side:三人称
「どうやら陵南はこちらの戦術に驚いてくれたようですね」
微笑みながら話す安西の姿には全国大会決勝戦という舞台の緊張感が感じられない。そのおかげかタイムアウト中も湘北のメンバーはいい感じに力を抜けていた。
「おそらく陵南はマンツーマンディフェンスで対応してくるでしょう。しっかり走らねば、特にシューターの3人ですね。こちらの戦術が機能しなくなってしまうので注意してください」
「「「はい!」」」
「桜木君、三井君の動きは参考になりましたか?」
「おう」
「よろしい。では赤木君と一緒にゴール下をお願いしますよ。流川君、交代です。次の出場に備えて気持ちを切らさないようにしてください」
「うす」
場面は変わって陵南ベンチ。安西とは違い微笑みではなく好戦的な笑みを浮かべる田岡が口を開く。
「ディフェンスのフォーメーションを変更する。マンツーマンディフェンスだ」
「マンツーマンですか?」
「あぁ、そうだ」
仙道の疑問の声に田岡は言葉を続けていく。
「今まで湘北相手にはトライアングルツーで対応してきたが、シューター3人となるとそれでは対応出来ん。だからといってマンツーマン3人の残り2人でゾーンディフェンスの形はほとんどやったことがない。ならばマンツーマンディフェンスが最も湘北の戦術に対応出来る可能性が高いだろう」
陵南メンバーが納得の頷きを見せると田岡は次の指示を出す。
「池上、タイムアウト後は流川と交代してくる桜木のマークにつけ」
「流川が交代するんですか?」
「十中八九してくる。俺の読みが間違いなければな」
湘北の新戦術には面を食らったし良い形だった。それなのにメンバーを交代?と池上を始め幾人かが首を傾げる。
「優れたオールラウンダー故に時折忘れがちだが、湘北で最も秀でたシューターは三井だ。あいつを中で使い続けるよりも外で使う方がメリットが大きい」
「それに流川のオフェンス力を考えれば、ここで温存しておく意味はある。むしろベンチに温存しておく方がプレッシャーが掛かるだろう。想像してみろ。後半の勝負所で全開の流川と対峙する光景を」
田岡の言葉に想像の翼を羽ばたかせた幾人かが面倒だと言わんばかりにため息を吐く。
「まぁこんなところか。さて、リードされているが試合はまだまだこれからだ。存分に戦ってこい」
「「「はい!」」」
◆
side:三井寿
タイムアウト後、陵南は安西先生の読み通りにマンツーマンディフェンスで対応してきた。流川と桜木の交代には陵南ベンチからマークの指示が飛ばず対応してくる。どうやらこっちの交代は読まれていたようだな。
「三井さん!」
安田からのパスを受け取った俺はジャブステップで仙道に牽制を入れる。そしてバックステップからのディープスリー。スウィッシュで決まり点差を広げる。
返す陵南のオフェンス。仙道とマッチアップ。お返しとばかりに仙道がジャブステップを刻む。……っ!?
仙道のドライブ。抜け出されてはいないが、今までにない鋭さで完全に並ばれた。横並びのまま中に。そして同時に跳び上がる。……させるか!
「っ!?」
仙道のダブルクラッチを弾いてブロック。ルーズボールを拾った安田が速攻に走る。その背を抜かす様にして桜木が追従していた。
カウンターが決まり僅かな間。俺は仙道に声を掛ける。
「いいドライブだったが色気を出したな」
「あれ?バスケットカウント狙ってたのバレました?」
「あぁ、じゃなかったら決められてたかもな」
そう言うと仙道がニヤリと笑う。
「なるほど。感覚は掴みましたんで次は決めますよ」
「上等だ。やれるもんならやってみろ」
そう言い返したものの、俺はこの試合のどこかで仙道に決められると予感した。それだけ仙道が今大会中に成長しているんだ。
「努力する天才ほど手に負えないものはない……か」
「それ、三井さんが言います?」
どこか呆れたような仙道の反応に俺は首を傾げたのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。