三井寿は諦めの悪い男   作:ネコガミ

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第175話『持っている者』

side:三人称

 

 

「潮崎君、行きますよ。準備は出来てますね?」

「はい!」

 

 残り5分で安西が動いた。2年の潮崎と流川を交代したのだ。

 

「流川君、身体を冷やさないように。息を整えたら直ぐに行きますよ」

「……うす」

 

 潮崎哲士、湘北バスケ部所属の2年生。ポジションはSG……だった彼だが、現在はGにコンバートしている。理由は東の存在だ。

 

 東は三井の中学時代の後輩である。それ故に三井のプレースタイルに強い影響を受けており、それに伴い非常に優れた3Pシュート能力を持っている。

 

 更にそれだけでなくドリブルでの状況打開能力もある。もっともこれに関しては宮城や流川といったドリブラーがいるのであえて控えているのだが……それはともかく、同じSGとして東になにも優るモノがなかったのが正直なところだ。

 

 そんな潮崎が出場機会を求めた結果がGへのコンバートだった。

 

 慣れぬGの動きに中々練習でも手応えを感じられぬ日々。それでも彼は歯を食い縛って耐えた。耐え続けた。

 

 そして今、全国大会という大舞台で出場機会を得られるまでに成長している潮崎がいた。

 

「チェック!」

 

 ディフェンスのスペシャリストである倉石の様に基本に忠実に、決して相手に楽をさせない動きで守る。

 

「リバウンドォ!」

「おうっ!」

 

 桜木がリバウンドを手にすれば誰より早く敵陣へと走る。そしてインサイドの桜木と角田へと献身的なフォローをする。

 

 そして……。

 

「シオ!」

 

 隙あらば東とは逆サイドの外へと走りフリーに。そこで宮城からパスを受けた彼はキャッチ&シュートで3Pシュートを撃った。

 

(入れ……入ってくれ!)

 

(明日からしばらく入んなくてもいい!)

 

(だから……入っちまえ!)

 

 スパッと小気味良い音を立ててボールがネットを通過する。すると湘北ベンチが爆発したかのように歓声を上げた。

 

「いいぞ潮崎!」

「ナイスシュート!よく走った!」

 

 ベンチにいる湘北の3年達が次々と称賛の声を上げる。憧れの3年達からの称賛に潮崎は身を震わせる。

 

「湘北、タイムアウト!」

 

 これにて潮崎の出番は終わり。試合時間は1分も過ぎていない。

 

 だがこの一連のプレーとタイムアウトにより流川の回復の為の貴重な時間を稼ぎ出すことに成功した彼は、紛れもなく湘北に欠かせない戦力の一人なのであった。

 

 

 

 

side:三人称

 

 

 タイムアウト後、潮崎が決めた3点が大きな存在感を示していた。

 

「ったく、大きな土産を残していかれたもんやで」

 

 3点差を返すために連続で得点を返すか3Pシュートを入れ返さないといけない豊玉。だが試合終盤ともあって湘北は豊玉得意のラン&ガンに慣れており中々得点機会を作り出すことが出来ない。

 

 対する湘北も追い込まれた豊玉の集中力の前に後一歩抜きんでることが出来ない。

 

 両チーム共に我慢の時間を強いられていた。

 

「集中!ここ一本集中だぞ!」

「ここ!決めんで!気張りや!」

 

 正に正念場。両チームの司令塔たるそれぞれのPGが檄を飛ばす。

 

 残り1分30秒。試合が動いた。

 

 ここまで3Pシュートとチームメイトのフォローという木暮に近いスタイルでプレーを続けていた東。彼は宮城からボールを貰うとドリブルで仕掛ける。マッチアップ相手を置き去りにするとそのまま中を通り逆サイドの外へ。そしてフリーで3Pシュートを撃ち沈めるという三井を彷彿とさせるプレーを決めてみせたのだ。

 

「まだや!」

 

 沸き立つ会場の興奮を置き去りにするようにボールを要求した豊玉の南にボールが渡る。渾身のドライブで流川の横に並ぶとそのままゴールに迫る。そして流川を連れたまま同時に跳び上がるとファールをもらいながらレイアップを決めた。

 

 バスケットカウントによりフリースローを得た豊玉。南はチームメイトにアイコンタクトを取るが、チームメイト達は首を横に振る。

 

(……あかんか。ほんま厄介な赤毛やで)

 

 わざとフリースローを外しオフェンスリバウンドを取り、より多くの点を取る。これは豊玉のセットプレーの1つであった。だが桜木という強力なリバウンダーの存在がそのセットプレーを未然に防いだのだ。

 

 無難にフリースローを決めて3点を返したがまだ届かず。潮崎の置き土産である3Pシュートが重く重く圧し掛かる。

 

「取りにいくで!ファールしたかて時計止めて得なだけや!」

「足止めるなよ!走れ!」

 

 追う豊玉と追われる湘北。両チームの選手達に掛かるプレッシャーは並大抵のものではない。

 

 だがいるのだ。こういう極限の状況で最高のパフォーマンスを発揮する者が。

 

「リョーちん!」

 

 宮城から桜木にボールが渡る。

 

「ほっ!」

 

 ミドルでのキャッチ&シュート……ではなかった。シュートフェイクに掛かった岸本が跳んでしまう。その横をドリブルで抜いた桜木が力強く跳び上がる。

 

「あかん!」

 

 南が叫ぶ。だが止まらない。ブロックに跳んだ豊玉のCの上から桜木がダンクを叩きこむと主審の笛が鳴る。

 

「バスケットカウント!ワンスロー!」

「「「……よっしゃあ!!」」」

 

 コート上の……否、ベンチも含めた湘北メンバー全員が雄叫びを上げた。続いて会場から爆発したかの様に歓声が上がる。

 

 残り40秒で5点差。フリースローも決まれば6点差だ。流石の豊玉メンバー達の表情にも陰りが出る。

 

「顔を上げろ!」

 

 豊玉ベンチから北野の檄が飛ぶ。

 

「まだ終わってない!」

「……せや!まだ終わってへんで!」

「おう!試合はこっからや!」

「絶対追いつくで!」

「アホか!追いつくんやなくて逆転や!」

 

 互いに鼓舞し合い完全に立ち直った豊玉メンバー達。試合が再開される。

 

 常人ならば吐きかねない尋常ではないプレッシャーの中で1人フリースローラインに立つ桜木。ボールを上にではなく下に構えると会場からざわめきが起きる。

 

 そんなざわめきなど聞こえないかの様に優しくボールを放り投げるとボールは綺麗にネットを通過する。値千金のフリースローが決まった。

 

「行くで!」

「「「おう!」」」

 

 走る。豊玉の選手達が走る。これが俺達のラン&ガンだと言わんばかりに。

 

 だがスポーツとは時に残酷なもの。南が流川のマークを振り切りフリーで3Pシュートを決めたものの、その後に湘北が保持するボールを奪うことが出来ず試合終了の笛が鳴り響く。

 

 こうして湘北と豊玉の試合は湘北の勝利で終わりを告げた。また1つ、若者達の暑く熱い夏が終わったのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。
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