side:三人称
ラン&ガンで戦う豊玉のオフェンスはとにかく速い。そのため実際よりも勢いがあるように見えるので観客も盛り上がりやすいのが特徴だ。だがその光景とは違い点差はあまり開いていなかった。その理由は……両チームのリバウンド成功数に明確な差があるからだ。
なんとこの試合まだ一度も豊玉はリバウンドを取ることが出来ていない。それでも試合をリードしているのは豊玉のオフェンスだけでなくディフェンスも非常に優れている証拠なのだが、豊玉の指揮官である北野とゴール下で桜木とリバウンドを競っている岸本は内心で冷や汗を流していた。
(なんやねんコイツ……わけわからん。速くて高いてどんだけやねん)
手の甲で汗を拭う岸本は内心でそうぼやく。
ポジション取りの一歩目の速さ、ボールを取りにいくジャンプの高さ、桜木のこれらは岸本が経験したことのない領域にあった。
(あかん、リバウンド取れる気せぇへん)
試合に勝つためにと割り切り開き直った岸本は即座にチームメイトにヘルプを求めた。とある世界線とは違いチーム内でしっかりとコミュニケーションを取れている豊玉。故に直ぐ岸本にヘルプが来たが……。
(……さっきからえぇヘルプするやんけ!)
そんな豊玉側の動きに湘北のCである角田が直ぐに反応。的確に桜木をフォローしていく。
(あかん!また取られてもうたわ!)
これでこの試合前半の半分だけで7回のリバウンド。そして7連続リバウンドを成功させている桜木。これに豊玉の監督である北野は試合をリードしていながらもタイムアウトをとった。
「どうだ実里?」
「あかんわ。リバウンドが取れへん。点は取れるんやけどなぁ」
「そんなことが言えるなら大丈夫だな」
北野は教え子達を見渡す。
「リバウンドは向こうが上。先ずはこれを認めよう」
「せやな」
「悔しいけどしかたあらへんわな」
チームで認識を共有する。北野の補佐をしている次期監督候補の金平はこの北野のチームをまとめる能力の高さに内心で唸る。
(信頼?いや、彼等との絆か?)
北野の指導の秘訣を学び取ろうとする金平を置いて話は進んで行く。
「さて、認めた上でだ。どうする?」
「北野さん、そんなの決まってるやん。気にせんとがんがんゴール奪ったったらええねん」
「せやせや」
「まったく……悪ガキ共が……」
ラン&ガンはチーム全体でボールを速く動かしフリーの選手を作りシュートを打つ。その作戦の性質上、5人全員が走り回るスタミナと中長距離でのシュート力を求められる。そう、豊玉の選手は全員が万能型の選手なのだ。
万能型であるが故に桜木の様な特化型に近い選手には得意分野で負けてしまうこともあるが、ならばそれ以外のところで点を奪い勝てばいい。そう割り切れる程に自分達のバスケに自信を持っている。そう割り切れる程に練習を重ねてここに立っているのだ。
「よし、そんじゃ攻めてこい」
「よっしゃ、俺に任せといてや」
「いやいや、そこは俺に任せぇや」
「俺を忘れてもらったら困るがな」
「誰やったっけ?」
「ここはボケる場面ちゃうやろ!」
タイムアウトを終えると豊玉は俄然攻めた。攻めて攻めて攻め続けた。ディフェンスも相手の点を防ぐのではなく自分達のオフェンス機会を増やすためにと積極的な姿勢で行っていく。
そんな豊玉が勢いだけでなく流れにも乗った。会場の雰囲気をも味方につけた。徐々に徐々に点差が広がっていき、前半終了時には18点差がついていた。
その点差がついたスコアボードを流川が静かに見つめていたのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。