side:三人称
「フルコートプレスディフェンス、行くぞ」
タイムアウトを取った堂本監督が開口一番にそう宣言すると、河田雅史を除いたメンバーは驚いた。
「まぁ、妥当でしょうね」
「いや、でも河田さん、まだ前半の半分っすよ?」
「阿呆、その前半の半分で勝負が決まりかかっとるんだわ」
河田の言葉に反論しようとする沢北だが、二の句が告げずに口をパクパクとさせる。
「河田の言う通りだ。このままでは湘北のペースで押しきられる。だから無理矢理にでもこっちのペースにするしかない」
「ここでフルコートプレスディフェンスって手札を切ると延長に入ったら先ず間違いなく負けるでしょうが……まぁこのままじゃどのみち負けますからね。やるしかないでしょう」
堂本と河田の会話に山王メンバーは息を飲む。ジワリと沸き上がってくる敗北の重圧が背中にまとわりついていた。
そんなメンバーの背中を河田が1人、また1人と平手で張っていく。
「深津、安田の得意分野で勝負してもどうしようもあんめぇ。フィジカル勝負を押し付けていけ」
「わかったぴょん」
「野辺、ムキになって赤木とパワー勝負してどうすんだ。お前にはもっと引き出しがあんだろ?」
「あぁすまん。熱くなりすぎた」
「一ノ倉、食らいついたら離さないスッポンディフェンスがお前の持ち味だろうに。今のお前は鈍臭いだけのカメディフェンスだぞ」
「おう」
「沢北」
明らかに一番強く背中を張られた沢北は涙目になりながらも河田の言葉を待つ。
「正直に言えばお前が三井に勝つと期待しちゃいない」
どこかでそうだろうと感じていた沢北だが、こうもハッキリと言われるとくるものがある。それでも沢北は顔を上げ続けた。
「けどうちで三井とマッチアップ出来んのはお前だけだ。気張れ。諦めたら直ぐに代えるぞ」
「はい!」
場面は変わって湘北ベンチ。こちらは山王ベンチとは違い高揚と緊張が入り交じった良い雰囲気が漂っていた。
「安田君、開幕の奇襲はお見事でした。おかげでこちらのペースで試合を進められましたよ」
「はい!」
「ですが、ここで一度気持ちを切り替えましょう。王者と言われる山王、このままズルズルと行くほど甘い相手ではありません」
安西の言葉にしっかりと緊張感を持って湘北メンバーは頷く。そんな彼らの頼もしさに安西は微笑む。
「さてタイムアウトの後ですが山王は十中八九、フルコートプレスディフェンスを仕掛けてくるでしょう」
「早いですね」
「えぇ、ですがここで勝負を掛けなければ山王の勝ち目は消えます。少々早くはありますが想定通りです」
一度言葉を区切り出場メンバーを見渡す安西。皆が良い表情をしていた。
「今の君達なら、山王のフルコートプレスディフェンスにも十分に対応出来ます。自信を持って挑んできてください」
「「「はい!」」」
タイムアウトが終わりコートへと戻っていく教え子達を見送ると安西は山王ベンチへと目を向ける。
(お家芸と言えるほどにフルコートプレスディフェンスをチームに浸透させた手腕はお見事。ですが来るとわかっている戦術は怖さが半減します)
ネクタイを直しながら視線をコートへと戻した安西は微笑む。
「あの子達は強いですよ、堂本君」
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。