side:牧紳一
秋田選抜チームとの決勝戦が始まろうとしている。
俺は今一度チームに与えられたオーダーを思い出す。
秋田選抜チーム相手に可能な限り三井抜きで戦わなければならない。
これは三井のスタミナを考慮し延長戦も見据えた上での采配だ。
言い換えれば三井を試合のキーマンとして考えた采配だな。
勝利の為に必要だと納得している自分の中に、少しだけ嫉妬している自分がいる事に安心する。
嫉妬しているという事は、それは俺が三井をライバルとして見ている証だからだ。
この気持ちがある内は俺はまだ上手くなれる確信があると同時に、この気持ちが無くなってしまった時の恐怖も存在する。
果たして俺は選手として成長が停滞した時、バスケを好きでい続けられるのだろうか?
チラリとベンチに目を向けると、バカな事を考えたと苦笑いをする。
「夢中になれ……ですよね?高頭監督。」
海南バスケ部に入部した初日に高頭監督が言った言葉がある。
それは……『夢中になること以上に上達する術はない』だ。
努力は誰でもしている。だからこそ努力を努力と思わない程に夢中になる事が、なによりも己に成長を促してくれるんだと高頭監督は語ってくれた。
思えば俺も周囲の誰よりもバスケに夢中になったからこそ、こうして全国大会決勝戦という大舞台に立てる程に上手くなれたんだ。
だからこそわかる。これからもバスケに夢中でい続ければ、俺はもっともっと上手くなれるってな。
「とは言うものの、やっぱり勝たないと面白くないのも事実だ。ってわけで勝たせてもらうぜ、秋田選抜。」
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side:河田雅史
決勝戦の相手は神奈川選抜か……。
やっぱりという思いもあれば、なるほどって思いもある。
それはそれとして……決勝戦で俺達に与えられた監督からの指示は、可能な限り早く三井ってのを引っ張り出すことだ。
そして三井を引っ張り出したら俺がマークにつくことになっている。
大阪選抜との準決勝で三井のプレーを見たが……正直に言ってどうすんべって感じだな。
外を警戒して距離を詰めたら抜かれるし、かといって離れりゃ外から決められる……本当にどうすんべ?
まぁ俺に与えられた指示はフリーで3Pシュートを撃たせるなってだけだから、いざとなったらファールしてでも止めりゃいい。もちろん相手にケガさせん程度のファールでな。
けどそれよりも先に牧を止めにゃ話にならんか。マッチアップするのは深津だが……大丈夫か?
牧の癖とかはだいたい伝えたがそれでも確実に止められるわけじゃねぇ。
決勝戦らしくこりゃしんどい試合になりそうだわ。
けど……それ以上に面白くなりそうだわな。
早く試合がしたくてウズウズしてきた身体を鎮めるために、俺は冷たい水を一口飲むのだった。
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