三井寿は諦めの悪い男   作:ネコガミ

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息抜き短編第三弾。


第1話『俺は三井寿』

「諦めたらそこで試合終了ですよ。」

 

その一言を耳にした瞬間、俺の頭の中に知らない光景が濁流の様に流れ込んでくる。

 

それが落ち着いた時、俺は全てを思い出した。

 

「みっちゃん、大丈夫か?」

 

チームメイトの声で我に還る。

 

そうだ、今は試合中だ。

 

それも神奈川県大会の決勝戦なんだぞ。

 

残り時間的に次がラストワンプレーだ…集中し直せ!

 

「おう!大丈夫だ!さぁ、まだ試合は終わってないぜ。ラストワンプレー…集中していくぞ!」

「「「おう!」」」

 

ボールをチームメイトに渡してコートの中に戻ると、相手チームの色黒の奴が俺につく。

 

…もしかして牧か?

 

さっき思い出した前世の記憶がチラつくが、頭を振って余計なもんを追い出す。

 

今は勝つ事だけを考えろ。

 

残り時間7秒で2点差。

 

チームの力の差を考えると延長はまずい。

 

相手チームもそれがわかっている。

 

だからこのラストワンプレーで逆転するしかない。

 

逆転するには3Pシュートか、バスケットカウントを貰う3点プレーだが…3点プレーは無理に止めにこないだろう。

 

なら、3Pシュートだ。

 

試合が再開した。

 

時計も動き出す。

 

スペースに走るが相手もしっかりとついてくる。

 

それでも俺はパスを要求した。

 

「みっちゃん!」

 

パスを受け取った俺に相手が詰め寄る。

 

パスを受け取った位置は3Pライン。

 

残り3秒。

 

シュートフェイクを一つ入れると一歩後ろに下がる。

 

シュートフェイクに引っ掛かったのか相手は腰が浮いてついてこれない。

 

残り1秒。

 

完全にフリーな状態で3Pシュートを放つ。

 

相手が振り返ってボールを見る。

 

右手に残るのは完璧な手応え…入ると確信する。

 

残り0秒。

 

試合終了のブザーが鳴り響くが、不思議とボールがネットを通過した音が耳に届く。

 

俺はガッツポーズをしながら雄叫びを上げると、感極まったのかチームメイト達が泣きながら走り寄ってくるのだった。

 

 

 

 

神奈川県大会の閉会式も終わり、俺はチームの皆と一緒にバスに揺られながら帰路についていた。

 

試合の疲労とバスの揺れで心地好い眠気が来るが、俺は眠気に抗って思考する。

 

(まさか俺が三井寿になってるだなんてな。いや、俺は三井寿だろ。くそっ、なんかモヤモヤするぜ。)

 

俺は間違いなく三井寿だが今では前世の30数年生きた記憶もある。それで前世の俺はこの世界…って言えばいいのか?まぁとにかく、前世の俺は今の俺の事を知っているみてぇだな。

 

しかも前世の俺は俺のファンだったらしい。

 

…なんとも形容し難い感覚に頭が痛くなりそうだぜ。

 

けど悪いことばかりじゃねぇ。

 

あの時の最後の3Pシュート…前世の記憶が戻る前の俺だったらキャッチ&シュートに行ってた筈だ。

 

もちろん弾道を高くして相手のブロックを避けようとはしただろうが…一か八かの要素が強かっただろうな。

 

だが実際に俺が選んだのはフェイクモーションからのバックステップ、そしてディープスリーだ。

 

残り時間を目一杯使いきり、確実に相手のブロックを避けてのシュート…俺自身がやったことだが、思い返すと鳥肌が立つ程に完璧だったぜ。

 

そう思った俺は何か役に立つ記憶はあるかと前世の記憶を思い出そうとしてみる。

 

すると前世の俺が知る俺の事が少しずつ頭に浮かび上がってきた。

 

…前世の俺が知る俺は、どうやらバスケ漫画の登場人物の一人みてぇだ。

 

(俺が漫画の登場人物だぁ?わけわかんねぇよ…。)

 

ため息を吐きながら頭を掻くと、他に何か俺に関して思い出せることがないか試す。

 

…神奈川県大会でMVPになった俺は陵南や海南からスカウトを受けるが、安西先生へ恩返しをするために湘北高校に進学する。

 

(陵南と海南からスカウトが来るのか?まぁ、俺は安西先生に恩返しするために湘北に行くけどな。…ここら辺は漫画の俺も俺と変わんねぇな。それもそうか、俺は俺。三井寿だ。)

 

そう考えた俺は続きを思い出そうとする。

 

…無事に湘北に入学した俺だが、バスケ部入部初日の紅白戦で左膝を故障すると、それをキッカケに挫折し不良に…っ!?

 

(挫折はともかくなんだよ不良って!?ありえねぇだろ!?なにしてんだよ漫画の俺!)

 

そう思ったものの前世の記憶は次々と俺が湘北高校バスケ部に掛けた迷惑を教えてくる。

 

「どうしたんすか、三井先輩?」

 

前世の俺が知る俺のあまりの酷さに頭を抱えていると、隣の席の後輩が声を掛けてきた。

 

「い、いや、なんでもねぇ。あの最後のシュートを外してたらって想像しちまってな。」

「はは、三井先輩なら何度やっても絶対に決められますよ。」

「お、おう、そうか?ありがとよ。」

 

後輩の信頼に礼の言葉を返すとタオルを顔に掛ける。

 

(もう寝よう。くそっ、優勝して最高の気分だったのに台無しだぜ。…今度髪を切りに行くか。これ以上伸ばすと不良になった漫画の俺を思い出しそうで嫌だからな。)

 

元々疲れていたのとバスの揺れで眠かったことで、目を閉じた俺はあっという間に寝入ったのだった。




三井寿としての自我がしっかり確立した後に思い出したので、憑依というか前世の記憶を吸収って感じでございます。

続くかは未定。

マイナー路線を攻めるスタイル。
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