side:高頭力
「よく勝ってくれた。」
大阪選抜との準決勝に勝利した後、大阪選抜チームを率いていた北野監督が私の所にやって来て頭を下げてきた。
「もしうちが勝っていたらあの子達の心にしこりが残っただろう。そのしこりは心を蝕み、やがてスポーツマンとしてだけでなく、人としてもダメになっていったやもしれん。」
決勝で秋田選抜に勝つことのみを考えたならば準決勝では三井を温存するべきだった。だが万が一大阪選抜チームに負けると、大阪選抜チームの選手達は悔いの残る勝利を得てしまう。
この悔いの残る勝利というのは曲者で、その勝利を得た者を色々と歪めてしまう危険性を孕んでいる。
だからこそ私は一指導者として大阪選抜チームの選手達のためにも絶対に勝たねばならないと思い、ここぞの場面で三井を投入したのだ。
勝利を求められる監督としては失格かもしれんが、若者を導く指導者としてはなんら悔いの無い選択だったと確信している。
だからこそ北野監督に頭を下げられる理由はない。
「北野監督、どうか頭を上げてください。私は私の信念の元に采配しただけです。」
「それでも一言礼を言わせてくれ……ありがとう。」
はぁ……せめてこの礼は受け取らねばならんな。そうしなければ北野監督も立つ瀬が無いだろう。
「わかりました。その一言は受け取っておきましょう。それで今回の一件は終わりという事で……彼も既に気にしていないようですから。」
そう言って振り向くと、謝罪に来ていた南をからかって楽しんでいる藤真の姿があった。
「……強い子だな。」
「えぇ、将来が楽しみな選手の一人です。」
◆
side:北野
「えぇ、将来が楽しみな選手の一人です。」
将来が楽しみな選手の一人か……。
俺は神奈川選抜チームの子達に目を向ける。
選抜チームの正PGの牧は行く行くはオリンピック代表も狙える逸材だ。
そして控えのCの赤木に正SGの三井……この子達は安西の教え子だ。
ラン&ガン一辺倒の俺は近年では中々結果を出せず、そろそろ首を切られるだろうと覚悟していたが、監督の座にしがみついてでも安西と戦いたいと思ってきてしまったな。
……ラン&ガンは俺が一番好きな戦術だ。攻撃的なバスケが一番楽しいバスケなんだ。豊玉に来る子達はそんな俺のバスケを慕ってくれている。南もその一人だ。
一度のミスは二度の成功で取り返せばいい。失敗は怖れるべきものではない。失敗は次に来る成功への助走に過ぎない。だからこそ俺はラン&ガンが好きなんだ。
俺は高頭君にもう一度頭を下げるといじられている烈の所に向かう。
「烈、そろそろ行くぞ。」
「あっ、おっちゃん、ちょっと待ってぇや。色々と聞きたいことがあんねんけど、いじられてばっかでまだ聞けてないんや。」
俺は烈の頭に叩く様にして手を置くと、烈の髪をワシャワシャとかき回しながら話す。
「アホ、神奈川選抜さんはまだ決勝が残ってるんだ。余計な体力をつかわせるんじゃない。」
「……せやな。俺達に勝ったのに負けられたら、なんややるせない気持ちになりそうやわ。」
烈は手櫛で髪を直しながら藤真君に挨拶をする。
「ほんじゃそろそろ行くわ。決勝は見学してくから負けるんやないで。」
「烈の言葉じゃないが、勉強させてもらうよ。」
チームの皆の所に戻りながら烈に声を掛ける。
「次は勝つぞ。」
「あぁ、勝つでおっちゃん。俺達のラン&ガンでや。」
(まったく……ちょっとしたキッカケで成長するのが若者の特権だが、こうも成長されるとこの老いぼれではついていけなくなりそうだ。)
そう心の中で愚痴を溢すが、嬉しさから烈の頭をぐしゃぐしゃと撫で回すのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。