side:田岡茂一
「さて、時間も無いので簡潔にいくぞ。ゴール下に魚住、外に三井、以上だ。残り3人はポジションを気にせず各々好きに動け」
私の指示に仙道、宮城、南郷の3人が驚きの表情を浮かべる。
「えっと監督……いいんですか?」
「構わん。お前たちの我儘な動きぐらい魚住と三井なら問題無くフォロー出来る。そうだろう?」
仙道の言葉に私は魚住と三井に目を向けながらそう言うと2人は不敵な笑みを浮かべながら頷く。
「しかしポジションを気にせずっすか……」
「そうだ。PGみたいにゲームメイクをしてみるもよし、Fのようにゴールを狙うもよし。それぞれがやりたいようにやってみろ」
仙道達が頭を悩ませる。それはそうだろうな。我ながら無茶苦茶な指示だと思う。だがこれはこいつらの成長に必要なことなのだ。
スポーツというのは華やかなプレーとは裏腹に想像以上に頭を使うもの。だが人というのは想定外の事態、または経験の無い事態に遭遇すると思考が停止してしまうことがよくある。
だからこそ様々なシチュエーションを想定しシミュレーションしておく、あるいは今回のようにそういったシチュエーションを用意して体験させておくことが重要なんだ。
「あぁ、宮城ちょっといいか?」
「はい?」
指示を終え各々が軽く身体を動かし始めたところで私は宮城に声を掛ける。
「お前はPGのように動くつもりか?」
「えぇ、まぁ……」
「そうか」
想定していた返事に私は言葉を続ける。
「ならばゲームメイクについてよく考えろ」
「……パスの出し先ってことですか?」
「違う。点の取り方だ」
やはり宮城は思い違いをしていたか……。まぁ、PGをしている選手にありがちなことだが。
「ゲームメイクとはパスを出しチームを動かすことではない。如何にチーム勝たせるために点を取るかを考えチームを動かすのかだ」
私の言葉に宮城は顎に手を当て首を傾げる。
「点を取る。パスはそのための手段の1つに過ぎない。ドリブルで抜く、シュートを打つ、これらも当然点を取るための手段となる。これらを選択し試合を作る。それがゲームメイクなのだ」
目を見開く宮城。少しは彼の成長の一助となったか?
PGとは非常に特殊なポジションだ。オフェンスの起点となり試合を動かす。それ故に敗戦の責を問われることすらある。
そんなPGの理想像は牧だろう。自身がドリブルで仕掛けることも、点を取ることも、パスを出してチームを動かすことも出来る。だが、誰しもがそれを出来るわけじゃない。
それ故にいつしか無意識の内に自身に枷を嵌め選択肢を狭めてしまう。そんなPGのなんと多いことか。
宮城もそんなPGの1人だった。まぁ宮城の場合は安田という駆け引きに特化した特殊な競合相手がいたことが原因だろうがな。
「頼りになる3年の2人がカバーしてくれる。練習試合なんだ。色々と試してこい」
「はい!」
元気な返事をして宮城も身体を動かしにいった。
ライバルと競い合う。いいことだ。だがそこで見失ってしまうこともある。
「宮城……持ち味を活かせよ」
かつてスカウトに失敗した相手の成長の一助となる……こんな展開も悪くはない。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。