side:三井寿
山王との準決勝に勝った翌日、今日は完全にオフの日だ。なので俺は美和と観光デートに行く。もちろん安西先生には外出の許可を取ってある。
「そんじゃ行ってくる」
「あぁ、楽しんでこいよ」
「みっちゃん、悪いけど美味そうな和菓子があったら買ってきてくれないかな。後で金出すからさ」
木暮と倉石に見送られ美和と並び街中へ。
「それにしても社会人バスケの試合とブッキングとはねぇ」
「まぁ、仕方ないんじゃないか」
安西先生から聞いたんだが本来のスケジュールなら今日が準決勝の予定だったらしい。けど美和の言った通りに社会人バスケの試合とブッキングした結果、昨日の準々決勝と準決勝のダブルヘッダーとなったわけだ。
美和と話しながら街中を適当にぶらついていく。特に目的の場所はなく、あくまでリフレッシュのためだからな。
昼時になった頃に適当に近くの喫茶店に入る。すると見慣れた赤頭が見えた。
「よっ、桜木。そっちもデートか?」
「おぉ、ミッチーじゃねぇか」
どうやら桜木も晴子とデートをしていたらしい。折角なので相席して喋る。
「なるほど、勉強は順調なんだな」
「次のテストでは満点を取ってみせる!なんせ先生は晴子さんだからな!ナァーッハッハッハッ!」
「それで、そっちはどこまで進んだのかなぁ?お従姉ちゃん知りたいなぁ~」
「えっと……美和お従姉ちゃん達程はまだかな」
「うんうん、健全なカップルでよろしい。あっ、私達が健全じゃないってわけじゃないわよ?」
そんな感じで世間話をしていたが話題はやがてバスケになる。なんというか、俺達らしいんだろうな。
「桜木、リバウンドのポジション争いだが、もっと腕を上手く使え」
「腕を?」
「あぁ、極論だが相手を跳ばせないだけなら腕だけでも出来る」
席を立つと通路で軽く桜木に実演してやる。
「どうだ?こうしてしっかり体重を乗せてやると跳べないだろ?」
「ほう、なるほど……ゴリには伝えなくていいのか?」
「赤木は不器用だからな。今技術の引き出しを増やそうとすると混乱しちまうだろう。なら今あるもんで戦わせた方がいい」
あいつは頭で覚えるタイプじゃなく身体で覚えるタイプだ。決して頭は悪くない。むしろ勉強は出来る方なんだがなぁ……。
「こら~、そんなところでやったら他のお客さんに迷惑でしょ~」
「ふふ、2人とも本当にバスケが好きだよね」
美和と晴子の2人に笑われた俺達は頭をかいて誤魔化すしかなかったのだった。
◆
side:三人称
「ありがとう彦一、楽になった」
とある旅館の一室にて後輩からマッサージを受けていた魚住はのそりとその大きな身体を起こす。
「大丈夫でっか魚住さん。なんならもう少しマッサージしまっせ?」
「いや大丈夫だ。他の奴にしてやってくれ」
そう魚住が言うと待ってましたとばかりに仙道が声をあげた。
「お~い彦一。こっちも頼む」
「はーい今行きます!それじゃ魚住さん、失礼します」
首を回し鳴らすと徐に立ち上がった魚住は部屋の備え付けの物を使いお茶を淹れる。
「魚住、俺にもくれるか」
「あぁ」
テーブルを挟み対面に座った池上に魚住は湯呑みを差し出す。
「サンキュ……ところで魚住、やっぱり辞めるのか?」
「あぁ、俺のバスケは明日で終わりだ」
今や高校バスケ日本一のCとなった魚住。そんな彼がバスケを辞めるのはもったいないと誰もが思っていた。池上もそんな1人である。
「……悔いはないのか?」
「あるに決まってるだろう。俺はバスケが好きなんだからな」
「なら……」
穏やかに微笑む魚住を見た池上は言葉を続けられなかった。
「挫折して諦めるんじゃない。自分なりに一区切りをつけて卒業するんだ。上出来な終わり方じゃないか?」
「……あぁ、そうだな」
スポーツの世界は残酷だ。ケガで思うようなプレーが出来なくなる。才能の差に打ちのめされる。そうして道半ばで諦める者のなんと多いことか。
そういった意味で言えば魚住の終わり方は彼の言う通りに上出来な終わり方だろう。悔いが残る残らないは別として……。
「よし、明日は勝とうぜ」
「なにを当たり前のことを言ってる?」
「ったく、もう少し愛想を良くしろよ。そのまま板前になったら客に怖がられるぞ」
「余計なお世話だ」
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。