非常に反省している。
あと、めちゃくちゃ短い。
――つまらない。走っていたさなかに、そんな言葉を脳内で呟く。
『ライスシャワー、これは強いッ! 二着に大差をつけ今ゴールインッ! 見事に今年度の有マ記念を制しました!』
ライスの走りに魅せられた人々が、口々に祝福を紡ぐも、もう何も感じない。もはやただの雑音にしか聞こえない。
以前は祝福を欲していたのに、いつしかライスには不要なものと化していた。
心なしか湧き立つ観衆も、勝利を祝うように晴れ渡った空も、色のついていないモノクロに見えてしまう。
数多の称賛に応えるため、表情を取り繕い、手を大きく振る。
それだけでさらに熱気が膨れ上がったように感じた。
けれど、もうどうでもいい。
「お疲れ、ライス」
「……はい、トレーナーさん」
盛大なウイニングライブのあと、ライスのトレーナーさんが柔和な笑みを浮かべて労ってくれる。だけど、わたしは無表情のまま、興味もなさげに答える。
「これで俺にとっては三ヶ月、ライスにとっては三年が終わったな」
はは、と困ったように乾いた笑みを零すトレーナーさん。
「……はっきり言って、今回はあまり手応えを感じない相手ばかりでした」
今回のレースに出走していたウマ娘は、とても遅かった。いや、付け足すならライスにとっては、か。
トレーナーさんは一瞬信じられないといった顔をするも、すぐに表情を戻す。
「ま、マジかよ……」
がっくりとトレーナーさんは肩を落とす。
天皇賞(春)を連覇していたメジロマックイーンさんも、憧れだった、逃げウマ娘随一の実力を誇るミホノブルボンさんも、今のライスにとっては遅く見えてしまうのだろうか。
いえ、とうの昔に出てしまっていた結論だった。
ライスに勝てるウマ娘は、もうこの場にはいないんだ。
三冠も夢ではなかったトウカイテイオーさんも、ライスに大差をつけられて負けた。
新世代の一角とされ、ここまで無敗のウマ娘だったビワハヤヒデさんも、ライスには追いつけなかった。
追込なら誰にも負けない不沈艦とされるゴールドシップさんも、ライス相手には撃沈していった。
ありとあらゆるウマ娘がライスに敗れていった。
「……ライス?」
表情が強張っていたのか、トレーナーさんが心配そうに見てくる。
「……なんでもありません」
無愛想に一言だけ返す。
「そろそろ行きましょう」
そう言うと、トレーナーさんは慌てて準備に取りかかり始めた。
後日。
モノクロにしか見えない空を見上げていた。
「……いつから、ライスの目は壊れてしまったんだろうね。
――お兄さま」
唯一色がある墓石に向き直り、わたしは問うように呟く。
「……ライス、もう辛いの。お兄さまのいない世界は全部白黒に見えちゃうの」
ポロポロと、墓石に水が滴る。
「お兄さまのおかげで、ブルボンさんも、マックイーンさんも超えれた。だけどね、それでもなんだか、虚しいの」
このときだけは、ただのライスでいられる。
「お兄さま、どうして……? どうして……いなくなっちゃったの?」
ライスの問いかけは、何もない虚空へ消えていった。
ライスしゅき。