三井寿は諦めの悪い男   作:ネコガミ

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本日投稿2話目です。


第14話『失われた情熱は再び熱を帯び始める』

side:赤木美和

 

 

インターハイ予選まで後少し。そして今日はインターハイ予選前の最後の日曜日って事で通常の練習はそこそこにして紅白戦をメインにやってるわ。

 

試合は三井君がいるBチームが優勢だけど、剛憲、木暮君、倉石君がいるAチームも負けてないわね。

 

おっ、来たわ。

 

この紅白戦で3回目の三井君と倉石君のマッチアップ。

 

倉石君はオフェンスはあまり上手くないけど、ディフェンスは上手いのよねぇ。

 

でも、そんな倉石君でも三井君のクロスオーバーは止められない。

 

倉石君を抜いて中に切り込んだ三井君が剛憲を引き付けると、フリーになっていた石渡さんにパスを出す。

 

パスを受け取った石渡さんは冷静にレイアップ。

 

うん、いいリズムだわ。

 

攻守が入れ替わってAチームの土橋さんがボールを運ぶ。

 

中の倉石君を中継してボールは外の木暮君に。木暮君がキャッチ&シュートで3Pシュートを撃つ。

 

外れた。リバウンド争い。

 

剛憲と三井君の勝負。三井君がボールを確保したけど、着地際を倉石君がスティール。弾かれたボールを剛憲が拾う。

 

そして剛憲がベビーフックでゴールを狙うけど、三井君が視界を遮る様に手を伸ばすと剛憲はゴールを外してしまう。

 

すると石渡さんがボールを確保して速攻。Bチームがゴール。

 

一連の攻防が終わると私は三井君に目を向ける。

 

(さっきのは本当に上手いわ。無理にブロックにいかず視界を遮って相手のミスを狙うとか、記録に残らないファインプレーってやつね。三井君、ナイスプレー!)

 

心の中で拍手を送ると、私は目を倉石君に向ける。

 

(運動不足で体力が落ちてるみたいだけど、カバープレイはすごく上手いのよね。剛憲のリバウンドのカバーに行って三井君からスティールを決めてるし。あれでもう少しシュートが入る様になれば文句無しなんだけど…。)

 

倉石君のミドルシュートの成功率はハッキリ言って剛憲よりも悪い。

 

その理由がブランクで感覚が鈍っているのもあるけど、家業を継ぐための修行でシュートの感覚を忘れちゃったからってのがねぇ…。

 

本人は不器用だから仕方ないって言ってるけど、あまりにもシュートを外すのを見かねた三井君がシュートフォームのアドバイスをしたのよね。

 

今はまだ完全にものにしてないけど、あの女子選手みたいなダブルハンドのシュートフォームをものに出来ればシュートも期待出来るようになるかもね。

 

おっと、そういうのは安西先生の仕事だし、私はマネージャー業に集中集中っと。

 

安西先生といえば石渡さんから聞いた話なんだけど、いつも遅れてくるって言ってたのよねぇ。

 

石渡さんが湘北バスケ部に入部した頃からそうだったらしいわ。

 

私がマネージャーになったばかりの頃もそうだった。

 

でも春の県大会の少し前から、ちゃんと部活動が始まる前に来る様になったわ。…なにか心境の変化でもあったのかしら?

 

まぁいっか。ちゃんと指導してくれるようになったんだし、安西先生のこの変化は大歓迎よね。

 

 

 

 

side:安西光義

 

 

紅白戦で皆が躍動する姿を見て目を細める。

 

心持ち一つでこれ程に世界は色鮮やかになるものなのだと、この歳になって初めて知った。

 

数年前に異国の地で教え子が亡くなったと知ったあの日から私はバスケに対する情熱を失っていたが、今の私の心には新たな情熱が宿り始めている。

 

その理由は三井君だ。

 

入部初日にリハビリを必要とする大怪我をしたが、それに屈せず見事に克服してきた。

 

しかも彼はリハビリ期間中から仲間に度重なるアドバイスを送っている。

 

赤木君のベビーフックしかり、木暮君のロングシュートしかり…これには本当に驚きだ。

 

バスケはチームスポーツだ。どれほど凄い選手でも1人では勝てない。

 

だからこそチームプレーで協力し合わなければいけないが…残酷なことにチームスポーツは試合に出場出来る人数、登録出来るメンバーの人数に限りがある。

 

限りがある故にその座を奪い合い、時には相手を蹴落とす様な真似をする選手だっている。

 

だが彼は当たり前の様にチームメイトにアドバイスを送る。

 

弱小校と呼ばれる湘北で本気で全国制覇を成し遂げるつもりなのだ。

 

そんな彼の本気に気付いた時、私は己を恥じた。

 

いい大人がいつまで塞ぎ込んでいるのだと己を叱咤した。

 

それから私は可能な限り部活動の時間に遅れぬ様に足を運んでいる。

 

今では私の知識や経験からこの子達を指導する様にもなった。

 

その結果として少し練習が厳しくなり幾人かが部を辞めてしまったが、その事に後悔はない。

 

「谷沢…見ているか?」

 

私はそう言葉を溢しながら練習で汗を流す教え子達を見て微笑む。

 

「…今年のインターハイが終わったら墓参りに行く。その時に、ゆっくりと話をしよう。」




次の投稿は11:00の予定です。
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