side:三人称
「……化けたものだな」
そう呟く田岡の視線の先には安田の姿があった。
(運動能力は植草とそれほど差はない。だというのに完全に翻弄されている。あの駆け引きの上手さは何だというのだ)
植草だけでなく準決勝での山王戦でも深津が安田に翻弄されていた。駆け引きの上手さでいえば間違いなく安田は一流の領域にいるだろう。
(安西先生は彼の才能を見抜いていたのか?)
田岡の目には1年前の安田は宮城の控えと映っていた。当時の2人にはそれだけ運動能力に差があったのだ。
「……早いが仕方ないか」
田岡は越野を呼ぶ。だがそれと同時に田岡の視界に湘北ベンチが動く様子が入り込んだ。
(湘北も動くだと!?……いや、落ち着け。先ずはこちらの対処が先だ)
前半4分。湘北リードの状況で試合が止まると両チーム同時に選手交代が告げられた。
陵南は植草が外れ越野が入る。そして湘北は倉石と桜木が外れ木暮と流川が入った。
(木暮と三井の2枚シューター戦術……だというのにリバウンダーの桜木を外す?)
そんな疑問が浮かぶ田岡だが直ぐにコート上のメンバーにマーク相手の指示を出す。越野を安田に、福田を木暮に、そして池上を流川へとマークさせる。
そして植草の代わりに仙道がPGとなった陵南のオフェンス。見事決まり点差を縮めた次の瞬間……。
(三井がインサイドだと!?)
コート上の湘北の布陣を見た田岡は驚いた。
(何故だ?三井程のシューターを何故外ではなく中に入れる?……まさか!?)
気付き。まさかと思いつつも可能性を捨てきれない。そんな気付き。それが現実のものとなると……。
「シューター3枚だとぉ!?」
思わず声を上げながら田岡は立ち上がった。
安田が、流川が、そして木暮が3Pラインより外から果敢にロングシュートを撃つ。
(だがリバウンダーの桜木がいない今、インサイドは魚住が制す……!?)
そうリバウンダーである桜木がいない今、赤木と魚住のリバウンド勝負になるはずだった。だが三井が絶妙なポジショニングを行い、まるでお手本のような腕の使い方で魚住の動きを制限していた。
もちろん三井ではパワー差があり過ぎ魚住を抑えきれない。だが赤木がリバウンドのためのポジションを確保するには十分だった。そんな三井の動きをベンチの桜木が食い入るように見ている。
(仙道は……ダメか。流石に厳しい)
マーク相手をスイッチするように仙道が赤木に付くが、ゴール下の動きでは赤木に一日の長がある。
本来なら三井と魚住もそういった力関係なのだが、全てのポジションをこなせる三井のバスケセンスが光っていた。
それでも高校バスケナンバーワンCたる魚住を抑えきるには至らない。ここまでして漸く五分。赤木と魚住が身体を削り合うようにしながらリバウンドへと跳ぶ。
リバウンドを制したのは……赤木だった。
「赤木!」
「おう!」
オフェンスリバウンドを確保した赤木だがボールを押し込まず三井へと渡す。三井から外へとボールが戻される。そして放たれるロングシュートが今度は決まった。
「いいぞ木暮!ナイスだ!」
主軸どころではない。徹底して外で勝負。こんな戦術は田岡をして初めての経験だった。
(ここまでこの手札を温存し続けたのですか……安西先生!)
バッと勢いよく顔を湘北ベンチへと向ける田岡。すると安西と目が合い笑みを返された。
「……流石だ。相手に取って不足はなし!」
そう声に出し不敵に笑った田岡はタイムアウトを取るのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。