三井寿は諦めの悪い男   作:ネコガミ

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本日投稿3話目です。


第20話『期待通りにはさせない』

side:三井寿

 

 

くそっ、海南との試合に負けちまった。

 

今回の負けは牧との勝負に熱くなり過ぎて、ペース配分を考えなかった俺の責任だ。

 

次はミスしねぇ。

 

そう思った海南との試合の翌日、赤木があの負けは自分の責任だって言い出した。海南の兼田とのリバウンド争いでもっと勝てていればってな。

 

たしかにリバウンド次第でシュートチャンスは増えたり減ったりするが、赤木は最初から最後まで自分に出来る全力を尽くした。

 

だから責任を負う必要はない。

 

そう言おうとしたら試合に出たメンバー全員が自分の責任だと言い始めた。

 

悪いと思ったんだがなんか可笑しくて笑っちまった。

 

皆が本気で負けを悔しがっている。皆が本気で勝とうとしている。

 

当たり前の様だが難しいことなんだ。本気になるのは。

 

みんな熱いじゃねぇか…俺も燃えてきたぜ!

 

見せてやろうじゃねぇか。弱小って呼ばれてた俺達湘北が全国に行って暴れる姿をな!

 

 

 

 

side:赤木美和

 

 

決勝リーグ2試合目は陵南とだったんだけど、私達湘北が終始優勢に試合を進めていったわ。

 

格上の海南と善戦をした事が皆の自信になったのもあるけど、それ以上にあの負けで皆が本当の意味でバスケに本気になった事が大きいと思う。

 

安西先生が指導する様になって練習の雰囲気は変わってたけど、今では強豪校かと思う程にチームに熱気があるわ。

 

さて、陵南との試合はうちが勝って1勝1敗の戦績。他は海南が2勝0敗、陵南が1勝1敗、翔陽が0勝2敗になってるわ。

 

次の翔陽戦に勝って陵南が海南に負ければ私達が全国に行けるけど、私達が負けちゃったらどうなるかわからないのよねぇ。

 

だから翔陽との試合には絶対に勝たなきゃいけないわ。

 

それにしても、弱小って呼ばれてた湘北でいきなり全国に行けるチャンスが来たのはなんというか…凄いわね。

 

正直に言ってもっと時間が掛かると思ってたわ。いくら三井君が凄くても1人じゃ勝てないしね。

 

翔陽か…。

 

過去に4年連続でインターハイに出場した事もある強豪校だけあって、選手層の厚みが凄いのよねぇ。

 

なんせPGの藤真君以外、ベンチメンバー含めて全員が180cm以上の選手なんだもん。

 

そりゃそんだけ恵体な選手を集めれば強いわよ…って言いたくなっちゃうよねぇ。

 

でも、それだけで勝てるほど今の湘北は弱くないわ。

 

さぁ覚悟しなさい翔陽。うちを弱小だなんて甘く見てたら痛い目にあうからね。

 

 

 

 

side:赤木剛憲

 

 

今日の翔陽との試合に勝てば全国に行ける。

 

そう考えたら身体が震えた。

 

両手で顔を張る。何度も張る。

 

それでも身体の震えは止まらない。

 

(落ち着け、赤木剛憲…ここで力を発揮出来なければ、なんのために練習をしてきたんだ!)

 

バチッ!バチッ!と音を立てて顔を張るが震えが止まらない。

 

「赤木君。」

「っ!?は、はい!」

 

不意に安西先生に声を掛けられた俺は、驚きながらも返事をしながら安西先生に向き直る。

 

「会場に目を向けてごらん。」

「会場に?」

「えぇ、多くの人が今日の試合を見に来ているのがわかるでしょう?」

 

安西先生に促されて目を向けると、確かに多くの人がいた。

 

「今日の試合を見に来ている人の多くは翔陽の勝利を期待していることでしょう。なにせ翔陽は強豪校です。多くのバスケ部OBが応援に来ても不思議ではありません。」

 

確かに湘北を応援に来ている人は少ない。比率で言えば1:9といったところか。

 

ふと思った。俺達が勝ったらあの人達はどう思うかと。

 

すると俺の中に子供の様な悪戯心が芽生えた。

 

「…安西先生、残念ながらあの人達の期待通りにはなりません。」

「ほっほっほっ、えぇ、その通りです。」

 

安西先生が踵を返す。

 

「海南が順当に全国行きを決めてしまいましたからね。大会を盛り上げるために、私達で波乱を起こしてあげましょう。」

「はい!」

 

気が付けば震えは止まっていた。そして震えが止まった反動かの如く俺の全身を昂揚感が包みこんでいる。

 

安西先生が歩き出すと俺も後に続こうとするが、一歩踏み出したところで立ち止まって振り返る。

 

「…残念ながら、貴方達の期待通りにはならない。」

 

そう言葉を溢して笑みを浮かべると、俺は胸を張って安西先生の後に続いたのだった。




これ本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。

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