side:深津一成
国体の全国大会決勝戦が始まった。相手はあの牧がいる神奈川選抜。
実は俺は今年のインターハイ前までは、いつか山王バスケ部の練習から逃げようと思っていた。
王者山王の練習はそれだけきついって事だ。
だが、今年のインターハイ全国大会決勝戦で海南と……牧と戦ってからはそんな考えは無くなった。
あの時の俺は何も出来なかった。
それが悔しくて表彰式の後に一人で泣いた。
今度こそ牧に勝つために吐きそうになる程の練習に耐え続けた。
だから今日は……必ず勝つべし。
ジャンプボールはうちが制してボールが俺の所に来る。牧とのマッチアップ……仕掛ける!
ストレートに……っ!?止められる!ロール……これもダメ!
抜くことを諦めてパスを出す。もちろんインターセプトされない様に注意をしながら。
パスは無事に通って秋田選抜が先制。ほっと安堵の息が出た。
だが安堵の息は直ぐに引っ込んでしまう。
牧がボールを持って俺の前に立ったからだ。背中を流れる汗に冷たさを感じる。
……来るっ!この癖はクロス……っ!?フェイク!?
フェイクに引っ掛かった俺はストレートに抜かれた牧に反応出来ず尻もちをついてしまう。
……ははっ、安堵の息を吐いている暇なんてなかったな。
あっさりと同点に追い付かれると、俺は気を引き締めるために顔を張る。
ボールを手に牧の前に立つ。ドリブルでは抜けない。ならパスを……インターセプト!?
そのまま速攻を仕掛けられてリードを奪われる。
……やっぱり俺は通用しないのか?
目の前が真っ暗になりそうだったその時。
バチィ!!
大きな音と共に背中に痛みが走った。
驚いて後ろを振り向くと河田の姿がある。
「深津、な~にやってんだ、お前?」
言っている意味がわからず言葉を返せない。
「あんな雑なバスケしてりゃ、パスだって止められるに決まってる。」
「……雑?」
「最初から抜く気のないドリブルなんて雑以外になんて言やいい?前に牧にいいようにされたのを気にしてんのか?小憎らしい程にマイペースなのがお前だろうが。」
河田の指摘に驚いて目を見開く。
「牧みたいに派手に動く必要はねぇ。それでもやれる事は幾らでもあんぞ?やれる事を一個一個丁寧にやってくべ。じゃねぇと、試合で使ってもらえなくなるからな。」
やれる事を一個一個丁寧に……。
その事を反芻しながらボールを貰い牧の前に立つ。
フェイクを一つ入れてしっかりと抜きに行くつもりでドリブルを仕掛ける。
抜けないのを確認した後にパスコースを探すが、そこでもう一つやれる事を思い出した。
(そうだ……シュートもあった。)
いつも通り、練習通りに膝を使ってジャンプをし、指先までしっかりと意識してボールをリリースする。
するとボールはスウィッシュで決まった。
(あぁ……なるほど、そういう事か。)
スコアボードに目を向けると自然と言葉が溢れる。
「派手なプレーの2点も地味なプレーの2点も同じ2点。」
ディフェンスに戻りながらさっきのリリースの感覚を確かめていると、何かが自分の腹にドッシリと根を下ろした気がする。
そして気が付けば俺の中から迷いが無くなっていたのだった。
「パス、ドリブル、シュート、オフェンスだけじゃなくディフェンスも、やれる事をしっかり丁寧にやるべし。」
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。