side:高頭力
「ふむ、やはり三井はいいな。」
合宿での紅白戦を見ながら一人呟く。
インターハイの全国大会が控えているものの、その後の国体で神奈川選抜の監督をやる事を考えれば、今から選抜メンバーの事も考えなければいかん。
「兼田に牧、それと三井といったところか。後は…赤木と木暮辺りか。」
…今の木暮の実力を考えると全国レベルが相手では3Pシュート以外は厳しいだろう。
ここは無難に兼田の控えとして赤木を選ぶか。
それにしても…。
「ここまで噛み合うか、牧と三井は。」
牧がドリブルで敵陣を切り崩せば三井がフリーになる。そしてフリーになった味方を見逃す様な牧ではない。
牧からパスを受け取った三井が見惚れる様な美しいフォームで3Pシュートを撃つ。そして三井を警戒してディフェンスが広がれば、インサイドと3Pラインの間にポッカリとスペースが出来ると、そこに牧が切り込む…グッドリズム。
まるで現代バスケのあるべき形とも言うべきものが、俺の眼前で繰り広げられていた。
「やれやれ、欲しくなってきたな。3Pシューターが。」
三井程と贅沢は言わん、だが木暮クラスの3Pシューターが欲しい。それが今の俺の偽らざる気持ちだ。
そういえば1年の宮益がロングシュートの練習をしていたな。
如何に成長の早い若者でも、その努力が実を結ぶのに少なくとも1年は掛かるだろう。
うむ、一つ楽しみが出来たな。
俺は扇子で自身を扇ぎながら、切磋琢磨をする若者達を見て目を細める。
「…見えてきたかもしれんな。絶対王者山王の背中が。」
◆
side:安西光義
やはり三井君に最適なポジションはSGか。牧君との連携を見ているとそう強く実感する。
三井君のプレーを見た去年、彼には素晴らしいクラッチシューターとしての才能があると感じた。
まさか弱小と呼ばれていた湘北に来るとは思わなかったが…。
それはそれとして、今の湘北のチーム事情では彼をSGとして起用するのは難しい。
長瀬君のこの夏の成長次第ではあるいはといったところか。
私は湘北の教え子達を見て目を細める。
三井君を中心として日々成長を続けているあの子達は幾ら見ていても飽きない。
「やはりバスケはいい…。」
谷沢の一件があったとはいえ、なんともったいない時間を過ごしてしまったことか。
だが後悔をしていても始まらない。
私に出来る限りの力で、この子達の成長を手助けしていこう。
◆
side:倉石博也
合宿の始めにお世話になるからと、俺は親父が作った和菓子を高頭監督と田岡監督に差し入れした。
反応はかなり好評だったから顧客が増えるかもな。
それはそれとして、俺が今抱えている課題はシュート能力の向上だ。
この課題を克服出来ないとスタメンは難しい。
ということで合宿の自主練の時間にみっちゃんに教えてもらいにいこうとしたんだが、牧を始めとして多くの奴等がみっちゃんの所にいた。
流石は強豪校。向上心も人一倍ってことか。
そんな多くの奴等に加わりたそうにしている奴を見付けた。
武石中時代の仲間で海南に進学した梶木(かじき)だ。
「よっカジ、何してんだ?」
「なんだクラか。」
「なんだはないだろ。それで、どうしたんだよ?」
「俺もみっちゃんに教えてもらおうかと思ってたんだけどよ…。」
「…もしかして、上手くいってないのか?」
「あぁ、強豪校のレベルの高さをまざまざと見せ付けられて、心が折れかけてるよ。正直、今日まで何回も退部しようと思った。でもよ…。」
梶木は顔を上げてみっちゃんに目を向ける。
「やめらんねぇだろ。あんなに頑張ってるみっちゃんの姿を見たらさ。」
「そうか。」
武石中時代、俺達は何度も挫けかけたけど、その度にみっちゃんが皆を引っ張ってくれたんだ。
今もそうだ。こうして挫けかけた梶木を立ち直らせている。
俺は梶木の肩を叩いた。
「じゃあ行こうぜ。みっちゃんのところにさ。」
「…迷惑じゃないか?牧とやってる方がみっちゃんもレベルアップ出来そうだし…。」
「カジは相変わらず変なところで遠慮するな。こういう時は厚かましいぐらいでちょうどいいんだよ。」
「…クラ、お前の性格が羨ましいよ。」
梶木と肩を組んでみっちゃんのところに行くと、みっちゃんは笑顔で迎えてくれた。
ほら見ろ、遠慮する必要なんかなかっただろ?
上手くなりたきゃ遠慮してる暇なんてないんだからな。
次の投稿は11:00の予定です。