三井寿は諦めの悪い男   作:ネコガミ

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第179話『時代の変化と次代の決意』

side:三人称

 

 

 タイムアウトが終わり山王の攻撃から試合が再開。タイムアウトで立ち直ったのか山王メンバーは冷静に動き堅実に得点する。

 

 そして攻守切り替わり湘北のオフェンスとなると、伝家の宝刀であるフルコートプレスディフェンスを繰り出した。

 

 その光景に観客達は山王の逆襲を確信した者達が多かった。だがそんな観客達を裏切るように湘北メンバーが躍動する。

 

 湘北PGである安田がボールを持つ。すると深津と一ノ倉が素早くプレスを掛ける。

 

 ボールを奪われまいと背を向ける安田に張り付こうと深津が距離を詰める。するとその深津を出し抜くように安田はビハインドでワンバンのパスを出す。深津の股の下を通してだ。

 

 パスを受け取ったのは三井。沢北と河田が素早くプレスを掛けようとするが、2人が詰めきる前にシュートを撃った。

 

 まだハーフラインすら越えていない超ロングシュート。リバウンドへと走る野辺の努力を無にするようにスウィッシュで決まると、湘北ベンチが爆発したかのように歓声を上げて会場を盛り上げる。

 

 返す山王の攻撃は堅実に2点。まだ前半半ば。焦らず一歩一歩と深津がコート上で指揮を取る。

 

 そして二度湘北のオフェンスに対してフルコートプレスディフェンスを仕掛ける山王。安田はプレスを掛けてくる深津と一ノ倉に対して早々と背を向けようとする。顔を残し目線を足下へと落としながら。

 

 それに反応した深津が足を閉じようとすると、今度は自身の身体をブラインドとしてヒョイッと簡単に深津の頭の上を通してパスを出す安田。駆け引きだけで完全に深津を翻弄していた。

 

 またしてもパスを受けたのは三井。超ロングシュートを撃たせるかと全力で距離を詰める沢北と河田。そんな2人の間を三井がドリブルで切り裂く。

 

 すかさず河田が手を伸ばし三井のユニフォーム……その背中側をファウルを取られぬように審判の影になる位置で指に引っ掛けるが三井の姿勢は崩れない。湘北入学から今日まで鍛え続けた体幹が、この程度では崩れないボディバランスを三井に与えていた。

 

 河田の指を振り切り独走するかと思われた三井の前に沢北が立ちはだかる。河田のほんの一瞬のディレイが沢北を間に合わせた。2人の勝負の行く末はと会場が息を飲む。……が、三井はここでパスを選択。

 

 パスの出し先で待っていたのは木暮。湘北が誇るシューターの1人だ。フリーでボールを受け取った木暮は完璧なフォームで3Pシュートを撃ちそして決めた。

 

 ここで山王ベンチは前半2度目のタイムアウトを取る。そしてタイムアウトが終わると山王のフルコートプレスディフェンスは少しだけ形を変えていた。

 

 沢北を三井にマンツーマンで張り付け、残りの4人でフルコートプレスディフェンスをする形。これが功を奏したのかジワリと離れていた点差が止まる。だが止まっただけであった。

 

 点差を詰めようとする山王と更に広げようとする湘北。ガップリ四つに組みバチバチにやり合う試合展開が続き前半が終了した。

 

 ハーフタイムが終わり始まる後半。山王は前半から引き続きフルコートプレスディフェンスを繰り出した。

 

 堂本はフルコートプレスディフェンスでプレッシャーを掛け続け湘北が崩れるか、山王メンバーのスタミナが尽きるかの我慢比べを選択したのだ。

 

 それに対する安西は受けて立つと不動。両チーム共に消耗戦となる我慢の時間が続いた。

 

 そんな我慢の時間が終わりを告げたのは試合残り7分頃。沢北の運動量が落ちたのがキッカケだった。

 

 王者山王のエースとしての重圧、格上の三井とのマッチアップによる重圧、それらが沢北の背に重く圧し掛かり無慈悲に彼のスタミナを奪っていったのだ。

 

 まだ高校2年生である沢北。ここまで奮闘出来たのは彼がその才に胡座をかかず努力を続けてきたからだ。

 

 では彼と同じ2年の安田はどうか?安田はまだ余力を残していた。

 

 彼は力を抜くべきとこでは抜き、消耗戦を続けるコート上で強かに省エネをしていたのだ。

 

 マッチアップ相手に違いはあれど、これは両者の選手としてのタイプの違いが現れた結果だろう。

 

 運動量が落ちた沢北。だが山王ベンチは中々動けない。山王も今日2試合目でありベンチにフレッシュな選手が残っていないのだ。

 

 いや、1人だけいる。河田弟だ。まだ1年ではあるが彼の大きな背丈はそれだけで武器になる。だがそれ以外はまだこの試合で戦力となれる程の選手ではない。

 

 しかし他に選択肢はなく、堂本は沢北を回復させるために河田弟との交代を告げた。

 

 これにより前半半ばから続いた均衡が崩れジワリジワリと湘北と山王の点差が広がっていく。

 

 試合残り5分。まだ山王に逆転の目は僅かだが残っていた。

 

 ここで堂本は最後の勝負を掛ける。タイムアウトを取り多少ではあるが回復した沢北を投入したのだ。

 

 もう後が無い山王はガムシャラにゴールを狙う。ファウルをして時計を止める。そこに王者としての姿はなく、ただ勝利のみを求める選手としての本能のみがあった。

 

 1秒、また1秒と時間が過ぎていく。ガムシャラな山王のバスケは少しずつだがその点差を縮めつつあった。

 

 だが残り2分、粘る山王への痛恨となる一撃が出る。消耗した沢北の足が縺れた瞬間、その隙を逃さず三井が3Pシュートを撃って決めたのだ。

 

 この一撃により逆転は絶望的な点差となる。最早切れる手札が残っていなかった堂本に出来たことは、限界を迎えた沢北を故障せぬように河田弟と交代を指示することだけだった。

 

 そして……試合終了の笛が鳴った。王者陥落。この事実に会場は様々な感情に包まれる。

 

 そんな中で歓喜に沸く湘北の姿を目に焼き付けた山王メンバーは、涙を拭いながらコートを去っていく。

 

 きっと山王は強く生まれ変わるだろう。誰よりも悔し涙を流す沢北を中心として……。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。
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