side:三人称
試合開始から10分。湘北と愛和学院の点差はジワリジワリと広がっていた。その理由の一つが圧倒的なまでのリバウンド成功率の差であった。
およそ8割ほどリバウンドを成功させる桜木。残りの2割を赤木と愛和学院のインサイドで分ける形。つまりシュートを外せば9割方湘北のボールになってしまうという構図である。必然的に湘北のオフェンス機会が増え、それがそのまま得点差に現れていく。
(やっべぇな)
内心で焦りが出る諸星。だがそれとは逆に彼のプレーは冴えわたっていく。彼は逆境に燃えるタイプであったようだ。
諸星の奮闘により傷口は広がらなくなった愛和学院。しかし塞ぐことも出来ず前半を終えると、後半からは再び傷口が広がっていく。その原因は後半から出場した流川の存在だった。
(あれでまだ1年か……オフェンスだけならエース級だな)
三井と対峙しながら横目で流川の動きを追う諸星。彼にそれほどの余裕がある理由は三井が力を抜いていることが理由である。そしてそれに諸星は気が付いていた。
(まぁ過密スケジュールのトーナメントだからな。温存出来るところは温存するのがセオリー……)
スポーツマンシップに則っての全力プレー。正にスポーツの醍醐味である。しかしチームや選手個人の目標によっては先を見据えた戦略としてプレーの強度を緩めることもままあるものである。故に……。
(三井に全力を出させられない俺が悪い)
諸星は三井、あるいは湘北の戦略に理解を示し納得をした。そして己の未熟を認めた。
後半が半分を過ぎる頃には最早逆転は不可能と言える程に点差が広がっていた。それでも……。
「さぁ!まだ試合は終わってねぇぜ!どんどん俺にボールを回せぇ!」
諸星はチームを鼓舞し己をも鼓舞する。かつて絶体絶命のピンチの時に敦盛の舞を踊った愛知の英雄の如く。それが愛知の雄、愛和学院のあるべき姿。それが愛和学院魂。
「ほらどうしたぁ!足が止まってるぞ!こんなおいしい場面で交代する気かぁ!?」
「いつでも交代するぞぉ!」
「交代するか!まだまだ走れるわ!」
次を考えぬ全力プレー。追い詰められた者……否、挑戦者の特権。愛和学院はここに来て勢いに乗り始めた。
だがそれでも湘北は崩れない。1年前の湘北であれば崩れただろう。だが、今の湘北には愛和学院の捨て身の全力でも崩されない強さがあった。
『ブーッ!』
試合終了のブザーが鳴り響く。ここで愛和学院の夏は終わった。だが全てを出し切った愛和学院の選手達の顔には涙と共に笑顔があったのであった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。