三井寿は諦めの悪い男   作:ネコガミ

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第188話『背負うは重荷でなく想い』

side:三人称

 

 

「ウオォォーッ!」

 

 試合終了の音を耳にした三井が叫び声を上げる。

 

「三井!」

「三井!」

「みっちゃん!」

 

 仲間達が次々と彼の所に集まってきて抱き合う。

 

「なに泣いてんだよ赤木」

「たわけ、人のことを言えるか」

 

 彼は言われて気付いた。頬を流れる汗以外のものの感覚を。

 

 木暮が、倉石が泣いている。高校バスケの集大成。誓いの成就。様々な思い出と想いが込み上げて涙を押し出し続ける。

 

 ベンチで美和も涙を流す。マネージャーとしてチームを支え続けた彼女も紛れもない湘北バスケ部の一員なのだ。

 

「……負けたな」

「……あぁ」

 

 魚住と池上は涙を流していなかった。だが全て出し尽くしたと満足気に笑みを浮かべている。

 

「さぁ、整列だ」

 

 魚住と池上が涙を流し動けないチームメイト達に肩を貸す。そうして試合終了の挨拶が終わり少し経つと表彰式が始まった。

 

 優勝旗を三井が受け取ると続けて各賞の表彰が始まる。

 

 大会得点王は仙道が、そしてアシスト王は植草がなった。彼等は全試合に出場しているので得点やアシストの機会がそれだけ多かったことになるが、それでも2年生でインターハイ全国大会の得点王とアシスト王に成ったことは素晴らしい結果である。

 

 敢闘賞として福田と山王の河田が選ばれた。福田は文字通り動けなくなるまで奮闘し、河田は湘北との準決勝において劣勢のチームの中で唯一と言っていい程に渡り合ってみせたのが選出の理由だ。

 

 ベスト5が発表される。Cに魚住。名前が呼ばれた瞬間に表彰式に参加、または見ていた者達全てが納得と心の中で頷く。

 

 続いてPGのベスト5に選出された選手の名が呼ばれる。

 

「PG、湘北高校、安田……」

 

 呼ばれた瞬間、最も驚いていたのは安田本人だった。スタッツで見れば深津や植草の方が上……あるいは互角である。だがその2人を安田は駆け引き等の技術のみで翻弄してみせた。それが数字以上に大きい印象を与えたが故に選出されたのだ。

 

 バスケ人生で初めてのベスト5選出。優勝の喜びの時と同様に涙を流す安田の姿に会場の皆からより一層の拍手を送られる。

 

 SGで選出されたのは木暮だった。三井の名が呼ばれなかったことにざわめきが起こる。木暮本人も戸惑っているが、三井に背中を押され表彰を受けにいく。

 

 三井が選ばれなかった理由は彼のユーティリティの高さが原因だ。彼は大会を通して様々なポジションでプレーをした。それ故に選考委員も三井がどのポジションの選手なのかを決めきれなかったのだ。

 

 安田同様に木暮も堪えきれずに涙を流すと暖かな拍手が送られる。

 

 続けてFで選出されたのは仙道だった。湘北に後一歩まで迫り三井とのエース対決でバチバチにやり合ってみせた彼の選出は選考委員満場一致で決まった。

 

 そして最後にPFとして桜木が選出された。名を呼ばれた桜木だが呆然として声が出ない。

 

 それもそのはず。彼はバスケの公式戦に出たのは今年が初めてでありそして初めての優勝。しかもその初めての優勝が全国制覇なのだ。正に夢見心地で現実感が喪失気味になってしまっている。

 

 ドギマギとしながら表彰を受ける桜木が身体を震わせる。感動のあまりなにをどう表現していいのかわからなくなってしまっていた彼に拍手が降り注ぐ。

 

 そして最後にMVPの発表だ。MVPに選ばれたのは……。

 

「湘北高校、三井寿」

「はい!」

 

 ドリブル、パス、シュートといったオフェンスだけでなくディフェンスも高校バスケ界最高峰のレベルであり、更にあらゆるポジションでハイパフォーマンスを魅せる。こんな選手は他にいない。選考委員満場一致での選出だった。

 

 こうして高校バスケインターハイ全国大会が終わりを迎える。多くの人達に感動を残して……。

 

 

 

 

「すみません、監督。旅館に戻る前にトイレに行ってもいいですか?」

「あっ、俺も行ってきます」

「……あぁ、行ってこい。ゆっくりでいいぞ」

 

 魚住と池上が連れ立ってチームの皆から離れていく。

 

「……監督にはバレてるみたいだな」

「……だな」

 

 試合会場にある男子トイレの1つに入ると、2人は堰を切ったかのように涙を流す。

 

「……終わった」

「……くそっ!」

 

 決勝戦の敗戦直後に涙を流さなかった彼等だが、決して悔しくなかったわけではない。悔しくないわけがない。誰よりも彼等が悔しかったのだ。

 

 それでも彼等はあそこで涙を流さなかった。体力が尽きてベンチに下がらざるをえなかった仙道と福田に重荷を背負わせないために。

 

 そんな彼等の泣き声を男子トイレの外、壁に身を預け聞いている者がいた……仙道である。

 

「……受け取りましたよ、二人の想い。なので、勝手に背負います」

 

 そっとその場を離れる彼の目には、次なる戦いに向けた闘志が宿っていたのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。

……次回、最終回!
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