本日投稿1話目です。
side:田岡茂一
「安西先生、今日はありがとうございました。」
「いえいえ、こちらこそありがとうございました。」
安西先生が教え子達と共に去っていくのを見送りながら今日の練習試合の事を振り返る。
今日の練習試合は十分な収穫があるものとなったが結果としては負けだ。
「さて、どうしたものか……。」
今後の懸念材料はエース不在と対三井の戦略だ。
エース不在……この問題は幾度も考えたが、年が明けて仙道が陵南に来れば解決するだろう。
だが対三井に関しては時が経つに連れて厄介になる。
現状はスタミナ不足という唯一とも言える弱点をつけるが、それが通じるのはおそらくウインターカップまでだろう。あの安西先生が三井のスタミナ不足をそのままにしているわけがないからな。
となると春からの対三井戦略はオーソドックスにダブルチームか、チームのエースをぶつけるしかない。
それにしても三井か……今日の彼のプレーを見た正直な感想は驚きの一言だ。
夏の三井はもっと個を重視したプレーをする選手だったが、今日の彼のプレーは個のプレーとチームプレーのバランスが絶妙だった。おそらく国体での経験が彼のバスケ観に影響を与えたのだろう。
それにしても今日の彼のプレーはオフザボールの時でも耳目を惹きつける様な華があった。そんな彼はまだ1年……やれやれ、末恐ろしい選手だ。
これからの数年の苦労を想像して俺は苦笑いをする。
「さて、また居残りをしている魚住と池上の所に顔を出すか。」
魚住も池上も前半は満点だった。
後半は少々振るわなかったが……先ずは二人を褒めるとしようか。
◆
side:高頭力
「監督、話って何ですか?」
兼田を呼んだ俺は手短に話をする。
「兼田、すまんがウインターカップの予選では、基本的にベンチで待機をしてもらう。」
「……使うのは高砂ですか?」
「わかるか?」
「はい、最近の岡本の練習態度は目に余りますからね。」
岡本は兼田の後釜と考えて鍛えていた選手だ。
その岡本なんだが……ここ最近では練習で手を抜きがちだ。
理由はおそらく次期チームでほぼスタメンの座が当確になったからだろう。
たまにいるのだ。試合に勝つことよりも試合に出る事で満足してしまう者が。
まぁ、それも仕方ないのかもしれない。うちは神奈川はおろか全国でも有数の強豪校だ。そんなうちでスタメンになれたとあれば内申書が良くなり、進学や就職でも有利になることは間違いないからな。
だがそれをされると困るのは後に続く教え子達だ。
今の岡本の様に勝利に拘らない姿勢というのはプレーに現れ、見る者が見ればわかってしまう。
するとどうなるか?結果が出ればまだいいが、万が一そういった選手が試合に出て結果が出なければ、次の予算会議で部費は確実に削られてしまうだろう。
そうなったら遠征等の選手育成プランは変更せざるを得ない。そしてそれにより選手の育成が思った様にいかず結果が出せない様になれば……遠くない内にうちは強豪の座から落ち、返り咲くのには相応の時間が掛かるだろう。
故に幾ら可愛い教え子だとしても、勝利を求めない者にはユニフォームを与えることは出来ない。
「ウインターカップを見て岡本が奮起してくれたらいいのだが……。」
「俺の方でそれとなくフォローはしておきます。けど、夏の合同合宿の時の行動を考えると難しいかと……。」
兼田を始め高砂や宮益、そして牧といった多くの選手が他校の選手達と切磋琢磨していったが、思い返せば岡本の動きは積極性に欠けていた。
あの時は体調管理のために休憩を優先したと思い静観していたのだがな……。
「やれやれ、私の目は節穴だな。」
「監督は悪くありません。あいつに海南のユニフォームを着る為の自覚が足りなかっただけです。」
「そう言ってもらうと少しは救われる。」
指導者というのは何年経っても難しいものだ。
教え子を見誤ることもあれば、教え子に救われることもある。
だからこそ面白く、こうして何年も続けている。
「高砂には俺から言っておく。すまんが岡本のフォローを頼めるか?」
「はい、任せてください。」
やれやれ、これではどちらが年上かわからんな。
だが教え子である兼田がそれだけ頼れる男になったということだ。
ここは素直に兼田の成長を喜んでおくとしようか。
次の投稿は9:00の予定です。