side:田岡茂一
教え子達がコートで躍動している。その光景は何よりも尊く感じ、何よりも美しく感じるものだ。
今年ついに念願叶い全国大会出場を決めることが出来たが……ここがゴールではない。まだ満願叶えるためのスタート地点に立ったに過ぎないのだ。
故にこの県大会決勝リーグ最終戦でもベストメンバーで行く。控えや次期主力メンバーに経験を積ませることも考えなかったでもないが、ベストメンバーのプレーを、その背中を見せることがこの試合を見ている教え子達の成長に繋がると私は信じている。
もちろん安西先生の様に実際に試合に出して経験させる方法もあるだろう。だが、試合に出られなかった悔しさや、大舞台への憧れもまた選手の成長の糧となる。どちらを選ぶかは指導者次第だ。
「むっ?」
今の流川の顔振り……仙道へのフェイクというだけではない。確かにパスの意思を感じた。
だが実際にパスを出したわけではない。それでも流川のパスの意思を対面する仙道は感じ取ったのだろう。ほんの僅かにだが流川のクロスオーバーへの反応が遅れた。
好機と思ったのか流川はそのまま中に切り込もうとする。しかし身体を寄せた仙道が進路を誘導したその先に待っているのは、陵南のディフェンススペシャリストの池上だ。
進むことも戻ることも出来なくなった流川。本来なら即刻パスを出すべきなのだが躊躇する。そうなればボールをロストするのも必然。仙道と池上に囲まれた流川は池上にボールをスティールされた。
「速攻!」
池上がスティールした瞬間に走り出した仙道。そしてその仙道へとパスを出す池上。何者にも止められることなく速攻は決まった。
「流川ァ!」
コート上で桜木が怒りの声を上げながら流川の胸ぐらを掴む。気持ちは理解するが今やるべきことではない。
「ほう?」
桜木の頭を軽く叩いて手を離させた赤木が流川に一言声を掛けると、少々悪くなっていた湘北の空気が変わった。
「なるほど、赤木に周りに目を向ける余裕が出てきたか」
魚住のことで視野狭窄に陥っていた彼だがどうやら吹っ切れたようだ。
厄介な選手の一人が目を覚ましたとも思うが、それでも私に不安はない。例え赤木と桜木のコンビであろうとも魚住は対等以上に戦える。
私が唯一湘北との試合で抱える不安……それは三井寿だ。
あの男だけは計算や想像がつかないパフォーマンスを見せる。だからどれだけ点差が開こうとも安心は出来ないんだ。
チラリと湘北ベンチへと目を向ける。
「このチームならば全国制覇も夢ではないと断言出来る。そしてその最も大きな壁となるのは……やはりあの男になるんだろうな」
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。