「あれ?もしかして武石中の三井君?」
湘北に入学してバスケ部の入部届けを出そうと職員室に向かっている途中、不意にそう声を掛けられた。
「ん?そうだが…?」
「俺、北村中の木暮公延(こぐれ きみのぶ)って言うんだ。三井君もバスケ部の入部届けを出しに?」
「あぁ、俺もバスケ部の入部届けを出しにきたんだ。それと、俺の事は三井でいいぜ木暮。」
「そうか、三年間よろしく、三井。」
木暮と握手をすると、木暮と一緒にいたでかい男に目を向ける。
「木暮と同じ北村中の赤木剛憲(あかぎ たけのり)だ。」
「おう、よろしくな、赤木。」
赤木とも握手をすると俺は職員室に足を運ぶ。
「失礼します!」
しっかりとノックと挨拶をして入室する。
「一年○組の三井寿です!バスケ部の入部届けを提出しに来ました!」
そう宣言する様に声を上げて一拍を置くと、安西先生の所に向けて足を進める。
そして安西先生の前に辿り着くと、入部届けを差し出しながら頭を下げる。
「一年○組の三井寿です。安西先生、どうぞ御指導御鞭撻の程、よろしくお願いします。」
「はい、確かに入部届けを受け取りました。三井君、こちらこそよろしくお願いしますよ。」
その言葉に感動した俺は再度大きく頭を下げてから職員室を後にする。
そんな俺を見ていた木暮と赤木は、何故かポカンと口を開けていた。
◆
side:木暮公延
「武石中出身の三井寿です!ポジションはどこでもやれます!目標は…全国制覇!」
入部初日の新入部員の挨拶で三井が全国制覇を目標に掲げた。
その事が嬉しくて思わず笑みを浮かべてしまう。
中学時代、バスケ部に入部した俺だけど、初心者だった俺にとって走りっぱなしのバスケの練習は本当にきつかった。
退部しようと思った事だってある。
でも本気でバスケに打ち込む赤木の姿に感化されて、俺もいつしか本気でバスケに打ち込む様になった。
けど、俺の様に赤木に感化された奴ばかりじゃなかった。
本気でバスケに打ち込む赤木についていけないと言って、バスケ部を退部していった奴も少なくない。
それでも俺は赤木と一緒に本気でバスケに打ち込んでいった。それこそ中学最後の大会で志半ばで敗れると涙を流すぐらいに。
だから三井が全国制覇が目標と公言した事が嬉しかった。
チラッと赤木を見ると、赤木も俺と同じ様に笑みを浮かべている。
赤木の挨拶の番が来た。
うん、やっぱりお前も全国制覇を目標に掲げるんだな。
なら俺も掲げるしかないじゃないか。
二人と比べたら力不足かもしれないけど、俺もバスケが本気で好きなんだ。
だから…一緒に全国制覇を目指してもいいよな?
◆
side:赤木剛憲
(まさか木暮まで全国制覇を目標に掲げるとはな。)
新入部員歓迎の1年生のみで行われる紅白戦を前に、しっかりとアップをしながらそう考える。
あいつも変わった。
北村中で初めて会った時はランメニューの度に床に寝転ぶ程に体力が無かったが、いつしか俺の本気に唯一応えてくれる男になった。
こっぱずかしくて口にはせんが、あいつには本当に感謝をしている。
「よし、五分後に始めるぞ~。Bチームがビブスな。」
先輩からビブスを受け取りながらAチームになった三井に目を向けると、木暮を始めとしたチームメイトと何か話をしていた。
「三井か…。」
昨年の神奈川県大会でMVPを取った男…その男がどんなプレーをするのか楽しみだ。
「だが、紅白戦とはいえ負けるつもりはない。」
そう口にした俺だが、紅白戦が始まると三井率いるAチームに…いや、三井一人に俺達Bチームは圧倒された。
抜群のキレのクロスオーバーとボールを持った状態で左右に切り返すステップ…週刊バスケットボールに近しいものが載っていたが…たしかユーロステップだったか?それらを駆使する三井を誰も止められない。
三井に対抗すべく内を固めればあっさりと3Pシュートを決めてくる。
ダブルチームで三井を抑えようとすれば、今度は軽快にパスを回してAチームにリズムを作り出して攻めてくる。
他にも俺がフリースローが入らないと見るや、Aチームのセンターにファウルすれすれのプレーで止める様に指示を出す。
おかげでやりにくくて仕方がない。
終いにはリバウンド争いだ。
俺の方が身長が高くパワーもある。だが三井はポジショニングの上手さと駆け引きの巧みさで俺を抑え込んでくる。
くっ、またリバウンドを取れなかった。
悔しさはもちろんあるが、それ以上に間近で見る三井の動きは勉強になった。
三井の動き一つ一つが俺のスキルアップに繋がる。
勝負の最中だというのに楽しくて仕方がない。
だが、そんな時間が突然終わりを迎えた。
ユーロステップをやろうとして一歩目を踏み込んだ三井が、左膝を両手で押さえてコートに倒れたのだ。
「三井!大丈夫か!」
キャプテンの石渡さんが声を上げる。
「三井君を病院に連れて行きます。土橋君、車を近くまで廻してくるので三井君の介助をお願いします。石渡君、後は頼みましたよ。」
「「はい!」」
安西先生に続いて副キャプテンの土橋さんが三井に肩を貸して体育館を出ていく光景を、俺はただ呆然と見送ることしか出来なかったのだった。
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