side:三井寿
「後半は桜木君を除きメンバーを交代します」
そう言うと安西先生は赤木、倉石、木暮、安田の俺を除いた四人の名を呼ぶ。
「桜木君、前半はいい動きでした。後半も君のリバウンドに期待していますよ」
「おう!任せろ安西の親父!」
「それと桜木君、オフェンスリバウンドを取ったら君自身でゴールを狙ってみましょうか」
そんな安西先生の言葉に桜木は疑問の顔をする。
「……俺が?」
「えぇ、今の君ならゴール下以外からでも十分にゴールを期待出来ます。ジャンプシュートを狙うもよし、ダンクを狙うもよし。君も湘北の得点源の一人だと津久武高校の皆さん、いえ、会場の皆さんに教えてあげましょう」
「オッシャア!この桜木に任せろォ!」
「バカたれ、調子に乗り過ぎるなよ」
赤木が釘を刺すが桜木のモチベーションは最高のままだ。
今の桜木はミドルレンジからでも十分にゴールを期待出来る奴だ。だからもっと積極的に狙ってもいいんだが……普段の俺や流川との1on1ではミドルレンジでの勝負はほとんど完封されてしまっていた。
そのせいだろう。桜木は今大会で何度もミドルレンジからのシュートチャンスがあってもシュートを打たなかった。安西先生がそれを指摘しなかったのは、桜木に試合経験と共に自信をつけさせてからでも遅くないと判断したんだろうな。
「後半も三井君を温存する形になりますが、後半8分過ぎても負けていたら三井君を投入します。交代する選手はその時により判断しますので、交代したくなかったら8分以内に逆転してください」
ニコリと微笑ながらそう話す安西先生の言葉に後半に出るメンバーから気炎が上がる。
「いつでも交代するぜ」
「するかぁ!行くぞお前達!絶対に逆転だ!」
「「「オォッ!」」」
赤木の檄に応えて5人がコートに入る。
「さて、あいつらは逆転出来ますかね?」
「ふふふ、私は期待していますよ」
それじゃ高見の見物といくか。
◆
side:田岡茂一
「湘北はまだ三井を温存か」
三井を温存出来るのは桜木の存在が大きい。桜木のリバウンドが木暮や東といった湘北のシューター達の価値を高くする。僅か1年であれほどのリバウンダーに成長するとはな。口の利き方はなっていないが、それもあいつの愛嬌だと感じる程度には色気のある選手になってきた。仙道や福田同様に先が楽しみな選手だ。
「仙道、流川はどうだった?」
「1年にしちゃ動けてますね。けど、息が続かないみたいですよ。あれなら抑えるのはそう難しくないです。ね?池上さん」
「そうだな。あれなら前半だけで潰せる」
1年として見れば末恐ろしいスコアラーだが、今の仙道や池上にしてみればそこそこの選手になってしまうか。
三井に追いつけ追いこせ。この言葉をスローガンにしたかの様にここ数年で神奈川の高校バスケのレベルがどんどん上がっていっている。うちも含めた四強だけではない。中堅や弱小と呼ばれる様な高校もどんどん強くなっているのだ。それこそ今の3年生達が引退したら神奈川の高校バスケの勢力図が変わってもおかしくない程に。
その新たな勢力図の中心になっているのはうちの仙道や福田ではなく桜木だろう。
三井によりシューターの存在が重要となった。そしてシューターが重要となった今、今大会で見せている桜木のパフォーマンスによってリバウンダーの存在が注目されるようになるだろう。
「いたちごっこだな」
スポーツの世界では常にいたちごっこが終わらない。流行と対策が常に巡り巡っているのだ。
外が流行れば中が脚光を浴びる時が来る。その逆もしかり。だから指導者には休まる時がない。常に情報のアップデートをし続けなければならないのだ。
「……まぁ、だからこそ飽きないんだがな」
コート内では津久武高校も奮闘しているが、それ以上に湘北に勢いがある。後半半ばまでに追いつくどころか逆転も十分に可能だろう。三井を温存している状態で。
「津久武高校……今後は注目していくべきところだな」
これで今年の投稿は終わりです。
また来年お会いしましょう。