side:安西光義
「谷沢…お前を超える逸材が現れたぞ。」
谷沢の墓前にて三井君の事を話していく。
入部初日に大怪我をしても折れなかったこと、チームを引っ張っていく中心的存在になっていること、そして1年生にしてインターハイ予選でMVPを始めとした幾つものタイトルを取ったこと。
「正直に言ってまだお前のことを吹っ切れたわけじゃないが…私もそろそろ前に進もうと思う。見ていてくれ、谷沢。」
しばし黙祷を捧げてから目を開ける。
「じゃあ、行こうか。」
「はい。」
私に合わせて谷沢に黙祷を捧げてくれた家内に声を掛けて歩き出す。
「貴方、少しいいですか?」
「なんだ?」
「この前の健康診断の結果のことです。」
…あぁ、そういえば医者に色々と言われたな。
「端的に言えば痩せろ…ということだったな?」
「えぇ、食事は私に任せていただいて構いませんが、運動に関しては貴方自身が努力をしなければいけません。」
「あぁ、わかっている。」
私の言葉を聞いて家内がクスクスと上品に笑う。
「では帰りに色々と買い物に行かなくてはいけませんね。大学で監督をしていた時の物はもう着れませんし。」
「…すまないな。」
「いいえ、最近の貴方はとても楽しそうで、私は嬉しいですよ。」
◆
side:三井寿
夏休みに入ってからの練習初日、驚いたことに安西先生がスポーツウェアやバッシュを身に付けて体育館に来られた。
「ほっほっほっ、少しは私も身体を動かそうかと思いまして。」
確かに安西先生はふくよか過ぎるところがあるから、少し身体を動かして痩せた方がいいかもしれない。
…安西先生に対して大変失礼なことを考えてしまったが、これは歓迎すべきことだな。
俺達のアップとは別に安西先生も身体を動かしていく。
長らく身体を動かしておられなかったのか、安西先生は少し身体を動かされただけで息が上がっていた。
…もし俺が漫画の俺と同じく不良になっていたら、安西先生と似たように直ぐ息が上がっていたんだろうな。
そう考えると夏だというのに寒気がする。
…やめだやめだ。今は練習に集中だ。
練習が進んでいきシュート練習になった時、安西先生が手本としてシュートを撃った。
上手い。素直にそう思った。
確かに運動不足で直ぐに息が上がってしまうみたいだが、シュート技術に関してはしっかりとした基本が出来ている。
流石は安西先生だ。
それから通常の練習が終わって挨拶の時に、安西先生が不意に今年の合宿の事について話し出した。
「今年の合宿なのですが、場所は海南大付属高校で行います。」
「海南ですか?」
キャプテンの長瀬さんが問い掛けると安西先生が頷く。
「えぇ、高頭監督から声を掛けられたので快諾しました。陵南高校も来るそうですよ。つまり湘北、海南、陵南の三校での合同合宿ですね。」
赤木の相手として兼田さんや魚住がいるのは正直に言ってありがてぇ。
俺も牧が相手なら色々と試せそうだしな。
「安西先生、翔陽は参加しないんですか?」
「翔陽は三淵監督の伝手で、他県の全国出場校と合同合宿をするそうです。ウインターカップで戦う時には一層手強くなっているでしょうね。」
『ほっほっほっ』と笑った安西先生が言葉を続ける。
「一つ一つ成長していきましょう。そして海南や翔陽といった強豪を倒し全国へ。」
「「「はい!」」」
「もちろん全国に出場することだけが目標ではありません。全国でも勝ち続けて頂へ…弱小と呼ばれていた湘北が全国を制したら、さぞや面白いことになるでしょうね。」
その安西先生の言葉を聞いた俺達に武者震いが走る。
あぁ…早く練習の続きがしてぇぜ。
「では私は一足先に上がらせてもらいますよ。居残り練習では怪我に十分に注意してください。」
「「「はい!」」」
こうして俺達の夏は一層熱いものになった。
弱小と呼ばれていた俺達が強豪校を倒す下克上…ジャイアントキリングを成す。
想像しただけで楽しくなってきやがったぜ。
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