三井寿は諦めの悪い男   作:ネコガミ

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第147話『ライバルからの喝入れ』

side:三井寿

 

 

 前半も残り少しだが点数は陵南にリードされている。理由は春の県大会の時同様にゴール下を魚住に掌握されているからだな。それと木暮が少し3Pを打つのを控え気味だ。打っていないわけじゃないがシュートセレクションをかなりこだわる様にしている。もし外せば高い確率で魚住にリバウンドを取られちまうからな。

 

 俺は打ってリズムを作るタイプだから入ろうが外れようが気にせず打つが、俺とマッチアップしている仙道が3Pに関してはかなり注意を向けている。ドリブルで抜かれるのは割り切っている感じだな。だからといって俺のドリブルに対するディフェンスを捨てているわけじゃない。しっかりと全力でやってきているが、抜かれても反省だけして直ぐに切り替えているんだ。この精神的な強さ、しぶとさは魚住譲り……というか陵南の伝統の様なものになってきているな。福田や池上とか他の選手達も気持ちの切り替えが頗る上手い。田岡監督の指導のおかげか?

 

 さて、このままだと春の県大会のこともあって嫌なイメージをインターハイ予選に引きずりかねない。ちょっと仕掛けてみるか。

 

 安田にボールを要求した俺はボールを持つと直ぐにドリブルで仕掛ける。中に切り込むと赤木にパス。だがボールを持った赤木はシュートを打つのに躊躇した。

 

「打て赤木!」

「っ!?……くっ!」

 

 俺の声に押されてシュートを打とうとした赤木だが前半終了の笛が鳴り結局シュートを打てなかった。

 

(もう少し時間に余裕を持たせた方がよかったか?)

 

 魚住を相手にシュートを決めさせて前半を終わり良いイメージを持たせようと思ったんだが、赤木の状態は予想以上に重症なのかもしれねぇな。さて、どうしたもんか……。

 

 そう思っていた時、不意に魚住がこちらのベンチに向かって歩いてきた。

 

「なんだ?なんかあったのか?魚住」

「あぁ、ちょっと失礼する」

 

 そう言うと魚住は……。

 

『バヂィィィンン!』

 

 ベンチに座って俯いていた赤木の背中を、身体が浮いて前につんのめる程に平手で思い切り張り飛ばした。

 

「うぐっ!?……何をする!?」

「そのでかい身体は何のためにある?」

 

 自身を張り飛ばした魚住の方に振り返った赤木が抗議の声を上げるが、その抗議など気にもかけず魚住は逆に問い掛けた。

 

「なに?」

「そのでかい身体は何のためにあると聞いているんだ」

 

 赤木から答えが返ってこないと魚住は言葉を続ける。

 

「俺達には桜木や牧の様な運動能力は無い」

「三井や仙道の様なバスケセンスも無い」

 

「それでも俺達がコートにいられるのは何故だ?」

「チームのためにゴール下で身体を張るからだ。そのためのでかい身体だ。違うか?」

 

 言葉を失ったまま赤木は魚住を見続ける。

 

「失礼しました安西先生」

「いえ、ありがとうございます」

 

 ペコリと頭を下げた魚住は陵南ベンチに戻っていく。その背を呆然と見ていた赤木だが、不意に体育館に響き渡るほどの大きな音を出して己の頬を張った。

 

「魚住っ!」

 

 名を呼ばれて立ち止まった魚住に赤木が言葉を続ける。

 

「礼は言わん」

「あぁ、プレーで示せ」

 

 やれやれ、どうやって赤木を立ち直らせるか頭を悩ませてたがライバルである魚住自ら立ち直らせるとはな。甘いというべきか熱いというべきか悩むところだな。

 

 だが、嫌いじゃない。こういうのはな。

 

「赤木、もう大丈夫だな?」

「あぁ、ゴール下で勝てるとは言えんが、今の俺に出来る全力は尽くす。桜木、連携の確認をするぞ」

「おうっ!待ちくたびれたぜゴリ!」

 

 その後、練習試合は陵南の勝利で終わったが、この試合で湘北は最高の収穫を得た。赤木の復活だ。

 

 けどそれで勝って全国に行けると言い切れるほど甘くないのが今の神奈川の高校バスケだ。だが、だから面白い。そんな神奈川で勝って全国に行く。そして……全国制覇だ!




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。
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