side:三井寿
国体が終わってウインターカップに向けて始動し出した俺と赤木だが、どうにも赤木の様子がおかしい。
練習に気が入ってないわけじゃない。むしろ入れ込み過ぎている感じだ。
最初は全国レベルを肌で感じて気が昂っているのかと思ったが、数日経っても変わらない赤木の様子に安西先生がストップを掛けた。
「赤木君、少しオーバーワーク気味ですよ。」
「安西先生……ですが。」
「焦ってもいい事はありません。動きが雑になってむしろ練習の効率が悪くなっていますよ。一つ一つ丁寧に。練習の意味を考えながらやっていきましょう。」
安西先生は赤木から俺たちに目を移す。
「これは赤木君だけではありません。皆さんも同じですよ。自分に足りないものはなにか、足りないものを補うにはどうすればいいか、各々で考えていくようにしてください。高校3年間、長いようで短いものです。悔いを残さない様にしてくださいね。」
「「「はい!」」」
安西先生の言葉で無駄な時間を過ごして後悔の涙を流したもう一人の俺を思い出した。
(俺はバスケに真摯に向き合い続ける。たとえこの先挫折したとしても、必ずまた前に進んでみせるぜ。)
◆
side:魚住純
「ウインターカップまで残り1ヵ月だ。そこで来週末、春先と同じように湘北と練習試合をやる。」
田岡監督の言葉で皆がざわつく。
湘北は既に去年までの弱小校じゃない。神奈川でも有数の強豪なのだから。
「本番前の調整などと甘い事を考えるなよ。練習試合で力を発揮出来ない奴を本番で使うほど、俺は夢想家じゃない。公式戦のつもりで全力を尽くせ。以上、解散!」
「「「ありがとうございました!」」」
先輩達が帰り始める中、俺と池上は体育館に残る。
「さぁ魚住、始めようぜ。」
「あぁ。」
池上にディフェンスについてもらい、俺はベビーフックの練習をしていく。
「ほう、だいぶ形になってきた。もう一息ってところか。」
「「監督!?」」
30分程ベビーフックの練習を続けていると、不意に田岡監督に声を掛けられた。
「魚住、空いている手を遊ばせるな。しっかりと相手のディフェンスを意識して使っていけ。楽をしたら上手い奴に止められるぞ。」
「はい!すまん池上、もう一度頼む。」
「おう。」
空いている手を意識して使おうとすると空中で少しバランスを崩してしまった。
何度も繰り返して動きを少しずつ修正していく。
「うん、それでいい。後は練習試合で使えるかを確認するだけだな。」
「はい!」
俺の返事に頷いた田岡監督が話し出す。
「魚住、池上、お前達は練習試合で前半も後半も出続けてもらう。」
監督の言葉に驚く。ウインターカップに向けて皆の状態を確認しないのか疑問に思ったからだ。
「知っていると思うが、ウインターカップが終われば3年生は引退する。そうなると当然チームを新しく作り直すんだが、その時にお前達を中心に据えるつもりだ。」
「お、俺達をですか?俺達はまだ1年ですが……。」
「そうだ、1年だ。三井や牧、赤木といった既に頭角を現している選手達と同じな。」
監督は一呼吸間を置いてから話を続ける。
「彼等と渡り合うには少しでも多く試合の経験を積まなければならない。公式戦独特の空気に飲まれていては、彼等と渡り合うなど到底出来ないからな。」
田岡監督はあいつらと本気で戦う……いや、あいつらに本気で勝つ気なんだ。
そう気付いた俺は拳を握り締める。
監督の心意気を受けて俺の闘争心にも火がついたのがわかった。
「魚住。」
「はい!」
「池上。」
「はい!」
「あいつらに本気で勝ちたいと思う俺はおかしいか?」
「「いいえ!」」
「よし、なら……勝つぞ!」
「「はい!」」
赤木……次は俺が、俺達が勝つ。
もう季節は秋から冬に変わりつつある中で、俺は身体に熱を感じていたのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。