side:安西光義
愛和学院に勝利した私達は次の相手になるところの試合を見学していました。まだ試合は決していませんがおそらくは豊玉になるでしょう。
まさか北野と全国の舞台で戦える日がくるとは……。
北野と目が合いました。彼は不敵に微笑んできます。ふふ、血が滾るとはこういう場合をさすのでしょうね。
試合は予想通りに豊玉が勝ちました。宿泊先に戻りミーティングを終えると私は外に出ました。なんとなくですが彼も出てくる予感があった。
「よう、安西」
「北野……」
予感通りに彼は出てきた。私達はどちらが言い出すともなく歩き始めた。古い馴染みの彼とは余計な言葉はいらない。……こういうのはなんだが家内は妬いてくれるだろうか?
いや、せいぜい彼女は苦笑いをしてくれる程度だろう。だがそれがいい。こんな私のワガママを聞いて支えてくれているのだ。それ以上を望むのは贅沢というものだろう。
「本当は辞めようと思っていた」
不意に北野がそんなことを言い始めた。
「俺はラン&ガンしか出来ん。それが一番面白いと思っているからな。だが、幸運にもガキ共に恵まれた。去年全国大会を勝ち上がり、頭を下げずとも残ることが出来た」
素直ではないなと思った。私達の様な種類の人間は一度はまってしまったモノからは離れられない。どの様な形であれ、私は生涯バスケに関わって生きていくのだろう。それは北野とて同じだ。
「お前がバスケから離れるなど想像出来んな」
「俺もだよ」
私達は声を上げて笑った。
「やり残しが出来た」
「やり残し?」
「王者山王に勝つ」
ほう?
「それは残念だ。明日は私達が勝つからな」
「……言うじゃねぇか」
私と北野の間で火花が散る。
そうだ私達はこれでいい。昔を懐かしいと思い感慨に耽るにはまだ若過ぎる。
老いてますます盛んではないが闘志に衰えは無い。勝利への渇望は常に抱いている。そう在る内は戦える。
「明日は俺達が勝つ」
「いや、私達が勝つ」
数秒睨み合い不敵に笑った私達はそこで別れ、それぞれの宿泊先に帰る。
あぁ、明日が待ち遠しい。血の滾りで眠れずに寝不足などあってはならない。早目に床に着かなくては。
◆
side:北野
安西の野郎……随分と熱くなってたじゃねぇか。まるで昔に戻ったみてぇだぜ。
それでいい。それでこそ安西だ。くっ、血が滾るぜ。
「おっ?おっちゃん、どこ行ってたん?」
「散歩だ散歩」
「気ぃつけや。もう若くないんやから」
「やかましい。さっさと寝ろ」
「ひどいわぁ。折角心配したったのに」
そう言って肩を竦めた南に苦笑いをする。
「南、三井は任せたぞ」
「……しんどい相手やなぁ」
「だがお前以外じゃどうにもならん」
「せやろか?せやな。まぁ、なんとかやってみるわ」
正直に言って南でも三井は止めきれんだろう。それほどに三井の力は抜けている。
うちに出来るのはラン&ガンのみ。点の取り合いしか出来ん。そういう意味ではどこが相手でも同じ。
「さぁ、わかったならさっさと寝ろ」
「おう、おっちゃんもはよ寝ぇや」
まったく……年寄り扱いしおって。いや、年寄りであるのは間違いじゃないが、それはそれとして複雑なのだ。
「シンプル故に悩む必要がない。これはこれで強みなのさ。さぁ安西、お前はどう出る?」
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。