1週間経って退院した俺は、授業が終わると直ぐに病院に行ってリハビリをする。
リハビリの先生からは怪我の防止に有効そうなトレーニングメニューを聞く事が出来たから、左膝が完治した後はそのトレーニングメニューを実践していくぜ。
まだ本格的なリハビリが始まってないのもあって早々にリハビリを終えた俺は、まだバスケ部の練習が続いている体育館に足を運べた。
皆の練習を見ていると俺もと思ってしまうのは仕方ねぇんだろうな。
安西先生に改めて怪我の経過を報告してから練習を見学していく。
しばらく見学していると練習はゲーム形式のものになったが、そこで目立つのはやっぱり赤木だった。だが…。
(紅白戦の時からもしかしたらって思ってたが赤木の奴…ゴール下のオフェンスパターンがワンパターンじゃねぇか。あいつの身長とパワーなら大抵の奴とはそれでも勝負になるんだろうが、そうじゃねぇ奴とマッチアップした時は……。シュートエリアを広げたいとこだが直ぐには無理か。なら先ずはゴール下の得点パターンを増やした方がいいな。)
そう考えた俺は前世の記憶から赤木に合いそうなものをピックアップする。フック系がいいか?
(スカイフック…は無理だな。ならフックシュートか?いや、普通のフックシュートよりは、ボールをコントロールしやすいベビーフックの方が良さそうだな。居残り練習の時に折りを見て提案してみるか。)
そこまで考えると今度は赤木とプレーしている先輩達に目を向ける。
(安西先生の指導のおかげか、これといった癖もなくキレイにまとまってるな。流石は安西先生だぜ。けど、試合が硬直した時や劣勢で流れを変えたい時に、状況を打破するなにかを期待するのは難しそうだな。)
我ながら失礼な事を考えてるとは思うが、全国制覇を本気で狙うならそんな事を言ってられねぇ。
俺は今ある戦力で全国制覇を狙うには何が必要なのか、見学をしながらただそれだけを考え続けていったのだった。
◆
side:赤木剛憲
「ベビーフック?」
通常の練習が終わり居残り練習でフリースローを練習していると、不意に三井がそう言ってきた。
「赤木、お前のオフェンスパターンはハッキリ言ってワンパターンだ。お前の身長とパワーなら大抵の相手には通用すんだろうが、その大抵の相手じゃない奴とマッチアップした時には手も足も出なくなる。」
「…そうかもしれんが、今はフリースローの練習を優先した方がいいんじゃないか?」
三井の言ったことは間違いじゃない。だが、俺にもゴール下で戦い続けてきたプライドがある。
頭では素直に受け入れた方がいいのはわかっているが、感情的には受け入れるのが難しい。
だからさっきの言葉を言ってしまった。
「赤木、ものは試しって言うだろ?とりあえずやってみようぜ。」
木暮に促されたのは幸運だ。
そうでなければ、俺は折角の成長のチャンスを不意にしていただろう。
はぁ…俺の心もまだまだ未熟だな。
先ずは三井の教え通りにベビーフックをやってみる。
手を離れたボールはゴールリングに当たり跳ね返ってしまう。
「幾らゴール下でもいきなりスウィッシュは難しいだろ。先ずはバンクショットからいこうぜ。」
三井のアドバイス通りにベビーフックでバンクショットを狙っていくと、思いの外ベビーフックが入る。
「フックシュートは半身になって肩幅分相手と距離をとれる。つまりそれだけブロックするのが難しいってことだな。けど半身になった上に片手じゃボールのコントロールが難しくなる。対してベビーフックはフックシュート程横に向かねぇからボールのコントロールはしやすい。代わりにブロックされやすくなるから、空いている手を上手く使ってガードしろよ。」
しばらく練習してると感覚が掴めてきたのか、フリーの状態ならほぼ確実に入る様になった。
「おぉ、いいじゃねぇか。」
「赤木、ナイスシュート。」
「ふんっ、まだまだだ。」
三井と木暮の賛辞による照れを誤魔化すように直ぐにボールを持つ。
「利き手の右である程度感覚を掴んだら左手でもベビーフックの練習をしろよ。それじゃ俺は木暮の3Pシュートの練習を見るぜ。何かあったら声を掛けてくれ。」
「あぁ。」
「それと、俺からベビーフックを教えておいてあれだけどよ、フリースローの練習も忘れんなよ。」
「言われんでもわかってる。」
松葉杖を使って離れていく三井の背を見送ると、良い感覚を得たところで一旦ベビーフックの練習を切り上げてフリースローの練習を再開する。
(全国制覇か…本気で目指して練習を続けていれば、いつかはチャンスが巡ってくると思っていた…。)
だが三井は違った。
俺の様にチャンスを待つのではなく、全国制覇には何が必要かを真剣に考え、自らチャンスを掴み取りにいこうとしている。
「…俺もまだまだ甘いということか。」
三井、俺もチャンスを待つのではなく掴み取りに行くぞ。
そう考えた今日この日、今までは影すら見えなかった全国制覇が、朧気ながらその輪郭が初めて見えた気がした。
その後、今日の居残り練習を終えた俺と木暮は三井を送り届けてから帰宅する。
そして帰宅をすると妹の晴子が俺を出迎えたのだが…。
「あっ、お兄ちゃんお帰り。美和お従姉ちゃんが来てるよ。」
「美和が?」
「やっ、剛憲お帰り。」
晴子の横に立って軽く手を上げる同い年の従妹の美和を目にした俺は、美和が何をしに来たのかと首を傾げたのだった。
次の投稿は9:00の予定です。
後書きにて拙作中に登場した技や人物の紹介をしていこうと思います。
ですが作者はバスケ素人の上知識も無く、漁った情報を作者なりに噛み砕いて紹介しますので、検討違いの紹介でも許してクレメンス。
それと人物名は大人の事情を考慮して伏字を使う事を御了承ください。
では今回は3人の人物を紹介。
◆ジ〇ビリ:マヌ・ジ〇ビリ。第2話に登場。正式名は長いので省略。
一般的に身長198cmというと高いと思いますが、フィジカルモンスターの巣窟であるNBAでは平均的身長です。
そんな平均的な身長だった彼は、決して運動能力も高くなかったそうです。
では彼はどうやってNBAで活躍したのか?…それはユーロステップ、またはジ〇ビリステップと呼称される特殊なステップを使いこなしたからです。
(ユーロステップの詳細は第2話を参照してください。)
しかも彼は一般的に守りにくいとされる左利きで、アウトサイドシュートもとても正確だったそうです。
ユーロステップでインサイドを攻めてくるかと警戒すれば、アウトサイドからもシュートを決めてくる。
ディフェンダーにとっては何をしてくるかわからない厄介な選手だったということですね。
◆ア〇バーソン:アレン・エザイル・ア〇バーソン。第2話で登場。日本ではアレン・ア〇バーソンの呼び方が一般的(?)。
キラークロスオーバーと呼称される程の破壊的なクロスオーバーの使い手で、全盛期にはバスケの神様と呼ばれたあの人も止められなかった模様。それこそバスケの神様のあの人が引退理由の一つとして挙げた程の人物がア〇バーソンです。
彼が凄いのはそれだけでなく、なんとNBA史上最低身長でのシーズン得点王の達成者であり、しかも4度のシーズン得点王を獲得したそうです。
それだけ凄い彼ですからプライベートがヤンチャなのはご愛敬ですね。
(尚ヤンチャとか愛嬌で済まされるレベルではなかった模様)
◆カ〇ー:ステフィン・カ〇ー。第2話で登場。2021年現在も現役の選手。
彼の最大の特徴はNBAの歴史から見てもずば抜けた3Pシュート能力ですね。
とにかくシュートセレクションなんかお構いなしでガンガン3Pシュートを決めてくる変態シューターです。
NBAでもシーズンで200本以上3Pシュートを決めればリーグ屈指のシューターと呼ばれるのに、調子のいいシーズンの彼は倍の400本を決めてしまう程の変態シューターです。
そりゃ歴代最高のシューターなんて呼ばれたりもしますわな。
…こんな感じで紹介していきますのでご容赦を。