side:三人称
「どうやら選ばれなかったことに随分とショックを受けているようですね?」
「……受けていないと言えば嘘になります」
「……うす」
「ほっほっほっ、その気持ちがあれば君達はもっと強くなれます」
安西は手が空いていた赤木と流川の二人を近くに呼んで見学をさせる。今回の練習試合を教え子である二人の成長の一助とするためだ。
「君達が見るべきは彼等の自我です」
「自我?」
「バスケはチームスポーツです。故にチームの勝利こそが最も優先すべきこと」
わかりますね?と目で問うと頷く二人。そんな二人の反応に微笑むと安西は言葉を続ける。
「チームの勝利のために自我を消しチームプレーに徹する。そういう選手もいれば逆に自我を前面に押し出し鼓舞するようにチームを引っ張るような選手もいる。どちらがよいということはありません。ケースバイケース。君達には試合状況によりそれらを選べるような選手になってほしいですね」
赤木も流川も自我の強い選手である。赤木は挫折もあり多少は落ち着いた面もあるが、それでもゴール下でボールを持つと自分でなんとかしようとすることが多い。
そして流川はというとパスの選択肢が無いのかという程に自身で完結しようとするプレーばかりである。そんな二人に必要なものを実感させる。その絶好の機会が訪れたことを安西は内心でウキウキしていた。
試合が始まると赤木は魚住を、流川は三井と牧を見ていた。そんな二人に安西はやはりかとため息を吐く。
「もっと視野を広げましょう。赤木君は南郷君を、流川君は清田君を見てください」
思わぬ相手を指定された二人は困惑する。だが困惑をしながらも二人はそれぞれの相手を注視し始めた。
「……よく周りを見ているな」
ボソリと赤木が呟く。ルックアップ。スポーツにおける基本中の基本。だが果たして自分はあそこまで周りが見えていただろうかと自分に問いかける。
清田の動きを見ている流川は言葉を発しないものの拳を握り締めていた。
彼はとにかくよく走る。その運動量はスタミナお化けだと流川が認識している桜木をも上回るかというほどだった。
何故それほど彼は走るのか?それは彼の身長が理由だった。
清田の身長は178cmと日本の高校バスケットプレイヤーとしては決して低くはない。低くはないが現在の神奈川高校バスケ界では武器になるほどのものではないのだ。
故に彼は走る。生き残るために。出場の機会を得るために。同じ1年の桜木に、南郷に負けてたまるかと意地を張り歯を食いしばり走るのだ。
そんな彼の献身が実ったのかパスが回って来た。流川はそのシチュエーションもあってゴール下に突っ込みシュートすると思った。
確かに清田はゴール下に突っ込んだ。だがレイアップに行き魚住のジャンプを引き出すと彼はパスを出した。
流川の頭には疑問符が浮かぶ。あいつならダブルクラッチだって出来るはずだと。
逃げたのか?そんな考えが浮かび清田のプレーに興味を失いつつも安西の指示もあって流川は観察を続ける。
するとふと気が付いたことがあった。清田にはよくボールが回ってくるということだ。
その気付きがあってから流川は清田のプレーを集中して見るようになる。そんな流川の様子に安西は微笑む。
(……先ずは及第点といったところですね。赤木君、流川君、期待していますよ)
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。