどこだか分かってる?」

 

「オルクス大迷宮だろ?」

 

「そういう意味じゃなくて!? ここが今何階層かって話しだよ!」

 

「ああ、確か……40階層ぐらいだったけ?」

 

「ぐらいじゃないよ!!! 普通20階層で一流の冒険者か否かを分けると言われているだよ!? それをたった一人で、しかも無傷とか普通はありえないから!!!」

 

 ダンジョンの中だというのに、大声で叫ぶのは五条への信頼か、もしくはありえない事態に混乱しているのからなのか。

 普段は慎重な彼らしかぬ不注意に、ダンジョンの奥から魔物が次々とやってくる。

 

「うわわわ! ご、ごめんなさい」

 

「平気平気、むしろお金が飛んできたようなもんじゃない」

 

 事実その通りなもので、現れた魔物たちは五条の視界に入った瞬間、足元に落ちている石を投げつけられ、あっさりとその命を落としていく。

 そして、もう慣れたその光景を見ながら、マルクは死んだ魔物を解体して魔石を剝いでゆく。

 

(それにしても、本当に恐ろしい強さだ。ここまで来る際に出会った魔物の急所を全て的確に貫いて殺している。それも、使ってるのは武器ではなく、そこら辺に転がっている石ころだから尚更その実力を如実に表してる)

 

 ちらりと五条を見ても、パッとみでは冒険者などという荒くれ者には見えず、なんというか……、お城からお忍びでやって来た王子という印象だ。

 でも、この国の王子はまだ幼い子供だと聞いたし違うのだろう。

 

 もしかして魔人族なのか? でも、そういう風には見えないし、スパイにしては目立ちすぎてるからこれも違うのだろう。

 

「なあ、五条って何者なんだ?」

 

「俺? ああ、まあ確かに気になるよな。俺はほらあれさ、この国に召喚された勇者の……仲間? いや、クラスメイトだな」

 

 クラスメイト? よく分からないけど、成程、確かに勇者たちが今日この迷宮に挑むという話を聞いた気がする。

 

 あれは確かギルドで聞いたのかな? まあ、聞いたというよりも、盗み聞きに近いものだったけど、酔った冒険者が呟いていたから、てっきりデマや妄想の類かと思ったけど、どうやら、この五条を見る限り本当のようだ。

 

「それにしても、結構進んだし魔石も大量に手に入ったな」

 

「うん。そうだね! もうバックパックがパンパンだし、これならギルドで高額で売れるよ」

 

 これなら、少なく見積もっても普通の平民の年収5年分位の金額は出されるだろう。

 その後も、軽くそこら辺に転がって落ちている鉱石をいくつか採取し、上層の価値の低い魔石と交換するなどして荷物を整理する。

 

 さて、今日は一旦この位にして、明日はこの金でもっといいバックパックでも買ってマルクにでも持たせるとするか。

 

「よし、今日はこれくらいにして帰るか! 結構稼いだし、今日は俺が飯を奢ってやんよ。その代わり、明日も荷物持ち頼んだぞ」

 

「え、いいの? ありがとう! 正直、あいつらに結構やられてて飯とか買う金も少なかったし、助かるよ」

 

 マジでコイツ苦労人だな。なんだかお兄さん涙腺崩壊しそうだよ。グスッ……。

 

「うんじゃ帰るとしま……、待て、何か奥からやってくる」

 

「え、魔物かな?」

 

「いや違うな。この足音は……恐らく人だな。それもかなりの大人数だ。金属が擦れる音も混じってるし、鎧を着た集団みたいだな」

 

 多分先に迷宮に挑んだあいつらだろうな。けど、様子が少し変だな。聞こえてくる足音からは焦燥感が感じ取れる。

 恐らくだが、何か思わぬアクシデントにでも出くわしたのだろう。

 

 つまり、この先にはあいつらが逃げ出すような何かがある。

 ふっ、ここまでの道中は雑魚しかいなかったし、少しは俺の退屈凌ぎになるかな? 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 ベヒモスとトラウムソルジャーたちから辛くも逃げ延びた勇者一行は、迷宮脱出の為に全力疾走で上層部を目指す。

 

「急げお前たち! 少しでも足を止めたら走れなくなるぞ!」

 

 クラスメイトの死を見てしまった為に、戦闘への恐怖を知り、少しでも体を動かして考えないようにしなければ、その場で蹲って動けなくなってしまうだろう。

 そうなることを経験で知っているからこそ、メルド団長は多少なりとも無茶な行軍を強制させているのだ。

 

 65階層に転移トラップで飛ばされ、今は恐らく40階層といったところだ。後もう少し上の階層に上がれば、魔物の危険度も小さくなる。そこでなら、多少の休憩を設けても問題ないだろう。

 

 そう考えて走り続けていると、通路の先から何やら人の喋り声が耳に入った。

 

(助かった! 人の声だ、この階層まで潜ることができるということは、恐らく名のある冒険者パーティーだろう。このまま救援を求めるとしよう。多少吹っ掛けられるとは思うが、これ以上の犠牲者を出す訳にはいくまい!)

 

 通路の先にようやく人影が見えてきた。だが、驚くことにその人物はたった一人で、その上およそ武器と呼べるようなものは何も持っておらず、大量の魔石が詰まったバックパックを背負っているのみ。

 メルド団長は手に持つ剣を強く握りしめ、警戒しながら目の前の男に話し掛ける。

 

「貴様、何者だ? 先程まで誰かと会話していたようだが、まさか独り言とは言うまいな?」

 

「ちょ、ちょっと、メルド団長!? いきなり会った人にそんな言い方は……」

 

「黙ってろ光輝!? このような場所にたった一人、武器も持たずにいること自体が異常なのだ。もし仮に目の前の男が魔人族かもしれんのだぞ!?」

 

 確かに、メルド団長の言う通りだ。

 ここに来るまで倒してきた魔物をたった一人で、その上武器も持たずに倒してこれるかと言えば、この場の誰もがNOと答えるだろう。

 

 騎士たちは最初から警戒していたが、天之河が剣に手をかけた事で他のクラスメイトたちも、ようやく今が異常事態だということに気が付き、各々の武器を構える。

 それに驚いたのはマルクだった。ただの一般人の自分がいきなり魔族扱いされて武器を向けられていることもそうだが、目の前の集団が来た瞬間、つい先ほどまで隣に立っていた五条が消えていなくなっていたのだ。

 

「えっ、あの、さっきまでもう一人いたんですけど、いつの間にか消えちゃってって……」

 

「先程まで聞こえてた会話の相手か? だが、それならお前の言うそいつは何処にいる」

 

 完全に疑ってますよと言わんばかりに問い詰めるメルド団長に、普通の一般人であるマルクは涙目になりながら「あうあう」と口をまごつかせながら説明しようとすると──―

 

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!!!」

 

 突如として天井から逆さまにぶら下がって現れた五条に、その場の全員が悲鳴を上げて驚く。中には攻撃魔法を放ってくる者もいたが、当然のこと、五条に当たるわけもなく、あっけなく霧散してしまう。

 

「お前だったのか五条……」

 

「そういうことで~す♪ どう? 驚いた、ビックリしちゃったかな~?」

 

 消えた相手というのが五条だと知り、メルド団長は剣を持った手の力を緩めて溜息を吐く。

 自分の突然の登場に悲鳴すら上げて驚くクラスメイトたちを見て笑みを浮かべる五条に天之河が突っかかる。

 

「趣味が悪いぞ五条! それに、俺たちが危険な目にあっている間、何処にいたんだ!?」

 

「なになにどったの、機嫌悪くない光輝?」

 

「とりあえず、光輝は落ち着け、そして五条はいい加減に天井から降りてこい。いつまでも逆さ吊りでは殴ることもできん!」

 

「え~、何で俺が殴られるために降りなくちゃ「いいからさっさとしろ!」……はいはい」

 

 渋々といった顔でくるりと空中で身をひるがえして着地すると、目の前にメルド団長が立つ。

 

「ふんっ!」

 

「ぐえぇ!!?」

 

 ゴッツン!!! と音だけで痛くなってくるような拳骨が五条の脳天に叩き込まれる。

 そのあまりの威力に潰れたカエルのような悲鳴を漏らす五条を見て、その場にいた全員の溜飲がいくらか下がる。

 

「く~、まだいてぇ! っで、一体何があったわけ? ここに来るまでにも随分と急いでいたように思えるし、誰かさんの姿も見えないしね……」

 

 後ろに立つクラスメイトを見ると、随分とボロボロだった。そこまで深い傷はないが、体のあちこちに傷があることから、途轍もないボス魔物というよりも、厄介な集団型の魔物にやられたと見るべきだろう。

 そして、あのハジメの姿がそこにはなかった。雫の背に抱えられている気絶した香織の姿も確認して、おおよそ予測はついてはいる……。

 

 メルド団長がひとまず上に戻りながら、何があったのか話すということで、先頭を俺とメルド団長が歩くことになった。

 

「簡潔に話すとだな、実はとある階層で転移系のトラップに引っ掛かってしまってな。65階層まで強制転移されてしまったんだ。そこでベヒモスという伝説の魔物が現れた。更にトラウムソルジャーという魔物も湧き出てきて統率はバラバラになり戦場は混乱状態になってしまった。そこをハジメの坊主が殿(しんがり)になってベヒモスを食い止めている間に我々は退路を確保できたのだが、その際に、仲間の援護による魔法が誤爆してしまい、坊主はベヒモスごと奈落に落ちていってしまったんだ」

 

「マヌケだな~♪」

 

「ああそうだな。正直、我々も油断していたのだろう。勇者の力の強さを目のあたりにして気が緩んでいた。お陰で大切な者を1人亡くしてしまった……」

 

 ぐっ、と腹の奥から湧き上がる感情を押し殺して足を止めないメルド団長に、マジであいつ死んだんだなと吞気な感想しか出なかった。

 

「それにしてもさ、ハジメが死んだ原因が仲間の援護による魔法の誤爆って何か作為的なものを感じるんだけどさ、本当に事故だったのかな?」

 

 くるりと首だけを動かして後ろを振り向く五条に、ビクッ! と肩を震わす者が何人かいた。

 多分、そいつらが魔法で援護した連中なんだろうな。

 

「ふっ、この名探偵五条様がこの難事件を見事解決してみせよう!」

 

「は、はぁ!? ふざけんなよ! 後から来た分際で、何勝手に指揮ってんだよ!」

 

「お、おい、落ち着けよ檜山。どうしたんだよ急に?」

 

 おやおや、突然この難事件を解こうとしたら檜山が焦りだしたぞ~? 

 

「そうか、分かったぞ! 仲間の誤爆により死んだハジメ。そして、急に焦りだした檜山。ふたつの謎が俺の灰色の頭脳により一つになった!」

 

 俺はサングラスをタンッ! と指で弾きながら、某小学生探偵ポーズで檜山を指さす。

 

「おい五条、何もこんな時に犯人探しなど……」

 

「ああ、大丈夫大丈夫。だって──―」

 

 ガウ! っと物陰に潜んでいた魔物が飛び出すと同時に、五条は手に持っていた石ころを魔物に投げつけ、一発で即死させていった。

 

「油断しててもこの程度の雑魚魔物なら問題ないから」

 

 ケラケラと笑う五条は推理を続けようと叫ぶ。今の一連の流れを見て、これ以上何かを言っても五条は聞く耳を持たないだろうなと思いメルド団長は辺りの警戒に戻る。

 だが、それに抗議の声を上げる者が2人いた。檜山と天之河だった。

 

「おい、バカな事を言うな五条! 犯人ってなんだ、同じクラスメイトが人を殺す訳ないだろ!」

 

「そ、そうだそうだ!!!」

 

「くぅ~、バッカだな光輝。お前ニュースとかでさ、『普段は大人しい奴だったのに、まさかあんなことをするなんて』っていう台詞知らねえの?」

 

 クラスメイトだからなんだという話だ。それだけで犯罪をしないというのならば、今の世の青少年による犯罪率はほぼゼロという数字になるぞ。

 

「とりま推理を始めるとしよう。まあ、もう大体の奴らも気づいてはいるだろうがな。俺の推理はこうだ! 常日頃から香織を意識していた檜山は、いつも不真面目で今どきの恋愛ラブコメの主人公のようなハジメに嫉妬していた。その証拠に、以前からハジメにウザ絡みしている所を多数のクラスメイトに目撃されていた。そして! この異世界に来てから魔法による暴行もしていたことは既に周知の事実!!!」

 

「ち、違う! 俺は何もやってない!!?」

 

「っと、このように被告人は述べていますが、当時現場で一緒にハジメに暴行を加えていた中野、斎藤、近藤の3人にも聞いてみましょうか?」

 

「「「えっ!? ちょっ、まっ!!!」」」

 

 インタビューお願いしますと声をかけられた3人は、まさか自分たちに矛先が向けられるとは思ってもおらず、何か言い訳しようと口を動かすも、現場をバッチリと見られてしまった為、誰もまともに答え返せなかった。

 

「う~ん。そこまで難しい質問を言ったつもりはなかったんですがねぇ。まあいいや、推理を続けよう。こうして動機も充分な檜山はお得意の風魔法でハジメを狙ったのさ!」

 

「は……、はっはっはっは!!! そんなら俺じゃねぇよ! あいつが当たったのは火の魔法だ!」

 

「あれ? そうなのみんな?」

 

 確認を取ると、みんなそれぞれ顔を合わせて思い出そうとするが、その時見ていたのはベヒモスだけで、ハジメの方に意識を向けていた者はいなかった。

 ハジメが落ちたのを知ったのだって香織が声を上げて叫んだから気づいたのであって、それまではハジメの事を見てもおらず、何の魔法に当たったのかすら知らない。

 

「それって裏を返せばさ、そん時にハジメの方に意識を向けてた檜山が犯人ってことになるんじゃねぇ?」

 

「あっ……」

 

 なんともマヌケな声を上げて自爆する檜山に、全員が攻めるような視線を向ける。

 

「さて、罪人檜山君。何か言い分があるなら聞くが、どうかな?」

 

「お……俺は悪くねぇ! あいつが……あいつが悪いんだ!!! オタクの分際で、白崎にチヤホヤされて……。しかもあの野郎。昨日は薄着の白崎と夜中に会ってたんだ!!! だから、だから……」

 

「んま!? あいつったらいつの間に俺たち童貞を置いて大人の階段に登ってやがんだ。ん~、こりゃ一概に檜山を罰せることはできんな。よし、情状酌量のよちがあるとし、被告人檜山を無罪と称する!」

 

「へっ……。い、いよっしゃぁぁぁ!!!!」

 

 まさかの無罪放免に雄叫びを上げる檜山。それを快く思わない者は多いが、あの五条がそう判決を下したのならば仕方ないと諦めて誰も口を開かない。

 

「これにて名探偵五条の推理ショーは終了と「ふっ、ふっざけんなぁぁぁぁ!!!!」えっ?」

 

 まさに職権乱用といった滅茶苦茶な裁判劇ならぬ茶番劇を見せられ、あの普段温厚な八重樫 雫がついにブチ切れた! 

 

「お、落ち着いてよシズシズ。確かにあれは酷いと思うけど……」

 

「思うけどなに!! クラスメイトが1人殺されたのよ。それをなに? 香織が南雲君と仲良くしてたから殺した? 抜け駆けしたから無罪? ふざけんじゃないわよ!? 命を──命をなんだと思ってんだバカ野郎!!!!」

 

 魂の叫びとも呼べる雫の声に、誰もが吞み込まれる。

 ずっと友達だった鈴でさえ、こんな雫を見たことがなく驚いている。檜山に至っては尻餅をついて怯えてすらいた。

 

 だが、そんな事態でもなおもいつもの調子を崩さない者が1人。

 

「命をなんだと思ってとか言われても、ただの消耗品だろ?」

 

 それは、あまりにも簡潔で明確な答えだった。

 

「……そう。ねぇ鈴、ちょっとだけ香織のこと任せてもいい?」

 

「し……シズシズ?」

 

「……お願いするわ

 

 あっけらかんと答える五条に、ついには目からハイライトすら消えた雫が背負っていた香織を近くの鈴に任せ、腰に携えた剣を握って突っ込んでいく。

 

「あああああぁぁぁ!!!」

 

「あら怖い♪」

 

 ブンブンと振り回す剣を軽々と回避してゆく五条に、余計にイラつきが溜まってゆく。

 

 それを見ていた騎士たちは止めようと動き出そうとするが、それをメルド団長が止める。

 

「何故です団長!? 今はこんなバカなことスグにでも止めさせて地上を目指す時ですよ!?」

 

「ああそうだろうな。だが、もうここは既にあの65階層ではなく30階層付近だ。我々ならば充分に対処できるレベルだ。それに、あの五条がいる。ほら、見てみろ」

 

 メルド団長が指差した場所には、遠く薄っすらとだが魔物の死骸が見える。

 何故あんな所に魔物の死骸が落ちている? こんな魔物だらけの迷宮で死骸が落ちていれば即座に食われて骨になって終わりだ。

 

「ま、まさか!?」

 

「そのまさかだ」

 

 騎士たちが五条の動きに注目して見ると、ほんの一瞬程度だが、雫の攻撃を避けながらもその場に落ちている石ころをさりげなく拾い集めては、雫の雄叫びで集まってくる魔物をそれで殺していっている。

 石ころ(武器)を拾い集めて投擲で魔物を殺す。この2つの動作を真剣を持った武芸者である雫の攻撃を避けて、さり気なく行っているのだから、まさに神業と呼んで然るべき所業だろう。

 

「ハアハア、……なんで」

 

「ん? なんか言った」

 

「なんであんたはそんなに強いのに……」

 

 ほんの少し零れた雫の本音が、ずっと溜め込んで抱えていた不安や悩みなどがつい(せき)を切ったように溢れ出す。

 

「そんなに強いならもっと皆を守ってよ!! あんたが強いってのは皆なんとなく分かってた。そんで、今戦ってみてもっとよく分かった。あんたがとんでもなく、それこそ皆が想像している以上にヤバイくらい強いってのは。ならなんで私たちを助けてくれないのよ!?」

 

 もう自分でも止められないぐらいに感情が暴走しているのが分かる。次から次へと腹の底に溜め込んでいた言葉が噴火するように飛び出していった。

 握っていた剣は自身の涙と共に地面へカラーンと落ちていく。それと同時に足の力が抜けて膝をついて倒れ崩れる。

 

「さっきだって、あんたがいれば南雲君は死なずに済んだ筈よ。戦争だって、そんな力があればすぐ終わらせて皆帰れるんじゃないの? なんであんたはいつもそんなヘラヘラしてられるのよ!」

 

「……」

 

 未だ怒り冷めやまぬ雫はただ感情任せに落ちている石ころを拾って投げつけていく。

 その姿があまりにも悲惨で惨めで……誰もが目を逸らしてゆく。

 

 だがそれでも、その空気を敢えて読まない者がこの場にいる。

 

「雫! 君がそんなに悩んでいただなんて……。すまない! だが、安心してくれ。もう二度と皆を不安にさせない。俺が五条以上に強くなる。だから!」

 

「だから……だからなによ!! いつも勝手に自分一人暴走して、後始末をするのはいつも私じゃんか! 小さい頃からずっと、あんたに救ってもらったことなんて一度もない! 全部自己満足の中途半端で終わらせて! さっきの時だってそうよ! メルド団長は退けって言ったのに、あんた一人暴走して突っ込んで、ちゃんと解決したことあんの!?」

 

「そ……それは……、今度こそ解決してみせるさ! 俺だってこの迷宮でもっと強くなってみせる。ベヒモスだろうが五条だろうが相手にならない位に強くなってみせる!」

 

「へぇ、誰が誰を超える程強くなるって?」

 

 ゾクリと背骨が凍らされたかのような冷たい声が五条から天之河にかけられる。

 先程固めた強くなるという熱意そのものを冷ますような五条の声に、恐怖すら覚えてしまう。だが、天之河 光輝という男は勇者で皆の象徴でなければならない。

 

 そんな勝手な思い込みによる責任感が、天之河を奮い立たせる。

 

「お、俺はお前を超えるぞ五条! 今は……まだお前よりも弱い。だけど、俺はここでもっと強くなる。いや、なってみせる!」

 

「ふ~ん、それで次は誰を犠牲にして生き残るんだい?」

 

「誰をって……。俺は誰も犠牲になんか!?」

 

「してるだろ? 確かメルド団長が言うにはハジメが殿(しんがり)になって、雫が言うにはお前が暴走して突っ込んだと言っている。ならつまり、ハジメはお前の無責任の行いの尻拭いで死んだってことになるよね」

 

「そ……それは……」

 

「ねぇねぇ、どうなの俺間違ってること言った?」

 

 五条が一歩近づくと天之河は一歩下がり、また五条が一歩近づくと天之河は一歩下がる。それを数回繰り返すうちに、天之河の背中が迷宮の壁にぶつかって動きが止まる。

 

「はぁ、いい加減地上を目指して出発するぞ。流石に時間を無駄にし過ぎだ」

 

「ちぇ~、あともうちょっとで自白しそうだったのにな」

 

 メルド団長の命令によって五条が離れたことで、ようやく壁から背を放すことができた天之河は、近づいてくる龍太郎に問いかける。

 

「なあ、南雲が死んだのはやっぱり俺のせいか?」

 

「……さあな。直接的にあいつを殺したのは檜山の野郎だ。けど、俺たちだってあの時は状況に酔って、なんとかできるって勝手に思い込んでた。罪があるってんなら俺だってそうだ。一人で背負うなよ、俺たち親友だろ? ほら、肩貸すぜ」

 

「龍太郎……ありがとな」

 

 いつだって、ベヒモスの時も前の世界の時も、龍太郎はそばにいてくれた。こんな状況だからこそ、そんな当たり前がとても嬉しいのだと実感することができた。

 

 

 雫の方にも鈴と中村が心配して駆け寄ってくる。

 

「シズシズ、もう大丈夫?」

 

「……ごめんなさい」

 

「も、もう何謝ってんの! 全然シズシズらしくないよ。……私たちの方こそごめんね。雫がそんなに思い詰めてるだなんて考えもしなかった。だからさ、頼り無いかもしれないけど今度からは私達にでも頼ってよ! そりゃ、五条君に比べれば全然弱いってのは自覚してるよ。でも、雫の愚痴くらいには付き合ってあげれるからさ、ねえエリエリ!」

 

「そうだよ! 私も雫が辛い時には介抱くらいしてあげるからね!」

 

 俯いて体育座りだった雫はゆっくりと顔を上げて、その瞳には薄っすらと理性の輝きが戻っていた。

 

「2人共……、本当にごめんなさいね。それとありがとう。私はもう大丈夫だから。ずっと香織を任せててごめんなさい。変わるわ」

 

「いいよ。雫はずっと頑張っていたんだし、香織ちゃんを背負うぐらい私にさせてよ!」

 

「そう。なら地上に戻るまでは任せてもらうわね」

 

 そして、雫もまた親友である鈴と中村に肩を貸してもらいながら無事に地上まで戻ることができた。

 

 




原作にない雫の暴走してシーン。いや、読んでて感じたけど、八重樫さんは苦労人過ぎだろう。
この話は本来ならば殿を努めて落ちたハジメを褒めながら、勇者である天之河を五条がけなすというシーンにしたかったが、コミックガルドに掲載されたありふれ学園を読んで八重樫さんに活躍&爆発してもらいたいという思いで書いちゃいました。

途中で内容を大きく変えたから、うん?ってなる部分もあるかもしれないので、誤字脱字などの報告よろしくお願いしやす!

次のIFで五条が飛び込む世界

  • ゼロの使い魔
  • 七つの大罪
  • スレイヤーズ
  • オーバーロード
  • HUNTER×HUNTER
  • 蜘蛛ですが、なにか?
  • この素晴
  • ダンまち
  • 転スラ
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