side:魚住純
決勝リーグの第1戦目は翔陽との試合になった。
試合当日、会場に入ると翔陽が強豪である事を実感する。
会場の2階にいるベンチ入り出来なかった翔陽バスケ部のメンバーの数が段違いだったんだ。
ただこれはある意味では仕方ない面がある。
というのも陵南の練習はとにかく厳しいんだ。
だから中途半端な気持ちで陵南バスケ部に入った奴等は次々と辞めていってしまう。
走って、走って、とにかく走りまくる。…思い出すだけでも吐きそうだ。
試合前のアップが終わるとミーティングを思い出す。
俺への指示はそう多くない。
シンプルに言えばゴール下で戦う。これだけだ。
不器用な俺には他に出来る事は無い。
…赤木が使っていたコンパクトなフォームのフックシュートを練習中だが、まだ試合の緊張感の中で安定して使えないからな。
そんなコンパクトなフォームのフックシュート…田岡監督が言うにはベビーフックなんだが、試合での使い途はある。
それは…ブラフで使うことだ。
ハイポストからのベビーフックを見せておいて、本命のローポストからアタックをする。
予選ではこれで安定してスコアを稼ぐことが出来た。
だが予選トーナメントの決勝戦でやった三浦台との試合では、相手チームのダーティなプレーに熱くなり過ぎてファールトラブルを起こしてしまった。
これについては田岡監督に大いに叱られてしまったが、俺なりに収穫もあったんだ。
それは…ファールの判定の線引きだ。
俺は不器用な男だ。どれだけ気をつけていてもファールをしてしまう。
だがしっかりとファールになるプレーの線引きが出来れば、なんとかやれないこともない。
その事は決勝リーグが始まるまでの練習で確認する事が出来た。
赤木…見ているか?
俺はまだお前に届かんだろう。
だが、最低限チームの勝利に貢献出来る選手にはなったつもりだ。
その事をこの翔陽との試合で証明してみせる。
◆
side:藤真健司
海南と湘北の試合を見て以来、今一つ集中しきれていない自分がいる。
理由はわかっている。
ライバルだと思っていた牧の目には俺が映っていない事がわかってしまったからだ。
そんな集中しきれていない中で陵南との試合が始まってしまった。
スタメンで試合に出てPGを任された俺だが、試合序盤からイージーミスを連発してしまった。
前半10分が過ぎようとしたところで俺はベンチに下げられてしまう。
それも当然だろう。
あんな出来では強豪の翔陽じゃなくても交代させられて当たり前だ。
試合が進んで前半が終わった時には陵南にリードされていた。
全て俺のせいだ。
あまりの不甲斐なさに拳を握り締めながら俯いていていたが、ふと顔を上げると会場にいた牧と目が合う。
その瞬間、腹の奥底から闘志が沸き上がってくる。
闘志に突き動かされる様に三淵監督の所に向かう。
「監督。」
「ふむ、どうやらもう大丈夫そうじゃな。」
皺が深く刻まれた顔をくしゃくしゃにして監督が微笑む。
「はい!」
「うむ、それじゃ後半頼んだぞ。」
「はい!」
後半が始まると俺は鬱憤を晴らす様にコートを駆け回った。
試合終了間際に陵南に追いついたがあと一歩が届かず、ギリギリで勝利をものにする事が出来なかった。
試合終了の挨拶が終わると俺は先輩達に頭を下げる。
「すみませんでした!」
「気にするな。お前の目が覚めたんなら、まだ挽回出来る。そうだろ、みんな?」
「「「おう!」」」
キャプテンの言葉に皆が応える。
こんなに頼もしい仲間達がいたのに、俺はなにを一人で不貞腐れていたんだ…!
「うむ、今日は負けてしまったが収穫のある負けじゃ。しっかりと次に繋げる様にの。」
牧…今の俺には確かにお前や三井と渡り合える実力は無い。それは認める。
だが翔陽は決して海南にも負けていない。
その事をお前との試合で証明してみせるぜ。
◆三淵元康(みぶち もとやす):拙作オリジナルキャラ。翔陽の監督。
過去に翔陽を4年連続インターハイに出場させた名将。
かなり高齢の人物で既に監督退任を願い出ているが、三淵の実績による生徒の誘致や経営陣による後任者の選抜争いといった諸々の理由で慰留されている状況である。
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