side:三人称
「烈、頭は冷えたか?」
「ここは冷やしちゃあかん場面やろ?」
「よし、冷えたな」
ガシガシと南の頭を撫でまわした北野はそのまま顔を近づける。
「気付いてるな?」
「もちろんや」
「ならいい」
不敵な笑みを浮かべながら北野と南は拳を合わせる。
場面は変わって湘北ベンチ。まだ後半の三分の一といったところだが流川は大汗を流していた。そんな流川に三井が近付く。
「流川」
「ウス」
「次のゴールはイメージ出来てるか?」
三井の問いかけに流川は首を傾げる。
「追いつくのに目の前のワンゴールに集中。まぁ当然だよな」
「……ウス」
「そのワンゴールが、もしくはワンプレーが次のゴールにどう繋がるのか……そのイメージが出来る様になればお前のプレーのクォリティーは一つ上のレベルに上がるぜ」
三井の話を理解しきれないのか流川は首を傾げながらコートに戻って行く。更に三井は桜木を呼び止め一言何かを話した。
「三井君、ありがとうございます」
「いえ、あいつらの成長に必要なことですから」
「そうですね。ですが、そろそろ時間切れが近い」
安西と三井は揃って時計に目を向ける。
「どこまで我慢しますか?」
「後3分……ここがリミットでしょう」
「ですね」
スッと立ち上がった三井はゆっくりとアップを始める。
「あいつらは信じるに値するポテンシャルはありますけど、油断して負けるのはバカらしいですから」
「えぇ、そうですね。すみませんが念のためにお願いします」
試合が再開すると流川の勢いが止まった。
(……ちっ!)
「それはさっき見たで」
タイムアウト前まで怒涛の勢いで得点を重ねていた流川。そんな彼の勢いが何故止まったのか。それは南が流川のプレーの癖……具体的に言うならばパスを出さないことに気付いたからだ。
ドリブル、シュート、パス……バスケにおける主なプレーの選択はこの3つに分類されるだろう。そのうちの1つパスの選択が無くなれば必然的にドリブルとシュートの2択となる。そうなるとディフェンス側は非常に楽になるのだ。
あえて距離を離してシュートを誘う。あるいは距離を詰めてドリブルを誘う。そういった駆け引きを用いて相手のプレーを誘導する……それが流川が南に止められてしまっている理由であった。
「これで8点差」
「これで10点差や」
続けて南にゴールを決められて流川の心に焦りが生まれる。
それ故か、不十分な体勢で無理にシュートを撃った。当然というべきかそのシュートは外れる。だが……。
「フンガッ!」
桜木がオフェンスリバウンドを取りチャンスを繋ぐ。
着地と同時に桜木は目線をゴールに向け跳ぶ。湘北のインサイドプレイヤーのお家芸とでもいうべきベビーフックの構えだ。
そんな桜木を止めるべくマッチアップしている岸本がブロックに跳ぶ。だが……。
「っ!?」
桜木の右手にあったボールはゴールに向かわず、シュートを撃った後に直ぐゴール下に詰めて来ていた流川の手元へと落ちてきた。
驚き思考が止まった流川であったが反射的に踏み切りダンクを叩きこむ。
チラリと目を向けた桜木であったが何も言わずに自陣へと戻って行く。そんな桜木を流川は走って追いかける。
「おい、何で渡した」
ここ数試合、パスを出さない流川に反発するように桜木は流川にパスを出さなかった。だが先程はパスを出した。そのことを疑問に思った流川だから出た言葉だった。
「勝つためだ」
「っ!?」
必要だからパスをする。ただそれだけ。あまりに単純明快な理由。だからこそ流川の心に届いた。
「……借りは返す」
「あん?何か言ったか?」
「集中しろ、ドアホ」
「なんだぁテメェ!?」
そんなやり取りをする2人の姿を見て安西と三井は笑みを浮かべる。
「大丈夫そうですね」
「えぇ」
アップを止めベンチへと腰を下ろす三井。そんな彼に応える様に流川のプレーが変化を見せる。絶好の1on1の場面でもパスを出すようになったのだ。
このプレーの変化により勢いを取り戻した流川は再びゴールを重ねていく。そして試合残り5分といったところでついに追いついた。
湘北と豊玉の試合はいよいよ佳境を迎える。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。