流川楓にとって高校バスケはアメリカに行くまでの足掛けの様なものであった。故に陵南の田岡や海南の高頭にスカウトされていたのだが、彼は近いという理由で湘北高校を進学先へと選んでいた。
だがこの選択は彼にとって幸運だった。入部初日、富ケ丘中の先輩である中原彩子に告げられたことがある。それは『湘北には高校バスケ日本一の選手がいるわよ』だ。そう、三井寿の存在である。
彩子の言葉を半信半疑ながら流川は練習後の居残り練習で三井に1on1を申し込んだ。すると……。
(ありがてぇ……本物だ)
手も足も出ずに負けた流川は落ち込むどころか歓喜した。彼に挑んでいけば確実に自分は成長出来ると確信したからだ。だが、そんな彼に待ったを掛ける様に現れた男がいる……桜木花道だ。
「流川ァ!勝負だ!」
そう言って1on1を挑んできた赤毛の坊主頭はチグハグだった。運動能力は高い。ジャンプ力やスタミナ等の一部は自身を上回る。基礎もしっかり出来ている。だが駆け引き等の技術は素人よりはマシだが、中学バスケ等で鳴らした選手のレベルにはなかった。
(こんだけ動けるのに技術がねぇってのはどういうことだ?)
少し考えた流川だが直ぐに止めた。そんなことをしている暇があれば早くこいつに勝って三井との勝負をした方がいいと思ったからだ。
三井と違い桜木はドリブルで抜くことは出来る。だが抜いてもその持ち前の運動能力で幾度もゴールを阻まれた。
(……後ろから追いつかれるってぇのはあまり経験したことねぇな)
技術的には見るべきところはない。だが運動能力に任せたその理不尽とも言えるジャンプの高さとブロックは中々に得難い経験かもしれないと感じた流川は、三井との1on1前のウォーミングアップにはちょうどいいと考える様になった。
もっとも、無尽蔵とも言える桜木のスタミナに圧されて不覚を取ることもあり、更に疲れている時の対応等に苦慮することで動きから無駄が減っていくことで、流川自身気付かぬ内に思わぬ成長をしていくことになるのだが……。
流川にとってバスケは人生そのものだ。バスケに関わることは努力するがそれ以外は蛇足。故に学校の授業ではアメリカに行った後に関わる英語の授業以外は寝て過ごしている。晴子との受験勉強で意欲的に勉強する様になった桜木や、彩子の指導により学校の授業についていける様になった宮城よりも、そういった面では余程問題児だと湘北高校の教師陣に認識されていた。だが流川は一切気にしていなかった。彼はバスケが出来れば、バスケが上手くなれればそれでいいからだ。
だから流川は今日も机を枕に目を瞑る。放課後の部活に体力を注ぎ込むために。