side:三人称
ベンチに下がった赤木は項垂れていた。完全に自信を喪失しているのだ。
2年前、赤木と魚住は確実に赤木が格上の選手だった。1年前、ほぼ互角といってよかったがそれでも選手としてはまだ赤木の方が上だった。
そして今現在、確実に魚住の方が選手として格上となっていた。
どうしてこうなった?俺には何が足りない?何故あいつを抑えられない?……何故?……何故?
「赤木君、顔を上げなさい」
項垂れていた赤木に安西が声を掛ける。だがその声色は常の柔らかなものの中に強さがあった。拒絶は許さないと言わんばかりの強さが。
それに引き上げられたのか赤木は顔を上げた。顔色を失っていた赤木の目にコートに目を向けたままの安西の横顔が映る。
「今の君がするべきことは何ですか?後悔?反省?そんなものは試合が終わってからで構いません。今の君がすべきことは、今目の前で行われている試合から少しでも何かを学びとること。そしてチームメイトが勝つことを信じて応援すること……違いますか?」
「は……はい」
温和な筈の安西から感じられる圧力。思考は後ろ向きなままであったが、それでも赤木は顔を上げてコートに目を向けることが出来た。
そんな赤木の様子に安西は眼鏡の奥で視線を緩め微笑む。
(先ずはそれでいいでしょう。心折れてどん底に落ちた君は後は這い上がるだけです。もっとも、這い上がれるかどうかは君次第。期待していますよ)
そう内心思う安西だが、安西は赤木が高校バスケ現役中に復活することが無いかもしれないとも考えていた。
(赤木君、君はここまでハッキリとした挫折は初めてかもしれません。兼田君の時は相手が年上、河田君の時は全国という大舞台でのことと言い訳が出来る状況でしたからね。ですが今回は何も言い訳が出来ません。けれど赤木君、君は見たはずです。怪我に負けずに這い上がってきた三井君の姿を)
赤木と三井の状況は違う。だが諦めずに挑戦を続けた三井の姿は同級生のみならず上級生や下級生の心を奮わせた。もちろん安西の心もだ。だから安西は信じる。赤木が這い上がってくることを……。
場面は変わりコート上、赤木の代わりにゴール下に入った角田は歯を食いしばって魚住に喰いついていた。
「ぐっ!?桜木頼む!」
「おう!」
角田では今の魚住を抑えることは不可能に近い。だが一歩プレーを遅らせることは、ディレイを掛けることぐらいは出来る。その遅れがあれば桜木はベストポジションを確保してリバウンドに跳ぶことが出来る。
だが魚住はそれだけでは止まらなかった。キャッチは出来ない。桜木に取られる。そう瞬時に判断した魚住は身長とウイングスパンというアドバンテージを最大限に活かし、目一杯伸ばした手の指先でボールを弾いた。しかもただ弾いただけでなくカバーに来ていた池上のいる方へ弾いたのだ。
「ふがっ!?」
「嘘だろっ!?」
空中で手が空振った桜木、そして魚住のファインプレーを目の前で見せられた角田は思わず声を上げてしまう。
ボールを確保した池上が素早くボールを前線へ送ると、ボールを受け取った福田がそのまま速攻を仕掛け跳躍したが、先程の魚住のファインプレーのお返しとばかりに追いついた三井が右後方から腕を伸ばしブロックを決めた。
三井のブロックにより転がるボールを倉石と仙道が同時に取ると笛が鳴り試合が止まる(※1)。すると会場から割れんばかりの歓声が上がった。
それらの一連の流れを見た赤木は涙を流した。
(何故俺はコート上にいない?そんなの簡単だ。くだらない意地を張って魚住に挑み、負けて、桜木と協力を……チームプレーをしなかったからだ)
項垂れ首に掛けていたタオルで顔を覆う赤木。
(何故俺は魚住を認められなかったんだ。いつから俺はこんなに傲慢になった?兼田さんを超えようと……挑戦をしていた頃の俺はどこにいった?)
タオルで口を覆う。幸いにも歓声が彼の嗚咽を隠してくれた。しかし安西は赤木の悔し涙に気付いていた。
(涙を流すほどに悔しい……それでいいんです赤木君。その涙は己を誤魔化すよりもよほど成長に繋がる。這い上がろうとする君に今日の涙が糧になることを願いますよ)
※1:拙作ではオルタネイティング・ポゼション・ルールはまだ採用されておらずジャンプボールで再開とさせていただきます。どうぞご了承ください。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。