side:高頭力
「さて、5分しかないから手短にいくぞ。走って、勝つ。簡単に言えばこれだけだ」
私の端的な言葉に一年の二人である桜木と清田の頭には疑問符が浮かんでいるようだ。
「走る。バスケにおける基本中の基本。それを徹底してやる」
「なぁ高頭のおっさん、それで勝てるのか?」
「勝てる可能性は上がるな。それで魚住の活躍する場面を減らせるからな」
魚住のことを聞いた一年の二人の頭には更に疑問符が浮かぶ。
「身長、パワー、テクニック、Cに必要なもの全てを高水準どころか日本全国でも最高峰レベルで備えているのが魚住だ。その魚住に足りないもの……と辛うじて言えるのがスピードだ」
まぁ2mオーバーの身長であれだけ動ければ十分及第点どころかお釣りがくるのだが、重箱の隅をつついて粗探しをしてなんとか見つけられる唯一攻められる点と言えばそこしかないのだ。
「正直に言って魚住と真っ向から勝負して勝てる相手は今の日本全国を探してもそうはおらんだろう。だから走る。走って振り回して、魚住に『さぁ、来い』と待ち構えさせずに攻める」
もちろん向こうもディレイを掛けたりしては来るだろう。だがそうしなければ勝ちの目が出ないのだから仕方がない。
「牧、お前は三井と好きなだけ勝負をしていろ」
「望むところですよ」
「頼むぞ。というわけで藤真、PGはお前だ。ゲームメイクは任せたぞ」
「っ!?は、はい!」
監督……いや、プレイングマネージャーの経験があるからか、ゲームメイクという一点において藤真は牧を上回る。更に左利きということで他の選手と違うリズムでバスケが出来るのも魅力だ。安田という天敵が存在したことで評価が下がってしまった選手だが、それでも神奈川高校バスケにおいて屈指のPGであることは間違いない。
「さて、福田と桜木と清田。藤真からパスが欲しければ、点を取りたければとにかく走れ」
「おう!任せとけ!」
桜木の威勢の良い返事を筆頭に福田と清田も返事をする。さて、もう一押しするか。
「それと桜木」
「うん?なんだ?」
「お前はもうちょっと遊んでもいいぞ」
私の言葉に桜木はまた頭に疑問符を浮かべる。
「遊んでいいは言葉が悪かったか。桜木、バスケは5回ファウルをすると退場。これはわかるな?」
「おう」
「言い換えるとこれは『4回までならファウルをしてもいい』とも言えるんだ。更に今回は練習試合。思い付いたこと、試してみたいことは思い切ってチャレンジしてみろ」
驚いたのか桜木はポカンとした表情をしている。
これは私の想像になるのだが、桜木はバスケを上手くなるために全力で取り組んできたのだろう。真っすぐにな。
なんせ桜木の目の前には最高のお手本がいた。三井寿という最高のお手本が。
だがそのお手本は遠すぎた。追うには脇目を振る暇がない程に。
通常スポーツを始めたばかりの頃は色々と遊んだり試すものだ。憧れの選手のプレーやカッコいいと思ったプレーをな。
だが私が見た限りでは桜木はそれをしてこなかった。いい意味で単純なのだろう。純粋と言い換えてもいい。バスケに夢中になれていた。だからこそ桜木は僅か1年半でここまでの成長を成し遂げることが出来た。それは良い事だ。
しかし桜木が次のステージに進むにはそろそろ自分で試行錯誤していく癖をつけにゃならん。トライアル&エラーを繰り返し、自分に合うものを見つけ己をアップデートしていくのはスポーツ選手の永遠の課題なのだから。
「随分と桜木を気に入ってますね」
試合前に軽く動き始めたチームメンバーを尻目に牧が話しかけてくる。
「面白い男だからな」
「はい」
「それにあいつの成長は清田にもいい影響を与える」
「清田のやつは流川の方を気にしてるみたいですが?」
「確かに流川もいい選手だ。だがより華があるのは桜木だろう?」
牧が私の問いかけに頷く。
「流川は間違いなくエースになれる器を持っている。華もある。だが桜木は流川以上に華がある。夏以降に湘北の中心になるのは間違いなく桜木だ」
他の選手と同じプレーをしてもより多くの耳目を集める選手というのは存在する。所謂華がある言われる者達だ。
そんな華を持った選手の中でより強く惹きつける華を持っているのが桜木だ。一年という枠組みの中でだがな。
「清田は確かに流川を意識しているようだが、ライバルとして見るなら桜木の方が合っている」
「性格も似ていますからね」
「ふふ、確かにな」
さて、そろそろ時間か。
「さぁ、行ってこい」
「リベンジしてきますよ」
「期待してるぞ」
牧は三井に、私は田岡先輩へのリベンジ。それを成さんと意気揚々に試合に挑むのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。