side:高頭力
「動いたか。」
前半残り5分30秒のところで安西先生がタイムアウトを取った。
おそらくここから安西先生は点取り合戦を挑むだろう。
シューターの木暮を投入し、スタミナを温存させていた三井に全力を出させる。
対する翔陽…三淵監督は時間を一杯に使ってじっくりと丁寧に攻めさせる指示を出すだろう。
あの人の好みは徹底した基礎と基本で受けて立つバスケだ。逆に俺や安西先生の様に勝負所で積極的に動くのを好まんからな。
三淵監督が好む受けて立つバスケは、相手のミスを咎めるバスケと言い替えることも出来る。
スポーツにはミスが付き物だ。だからこそ昨今では確率が重視される傾向が強くなって来ている。もっとも日本ではまだまだ軽視されがちだがな。
それはともかく、翔陽のバスケは相手のミスを咎め、味方のミスをフォローするので非常に安定感がある。だが、その反面として弱点もあるのだ。
それは…能動的に試合の流れを作るのが難しいということだ。
例えばうちなら牧や兼田、湘北なら三井といった具合にエースと呼べる選手のワンプレーで試合の流れを変えることが出来る。
これはミスを怖れずにアグレッシブにプレーするからこそ出来るのだ。
対してミスをしないように慎重にプレーをしていると、ワンプレーで試合の流れを変えることは非常に難しい。
だからこそ試合のどこかでミスを許容し、選手にアグレッシブにプレーをさせる必要があるんだ。
このミスを許容するタイミングや余裕を見極めるのが、監督として最も大事なことの1つだというのが俺の持論だ。
出来る事を当たり前にこなすのも確かに大事だ。だがチャレンジによる成功体験無くして選手の大成は望めない。
チームの勝利を取るか、選手の育成を取るか、監督という指導者の永遠の課題だ。
この課題には監督を続けている内はずっと悩み続けるだろう。…だからこそ面白いんだがな。
さて、点差は14点差で翔陽がリード。翔陽は延長戦を見据えて試合を進められるのに対し、湘北は三井をつかえる内に勝負を決めなきゃならん。
湘北は必然的に時間に追われる厳しい戦いを強いられるだろう。
そして時間に追われミスが目立つ様になればそこで試合が決まってしまう。
この両チームの立場の差は強豪と呼ばれている翔陽と、昨年まで弱小と呼ばれていた湘北との地力の差でもある。
タイムアウトが終わり両チームがコートに出て来た。
予想通りに湘北は木暮を投入してきたか。代わりに倉石を下げている。やはり安西先生は点取り合戦を挑むつもりだ。
この試合の鍵を握るのは三井だけではない。赤木も鍵を握る1人だ。
翔陽に全力の三井を止められる選手はいないが、三井とて100%シュートを決められるわけじゃない。
故にそのフォローを…リバウンド争いを赤木がどこまで制する事が出来るのかが問題だ。
まだ1年の赤木にチームを背負わせる…果たして俺が安西先生と同じ立場だったら決断出来たか?
下手をしたら赤木を潰しかねない。そう簡単には決断出来なかっただろう。
いや、三井という絶対的な選手がいるからこその博打か。
そう考えた俺は扇子で扇ぎながら小さく息を吐く。
「おい、ちゃんとビデオを撮ってるか?」
「はい。」
複数のビデオカメラを用いてそれぞれ別の湘北選手を追わせている。
湘北の中心選手である三井と赤木はまだ1年。更に木暮と倉石もまだ1年なんだ。彼等の伸び代を考えれば可能な限り情報を集めて対策をせんといかん。
「うちと翔陽の二強時代は終わり三強の時代が来るか。いや、陵南も来る可能性もある。となると四強が争う戦国時代に突入というわけだ。」
パタパタと扇子で扇ぎながら口角をつり上げる。
「望むところだ。いつまでも山王を全国王者にさせているのもつまらんからな。競い高め合ってこそ全国制覇が見えてくる。ふふ…面白くなってきたじゃないか。」
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。